ライトニング・カノン
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チュンチュン……。 「朝か……」 祐一はちらりと枕元の時計に目をやる。 起きるにはまだ少し早い時間……というか、この目覚ましが鳴り出すより早く起きれて正直ホッとしていた。 とても心臓に悪いボイスの収録されている目覚ましだから……。 「朝、朝よ」 「えっ?」 目覚ましはまだならない時間のはずなのに耳元から声が……しかもいつもより鮮明な声で……。 「さっさと起きないと永眠させるわよ♪」 「香里!?」 目覚ましと逆の方向の枕元に香里の顔があった。 香里はクスクスッと笑っている。 「おはよう、相沢君」 爽やかな笑顔で挨拶。でも、どこか意地悪げで、妖艶にも見える笑顔。 「な、なんで香里が俺と一緒のベットで寝てるんだ!?」 「あら? 昨夜はあんなに激しかったのに……覚えてないの?」 「なっ!?」 「それとも、もう用済みだからさっさと出ていけってことからしら? それはあんまりよ、相沢君」 「あの、香里さん……昨夜は……いったい何があったのでしょうか?」 なぜか、敬語になっている祐一。 「馬鹿ね、男と女がベットですることなんて一つしかないでしょ」 「…………」 「……とっても良かったわよ、相沢君」 少しだけ頬を赤らめる香里。 「…………嘘だろう?」 昨夜は、香里から奪ってきた毛布にくるまった所までしか記憶にない。 その後、夢さえみずに朝までぐっすり眠っていたはずだ。 はずなのだが……自分は寝ぼけて取り返しのつかないことをしてしまったのだろうか? 次の香里のセリフは『責任とってね、相沢君♪』だろうか?…などと祐一が考えていると、 「……とっても良かったわよ。相沢君の『抱き心地』……けろぴー以上ね♪」 「抱き心地? 抱き心地って……ただ抱きしめた時の感触のことか!?」 「そうよ。何当たり前なこと聞いてるの?」 「……激しかったってのは……?」 「そう、そこなのよね、ネックは……ぬいぐるみと違って相沢君は動くのが欠点よね。激しくもがいてあたしから逃げようとしたのよ」 「………………」 つまり、ただ一緒に『寝てた』だけと……。 まぎらわしい。 いや、絶対わざだ。わざと誤解させて、祐一をからかったのに違いない。 「……て、そもそも、なんで一緒に寝てるんだ?」 あくまで、普通に寝ただけとはいえ、祐一には香里と一緒にベットに入った記憶はない。 「だって、相沢君があたしの毛布を奪っていっちゃったでしょ? 寒かったのよ」 「エアコン使え!」 「エアコンとかは喉や体に良くないのよ。それに電気代がもったいないじゃない」 「説得力があるような……まったくないような……」 「まあ、昨夜以外はいつも付けてたけどね」 「お、おい……」 「まあいいじゃない。人肌恋しい夜もあるものよ」 香里は妙に大人びた笑みを浮かべた後、ベットから起き出した。 「じゃあ、あたしは朝食の用意してるから、相沢君も早く起きていらっしゃい。二度眠しちゃ駄目よ」 「あ、香里……」 香里はそれだけ言うと、一度も振り返らずに祐一の部屋から出ていってしまった。 「いただきます」 行儀正しく両手をあわせて「いただきます」と言う、香里。 「て、ちょっと、相沢君! 何いきなり食べてるのよ!」 「……もぐん?」 「ちゃんと、いただきますと言ってから食べなさい」 香里は、母親が子供に『めっ』とするように注意する。 「もぐぁいもぐぁい(はいはい)」 「まったくしょうがないわね…………あっ……」 「どうした?」 「相沢君、ごはん粒がついてるわよ」 「うん?」 そう言うと、いきなり祐一の口元に手と顔を近づけてくる、香里。 「ほら、ちょっと動かないでね」 「いや、いいって……」 「はいはい、じ〜っとしていなさいね」 「だから、やめろって……」 ぺろっ! 「なっ!?」 「はい、取れたわよ♪」 指でこはん粒を取られるという恥ずかしいことをされる覚悟はしていたが、今のは指ではなく……。 「香里、今の……」 「ん? どうかしたの?」 「どうかしたのじゃない! 今お前、舌で……」 「だって指で触ったらきたないでしょ?」 「そ、そういうもんなのか……」 「ええ、お米は一粒だって無駄にしちゃいけないのよ」 「……まて、箸でつまんで取れば良かったんじゃ?」 「あら……まあそうかもね? まあ、いいじゃないのよ、別に。妹にはいつもこうしてるしね」 「そ、そうなのか……」 『あら、栞口元にクリームがついてるわよ』 ぺろっ! 『あ、お姉ちゃん…』 『駄目じゃない、もっと綺麗に食べなきゃ』 ぺろっぺろっ! 『ああ、お姉ちゃん!』 『フフフッ、本当にいけない子ね』 『お姉ちゃん……私もう……』 『栞……』 「………………」 「相沢君?」 「……………………」 「相沢君? ちょっと、相沢君ったら!?」 「……………………」 「…………シャイニング・ザ・レインボー!!!」 ドカカッ! 「うがあああっ!」 香里の左アッパーで、祐一はようやく反応を示した。 「目が醒めたかしら?」 「ああ、おかげさまで……」 「まったく、何を妄想してたのか簡単に想像がつくわね……」 「は、ははは……」 朝から、ペースも何も滅茶苦茶にくずされている、祐一だった。 「あ、そうだ。それより、相沢君、どこか遊びに行かない?」 「なんだ、いきなりだな?」 「だって、久しぶりに良い天気だし、家でじっとしてるのも勿体ないじゃない」 元気よく提案する、香里。 促されて見た窓の外には晴れ渡った冬の青空。 「確かに珍しく良い天気だな」 「だから、今のうちに遊ばなきゃ損よ! 吹雪になったら家から出ることもできないんだから……雪国の冬を甘くみちゃいけないわよ……」 「ここは雪山の中か……?」 香里の言ってることはともかく、確かに、春休みといっても季節はまだ充分冬である。 「寒いから嫌とか言わせないわよ。もう今は『春』休みなんだから」 「雪国っていったい……」 「だから、遊びに行くわよ」 お誘いから、決定事項に変わったらしい。 相変わらず香里はマイペースである。 (でも、悪くもないか? せっかくの天気の良い休みの日だし遊びに行くのも……) 「わかった。でも、どこに行く?」 「それは相沢君にお任せするわ」 「俺に?」 「女性をリードするのは男の甲斐性よ」 「…………」 だが、どこに行く? 近所の商店街や駅前、後は公園ぐらいしか……。 「そうだ、じゃあ、海なんてどうだ?」 「海?」 「ああ、軽い散歩みたいなものだ」 「そうね……こんな天気の良い日に冬の海辺を歩くというのも悪くないかもね」 「んじゃあ、決定だな」 「ええ、ちょっと楽しみね」 次回予告(香里&美汐) 「オリジナル展開してたら、少し長くなってしまったから、今回もここで分けるわね。まあ、前後編みたいな感じね」 「相沢さんの妄想のあたりとか、CG付きだったら家庭用で出せないところですかね?」 「ああ、川澄さんのシナリオでの相沢君の妄想(舞×佐祐理×祐一)ね、DC版なくなってて凄く残念だったのを覚えてるわ……」 「どうでもいい、佐祐理さんの校長だか理事長だかを色仕掛けするというのはボイス付きであったんですけどね……」 「別にCG無しにすれば、あの程度の会話のやりとりはオッケイだと思ったのに……つまらない削除をしてくれたわよ、家庭用……」 「まあ、所詮家庭用なんてそんなものです。PC版から声があるのなら、家庭用まで無理して買う必要はありません。イベントやCGが増えたぐらいで買うのはマニアというなのカモですね」 「PS2版はイベントやCGの追加すらなかったそうね……いったい誰が買ったの?」 「悲しいコレクターや信者やファン達です……」 「流石にPS2本体を買ってまで欲しいとは思わなかったわ……DC版の時は声がつくという差異のために本体ごと買ったけど……」 「私か香里さんのシナリオを追加されたら、危なかったですけどね……」 「ええ、それなら迷わず買ったわ!」 「私もです……と、話がずれましたね」 「じゃあ、今回はこの辺で。良ければ引き続き後編(6話)も楽しんでね」 「一時間スペシャルですね、今回は。では、またお会いましょう」 |