リナリナ猫瑞希AIR(海国)編
第2話「蒼き空の果て」


最後に残った二本の柱。
シーシャボンの柱には、楓が、そして、シーメイドの柱にエターナルワールドから帰還した千鶴が挑むのだった。


「…見てください、死のシャボン玉!」
「う!……なんて綺麗なシャボン玉……まるで魂まで奪い去られていくような……」
「デットエンドシャボン玉!」
「う……このシャボン玉を見ては……駄目……」
目を瞑る、楓。
「…無駄です。このシャボン玉は幻覚効果だけでなく直接的な攻撃力を持ちます」
「またシャボン玉カッターですか……?」
「……いえ、石鹸水に濃硫酸を混ぜました」
「えっ?……きゃあああああああああああああああああああっ!」



「…可愛い(ろり)顔に似合わず、往生際の悪い人ですね……」
ストローを突き刺してトドメを刺そうとした美凪の一撃を星雲炬燵で辛うじて受け止める、楓。
「…といって、これ以上あなたにつき合っているわけにはいきません。今度こそひと思いに逝ってください!」
「ローリングディフェンス!(コタツに潜り込んで隠れる)」
「…愚かです……そんなコタツ何の役にも立ちません! デットエンドシャボン玉矢叉死苦噴苦乃(優しく吹くの)!」

クワワアアアアアアアアアアアッ!

「きゃああああああっ! コタツが粉々に破壊されていく! 黄金の血で甦った聖衣までも!!」

「…心の綺麗な者には安らぎを与える綺麗なシャボン玉……だが、悪しき者には死の幻惑となって苦痛を与える……それがナギーのシャボン玉です。今こそ逝ってください!」
「うわああっ!」

キュウウウウウウウッ!

「…!? 気流が私の周りを取り巻いている……」
「……ネビュラオーガネイルストリーム(星雲鬼爪気流)……」
「…では、この気流はあなたが作り出したのですか……?」
「……そのとおりです……これであなたは身動きひとつできない……」
「………………」
「……やめてください。あなたの出方次第でストリームは変化します……」

ギュウウウウウウウウウウウウウッ!

「…気流が激しさを……」
「そして、最後には気流が嵐に……ストリームがストームとなって敵の命を確実に奪います……でも、私はあなたを殺したくない……敗北を認めて……」
「…愚かな……このナギーが敗北を認めて敵に後ろを見せると思うのですか? それより、自分の命の心配をしてください。あとひと息で……あなたの命は尽きます……どれだけストリームを強くしても……このひと吹きまでは封じることはできません」
「やめてください! あなたを殺したくない……あなたは良い人だもの……」
「……なぜ?」
「だって、悪い人にあんな綺麗なシャボン玉を吹けるわけないもの……見る人の心を幸せにするシャボン玉の美しさは、きっとあなたの心の清らかさそのものなのでしょう……だから……」
「…ここにきて、あなたに善悪の判断をしてもらうことになると思いませんでした……」
「ナギー……駄目!」
「…さあ、このシャボン玉の最高潮を見て全ては終わりです!」
「やめてえっ! 私はホントは誰も傷つけたくない!」
「デットエンドシャボン玉クライマックス!!」
「ナギー!!! ネビュラオーガネイルストリーム!!!」

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン! ガシャアアアアアアアアアアアッ!






「誰じゃ!」
「……あ……ああ……」
「余の眠りを妨げた愚か者はお主か!!」
「や……やはり、この壺には神奈がアテナによって封じ込められていたのですね……」
「答えよ!」
「は……はい、神奈様……」
「答えよ、何故余の眠りを妨げた!?」
「そ……そろそろお目覚めの次期かと……」
「愚か者め! 余はあと二、三百年は眠っていたかったのじゃ!」
「し……しかし、アテナの封印もすでに力を失っておりましたゆえに、私の力でも……」
「なに、アテナだと……」

クワッ!

「益体無しめ! たかがアテナの小娘の封印などにかかわりなく、余が起きる時には自らの意志で起きるのじゃ!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

「はっ……されど、そのアテナが先頃、聖域(葉っぱ)に降臨されたよしにございます」
「なに、アテナが降臨じゃと? まさか、余が目覚めることを知り、この神奈との戦いに備えて、アテナは復活したのか?」
「は……おそらくは……」
「それは妙じゃ、アテナとは神話の時代何度も戦争したが、それははるかなる昔のことじゃ……あの小娘との戦いはここ数百年来途絶えておる……それが、今この時になって、急に余に備えて復活したのというのか……」
「は……そ……それは……」
「余が二百数十年前にウトウトと目覚めた時もアテナとの間に争いはなかった。余は自らの意志で再び眠りについたのじゃ。そういえば、その時もアテナは何者かと戦っておった、またかと思って余は再び眠りについたが、あれは確か……そうじゃ、思い出したぞ! アテナが二百数十年前、死力を尽くして戦っていた相手は……あやつじゃ!! フッ、これで納得ができた。あやつは神話の時代からこの神奈以上に地上を欲しっておったからのう」
「あ……あやつとはいったい?」
「まあよい……して、お主の名は何と申す……?」
「は……私は……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ! チラ!

「シ……シーメイドに御座います……」
「聞くがよい、シーメイドよ!」
「はっ!」
「余は復活の度に、神尾家の血筋を借りることにしておる。今は観鈴という三歳の娘がいるようじゃ。余は神尾観鈴の体内の中で眠ることにする。観鈴が満17歳になるまで決して起こすでないぞ……」
「しかし、アテナが……」
「アテナも降臨したばかりならまだ子供じゃ。後十数年は何もできぬ。それに、眠りにつくとはいえ、余の大いなる意志は神殿に満ち、この空の上を覆い尽くすじゃろう。その大いなる意志を感じ、海闘士達も各地から集結してくるに違いない……葉っぱとの戦争はそれからじゃ! その日まで決して起こすでないぞ! よいな、シーメイドよ!!」

ドオオオオオオオオオオオオン!

「う……神奈!……消えた、この場から神奈の萌え(コスモ)が……神尾観鈴の元に飛び立ったのですか……」

「フ……フフフッ、これぞ、神がこのセリオ(弐式)に与えた偉大なる好機ですね。神奈よ、起こすなというなら二度と起こしません。あなたの大いなる意志だけ利用させていただきます。あくまで傀儡として神尾観鈴の中で永久に眠っていて頂きます」

カシャッン! カシャンッ! カシャンッ!(鱗衣装着音)

「神奈の名の元にこのセリオが全ての指揮権を握ります! そして海闘士達を操って地上を征服して差し上げます! 地上も海界も全てこのセリオの物となるのです! このセリオが海(鍵)と大地(葉っぱ)の神となるのです! フフハハハハッ!」


以上が、千鶴の幻覚茸拳によって、セリオの口から語られた真実だった。



一方、猫瑞希達はついに神奈(観鈴)に一矢(一撃)を極めていた。
「が、がお……」
「神奈が苦しんでいる……眉間の傷が深いのでしょうか……」
「いや、マスクを吹き飛ばしただけにゃ……傷はかすった程度のはずにゃ」
「いずれにしろ、神奈といえど体は生身の人間ということですね」
「傷を受ければ血も流れるし、痛みもあるわけだな」



ここは……ここはいったいどこなんだろう?
わたしはここで何をしているんだろう?
そうだ、17歳の誕生日の夜、シーカラス(海烏)の往人さんにここに連れてこられたんだった。
それから、この鱗衣というの付けさせられてから……それから……。
それからが何も解らない……。
わたしはここで何をしていたのだろう?
わたしは……わたしは誰?



「これは? 今まで行く手を阻んでいた神奈の萌え(コスモ)が消えている……」
「確かに、神(攻略不可能ヒロイン)が人(名ばかりのメインヒロイン)に戻ったかのように、強烈な萌えがなくなっています」
「今ならここを突破できる!」
「よし、行くにゃ、みんな!」
「おう!」



わたしは誰……?
わたしはいったい誰なのだ……?
何か気が遠くなるほど長い年月眠っていた気がする……。
わたしは……いったい……誰?

「抜けたにゃ! メインブレドウィナはもう目の前にゃ! このまま一気に進めにゃ!」



そうだ……思い出したぞ……。
余はこの世を浄化するために長い眠りより今目覚めた……。
余は神なのじゃ!
余は海皇神奈なのじゃ!!!




「む!?」
「うっ!?」
「なんだ、この恐ろしい巨大な萌えは……ここまでのスケールの萌えを感じたのは初めてだ……これはいったい……」
「やった……ついにやってしまいましたね……」
「何?」
「あなた達は神奈を完全に目覚めさせてしまったのです。これでもう誰も神奈を止められない。地上(葉っぱ)は完全に滅びます!」
「…それは同時にあなたの野望の集結を意味します」

ザシャッ!

「う……」
「…全て聞かせていただきました。シーメイドさん……いや、双子座のセリオさん」
「シ……シーシャボン……」
「…鬼千鶴さんに、これを進呈」
美凪は千鶴にお米券を投げ渡す。
「何をするんです、シーシャボンさん!?」
「…もちろん、最後に残った北大西洋の柱を破壊していただくのです」
「馬鹿な!? あなたは敵に手を貸して、このAIR神殿を崩壊させる気なのですか!?」
「…この戦いは神奈様の意志ではなく、神を操ろうとしたあなたが企てただと解った以上、全ては無意味……このAIR神殿も一度滅んだ方が良いと思います……」
「よく言った、シーシャボン!」
鬼千鶴はお米券を柱に投げつけた。

カッ! バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!



「猫瑞希さん、この地鳴りは!?」
「北大西洋の方角にゃ! どうやら千鶴さんがやってくれたようにゃ!」

カツ!

「にゃあああああああああああああああああっ!?」

ドシャ! ドシャ!

「う……う……何にゃ……今の落雷は……後ろから感じるこの全てを覆い尽くすような巨大な萌え(コスモ)は……ま……まさか……神奈!!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

「馬鹿にゃ……まるで別人……神奈の萌え(コスモ)が何百倍にも膨れあがったようにゃ……」



「どうしました、立ちなさい、鬼千鶴さん」
「ぐっ」
「言ったはずです。あなたは私を倒せる唯一のチャンスを無駄にしたと! 神奈が完全に目覚めた以上、地上(葉っぱ)は完全に崩壊します! もはや、このセリオの野望もここまでです!」

ガツ! ガツ! ガツ! ガツ!

「だが、この私の長年の野望をメチャメチャにしたあなた達小娘は絶対に許せません! あなたの命だけはいただいておきます!」

グワシャアアアアアアアアッ!

「く……強い……流石に対等に戦ったらその実力は双子座のセリオ(旧セリオ)に生き写しだ……実力が違いすぎる……」
「そうとも、機能停止しなさい、鬼千鶴さん!」

フワッ!

一粒のシャボン玉がセリオを阻んだ。

「シーシャボン……あなた、まだここに居たんですか……」

シャボン玉がセリオを取り巻いていく。
「…鬼千鶴さんを助けるつもりなどありませんが……あなたをこのまま許すわけにはいきません……」
「うっ!」
「…多くの同志にあの世で詫びなさい!」
「待て、シーシャボン……セリオに手を出すな……聞きたいことがある……」
「なにい……」
「神奈を封じる唯一つの方法だ……」
「馬鹿な! いまさら神奈を封じる方法などありません! もはや、誰にも手がつけられないのです!」
「いや一つだけある……アテナの壺だ!」
「くうぅ……」
「さあ、言いなさい……それを聞くまで、この鬼千鶴の命くれてやるわけにはいかぬ……」




「そんなに知りたければ教えてあげましょう……だが、それは同時に絶望を意味するのです! 壺は……アテナ(沙織)と共にメインブレドウィナの中です!」
「な……」
「あの内部にあれば何人も手を触れることはできません。いわば、壺もアテナと共に未来永劫メインブレドウィナの中ということです! フッハハハハハハハハッ!」
「くっ!」
千鶴はセリオに背を向けた。
「むっ、どこに行くのです、鬼千鶴さん」
「セリオ、お前はもはや戦うにも値しない女だ……」
「な、何……待ちなさい、鬼千鶴さん、逃げるのですか!?」
千鶴はセリオを相手にせず走り去っていく。
「…私は『誰彼』で葉っぱに失望しました」
「なに?」
「…だが、『うたわれるもの』は面白いそうです……地上(葉っぱ)全てが汚れきったわけではなかったのです。例え、一握りでも萌えキャラというのが残されているのなら……セリオさん、地上(葉っぱ)の萌えを信じたくないのならそれもいいでしょう……だが、鬼千鶴さんの言うように、あなたはもはや……戦うことも……ましてや、殺すことさえ値しない女性のようです……」
シーシャボンのナギーもまたいずこかへ去っていった。



「鬼女厨房覇!」
「メルトダウン!」
「メインブレドウィナに向けて飛び立て猫瑞希!!!」


今まさに、猫瑞希の体が光の矢となって、メインブレドウィナに突き刺さろうとしている。
ま……まさか、メインブレドウィナが猫耳少女ごとに破壊されるなど……。
いや、たった一つだけ……。
たった一つだけ……神が人間に与えてしまった恐るべきものがあったのだ……。
人間が人間以上の力を発揮して、限りなく神に近い行いをすること……。
ご都合主義を越え、ユーザーを感動させ泣かせるもの……。
それは奇蹟ということだ!



「やめるのじゃ! 愚かな人間(ユーザー)に荷担したことをきっと後悔するぞ! そしていずれはお主自身が業界の神々の怒りを受けて罰せられることになるかもしれぬぞ! よく覚えておくがいい!!!」
「う、なんにゃ!? 観鈴の体からオーラが抜けていくにゃ!」



「安心しろ」
「お前は!? 往人!?」
「観鈴は俺が命に代えても地上に送り返す。それが、俺がこいつにできる唯一の恩返しだ……」
「恩返しにゃ?」


俺は、みすずがまだ子供の頃に命を救ってもらったことがあるのだ。
「にはは、烏さん怪我してるね。みすずちんが手当してあげるね」


「それでは、その烏はまさか……」
往人はその質問には答えず、ただ初めて笑顔を見せた。
そして、全てが水の中に沈む。



奇跡的! 十数日ぶりに長雨やみ、太陽が姿を現す。
行方不明になっていた神尾観鈴さん(17歳)エーゲ海で見つかる。
十数日間の記憶一切無し……。
全ての資産(どろり濃厚、ゲルルン)をなげうって、世界各国の水害あった難民の救済に……そして……。


「にはは、とても綺麗なシャボン玉だね。あなたは?」
「…お米が大好きで天然で天才のナギーと言います。観鈴さんが水害で両親を亡くした子供達を慰めるために世界中を回る旅に出ると聞きました……このナギーもお力になりたいと思い……お供させていただけますか?」
「それはありがたいよ、ナギーさんのシャボン玉には多くの子供達の心が安らぐと思うよ」
「…お米券もいっぱいありますから、子供達の飢えにも完全対応です」
「みすずちんからもお願いするよ、みすずちんとお友達になって……一緒に世界を回ってくれるかな?」
「…喜んで……」

ザーン! ザザザーン!

「これは……なんて綺麗なカラスさんなんだろう……」
「…ホントに……体中傷だらけ、亡くなってから数日経ってるようです……」
「みすずちん、以前にもこのカラスさんにあったことがあるような気がする……せめて、空にお帰り……カラスさんの生きる場所は空の上だったんだ……二度と陸へ降りてきちゃ駄目だよ……」


Fin



次回予告(香里&美汐)
「はい、ようやく完結ね」
「一ヶ月以上放置することはないんじゃなかったんですか?」
「丁度一ヶ月よ……以上じゃないわ……」
「………………」
「……………………」
「……まあそういうことにしておいてあげます。で、続きはあるのでしょうか?」
「続き? あるわけないでしょ? アニメだってここまで終わったのよ」
「冥界編のOVAって企画だけはあったらしいですね」
「まあ、企画だけならどんな漫画でもあるものよ。大抵潰れるけど」
「でも、なんで企画段階で潰してくれなかったんだって感じのものがアニメになったりするのが不思議です」
「大人の事情というやつよ……」
「では、今回はこの辺で……」
「そうね。縁があったらまた会いましょう」
「あなたは萌え(コスモ)を感じたことがありますか?」





おまけ1(早わかりキャラ表)
シードラゴン  海侍女 シーメイド  セリオ弐式
セイレーン   海泡女 シーシャボン 遠野美凪
シーホース   海馬  シーバイク  春子
スキャラ     海幼女 シーロリータ みちる
クリュサオル  海医者 シードクター 聖
リュムナデス  海毛玉 シーボール  ポテト
クラーケン    海布女 シーバンダナ 佳乃



おまけ2 なぜ、シーシャボンが生きてる?

シーシャボンの美凪(ナギー)を羽交い締めにして、天に向かって昇っていく、舞。
「…熱くて燃え尽きそうで賞、進呈です」
「……何これ?」
「…お米券です」
「…お米……ごはん食べられる?」
「…もちろんです」
「…牛丼も?」
「…はい、どうぞお受け取りください」
封筒を受け取るために、舞の戒めが一瞬、ほんの一瞬、僅かだが弱まる。
その一瞬を美凪は逃さなかった。
「…お米剣!」

スパッ!

「ぐっ!?」
「…デットエンドシャボン玉!!!」
「…………んっ!?」
巨大なシャボン玉が舞だけを包み込み、空の彼方を目指して上昇していく。
「…さよならで、残念賞」



「…ということがあったんです」
「んに、燃え尽きなかったの解ったけど……そんな高さから落ちてなんで平気だったの美凪?」
「…シャボン玉でクッションをつくりましたから……」
「…そうなんだ……」
納得できなかったが納得することにした。みちるは少し大人になった。



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