ライトニング・カノン
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「じゃあ、祐一、行ってくるお〜」 「おう、気をつけていけよ」 「……ねえ、祐一、わたしとお母さんが居なくてもホントに大丈夫〜?」 「何がだ?」 「わたしとお母さんが居なくても、ちゃんとご飯食べないとだめだよ」 「ああ、大丈夫だ。適当になんとかする」 「ホントに大丈夫?」 「問題ない」 「う〜ん、でも心配だよ〜」 言葉通り、名雪はホントに心配そうな顔で祐一を見る。 「ほら、それより早く行かないと遅刻するぞ」 「わわ、ホントだよお、じゃあ、行ってくるお〜」 慌ただしく玄関のドアを開け、眩しい朝日の中を駈けていく、名雪。 「まったく、心配性な奴だ」 名雪を見送った祐一は、居間に戻る。 二度寝するほど眠くもなかったので、テレビでも見ようかとリモコンを探すが見つからない。代わりに……。 「なんだ、名雪の奴、財布を忘れていったのか?」 ピンクにカエル柄の財布が無造作にテーブルの上に放り出されていた。 「仕方ない届けてやるか」 今は春休み。 帰宅部の祐一と違い、名雪は部活で忙しく、今日から合宿で一週間は帰ってこない。 それだけなら別に問題ないのだが。 秋子さんまで居ないのは問題かもしれない。 こっちへ来て以来、衣食住、秋子さんに頼り切っていたので、自分で家事をするのは結構面倒かも……。 「相沢君!」 「振り返ると、美坂香里が立っていた」 「……その口に出して状況説明する癖、いい加減なおしなさいよ……」 香里は心底呆れた顔をしていた。 「無意識になんだから仕方ないだろう」 「……まあいいわ。それより、なんで休み中に相沢君が学校に居るのよ?」 「名雪に忘れ物を届けて来たんだよ」 「忘れ物? ああ、名雪は合宿中だったわね」 「そういう香里はなんで学校に居るんだ?」 「もちろん部活よ」 「部活……」 香里の部活は謎だ。 何度聞いても、絶対に教えてくれない。 名雪や北川にも口止めまでさせているほど徹底してた秘密主義だ。 「何立ち止まって考え込んでいるのよ? 相沢君ももう帰るんでしょ?」 「ああ」 香里は祐一の返事も待たずもう歩きだしている。 祐一は駆け足で近づくと、香里の隣に並んだ。 「でも、相沢君もこれから大変よね」 「何がだ?」 「だって、秋子さんも居ないんでしょ?」 「あ、ああ……」 秋子さんも丁度、今日から出張だそうで一週間帰ってこない。 ちなみに、秋子さんが何の仕事をしているのかはいまだに謎だったりする。 秋子さんといい、香里といい、どうも祐一のまわりには秘密主義というか、『得体の知れない』女性が多い。 「相沢君、今物凄く失礼なこと考えてなかった?」 「そんな命知らずなこと考えるわけないだろう……」 だから、そのどこからともなく取り出したバグナグ(虎の爪)はしまってください。 「何? まさか、相沢君、あたしがこれで相沢君を殴るとでも思っているの? そんなに震えて……」 「違うのか?」 「神聖なクィーンバグナグを相沢君ごときの血で汚せるわけないでしょ」 「………………」 いつのまにかバグナグは香里の指から消えていた。 あの制服のどこにしまったというのだろう? 「フフフッ……」 「なんか、やけに楽しそうだな、香里は」 「フフフッ……実はね、妹が帰ってくるのよ♪」 「妹? 香里に妹なんていたのか?」 「病気でずっと入院してたんだけど、やっと完治して家に帰ってくるのよ♪」 「へぇー」 香里の妹ならきっと妹も美人なのだろう。 「相沢君、妹のこと聞きたい?」 「いや、特に……」 「聞きたいわよね?」 聞きたくないなんて言ったら殺すわよ、香里の瞳がそう言っている。 「き、聞きたいな……」 「仕方ないわね、相沢君にだけ特別に教えてあげるわね♪」 香里は、祐一が出会ってから初めて見るとても優しい笑顔を浮かべていた。 「まず、あたしの妹はね。勉強もスポーツもすごく苦手なのよっ!」 「ほう、意外だな」 「その上、料理も下手だし、性格だって大人しそうに見えて実は毒を孕んでるのよ」 「ほうほう」 「それにとってもお子様なのよ、特に胸と体型が」 「ふむ、それはちょっと気になるな」 「……相沢君、ロリコン?」 「違う!」 「まあ、相沢君の性癖はともかく……栞はあたしの自慢の可愛い妹なのよ」 「ふむ、なるほど……」 とりあえず、話を聞く限りでは、香里と似ても似つかないようだ。 でも、小さくて可愛い子みたいだし、どうして妹の方がうちの学校に来てくれなかったのだろう。怖い香里ではなくて。 「はあ」 「どうしたのよ、急にため息なんてついて」 「いや、姉妹なのに全然似てないみたいだな」 「そんなことないわよ、確かに栞はあたしと違って美人というより可愛いって感じだけど……」 自分が美人だと認めるんですね、香里さん。 まあ、間違いでも自惚れでもなく香里は美人だが。 「でも、家事が下手のは同じみたいだな」 「ちょっと、何を根拠にあたしが料理を苦手って決めてるのよ!」 確かに雰囲気的には香里は家事とかも完璧にこなしそうだ。 「この前だって、バレンタインの『義理』チョコあげたでしょ」 確かに、『手作り』の『義理』チョコをもらった。 ハート形の巨大なチョコで真ん中に『義理』という文字がでかでかとホワイトチョコで書かれていた。 しかし、問題は手作りの義理という矛盾ではなく、味だった。 「……おかげで香里に言いたいことがあったのを思い出したよ」 「ああ、お礼は別に言わなくていいわよ、あくまで義理、義理だから! でも、ホワイトデ−に三倍返しは世界の常識よ」 「そうじゃなくて、よくもあんな……」 「でも、相沢君の口にあったようで良かったわ」 香里はくすりと悪戯っぽく微笑む。 その笑顔がとても可愛いくて……。 「じゃなくて! どこの世界にチョコの中にアイスやスナック菓子を仕込む奴がいる!?」 「妹は甘いのが大好きよ。特にアイスなんて毎日10個以上食べてるわ」 「どんな病人だ、それは……」 「チョコにアイスは別に普通の組み合わせだと思うわよ。そういうアイスって売ってるじゃない」 「しかも、スナック菓子の方だけピリ辛味……」 「ああ、そっちはあたしの趣味よ。あたしは甘い物より辛い物が好きだから」 「甘い物と辛い物を混ぜるな!」 「混ざる量を間違えたかしら……」 「根本的に間違ってる、混ぜるな!」 「……相沢君って味にうるさい人だったのね……知らなかったわ……」 「そういう問題じゃないだろう……」 「唐辛子よりマスタードの方が良かった?」 どういう味覚してるんだ? なぜ、チョコを辛くしようとする? 「……ふう、とにかく香里には料理は無理だ」 祐一は肩をすくめて、首を振る。 「……何よ、その態度は?」 「別に」 「………………」 「………………解ったわ……解ったわよ!」 突然怒鳴ると、香里は祐一に背を向けて、走り去っていった。 「……怒らせたのか?……後が怖いな……」 「相沢君!!!」 「うぐぅ!?」 「絶対後悔させてあげるからね! 覚えてなさいよ、相沢君!」 まるで捨てセリフのようにそれだけ告げると、今度こそ香里は走り去っていく。 「……それだけ言いに戻ってきたのか?……」 絶対なんらかの報復があるなと祐一は覚悟した。 夕食をインスタントで済ませ、祐一は自分の部屋のベットで漫画を読んでいた。 「そろそろ、寝るかな……」 ピンポーン! 「ん?」 ピンポーン! ピンポン! ピンポン! できれば無視したかったが、自分一人しか居ない以上、そういうわけにもいかない。 祐一は玄関へと向かう。 ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン! 「連射するな!」 祐一がドアを開けると……。 「こんばんわ、相沢君」 「えっ?」 不敵な笑みを浮かべた香里が立っていた。 次回予告(未汐&香里でお送りしています。) 「普通のSSを書こうとした結果がこれですか?」 「う…………」 「しかも、これ厳密にはオリジナルじゃありませんし……」 「書けなかったものは仕方ないじゃない……」 「まあ、結構試行錯誤しましたよね。最初はKPの続編ぽく書いたり、原作にない香里シナリオでも考えようかとか……最終的にこうなってしましたが……さしずめ『やかま香里たん物語』ですか?」 「これからオリジナル展開していくのよ!」 「ホントに?」 「……たぶんね……」 「そもそもまだ続くんですか?」 「続くと言うと、続かないこと多いから、続かないと言っておくわ」 「………………」 「………………」 「では、今回はこの辺で……」 「良ければまた見てね」 「体中にアドレナリンが駆け回ります」 |