ライトニング・カノン
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外に出ると本当に暖かな陽射し。 ここが雪国だということを忘れてしまいそうな陽気だった。 「気持ちの良い天気ね」 「ああ、今日はよく晴れてるな」 「絶好のお散歩日和って感じね」 そういって微かに微笑む香里、祐一もつられて笑う。 「ま、晴れて良かったな」 「ええ、ホントに気持ちの良い天気ね。どうせなら、お弁当作ってもってくれば良かったかもしれないわね」 「ピクニックみたいにか?」 「ええ、外で食べればいつも以上に美味しいわよ」 「なるほど、その手があったか……」 「そうすれば、相沢君にあたしの料理を認めさせるチャンスだったのに……」 「それが狙いかよ……」 「ええ、環境が変われば、相沢君も少し素直になってくれるかと思って」 「…………」 「フフフッ、冗談よ。言ってみただけ」 「ホントか? マジっぽかったぞ……」 香里の言葉にいまいち説得力がない。 もし、やられていたら、危なかったかもしれない。 香里の料理を認めていないのは、もうつまらない意地でしかないのだから。 「疑り深いわね、相沢君は。あたしは相沢君にだけは嘘をつかないわよ」 「だけ?」 「聞かれないこと、教えたくないことは教えないけど、嘘はつきたくないわね、できることなら……ね」 「香里?」 「あっ、海よ、相沢君! あたし、先に浜辺に行ってるわね!」 香里は祐一が呼び止めるよりも早く、浜辺へ走っていってしまう。 なにをあんなにはしゃいでいるのか、祐一には解らなかった。 「相沢君、こっちよ」 「たく、何をそんなにはりきってるんだ?」 「フフフッ……ちょっと懐かしくてね」 「懐かしい?」 「ええ、子供の頃は妹とよくここに来ていたのよ」 「へえ、そうなのか」 「ええ……それにしても、ここは昔と全然変わらないわね」 (変わらないか……) 変わらないものなどない。人の姿や心も時と共に移り変わっていく。 でも、自然というもの変化は緩やかで、まるで不変のようにも感じられる。 「なんだか、ちょっと嬉しいわ」 「そっか、良かったな」 「ええ……」 そう答える香里はいつもより元気な、とても素直で自然な笑みを浮かべる。 波の音、海からの風に長くゆるやかな髪を揺らして、普段と同じように見えてもどこか少しいつもと違うような雰囲気の香里……。 「………………」 「相沢君、歩きましょうか」 「あ、ああ、そうするか……」 静かに響く波の音を聞きながら、二人並んでゆっくりと浜辺を歩く。 雪も少し残っているし、風はまだ冷たいが、暖かな陽射しのおかげであまり気にならない。 「ねえ、相沢君」 「ん? どうした?」 「かまくら作りましょうよ、かまくら」 「……はぁ!?」 突然の思いかけない提案に祐一はつい間抜けな声を出してしまう。 「かまくらって、あのかまくらだよな、雪でできた……」 「鎌倉幕府を開いてどうするのよ、もちろん、そっちのかまくらよ」 (香里の奴、いきなり何を言い出すんだ……) さっきまでの甘いムード?も台無しである。 「昔、よく使ったのを思い出して……」 「断る!」 「どうしてよ?」 「何が悲しくて、海辺でかまくらなんか作らなきゃいけない!」 「じゃあ、雪だるま……」 「なぜ、雪遊びなんだ……」 「雪国だからよ……楽しそうでいいじゃない」 「嫌だ、つーかお前はガキか?」 「子供の頃……栞と雪だるまやかまくらを作ったり……流氷の上で修行したり……楽しかったわね、あの頃はホント……」 遠い目をする、香里。 「どういう姉妹だ……だいたいお前の妹病弱だったんじゃ……」 「フフフッ……あの子、雪玉に石を込めるのよ……お返しに石を雪でコーティングして投げつけてやったわ……」 香里は楽しげに昔の想い出を語る。 『石の入った雪玉』と『雪の付いた石』……同じ物のようなだが、雪と石の割合が全然違う。 「とにかく、俺は絶対嫌だからな」 「じゃあいいわよ、えい!」 「うわっ、冷たっ!」 「見事にくらったわね、相沢君。油断大敵よ、戦場だったら死んでるわよ」 「お、お前な…………って、もう逃げてるし」 突然、水をかけたと思ったら、文句を言う暇も与えずに駆け出す、香里。 祐一の視界から香里の背中が遠ざかっていく。 「フフフッ、捕まえられるものなら捕まえてみなさいよ♪」 「ば、馬鹿……何恥ずかしいこと言ってるんだ?」 「あははは」 「て、この、香里待て」 楽しそうにはしゃぐ香里を追いかけて、祐一も同じように浜辺を走り出した。 「ふ、ふう……流石に少し疲れたわね」 「な、何故、俺がこんなことを……」 「フフフッ、でも楽しかったわね、相沢君」 「あれのどこがだよ……」 さっきまでの光景を思い浮かべて、祐一は力無く呟く。 ひたすら逃げ続ける香里をどこまでも追いかけてしまった。 途中、香里が流氷から流氷に飛び移ったり、雪玉という名の石を投げつけてきたり、伊達に子供の頃、ここで修行していたわけではないようだ。 「時々は体を思いっきり動かすのも大事よ。相沢君は少し運動不足ね、女のあたしについて来れないなんて」 「お前につきあえるのは秋子さんぐらいだ!」 なぜこんな全力で走り回らなければならなかったのだろう。 今日も香里のペースに完全に振り回されてしまった祐一だった。 「すっかり日も暮れちゃったわね」 「あ、ああ、思ったより長居しちまったな」 「本当ね、これからどうする?」 「そうだな……じゃあ、腹も減ったし帰るか?」 「ええ」 相変わらずマイペースで、自分勝手に動き回る、香里。 だけど、なぜか祐一は、一緒にいると時間が経つの速く、楽しく感じてしまう。 「…………ねえ、相沢君」 「なんだ? かまくらなら作らないぞ……」 「違うわよ、そうじゃなくて……」 「うん?」 「えっと、あのね…………今日はありがとうね」 「うん? 何が?」 「あたしを海に連れてきてくれたことよ」 「ああ、そんなことか……気にするなよ」 「それでも、楽しかったから……ありがとう、相沢君」 「…………」 普段、気取っているというかクールな香里から、そんな素直に感謝されてしまうと……。 祐一の方もつまらない意地を張らずに素直に話せるような気分になってくる。 「まあ、その…………気が向いたらまた来るか?」 「いいわね、是非御一緒させてもらうわ」 「もっと暖かくなってからな」 「フフフッ」 二人だけで歩く浜辺をゆっくりと染める夕日のオレンジ色。 そんな中で、楽しげな香里の笑顔が、いつもと違って見える、祐一だった。 『息もできないぐらい〜♪ ねえ、君に夢中だよ〜♪』 「やっぱり、香里の料理のテキストはあの漫画か……」 料理漫画の料理を再現できるのは確かに凄いのかもしれないが、あの手のものは実際に上手いとは限らない。 「お待たせ、かおりんドリームスペシャル料理よ!」 「なんだそりゃ」 「フフフッ……今日の料理は一味違うわよ」 「料理の名前の意味は解らないが、とにかく凄い自信だな」 「流石に、これなら相沢君も『いちころ』ね」 「ほう……」 自信たっぷりの香里の料理、そのうちのいくつかを口に運ぶ。 香里の料理が美味いことはもう解っている。 だから、安心して食べられ…………。 「…………」 「フフフッ……どう香里ドリームスペシャル料理の味は?」 「………………」 「あまりの凄さに声も出ないようね」 「………………げははあっ!」 後に、祐一は香里が料理にとして決してしてはいけないことしたことを知った。 料理に麻薬……いや、麻薬よりも恐ろしいオレンジ色のジャムを混ぜていたことを……。 「ごめんなさい、砂糖とジャムを間違えたのよ……」 「嘘をつくな!」 「少量なら大丈夫だと思ったのよ……」 「『いちころ』というのは俺を『一撃で殺す』ってことか……」 「…………今回ばかりは返す言葉もないわ。アレの毒性を甘く見ていたみたい……」 いつものように反論するわけでもなく、元気の無い香里。 禁断の食材であるジャムまで使ったさっきの料理には相当の自信があったらしく、その分落ち込んでしまったようだ。 「おい、香里らしくないぞ……」 「え?」 「常に強気なのが香里の取り柄だろ? 一度失敗したぐらい気にするな」 「相沢君……そうね! 落ち込んでる場合じゃないわね!」 「ま、せいぜい頑張ってくれ」 「ええ、次は絶対失敗しないわ! 次は必ず相沢君を仕留めてみせるから!」 しょげていたはずが、もういつも香里に戻っている。 やっぱり、香里には強気な態度が似合っていると祐一は思った。 「そろそろか……」 時計の針がいつものドラマの時間を示していた。 どうせ、香里が呼びに来るに決まっている。 祐一は自分から居間に降りていった。 「ふう、いいお湯だった」 「よう、ちゃんと温まったか」 「ええ」 目の前には風呂上がりの香里。 まだ塗れたままの髪は、ドラマの時間を気にして急いで上がってき証。 「とうとう今日で最終回ね」 「ああ、そうみたいだな」 「主人公とヒロイン、ハッピーエンドになれるかしらね?」 「お、始まったぞ」 「フフフッ、少しドキドキしてきたわ」 ぺたんっと、いつものように祐一の隣に座ると、香里は熱心にブラウン管を見つめる。 「キスしてるわね、濃厚に……」 「クライマックスだからな」 「そのままベットシーンへ……」 「最終回だからな……」 「………………」 「……………………」」 祐一は、なんだかんだ言いながら一生懸命に見ている香里の姿が、微笑ましく感じた。 「感動のラストシーンだったわ……」 「いかにも恋愛ドラマな終わり方だったな」 「フフフッ、あたしもあんな恋愛してみたいわね」 「…………やめといた方がいいと思うぞ」 「どうしてよ?」 「香里みたいにきつい性格の女を恋人にする奴が気の毒だろう」 「むっ……それは言い過ぎじゃないの」 「いや、そんなことないぞ」 「そんなことあるわよ」 「それにほら……さっきのヒロインだってお淑やかで優しくて健気で愛想の良い可愛い女の子だっただろう?」 「えっ……」 「誰だって、四六時中、きついことや冷たいことを言われたら嫌になるだろう」 「……それ、相沢君も?」 「えっ……」 「相沢君も大人しくて優しい女の子が好きの?」 「いや、別にな、そういう意味で言ったんじゃなくて……」 普段から考えられないほど寂しそうな顔で俯いてしまう、香里。 「なあ、香里、俺は……」 「……ちょっと聞いてみただけよ……深い意味はないから気にしないでっ!」 バタンッ! 乱暴にドアを閉めると、香里は自分の部屋へと帰っていってしまった。 「さっきは言い過ぎたか……」 祐一にとっては何気ない一言だったが、香里にとってはかなり気にしていたことなのかもしれない。 「て、なんで俺はこんなに気にしてるんだ……」 香里と一緒にいるのは、秋子さん達が帰ってくるまでの間のことだ。 「それに、香里のことだから、明日にはいつもように……」 一晩眠れば、いつものように乱暴で毒舌な香里に会えるはずだ。 そう思い込むと、祐一は眠りについた。 次回予告(香里&美汐) 「寒いんですか? 暖かいんですか?」 「何よ、いきなり……」 「どうも、この話を読むとそこが一番気になって……流氷があるほど冷たかったり、暖かい陽射しがあったり……」 「…………仕方ないのよ。作者が雪国行ったことないから、雪国の春休みって雪がどんな感じなのかとか、海辺にも雪があるものなのかとか全然解らないんだから……」 「それでこんな感じになってしまったんですね」 「ええ、そうよ。取材になんて行けるわけないでしょ……」 ?「……そんなことより問題がある……」 「何よ、美汐さん、いきなり口調変えて?」 「香里さん、私ならここに居ます」 「ええ、じゃあ、これは?」 「リボンして刀をもった上級生の方ですね。仮にMさんとしておきましょう。で、どうされたんですか、Mさん?」 M「出番潰された……」 ?「そうなのよ!」 「……また一匹増えたわ……」 「えっと、青い髪に竹刀を持った……確か、PS2で追加キャラになるとデマが流れた方ですね」 「そんな人居たかしら?」 「ほら、香里さんの教室の背景さんですよ」 「ああ! あなた齋藤君ね!」 ?「あんなのと一緒にするな!」 「正確には他社のキャラのくせに……」 ?「ぐっ……」 「では、とりあえずNさんと呼ばさせていただきます。いったい何しに出てきたんですか?」 N「ホントなら、出番があったはずなのよ、ねえ、川澄さん」 M「こく……」 「この話のどこにあなた方の出番があるんですか? この私ですらないのに……」 M「……流氷の上で戦う……」 「……そんな出番で嬉しいですか?」 M「……あんまり嫌じゃない……」 「えっとつまり、少しは嬉しいってことね? そんな出番でも?」 N「あんたがラブラブな雰囲気だしてたから、あたし達の出番がなくなったのよ!」 M「ぐすん……」 「ラブラブ…………そんなまだ……でも、はたから見たらやっぱり恋人同士に!?」 「立派なバカップルに見えましたよ……色ボケさん」 「そう? フフフッ……困るわね……」 「色ボケしてる人に何を言っても無駄なんですね」 N&M「………………」 「というわけで、諦めて帰られた方がいいです。言いたいことは言えて少しは気が晴れましたよね」 N「そうね……」 M「はちみつくまさん」 「では、気を取り直して……次回はついに登場キャラが増えます」 「やっとあの子が帰ってくるのね……」 「では、そういうことでまたお会いしましょう」 「良ければまた見てね」 「夢見る力を私にください」 |