カノン・サバイヴ
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2002年、冬。 生き残った6人のヒロイン達の戦いは続いていた。 「変身!」 聖の白衣が白から赤に変色する。 「変身だおっ!」 名雪も変身する。 二人はエターナルワールドへ向かった。 エターナルワールドでは、10体以上の同じモンスターが徘徊していた。 モンスターを倒し続ける、名雪と聖。 そこに栞も加わる。 「ソードベント! ツインメスランサー!」 聖の手にに巨大な両方の先端に刃のあるメスが出現した。 聖はツインメスランサーを振り回し、モンスターを次々に切り裂いていく。 「ファイナルベント!」 「ピコオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」 空から飛来した羽付ポテトが口から物凄い風を吐き出し、モンスター数体を聖に向けて吹き飛ばした。 「はああああっ!」 聖は自分に向けて吹き飛ばされてくるモンスター達を次々に切り捨てていく。 「これでだいたい片づいたか……なっ!?」 しかし、階段の下からさらに50体近いモンスターが近づいてきていた。 「いったい何体いるんだお……」 エターナルワールドから弾き出されるように帰還する、名雪。 「だおおおおっ」 地面を転がる名雪は満身創痍でボロボロだったが、自分のことより、隣で蹲っている聖の心配を優先した。 「大丈夫ですか?」 「私に近づくな、君には関係ない!」 名雪の差し出した手を拒み、立ち上がる、聖。 そこへ、栞が近づいてくる。 「えぅ、あなたは……」 「……君は……」 無言で見つめ合う聖と栞。 いや、聖の方が睨んでいるという方が正しいかもしれない。 対して栞はどこかバツが悪そうだった。 「だお? 二人知り合いなの?」 「…………」 聖は何も言わずに去っていく。 栞はその背中を複雑な表情で見送っていた。 「あははーっ♪ あははーっ♪ あははーっ♪」 佐祐理は街でチンピラ相手にケンカを繰り広げていた。 「ひでぇ……俺達が何したって言うんだよ……」 「今日は佐祐理の機嫌が悪いんです♪ 理由はそれで充分ですよ♪」 佐祐理は最後のチンピラをぶちのめす。 その時、モンスターの襲来音と共に、一人の青い髪の少女が現れる。 「あははーっ♪ 魔法使いのおばさん♪」 百花屋の前。 名雪と観鈴の前にも少女が現れた。 「天沢郁未……」 とある廃墟と化した教会に天沢郁未と五人のヒロインが集まっている。 「タイムリミットよ。後三日で決着が付かなければ、あなた達は願いを叶えることはできない」 「がおっ! そんなこと来ていないよ!」 「あなた達がこんなにちんたらと戦いに時間をかけるとは思わなかったのよ」 郁未は、全員のカードデッキをテーブルの上に並べながら言った。 「とにかく、あと三日以内に決着をつけなさい」 「ふざけないでよ! だいたいあなたの目的はなんなの! なんでこんなことさせようとするの!?」 名雪が郁未に詰め寄る。 「目的などない。あなた達の欲望がヒロイン同士の戦いを生んだのよ」 「そんな……」 「まあ、そうですねよね、私達が乗らなかったらこの戦いは成立しなかったことになりますよね」 栞が同意するよう言った。 「だったら、わたし達の意志で戦いをやめればいいんだおっ!」 「馬鹿か、君は? それではヒロインなどになった意味がないだろう?」 名雪の主張を聖が否定する。 「観鈴ちんも戦いを辞める気はないがお」 「観鈴さん……」 「まあ、そういうことです。名雪さんの演説は立派ですけど、誰も聞く気はないみたいですよ」 そう言って、栞が名雪の肩を叩いた。 「あははーっ♪ 戦えばいいんですよ、最後の一人になるまで♪ 佐祐理は今ここでケリをつけても構わないですよ♪」 「…………」 その言葉に、聖が反応して佐祐理の頬を殴りつける。 佐祐理は避けもせずに楽しげな笑みを浮かべた。 「くっ!」 佐祐理は再度殴りかかってきた聖の拳を掴み上げると、 「あははーっ♪♪♪」 と聖に顔を近づけて吠えるように笑う。 郁未は無言で、佐祐理と聖にカードデッキを投げ渡した。 「あははーっ♪ やりますか♪」 「ああ……」 佐祐理と聖はエターナルワールドへ向かうために、鏡の前に向かう。 「やめるおっ!」 名雪も慌てて後を追って止めようとした。 しかし、 「邪魔です♪」 ドカッ! 佐祐理に肘で突き飛ばされてしまう。 名雪が倒れている間に、佐祐理と聖は変身し、エターナルワールドへと入っていった。 「ケリをつけるがお」 「望むところです」 観鈴と栞もカードデッキを郁未から受け取ると、戦う決意した。 「観鈴さん!」 気づいた名雪が今度はこっちを止めようとするが、二人も名雪を無視して、エターナルワールドへ入っていく。 「絶対止めてやるおっ!」 と郁未に宣言すると、名雪はカードデッキを掴み、みんなを追ってエターナルワールドへと向かった。 誰もいなくなった教会で、郁未はパイプオルガンを弾き始める。 ヒロイン達の戦いに捧げるレクイエムのように……。 聖vs佐祐理、栞vs観鈴の激しい戦いが続く。 「やめて!」 名雪は聖の腕を掴んで止めようとするが、そのスキに佐祐理はファンシーアリクイを召喚し、聖と名雪を吹き飛ばした。 「やめようよ、栞ちゃん!」 名雪は栞に抱きついて止めよとするが、栞は名雪の背中に容赦なく両腕でエルボーを叩き込み、拘束が解かれると、銃のバイザーで撃ちまくった。 聖vs佐祐理、栞vs観鈴は最初別々の場所で戦っていてが、戦い合っている間に同じ場所に自然に集まっていく。 佐祐理が、聖にトドメを刺そうとした瞬間、 「ファイナルベント! エンド・オブ・スノー!!!」 栞のファイナルベントが全員をまとめて吹き飛ばした。 郁未の演奏の終了と共に戦いは終わる。 結局、戦いは決着付かず、全員、時間切れで元の世界に弾き出された。 「だお……大丈夫?」 名雪が横で倒れている聖に声をかけるが、聖は無視する。 「がお……」 ちなみに、逆の横には観鈴が倒れていたりした。 「くうっ!」 聖は苛立ちを現しにドラム缶を蹴飛ばす。 「私の力ではあの娘に……倉田佐由理に勝てないのかっ!」 「がお? あなた、佐祐理さんとどういう関係なのかな?」 「あいつは……佳乃を……私の妹を殺したんだ……」 「はぇ〜…………あははーっ♪ 思い出しました♪ あの年増、佐祐理が殺したバンダナ女の姉でしたね♪」 「…………」 倒れたまま楽しげに笑い出す、佐祐理を栞は無視する。 「栞さん、さっきあの年増を庇いましたね? なぜですか?」 「……別に偶然です。庇ったりするわけないじゃないですか」 「あははーっ♪ 佐祐理がバンダナ女を殺した時の裁判で、佐祐理の弁護をしたのを後悔してるんですか? 罪の意識をあの年増に感じて?」 「罪の意識なんてないです。まあ、あなたの弁護をしたのは後悔してますけど……」 「あはははーっ♪ 甘いですね♪」 「…………」 「あなた死にますよ♪」 「………………」 佐祐理は笑いながら去っていった。 その後、名雪は聖に呼び去れ、なぜかデートのようなことするはめになり、最後はカードデッキをスラれそうになったりした。 「また騙されるところだったおっ! やっぱり、あなた最低だおっ!」 「私はどんなことをしても勝ち残らなければならなんのだ!」 とある研究所。 「我が社の冷凍設備は完璧です、きっと未来の科学力があなたの妹さんを救ってくれるはずです」 氷漬けの少女を見つめる、聖。 氷漬けの少女は彼女の最愛の妹、霧島佳乃。 「……佳乃……お姉ちゃんが必ず生き返らせてあげるからな……」 びしょ濡れで帰ってくる、名雪。 「だお〜、変なお医者さんに絡まれるし、雨には降られるし散々だったお」 「びしょ濡れだな、今、タオル持ってきてやるよ」 タオルを取りに風呂場に入った祐一の視線が何気なく鏡に向いた。 その時、奇妙な音と共に、祐一の頭に頭痛が走る。 真っ二つに亀裂の走る、鏡。 「あ……ああ……」 そして、祐一はずっと忘れていたあることを思い出す……。 雨の空き地。 手が泥だらけになるのも構わず、地面を掘り続ける、祐一。 それを心配げに見守る、名雪と観鈴。 「いったいどうしたがお……」 観鈴が名雪に事情の説明を求める。 「わたしに聞かれても……祐一が突然……」 名雪にも説明のしようがない。 そうこうしているうちに、祐一が目的の物を掘り当てた。 「木箱?」 祐一は泥だらけの震える手で木箱を開ける。 中から出てきたのは割れた鏡の欠片と、数枚の紙切れ。 その紙切れに描かれていた絵に名雪も観鈴も驚愕した。 「だお……これってケロピー……?」 「こっちは空(カラス)、スノーマン(雪だるま)、アリクイ……他のモンスター達もいるがお……祐一さん、説明して欲しいな」 観鈴の問いに、祐一はゆっくりと答え出す。 独りぼっちで寂しかった俺はずっと、鏡の前で絵を描いていたんだ……。 そんな時、鏡の中から声がしてきた。 「こっちへ来いよ」 話しかけてきたのは、鏡に映る、俺。 俺は鏡の中の世界で、もう一人の俺と遊んだ。 もう一人の俺は決して俺を裏切らない。 楽しかった。 けど……。 「もう元の世界に戻れない。戻れる時間は過ぎてしまったからな」 ともう一人の俺が言った。 俺は元の世界に戻りたくて、ただひたすら泣いた。 「そんなに元の世界へ還りたいのか?」 俺が頷くと、もう一人の俺は、 「じゃあ、俺の命をやる」 と事も無げに言った。 「今の話が本当だとすると……モンスターは祐一が作ったってことに……でも、それならどうして、モンスターは人間を襲うの!?」 「それは……モンスターも生きたいからだ……」 辛そうな表情で祐一は答える。 「モンスターに命はない……でも、生きたいから、生きてるものに関わろうとする、生きてるものを襲う、生きてるものを食らう……」 ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ! 「モンスターの襲来音だお!」 「がお……」 名雪と観鈴はモンスターの描かれた絵を祐一に返すと、急いで音の発生源に向かっていく。 祐一はただ呆然と立ち尽くしていた。 エターナルワールドでは、すでに栞や佐祐理も来ていて、モンスターと戦っていた。 名雪と観鈴も戦いに加わる。 際限なく増え続ける、モンスター達。 さらに、蛹型だったモンスター達が孵化し、飛行能力のあるモンスターへと進化したりして、ますますヒロイン達は苦しくなっていった。 バリィィィン! そこへホールの天上を突き破って、聖が天から舞い降りてくる。 「はあああああああっ!」 降下しながらも、モンスター達を次々とツインメスランサーで斬り倒していく、聖。 「倉田佐祐理!!!」 地上に降り立った聖はモンスター達を切り払いながら、佐祐理を目指して駈けていく。 「ふぇ?」 モンスターと戦っていた佐祐理は、聖に気づくと、聖に向けてモンスターを蹴飛ばした。 「くっ!」 そのモンスターをなんとか倒すと、聖は再度、佐祐理に迫る。 「やれやれです♪」 面倒くさそうに、でも、楽しそうに佐祐理は聖の挑戦に応えた。 「あ……やめるおっ!」 戦い合う二人に気づいた名雪は止めようと近づこうとするが、モンスター達に阻まれて近づくことすらできない。 モンスターは際限なく増えていくのだった。 『俺の命をやる。でも、この命はお前が大人になる前に消えてしまう』 18歳の誕生日までしか生きられない。 もう一人の祐一は、祐一にそう告げたのだった。 「ガードベント! ポテトシールド!」 「あははーっ♪ アドベント♪ ファンシーアリクイさん♪」 佐祐理の契約モンスターであるファンシーアリクイの毒液が聖の盾を溶かす。 聖は徐々に佐祐理に圧倒されていった。 そこへ、 ズドオオオオオン! 雪玉ランチャーが佐祐理を吹き飛ばす。 「大丈夫ですか?」 「余計なことしないでもらおう!」 聖は、自分を助けた栞にメスで襲いかかった。 「えぅ、えぅ、えううううううううううううううううううううっ!?」 栞は吹き飛ばされる。 「あははーっ♪」 聖が栞を攻撃している間に、佐祐理は雪玉ランチャーのダメージから回復し、ゆっくりと聖に近づいてきた。 「ユナイトベント♪」 ジェノサイダー北川が出現する。 「ファイナルベント♪♪♪」 ジェノサイダー北川を使った佐祐理の最大のファイナルベントが発動した。 佐祐理は聖をメテオキックでジェノサイダー北川に向けて蹴飛ばす。 そして、ジェノサイダー北川が何かを行おうとした瞬間、 ドコオオオオオオオオッ! 黒いケロピーがジェノサイダー北川を横に弾き飛ばした。 「ふぇ?」 黒いケロピーを引き連れて、黒い体操服とブルマの少女が姿を現す。 「名雪君?」 少女は名雪にそっくりな容姿をしていた。 だが、黒い。 「だおお! だおおお! だおおっ!」 名雪の蹴りや拳が次々に佐祐理にヒットする。 「だおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」 黒い名雪はファイナルベントを装填した。 黒いケロピーが名雪の周りをトグロを巻くように舞う。 「だおっ!」 黒い名雪のファイナルベント、ダークケロピーキックが佐祐理に襲いかかった。 佐祐理は辛うじて横に転がってかわす。 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 黒い名雪のキックはそのまま、佐祐理の背後にいたジェノサイダー北川に炸裂した。 爆発の後には、ジェノサイダー北川も黒い名雪も完全に消え去っていた。 聖は佐祐理に挑むために駈けていく。 佐祐理も応戦するように聖に駆け寄るが、途中で足がもつれ倒れてしまった。 「ふぇ? 体が……?」 佐祐理は自分の体がの異変に気づく。 体が思うように動かない。 「やああああああああああああああああっ!」 バキィィィン! 聖のメスが佐祐理のカードデッキに突き刺さった。 粉々に砕け散るカードデッキ。 「ふぇっ!?」 倒れる、佐祐理。 魔法少女のコスチュームが消え去り、佐祐理は制服姿で仰向けに倒れていた。 「ふぇ? 佐祐理が死ぬ? こんなところで……あははははははははははっ♪ あはははははははっ♪ あはははははははははっ♪」 狂ったように笑う、佐祐理。 そのあまりの醜さに、聖は一瞬目を背ける。 その一瞬を逃さず、佐祐理は聖に掴みかかった。 佐祐理は聖の首を絞めながら、壁に叩きつける。 「くっ……」 「あはは……ふぇ?」 佐祐理は聖の首から手を離した。 佐祐理の手が粒子になって崩れていく。 いや、全身が崩壊していった。 「あ、あ、あ……ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」 佐祐理の全てが粒子となって消えていく。 佐祐理という存在はこの瞬間、完全にこの世から消滅した。 マジカル☆さゆりん……死亡。 残るヒロインは……五人。 「えぅ……」 栞はふらつきながらも、なんとかエターナルワールドから脱出する。 その瞬間、栞は意識を失った。 「栞……」 意識を取り戻した栞が最初に見たのは祐一の顔だった。 「祐一さん……」 「また、戦いか、栞?」 「……そんなところです」 栞は立ち上がると、おぼつかない足取りで歩き出す。 栞の脳裏に浮かぶのは、自分にメスを何度も突きつけてくる、聖の姿だった。 「…………祐一さん」 栞は祐一に背中を向けたまま話しかける。 「私、なんだかヒロイン同士の戦いがむなしく思えてきました……ごふっ!」 「栞っ!?」 吐血する、栞に駆け寄る、祐一。 「……大丈夫です。なんか残りの人生楽しく生きらればそれでいいような気がしてきました」 「栞……」 「そうと決まったら、とりあえず食事にでもいきましょうか、祐一さん♪」 栞は楽しげにそう言うと、カードデッキを無造作にテーブルの上に投げ捨てた。 バトルメイド☆栞……脱落。 残るヒロインは……四人。 黒い名雪を名雪と勘違いした聖は、助けてくれたお礼として、名雪をお好み焼きに誘った。 「聖さん、意外と悪い人じゃないかもしれないおっ」 名雪がトイレでそう言ってる頃、もう一人(黒い)の名雪が鏡の中から現れ、聖を連れだしてしまう。 黒い名雪は聖をビルから突き落とそうとした。 「君は、名雪君じゃないなっ!?」 「だおおおおおおおおおおおおおっ!」 黒い名雪は再び力ずくで聖を突き落とそうとする。 「くぅっ……」 あと一息で聖が落ちそうになった瞬間、名雪の体が薄れ崩れ始めた。 「……時間切れだお」 そう呟くと、名雪は聖を解放し、鏡の中に消えていく。 「あれは……」 聖はその後を追いエターナルワールドへ向かった。 黒い体操服とブルマの名雪は聖を一方的に聖を痛めつけた。 ダークケロピーが聖をくわえて、ビルの柱を砕いていく。 黒名雪の力は圧倒的で勝負にすらならなかった。 「ストライクベント! ダークケロピー特攻!」 トドメとして、黒名雪はケロピーを投げつける。 「くっ!」 ダメージを受けすぎて避けることも防ぐこともできない聖。 「危ないおっ!」 しかし、その時、名雪が現れ、聖に飛びついて、ケロピーの特攻から守った。 黒名雪はしばらく名雪を見つめた後、無言で去っていく。 「待つんだおっ!」 名雪は後を追うとしたが、倒れている聖を現実世界へ連れ帰ることを優先する。 「名雪君、また靴紐が解けているぞ」 そう言うと、聖は名雪の靴紐を結ぶ。 「あ、ありがとうだお……」 意識を取り戻した聖は、なんでもなそうに振る舞って、名雪を帰らせた。 そして、名雪の姿が見えなくなったのを確認すると、道ばたに倒れる。 「……佳乃……すまない……佳乃……名雪君……名雪君……靴紐ぐらいちゃんと一人で結べるように…………」 聖は瞳を閉ざした。 そして、二度と再び目を開けることはなかった。 ブラッティードクター☆ひじりん……死亡。 残るヒロイン……三人。 「名雪さんもやっと吹っ切られたんだね」 「何を言ってるの、観鈴さん……?」 観鈴は昨夜、モンスターと戦っている最中、名雪(正しくは黒名雪)が聖を殺そうとしているのを目撃していたのだ。 「観鈴ちんと戦うがおっ!」 名雪に詰め寄る、観鈴。 「観鈴さん……」 『やめるんだ、二人とも!』 二人の間に祐一が割って入った。 「観鈴さんは、天沢郁未に……いや、秋子さんに騙されているんだ」 「やっぱり、お母さんが……」 「どういうことがお?」 「俺が鏡の中の世界エターナルワールドへ行ったことは話したよな。俺はその時、もう一人の俺に命をもらった。けど、この命はもうすぐ消えてしまうんだ……」 「そんな、祐一がっ!? 嘘……嘘だよね、祐一っ!!」 動揺する、名雪をよそに観鈴は冷静に尋ねる。 「でも、それと秋子さんの行動とどうつながるの?」 「ヒロイン同士の戦いで、秋子さんはもっとも強い命を選び出すつもりだ……その命を使って、俺に新しい命を与えるために……」 「そんなことって……お母さん……」 「例えそうでも、観鈴ちんは勝ち残ることで『力』を得られることを信じるしかない。例えその可能性が1%に満たなくても……」 そう言って、観鈴は去っていった。 「祐一が死んじゃう……祐一が……わたしのせいで?……わたしの……」 『そう、あなたのせいだよ』 黒名雪が鏡の中から現れる。 「だお……あなたは……」 『わたしはもう一人のあなただよ。祐一がエターナルワールドで会ったのと同じ、もう一人の名雪』 黒名雪は名雪を壁際に追いつめていった。 『わたしを受け入れるんだお。そうすれば、わたし達は最強のヒロインになれる! 祐一を助けることだってできるんだおっ!』 「……祐一を助けられるのなら……」 黒名雪の右手が名雪の左胸に添えられる。 「そう、わたしを受け入れて祐一を救うんだよ」 右腕がゆっくりと名雪の体にとけ込んでいった。 その状況を目撃していた観鈴が、水瀬家の中に駆け込んでくる。 観鈴の見ている前で二人の名雪が一つに融合した。 「がお……あなたは……」 「わたしはエターナルワールドに棲むヒロイン、名遊牙(ナユガ)!」 名遊牙は黒いカードデッキを取り出すと、黒い体操服とブルマ姿に変身する。 名遊牙と観鈴、最後の二人のヒロインの戦いが始まった。 「秋子さん、居るんでしょ? 出てきてください! もうすぐ俺の誕生日なんですよ!」 祐一はある施設の一室で、小さいなケーキを前に一人座っていた。 「俺、もうすぐ死んじゃうんですよね……」 モンスター到来音と共に天沢郁未……水瀬秋子が姿を現す。 「大丈夫ですよ、祐一さん。私があなたに新しい命をあげます。それが、私からの誕生日プレゼントです」 秋子はそう言うと、いつもの優しい笑顔を浮かべる。 「……もういい……もういいんです、秋子さん……」 ぴちゃん……ぴちゃん……。 「祐一さんだけは私が護ります。どんなことをしてでも……」 「……それは、俺が秋子さんの……あなたの息子だからですか?」 ぴちょ……ぴちゃ……。 「……知っていたんですね、祐一さん」 祐一は頷く。 「ホントはあなたを手放したくなかった……でも、あの時は義姉さん達にあなたを預けるしかなかったんです……」 「秋子さん……」 「でも、これからずっと一緒ですよ。二人で……」 「俺のためにみんなを……娘の名雪まで……馬鹿ですよ、秋子さん……でも、大好きです……よ……」 「祐一さん?」 ケーキの蝋燭が掻き消えると、同時に祐一が机に突っ伏した。 そして、微動だにしない。 「祐一さん?……ゆう……祐一さんっ!?」 秋子は祐一の足下にできている赤い水たまりに気づく。 祐一の左手首から赤い血が…………。 「いや……いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」 エターナルワールドではなく、現実世界で。 名遊牙と観鈴の戦いは続いていた。 追いつめられた美鈴はダーク空と合体して、上空に逃れる。 その時だった。 街中の全てのビルの窓ガラスに絶叫する秋子の姿が浮かび上がる。 次の瞬間、全ての窓ガラスが砕け散った。 秋子の姿が薄れ崩れていく。 祐一という、彼女にとって全てであった存在を失った今、秋子は自分の存在を維持し続けることができなかった。 秋子という存在が完全に消え去る、現実世界からも、エターナルワールドからも……。 観鈴がその場所に辿り着いた時、そこには冷たくなった祐一の死体しか存在していなかった。 「祐一さん……なんて馬鹿なことを……」 観鈴を追って、あるいは、祐一の身に起こったことを察してか、名遊牙もやってきた。 名遊牙はダークケロピーソードを観鈴に斬りつけようとする。 だが、突然、名遊牙の動きが止まった。 『……なっ!? 名雪……わたしと……』 名遊牙の体の中から名雪の体が浮かび上がってくる。 『わたしと……分かれるというの!?』 「だおおおおおおおおおおおおおおっ!」 そして、名遊牙と名雪、二人に分かれた。 「名雪さん……」 観鈴は呆然とその成り行きを見つめる。 「戻るんだよ、名雪! 今なら、まだ祐一を助けることができる!」 「……もうあなたには騙されないよっ! 祐一はそんなことは望んでないんだよっ! 他人の命を奪ってまで生きたいなんて思っていないんだよ!」 名雪は祐一の亡骸を見つめながら言った。 「これが祐一が選んだ選択なんだよ……」 『……馬鹿が……』 名雪は変身する。 名雪と名遊牙、自分同士の戦いが始まった。 『ファイナルベント!』 「ファイナルベント!」 互角の格闘戦の後、二人は互いにファイナルベントを装填する。 『だおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』 「だおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」 二人のケロピーキックが空中で大激突した。 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 「名雪さんなの?……それとも名遊牙?……」 観鈴は爆発の後に蹲っていた一人の『名雪』に問いかける。 名雪が立ち上がった。 名遊牙ではなく、名雪だ。 勝ったのは名雪。 観鈴は安堵する。 しかし、その時、街中のガラスの破片から一斉にモンスターが飛び出した。 数十、いや、数百、数千のモンスターが上空に集まっていく。 「名雪さん、正直に答えて……」 「観鈴さん?」 「わたしは、今まで友達と呼べる人は一人もいなかった。欲しいとも思わなかった、こんな呪われた体だしね……。でも、名雪さんのことは……友達だと思える……」 「うん! わたしと観鈴さんは親友だよお!」 「それでも……あえて頼む……観鈴ちんと戦って!」 「……解ったよ。わたしのお願いを聞いてくれるなら」 「何?」 「死なないでね、観鈴さん」 名雪は笑顔で言った。 しばしの沈黙の後、観鈴も笑顔で言う。 「名雪さんも」 二人はカードデッキを構えた。 『変身!!!』 翼人☆観鈴ちんAIRが、そして、邪夢☆名雪KANONが現れる。 「ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」 「ケロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」 翼人神奈備命とカイザーケロピー(元ジークケロピー)が飛来した。 二人は自分のモンスターに飛び乗る。 空はモンスターの群で真っ黒に染まっていた。 名雪と観鈴はそのモンスターの群に向かって飛び立っていく……。 子供の祐一は公園で一人で遊んでいた。 青い髪の若い女性が現れる。 祐一はその女性に気づくと、彼女に向かって駈けだした。 抱きつく祐一。 女性、秋子は祐一を強く優しく抱きしめた。 カノン・サバイヴ 完 次回予告(美汐&香里) 「というわけで、カノン・サバイヴ最終回をお送りしました」 「正しくは元ネタの映画版ね。これがホントに最終回扱いなのか、番外編にすぎないのかよく解らないけど……」 「同時上映していた忍者は、あってもなくても問題ないホントにどうでもいい番外編でしたね」 「まあ、本来はそんなもんじゃないの? 子供向け特撮の映画版なんて、玩具(巨大ロボ)の先行登場だけが目的の……て話がずれてるわよ」 「では、話を戻します。佐祐理さんが妹(佳乃)の仇とか、今までのカノサバと矛盾しているところが多々あることをお許しください」 「あと、秋子さんと相沢君が親子とかは作者がかってに作った話で、元ネタはただの兄妹よ……」 「で、特にカットされたのが、名雪さんと聖さんのラブシーンと、相沢さんと名雪さんの過去の出会いです。前者は滅茶苦茶不自然で無茶があるので、後者はどうしても矛盾が酷すぎるので採用しませんでした。相沢さんと名雪さんの関係が従姉妹(この作品に至っては兄妹)である以上、子供の頃に一度だけ出会った相手というのはおかしいですから……」 「逆に秋子さんの方は無理に繋がりを濃くしたわね。秋子さんが相沢君を最優先事項にする理由……考えついた手段が親子……でも、だからって実の娘の名雪を犠牲にできるのはおかしいってツッコミ(矛盾)が来そうだけど……名雪はただの秋子さんのクローンで変わりはいくらでも作れるどうでもいい存在だったとか、言い訳考えつかないこともないわね……」 「まあ、秋子さんが相沢さんに激しい恋愛感情(ショタ?)を抱いていたという設定でも良かったかもしれないですが……どう設定してもかなり無理矢理ですね」 「まあ、なんの理由も無しよりはいいんじゃいかしら?」 「では、今回はこの辺で……」 「良ければ、次回?もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 |