カノン・サバイヴ
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栞のエンド・オブ・スノーが放たれる。 あれをくらうのはまずい。 あたしは回避しようとした。 しかし、 「あははーっ♪」 背後から延びてきた腕に頭を鷲掴みにされ、一瞬動きが止まる、その直後、あたしの体を無数の雪玉が貫いた。 連鎖的な大爆発と共に、あたしの体に激痛が……いや、痛みとして理解しきることすらできない衝撃が走った。 意識が不確かになっていく。 「ガードベント! 使い捨てかおりんです♪ あはははーっ♪」 「あ……あたしが……演出して……ゲームを面白くしてあげたのに……」 荒い息づかいで、それでもあたしは佐祐理に立ち向かおうとした。 「あははーっ♪ 冥土の土産に見せてあげます佐祐理の大魔法を♪ ファイナルベント♪」 空高く舞い上がった佐祐理が巨大なアリクイのぬいぐるみのバックアップを受けて急降下してくる。無数の隕石と共に……。 「さゆりん☆メテオキック♪♪♪」 あれをくらったら自分は終わり。 そう思った瞬間に、あたしの中で何かが目覚める。 佐祐理のキックと隕石は、あたしの直前で『何か』と激突していた。 まるで見えない壁があるかのように……そして、その見えない壁が破壊される。 そのまま勢いは落ちたものの佐祐理の足が近づいてくる。 「くっ!」 そこで、あたしの意識は途切れた……。 「気がつきましたか?……香里さん……」 次に意識が戻った時見たのは、見覚えのない青い髪の少女だった。 半裸のの少女はぐったりとしている。 「ふぅ……」 少女は自分の上に倒れ込んできた。 その時になって、あたしも殆ど裸でベットの上に寝かされていることに気づいた。 「ホントによかったわ……香里さん……生き返ってくれて……」 「……秋子さん?」 「はい」 そうだ、思い出した。 この少女は秋子さんのもう一つの本当の姿だ。 1、2回だけ前に見せてもらったことがあったのを思い出す。 「あと少し決断するのが遅かったら……いくら、私の精気を注いでも間に合わなかったでしょうね……」 「精気を注ぐ?」 「マントラとか房中術とか……用は交わりで自分の気や生命力を相手に移す術です。西洋魔術的に言うなら、精神力移動といったところかしら?」 「そんな西洋魔術は多分ないと思いますよ。ゲームかアニメの魔法ですね、そんなものがあるのなら」 第三者の声が会話に割り込んできた。 てっきり、あたしと秋子さんしかいないかと思っていた場所に、もう一人いた。 金髪の気難しそう感じのする女性。 おでこの広さが特徴的な気がする。 秋子さんの古い知り合いで、えっと、確か名前は……。 「葉子さん」 秋子さんが彼女の名前を呼ぶ。 「房中術にしろ、何んにしろ普通の人間の術では生者同士の体力や気力を回復させるだけで、死者を生き返られせはしないと思います」 「私は普通じゃありませんから」 確かにその通りだと思いますけど、普通自分で自分のことを普通じゃないと言うものじゃないと思います、秋子さん……。 「郁未さん、いくら私達が普通の人間でないとはいえ、自分の命……生命力の半分近くを他人に分け与えるのは危険すぎますよ……」 葉子さんは心配げに顔を曇らせて言った。 「えっ?」 あたしは言葉の意味を瞬時には理解できなかった。 「半分はオーバーですよ。三分の一ぐらいです」 「それでも充分危険です……」 「大丈夫ですよ。香里さんは『力』に殆ど覚醒しかけてましたから、弾みを与える程度の生命力を注ぐだけで自力で甦ってくれました。いくら、私でも香里さんがただの人間だったら生き返らせるのは無理でしたよ。以前からの種まきが役に立ちました。こういうのを備えあれば憂いなしと言うんですね」 秋子さん……郁未はにっこりと笑っていた。 「郁未さん……あなたと言う人……」 葉子さんは困ったような、呆れたような顔をしている。 「種まきって?」 「……あなた、郁未さんと寝たことがありますね?」 問いというより確認という感じだ。 「え? え、えっと……」 流石に秋子さんじゃありませんし、1秒で肯定はできなかった。 しかし、葉子さんはあたしの反応だけで、確認は済んだと言った感じで話を続ける。 「私達は交わることで相手に自分と同じ『力』を与えることができるのです……私の力も『あるもの』との交わりから得た力です」 『力』というものが何のことかは解る。 秋子さんがたまに使う何でもありな力のことだ。 一般的にいう超能力といった感じのもの。 本来、あたしはそう言ったものは信じないのだけど、秋子さんにとことんまで見せつけられた以上認めないわけにはいかなかった。 「もっとも、交われば誰でも『力』を得られるわけではありません。九割は力を制御できなかったり、『力』の元に内側から食い破られたり、意識を乗っ取られたり……要は自滅しますね」 「はい!?」 今の、聞き間違えよね? 「嘘ですよね……」 「私は意味のない嘘などつきません」 葉子さんはきっぱりと言う。 「な……なんてことするんですか、秋子さん!?」 あたしは矛先を秋子さんに変えた。 秋子さんはにこにこと笑顔で答える。 「大丈夫よ、香里さんは、前世で制御しきれなかったとはいえ、『力』を経験しているから拒否反応とかは低いはずですから」 「前世?」 「いえ、こちらの話です、気にしないでください……。それに、私は大丈夫だと解っていたからこそ、香里さんに手を出したんですよ」 「そ……そうなんですか? ホントに?」 「了承」 今の会話で「了承」はおかしいと思いますよ、秋子さん……。 「力を与えるのが目的ではなく、好みの性格と容姿に育ったので手を出してみたくなった」 「あら、なぜ解ったんです、葉子さん?…………あっ……」 ……秋子さん……。 あたしはかなりの高確率で命を落とすところだったの……秋子さんの好みだったってだけの理由で……。 いや、まあ、結果的にはそのおかげで生き返れたし、自分の命を削ってまで生き返らせてもったことに感謝はしているけど……。 「相変わらずですね、あなたは……」 葉子さんはため息を吐いた。 なんかすごく実感というか疲れを感じさせられるため息だった。 きっと、ずっと昔から、秋子さんのこういった所に苦労させられているのだろう。 「何人も子供を産んで育てて、いい加減落ち着いた性格になったと思ったのに……」 「えっと……この姿になると昔の血が騒ぐというか、昔とったきねづかというか……」 秋子さんは必死に言い訳する。 口調もなんか微妙に変わっていた。 いつもの落ち着いた丁寧語ではないく、今の少女の外見に相応しい女言葉に。 体が若返ると、性格や口調まで若返るのだろうか? それにしては、さっきまであたしと話していた時はいつもの言葉使いだったけど。 あ、あたしが秋子さん相手だと『ですます語』になっちゃうようなものね。 口調、言葉使いっていうのは、相手に合わせて意識せずとも変わってしまうもの。 怖い相手や尊敬できる相手だとわざとじゃなくても丁寧語や尊敬語になっちゃうものよ。 もっとも、あたしがそういう言葉遣いを使うのは秋子さんぐらいしかこの世にいないけど。 あたし相手にはいつも丁寧語で接してたから、体が若返って基本は若い女言葉になっても、あたしと話す時は丁寧語で話してしまう。 というか、あたし、結構どうでも良いことをごちゃごちゃ考えている気がする。 もしかして、現実逃避しようとしてるのかしら、あたし……。 その後、あたしはすぐに全快した。 妙な『力』……秋子さん達は不可視の力と呼んでいた……を得てしまったことを除けば昔よりずっと体の調子が良いぐらいだ。 いや、実は問題がないこともないのだが……それをいまいち自覚することが不可能になってきている。 あたしの性格や価値観がかなり変わってきているのだ。 以前は散々悩んでいた栞のことや、栞への自分の接し方とかが、最近どうでもよい取るにたらないくだらないことに思えてきたのだ。 あと、人を傷つけたり、物を壊すことに対する倫理的なブレーキが弱くなったというか……。 かなり暴力的で欲求に素直な性格になったような気がする……。 凄く拙いんじゃないないのだろうか、これって……。 そのことを秋子さんに話すと、 「あらあら、今回もちょっと制御しきれなかったのかしら?」 とにこやかに無責任に言われた。 「大丈夫よ、香里さん。暴力的になったのは『力』が使われたくて暴れてるだけだから、発散、使用すれば落ち着くから……多分……」 多分ってなんですか!? 「細かいことを気にしなくなったのは、香里さんが人間的に大物になったから心に余裕ができたのよ……多分……」 だから、多分っていうのやめてください……。 「まあ、はっきり言ってしまうと、人間でなくなったので、人間の価値観や倫理観や常識が薄れたといったところかしら……」 「そんな……」 「大丈夫ですよ、香里さん」 「秋子さん?」 「私もあんまり人間の常識気にしてませんし、守りませんから♪」 笑顔で言わないでください、そんなこと……。 そうだ、秋子さんはこういう人だった。 倫理や常識に必要以上に捕らわれている人だったら、娘の親友の同性の女の子(未成年)に手を出したりしない……。 まあ、無理強いされたことはないし、あたしも受け入れちゃったし、秋子さんのことは好きだから良いんだけど……。 「大丈夫ですよ、人間の常識や法はあくまで人間のためのものです。私達が気にすることはないですよ」 お願いですから、あなたはもう少しだけ気にしてください……。 はあ……あたし、これからどうなってしまうの? 「フフフッ……」 あの……なんでベットメイキングしているんですか、秋子さん……。 「今することなくて暇なんですよ」 「はぁ、だから……?」 「しましょう♪」 あたしは思わずずっこける。 そんな無邪気で可愛く誘わないでください。 歳を考えて……。 「17歳から歳取るのやめてます! こっちの姿がホントの姿なんです!」 歳のことは完全に禁句らしい。 ちなみに、向こうの姿は向こうの姿で『永遠の28歳』らしい。 いったい実年齢(生きてきた年数)はいくつなんだろう? 怖くて絶対聞けないが……。 「どうせなら楽しく生きましょう、香里さん。二人で……ね」 「……そうですね」 あたしは秋子さんの笑顔に、少しぎこちないながらも笑顔で返した。 秋子さんを受け入れてしまった時から、心を奪われてしまった時から、こうなることは定まっていたのかもしれない。 深刻に悩んでもどうなるものでもない。 どうせなら、楽しく好き勝手に生きよう。 いままでの辛かった人生の分だけ、今度は楽しい人生を送ってやる。 普通の人間じゃなくなちゃったし、もう失うものは何もない。 「そういうのをやけくそというのですよ、香里さん」 「秋子さんが言わないでください! 元凶のくせに……」 「フフフッ……」 とりあえず、退屈だけは二度とすることなさそうだった。 秋子さんと一緒の限り……。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで第15話をお送り……できませんでした」 「………………」 「香里さんのせいで」 「あたしのせいにするなっ!」 「最初、冒頭にちょっとだけ香里さんの回想というか、フォローをいれようとしたら、それが長くなって、話一本分になってしまったんです」 「で……初の外伝? いや、番外編扱いってわけね?」 「話的には14話と15話の間です。というか、14話読み終わる前に読むと、ネタバレになりますので、一応注意です」 「でも、ここ読んでる時点ですでにこの話読み終わってるんじゃない?」 「…………小説読む人の7割はあとがきから先に読むそうです」 「そりゃ、普通の文庫の小説ならそうだろうけど……」 「次回予告(香里と美汐の掛け合い)マニア(だけを読む)な方もいるかもしれませんし……」 「……いるのそんな人……」 「さあ……」 「では、次回こそ第15話をお送りします」 「じゃあ、今回はこの辺で、良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 |