ライトニング・カノン
第2話「かおりん目覚まし時計」





「最初のチャイムでドアあけなさいよね」
「…………香里?」
「そうよ。あたしが名雪にでも見えるの?」
「いや、それは無理があるが……」
「厨具選びに時間がかかったのがロスタイムだったわね。後荷物が重いとその分移動速度が落ちるということも計算から抜けていたわ」
目の前の祐一の戸惑いは無視して、喋り続ける、香里。
「…………て、何しに来たんだ、お前……?」
「フフフッ、決まってるじゃない」
「何?」
「料理を作りに来たのよ!」
「……はい?」
祐一には香里の言ってることがいまいち理解できない。
もしかして、昼間のことだろうか?
「もう一度聞くが……何しに来たって?」
「だから、あたしの料理の腕前を証明しにきたのよ、特級厨師の名誉に賭けて!」
「……いつ特級厨師の資格なんてとった……」
香里はニヒル(死語)な笑みを浮かべると、遠い目をした。
「あれは相沢君と出会うずうっと前……若くして料理の天才の名を欲しいままにしたあたしは、さらなる修行のため、中国全土を彷徨っていたわ。そして、あたしはついに禁断の裏料理界の門を……」
「……嘘だろ?」
「ええ、嘘よ。まさか本気にしたの?」
香里は『本気にしたの? 馬鹿ね』と言った表情をしている。
「………………」
「じゃあ、相沢君、この荷物お願いね」
香里はキャンプ用の大きなリュックを祐一に投げ渡す。
「うぐ、重い……こんなものをよく片手で放れ……じゃなくて、何だよ、この荷物は?」
「調理道具とお泊まりセットに決まっているじゃない。じゃあ、そういうことでしばらくよろしくね」
「お泊まりセット?……ておい!?」
「何、相沢君?」
「百歩譲って料理を作るのはいいとしよう。だが、なぜ泊まる必要がある!?」
「せっかくだから、秋子さんと名雪がいない間、面倒見てあげようと思って」
「誰の?」
「相沢君の」
「誰が?」
「あたしがよ」
「………………」
「………………」
「…………帰れ!」
祐一は玄関を指さした。
香里の世話されるなんて、四六時中香里と一緒にいるなんて……そんな恐ろしいことがでるわけがない。
「香里、GO HOME!」
「……相沢君、あたしに逆らうつもり? あたしは泊めてて言ってるんじゃないのよ、泊まってあげて、さらにあなたの面倒を見てあげると言ってるのよ」
そう、確かに香里が祐一の命令というか願いを聞いてくれるわけがない。
出会ってから一度もそんなことはなかった。
「……というか、いきなり泊まりに来たりして大丈夫なのか? ご両親が心配……」
「ああ、それなら問題ないわ。ちゃんと名雪の家に泊まりに行くって言ってあるから」
「う……確かに、嘘じゃないが……」
「じゃあ、お邪魔するわね」
「て、勝手にあがるな!」
まるで自分の家のように自然に家に入り、階段を上っていく、香里。


「とりあえず、荷物はここに置いてちょうだい。はい、じゃあもう、相沢君は出ていっていいわよ」
そう言って、祐一は名雪の部屋から追い出される。
「……て、ちょっと、待て、香里!」

ドンドン!

「……何よ、相沢君? こんな夜中に近所迷惑ね……」
「て?」
祐一は部屋から出てきた香里の姿に違和感を覚えた。
「なんで、パジャマを着てるんだ?」
部屋から追い出されまだ数秒しか経ってないはずなのに。
「何よ、相沢君? ネグリシェとかの方が良かったの? それとも、裸にYシャツ?」
「裸にYシャツがいいかな…………て、そうじゃなくて!」
「シャネルの何番(裸)とかっで寝る趣味はないわよ。この街でそんなことしたら凍死してしまうもの……」
「だから、俺が言いたいのはそう言うことじゃなくてだな……」
「…………ああ、そういうことね」
不意に香里は納得したような表情をした。
「駄目よ、相沢君!」
「へっ?」
「いくらあたしが魅力的だからって、一緒に寝たいだなんて……」
「なっ!?」
「力ずくで襲うっていうのなら、あたしにも覚悟があるわよ」
「誰が襲うかっ!」
「……そう、残念ね」
「残念?」
「……相沢君を返り討ちにできなくてよ」
香里の指でバグナグが回されている。
「そういう意味の残念か……」
「じゃあ、明日から楽しみにしててね、相沢君。あたしの料理で天国を見せてあげるわ」
そう言うと、香里は名雪の部屋へと戻っていった。



「疲れる……このままだと俺の春休みが……」
せっかく、名雪も秋子さんもいなくて、一人で気楽に過ごせるかと思ったのに。
香里と一緒の生活……。
心安らかに過ごすのはまず無理だろう。
「とにかく、もう寝よう」
香里に立ち向かうためには、体調を万全にしなくてはいけない。
もっとも、例え万全の体調でも勝てる気はしないが……。



カチッ!

『朝、朝よ』
いつものように間延びした声が聞こえてくる。いや、今日の声は間延びしていない?
「ん…………」
『さっさと朝ご飯食べに来ないと永眠させるわよ』
祐一はがばっと布団ごと跳ね起きた。
「か、香里かっ!?」
きょろきょろと部屋の中を見渡す。
『朝、朝よ。そんなに眠っていたいならあたしが永遠に眠らせてあげるわ』
枕元から、間延びしたやる気のなさそうな声が聞こえてくる。
『香里、バグナグは駄目だよお〜、危ないよお〜』
「今度は名雪の声?」
『邪魔よ、名雪!』
『きゃああああああああああああっ!』
「………………」

カチッ!

祐一は無言で目覚ましのスイッチを切った。
朝から恐ろしいコント?を聞いてしまった。眠気など完全に吹き飛んでいる。
「いつのまに吹き替えた……しかも、名雪まで協力(友情出演)して……」



「あら、おはよう、相沢君。昨日はよく眠れた?」
居間に降りていくと、香里の笑顔に迎えられた。
その笑顔はとても愛らしくて……。
「……て、そうじゃなくて……香里、あの目覚ましはなんだ?」
「いいでしょ? あれなら嫌でも目が醒めるでしょ?」
「朝から、心臓に悪いぞ……」
「さあ、そんなことより、朝ご飯できてるわよ。さっさと食べてよね」
「香里が作ったのか?」
「当たり前でしょ。そのために来たんだから」
テーブルの上にはすでに盛りつけられた朝食の数々が並べられていた。
「見た目は豪華だな……」
「見た目だけじゃないわよ。この永霊刀のかおりんの傑作よ」
「氷でできた山に鯛の刺身が!?」
「フッ、鯛じゃないわよ、それは。このかおりん、他人の料理をそのままパックたりしないわ。とにかく、食べてみなさいよ」
祐一は恐る恐る、刺身を口に入れた。
「これは!? なんて冷たくて心地良い! 冷気が旨味を完全に封じ込めることに成功している! そして微かに感じる、痺れるような……痺れる?」
祐一は舌だけでなく、体全体が痺れてくる。
「フフフッ、気づいたみたいね。その刺激こそかおりんオリジナル! 鯛の代わりにフグを使ったのよ!」
「……………………」
「しかも刺激を与えるために、わざと少しだけ毒を残しておいたのよ!」
「…………………………」
「て、相沢君、聞いているの? 相沢君? 相沢君!? ちょっと、相沢君、しっかりして! 何白目向いてるのよ!」





「UGUU・・・一人は寂しいよ・・・祐一君もこっちにおいでよぉ〜」
「やめろ! こっちに来るな、あゆあゆ!!!」
祐一は悲鳴と共に目を覚ました。
「大丈夫、相沢君?」
目の前に心配そうな表情な香里の顔があった。
「……今、三途の川で知り合いにあったような気がしたんだ……」
「それが、あゆあゆって人?」
「あゆあゆ? よく思い出せない……」
「夢なんてそんなものよ。まったく、急に意識を失うからびっくりしたわ……」
それはお前の料理のせいだろう!とツッコミを入れようとした祐一は、後頭部が妙に温かいことに気づく。
祐一は香里に膝枕されていた。
「か、香里……」
「ん? 何、相沢君?」
「いや、あのだな……」
「?」
なんとなくもうしばらくこのままで居たいような気がして、祐一は何も言えなかった。
「変な相沢君ね。まあ、変だから相沢君なのかもしれないけど……」
香里はクスリと笑う。
「なんだ、それ……?」
「だって、名雪がいつも言ってるわ、相沢君のこと『変な人』だって……」
「何!?」
「あ、『不思議な人』だったかしら? まあ、どちらでもたいして変わらないわね」
(大違いだと思います、香里さん……)
「まだ調子悪いんでしょ? もうしばらく休んでいていいわよ」
「じゃあ、そうさせてもらうかな……」
「ええ、そうしなさい」
祐一は香里の言葉に甘えることにした。
心地良さに素直に身をゆだねる。
すぐに安らかな眠りに堕ちることができた。








次回予告(香里&未汐)
「とりあえず第2話ね」
「24時間以内の更新というのも久しぶりですね」
「なんとかオリジナルな展開にいけたらいいわね……可能性低いけど……」
「そうですね。では、今は忙しいのでこれで……」
「東京アンダとフルメタ、どっちがマシかしらね……」
「どっちも駄目駄目です」
「でも、しっかり見てるのね……どっちも……」
「見るのは無料ですから……」
「なるほど……じゃあ、今回はこの辺で……また次回も良ければ見てね」
「肯定です」



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