グラナート・テスタメント
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『絶対障壁』 別名『七霊七星陣』、水晶球がもっとも力を発揮する陣形である七星陣(一つの水晶を六芒星の形で取り囲む)に展開さた後、『魔』属性の水晶に自分の魔力を注ぎ込み、他の六つの水晶でさらにそれを精錬及び増幅させ生み出す絶対破壊不可能な魔力の壁。 火、水、土、風、魔、光、闇のどれかに属する力は一瞬で吸収し、物理攻撃は完璧に弾き返す完全にして絶対の防御壁である。 「七霊七星陣」 ミーティアの正面に絶対障壁が形成された。 「確かに理屈上は完璧な技なように見えます。しかし……」 ミーティアと対峙する黒衣の男は左手を天にかざす。 「あなたはとても単純なことを忘れている」 「単純なこと?」 「火でも水でも風でも土でも魔でも光でも闇でも物理攻撃でもない攻撃には無効ということですよ」 「はあっ!? そんな『力』があるわけ……」 「では、我が半身たる力をお見せしましょう、トゥールフレイム(真実の炎)!」 男の左手に水色の紋章が浮かび上がった。 紋章から水色の炎が吹き出し、炎が剣の形を取る。 「だから、どれだけ強くても、物理攻撃は……」 「いいえ、我が神剣トゥールフレイムは相手の肉体ではなく精神のみを灼き尽くすことができるのですよ」 「神剣!? 『精神』攻撃!?」 男が剣を横に振った。 次の瞬間、剣からあふれ出た水色の炎が、ミーティアの絶対障壁をすり抜け、ミーティアを包み込む。 「ああああああああああああああああっ!?」 「今は『仲間』ですからね、殺しはしませんよ。ただ少し反省はしてくださいね、二度と私に逆らわないように」 ミーティアの絶叫を心地よい音楽のように堪能した後、意識を失い倒れたミーティアを置き去りにして、去っていった。 後にも先にも自分……ミーティア・ハイエンドが敗北したのはあの一度きりだ。 セフィロト十大天使第二位『知恵』を司る男。 ファントムという組織自体、元々はあの男とお兄様の二人が作ったものだ。 『天使核』を生み出したのもあの男。 組織誕生から滅亡まで、全てはあの男の掌の上の茶番だったのかもしれない。 なぜなら、組織を滅ぼした三人のうちの一人、黒髪の死神はあの男の……。 まあ、自分は別にティファレクトやマルクトのようにあの男を恨む気はなぜか沸かなかった。 だからといって、ビナーのようにあの男に心を奪われているわけでもない。 あの男のせいで、やっとできた居場所だった組織もなくなり、唯一の肉親であったお兄様も亡くなった……本来なら恨むべきなのかもしれないが、自分はどちらかというとあの男を気に入っていた。 あの男の『最悪』な部分が……一欠片の優しさも甘さも迷いも持たないところが……ある意味理想的だった。 自分もあの男のように好き勝手に生きたいものだ。 だが、それはできない。 自分は好きなモノ、大切なモノ、すなわち『弱さ』を作ってしまう。 『弱さ』を持つか、持たないか、それがあの男と自分の決定的な違いだ。 誰も愛さない、大切なモノを何一つ持たない……だからあの男には弱点がない……だから、あの男はどこまでも強いのだ。 あの男のような『強さ』を欲しながら、同時にそんな寂しい生き方をしたくないと思ってしまう……これは矛盾だ。 その迷いこそが……自分の弱さ……唯一の不完全さだ。 自分はまだ『人間』であることを捨て切れていないのだ……。 ティファレクトはあの男に復讐するための、新たな力として『魔術』を選んだ。 ただの人間の体になってしまった以上、どれだけ鍛えても、腕力や体力では『人外の者』とは勝負にならない。 人の身で、人でない者を倒せる破壊力を得る唯一の手段が『魔術』と考えたティファレクトの考えは間違ってはいないと思う。 だが、魔術を使う人間の常人以下の弱い肉体というのは致命的な弱点であるのも間違いなかった。 人の限界を超えた破壊力と人以下の肉体……それであの男を倒せる確率は……正直皆無に等しい。 魔術を全て無効にすることなど、自分でもできること……あの男にできないとは考えにくかった。 無駄かもしれない努力を命がけで続けるティファレクト。 とても愚かな行為に思えた……だが、その愚かさも含めて、必死に生きる彼女を愛しく思えた。 そして、この世界で魔術師と呼ばれる者の全ての魔術をマスターした彼女は、新たに魔導師と呼ばれる者達の魔術を極めようと努力を続けていくのだだろう……自分はそれを見守り続ける。 ただ見守る以外、自分が彼女にしてあげることは何も無いのだから……。 ビナーはあの男に惹かれていた。 あの男の『強さ』と『悪』に……その常人から見れば悪趣味でしかない趣向……自分は解らなくもない。 あの男のようになりたいとう願望を持つ自分にだけは、ビナーの気持ちが察することができた。 ビナーの場合はあの男になりたいのではなく、あの男と共に居たいという気持ちなのだろう……。 そして、ビナーの姉ケセドは、ビナーがあの男に惹かれているからこそ、あの男を憎んでいた。 彼女は、妹のビナーしか愛さず、ビナーを護ることだけを目的とし、ビナーに依存しなければ生きられないのだから。 自分から、半身たる妹を奪いかねない存在であるあの男を認められるわけがなかった。 あの男に対しては、ビナーの力は借りられない。 だから、彼女は自分だけの『力』を磨く。 あの男始末するためだけに……。 槍術や体術などといった次元の力が、あの男に通用するとは思えない。 彼女もまたティファレクトと同じ無駄な努力をしているようにしか思えなかった。 けれど、その愚かな行為は嫌いではない……努力する……自分には必要ない、自分には理解もできない行為……それに打ち込む姿は魅力的に感じることはあっても、醜く感じることはなかった。 ネツァク・ハニエル。 彼女が何を考えているのかは正直自分にも解らない。 魔性の瞳を持つがゆえに人から嫌われ、人の世界から追いやられた者。 その憎しみからか、人を殺すことを好んだ。 ティファレクトやケセドのように憎しみの対象が一人の個人ではないのが彼女の救いの無さを現しているような気がする。 なぜなら、この世の人間を全てを殺し尽くさない限り、彼女の憎しみは完全に消えることはないのだから……。 そして、もっともあの男を憎む者、片翼の天使マルクト・サンダルフォン。 最愛の兄を殺された恨みを晴らすためだけに生き続ける哀しい女性。 正直、彼女にそんな生き方は似合わないと思う。 だって、彼女ほど清らかで優しく純粋な……文字通り天使のような心を持つ者は他にいないのだから……。 天使はその美しい手を血で染めるべきではないのだ。 『我』が名はミーティア・ハイエンド。 お兄様と共に『魔人』と呼ばれ、『天使』や『悪魔』すらその支配下に置いた存在。 今の自分には明確な目的がない。 もし、イェソドのような性格をしていたのなら、ティファレクト達の生き様や葛藤を高見の見物して、楽しむことができただろうが。 だが、そうするには、自分はティファレクト達の傍に居すぎた、彼女達を気に入りすぎてしまった。 自分はこれからも彼女達を見守り続け、状況と展開によっては力を貸すだろう。 その理由が、動機が何なのかは自分でもよく解っていない。 とてもあやふやで不確かなモノ……。 あえて言うなら、彼女達が『好き』、気に入っているから……それだけが理由であり、動機なのかもしれない。 そんな感情に支配されている自分は、どれだけの力を持とうと、ただの『人間』にすぎないのかもしれなかった……。 「あなたは甘いんですよ、ミーティアさん。それだけの力を持ちながら……精神がただの人間の子供にすぎない。外見と同じく心も成長していない」 ある時、あの男が自分にそう言った。 「そうだね、あなたみたいに完全になれたら、全てを完璧に割り切ることができたら、楽になれるんだろうね」 「…………」 男は否定も肯定もしない。 「でも、それじゃ人生つまらないとミーティアは思うの。不完全だから、あいまいだからこそ楽しい、楽しめることもある……そう思わない?」 「……フッ、そうですね。そういう考え方もありかもしれませんね」 男は苦笑と共に答えた。 神剣に選ばれし超越者であり、天使と『融合』せし者。 遙かな昔に人間を辞めた錬金術師にして魔導師にして今は亡き国の皇帝。 ふざけた存在だ。 この男に比べれば、自分などたいしたことないのかもしれない。 「コクマ・ラツィエル」 ミーティアは男の名を口にした。 「あなたは何のために生きているの?」 しばしの沈黙の後、男……コクマは意地の悪い笑みを浮かべながら答える。 「生きることに理由なんていりませんよ」 それもまた一つの答え。 真理だ。 「あえて言うなら、楽しむため、戦うため……そして、いつか倒されるためですかね」 「滅びを望むの?」 「無論、わざと滅びるつもりはありませんよ。何をしても楽しいと思えなくなったら……その時は別ですけどね」 今解った。 この男は自分自身も大切ではないのだ、好きではないのだろう。 愛せる者も、好きになれる者も何もないのなら、戦いや他人を弄ぶことで得られる刹那の快楽だけを楽しみに生きるのしかないのかもしれない。 「フッ、お喋りが過ぎましたね。こんなことを他人に話したのはあなたが初めてかもしれませんよ」 意地の悪い笑みを浮かべたまま、コクマは歩き出した。 「コクマ、ミーティアはあなたのこと結構嫌いじゃないよ……」 「おや? てっきりこの前の勝負のことで恨まれているかと思いましたよ」 コクマは意地の悪い笑みを深めて言う。 「ミーティアは自分の負けは負けで素直に認める良い子なんだよ〜」 「クックックッ、そうですか。私も良い子は好きですよ」 「そうそう、ミーティアは良い子だから、遠慮なく好きになってくれていいよ」 ミーティアとコクマは笑いながら歩いて(ミーティアは水晶球飛行だが)いった。 次回予告(兄様&エリザベート) 「というわけで、14話を送りしました。当初は総集編(丸々30分ミーティア独白)のつもりでしたが、総集編になっているか怪しいところですね」 「短めで終わったら、残り半分はクリフォトサイドってことでアタシが独白ってアイディアもあったのよ……て、どっかの奇鋼仙女じゃあるまいし……」 「仮面キャラが丸々独白というのも面白そうでしたが、仮面しているのがホドさんしかいなかったので迷わず没になりました」 「まあ、そんなこんなで、総集編であの男の名前初登場というのもどうかと思うわ……」 「名前伏せすぎて、タイミング外したって可能性も高いですね」 「そうね、これじゃ、ティファレクトじゃなくてミーティアが主役みたいよ」 「では、今回はこの辺でお別れですね。機会があればまたお会いしましょう」 「またね」 |