カノン・サバイヴ
第65話「冷笑的な神の支配する世界」



お母さんが殺された。
誰に? どうして? どうやって?
組織が?
いや、違う、わたしが内側からお母さんを食い破って……?
それも、違う、わたしの不可視の力が無意識にお母さんを……?
それも違う……違うのだろうか?
解らない、解らない、どれが真実だったのか記憶は風化していて思い出すことができない。
もしかしたら忘れたのではなく、わたしは真実を元々知っていなかったのかもしれない。
ただ、解っていること、覚えていることは……わたしのせいでお母さんが死んだということだけだ。
そして、わたしは学んだ。
この世界はどこまでも残酷で、救いなどないのだということを。
この世界は悲劇が大好きだということを……。
人間など恐ろしく簡単にあっさりと死んでしまうということを……。



エターナルダンジョン最下層。
真なる永遠への扉(ザ・トゥルーエターナルドア)を封じ込めし場所。
全てが始まった場所であり、全ての元凶でもある場所。
赤き月の魔王はそこで待っていた。
「予め断っておくが、余には時空操作や悪夢などのまやかしの類は一切効かぬぞ!」
そう言うと、神奈備命は弓を構える。
「ふん……」
赤き月の魔王……天沢郁未は、そんな神奈備命をただ冷たく見下すだけだった。



「……ちゃんと……トドメを刺してから行きなさい……よね……」
香里は床に仰向けに倒れながら、自分と名雪が開けた『天』へと繋がる穴を見つめていた。
背中にあった二枚の黒い翼が無惨に切り落とされている。
折れたダークブレイカーが香里の横に寄り添うように転がっていた。
「……それとも……あたしなんかに関わっている……暇はないってことかしら……ね」
香里は力無く呟く。
香里は口元に自嘲の笑みを浮かべようとするが、笑みを作る『力』さえ彼女には残っていなかった。
「……まあ、いいわ……次にあたしが目覚めた時にはきっと……全てが終わっている……」
まだ死ねない。
まだ死なせてもらえないようだ。
「……名雪……その甘さは確かにあなたの長所だけど……甘さが……優しさが……悲劇を呼ぶのよ……世の中なんて……そんな……もの……よ……」
香里は瞳を閉じると、深い眠りへと落ちていった。



「……莫迦な……莫迦な莫迦な! 莫迦な! なぜ、余が……」
神奈は無様にアークデーモンムーンブラスト(魔王赤月猟掌波)の赤い掌に捕らわれている。
「あなたは『強さ』を勘違いしているのよ。強さは戦闘力や闘気や魔力の最大量だけで決まるほど単純なものじゃない。覚悟の深さや、機転をどれだけ利かせられるか……それが一番大事なのよ。香里さんは元より、川澄舞、いいえ、美坂栞すらあなたに比べれば何倍も強かったわ……」
郁未は残酷に真実を告げると、神奈を握り潰した。




天井を貫いて、白い閃光が降り立つ。
「……ミもフタもないダンジョンの攻略法ね、名雪……」
光の正体は名雪だった。
「お母さん……観鈴さんはどこ?」
「二日もかけて苦労してダンジョンを攻略したのに、わたしに一撃で倒された哀れな神のできそないのこと? それなら……」
郁未は視線を頭上に向ける。
そこには神奈備命ではなく、神尾美鈴が浮いていた。
「観鈴さん!?」
「神奈備命の姿を維持する『力』が無くなると元に戻るみたいね。三位一体と言っても、核はあくまでこの娘、後の二人はもう力の塊に過ぎないようだし……」
「観鈴さん! 待ってて、今、助け……」
名雪が、宙に浮かぶ観鈴に飛びつこうとした瞬間、
「アークデーモンムーンブラスト(魔王赤月猟掌波)!」
赤い掌が名雪を押し飛ばす。
「ううっ!?」
赤い掌は名雪を押し続け、壁に張り付けにした。
「少し大人しく見ていない」
郁未は二本の包丁を出現させる。
「……お母さん……何を……?」
「お母さんね……まだ、わたしはそんな風に呼べるの、あなたは……」
郁未は二本の包丁を頭上に投げ捨てた。
包丁が観鈴の両手首をそれぞれ貫き、そのまま壁に突き刺さる。
「なっ!?」
「ふん」
郁未は新たに二本の包丁を出現させると投げつけた。
二本の包丁は観鈴の両足首をそれぞれ貫き壁に突き刺さる。
四本の包丁で壁に貼り付けにされた観鈴に、郁未はゆっくりと近づいていった。
「わたしがどれだけ酷いことをしてきたのかを知り……わたしを殺せば全てが終わると知りながら……あなたは、いまだにわたしを憎むことも、殺す覚悟を持つこともできないでいる……」
郁未は張り付けの観鈴の前で立ち止まると、迷わず観鈴の右胸に包丁を突き刺す。
「お母さん!?」
「普通の人間は腹や背中を刺されたぐらいでも死ぬことがあるわ。でも、あなた達変身したヒロインはちょっとぐらい刺されても斬られても問題ないわ。心臓のある左胸を貫かれるか、首を刎ねられない限りは……」
そう言うと、郁未は今度は観鈴の腹部に包丁を突き刺した。
「……っ!……ここ……は……?」
「ああ、かわいそうに意識が戻っちゃったのね。そのまま眠っていた方が幸せだったでしょうに……」
郁未は今度は二本の包丁をそれぞれ観鈴の両太股に突き刺す。
「ああっ!?」
観鈴の悲鳴が終わるよりも早く、郁未は観鈴の両肩にも包丁を突き刺した。
「やめてぇ、お母さん! どうしてそんな酷いことをするの!? どうしてそんな酷いことができるの!?」
郁未は観鈴に突き刺さっている包丁から手を放すと、名雪の方を振り向く。
「名雪、あなたが悪いのよ」
「……わ……わたしが……?」
「わたしはあなたを甘やかしすぎてしまったみたい……あなたはこの期に及んで、いまだに戦わずに、わたしを殺さずに戦いを終わらせたいと思っている……」
「そんなの当たり前じゃない! だって、お母さんはわたしのお母さんなんだから、殺すなんてことが……」
「その甘さがあなたの大切な友達を殺すのよ!」
郁未は名雪の方を向いたまま、背後に包丁を突きつけた。
包丁が観鈴の右目に突き刺さり、観鈴が言葉にならない悲鳴を上げる。
「……お……お母さん……?」
名雪は呆然とした表情で自らの母親を見つめていた。
「お友達と母親、どちらが大切なの、名雪? 選べないの、名雪? 選べないとどちらも失うだけなのよ」
郁未は言いながら、今度は観鈴の左目に包丁を突き刺す。
「……み……観鈴さん……?」
「かわいそうに、名雪の優柔不断さのせいで、この娘は永遠に視力を失ってしまったわ」
郁未は意地悪な笑みを浮かべると、次は観鈴の両耳の付け根に二本の包丁をそれぞれ添えた。
「次は聴覚……」
「やめててええぇっ!」
名雪は自らの自由を奪う赤い掌を力ずくで弾き飛ばす。
「やっぱり、嗅覚か味覚、鼻か舌を先に切り落とそうかしら?」
「やめてと言っているでしょっ!」
名雪は郁未に向かって駈けだした。
止めるために……郁未を傷つけてでも、観鈴を守るために……。
「解る、解るわ、名雪! わたしも何度あなたが今感じている感情を味わったか、大切なものを無惨に傷つけられ、奪われる悲しみ絶望……でもね……」
郁未は右手の包丁を観鈴の左胸、左手の包丁を観鈴の首筋に添える。
「やめ……」
「でもね、そんなものはこの世界ではよくあることなのよ!」
郁未は、観鈴の左胸に包丁を突き刺すと同時に、観鈴の首を切り裂いた。


























次回予告(美汐&香里)
「というわけで、カノサバ第65話こと、第61話アナザーb?をお送りしました」
「少し短めだけど、ここら辺で区切った方が止さそうだからね」
「後二話か……とても長い一話で終わりになると思います。残っているのは決着とエピローグだけですから」
「あたしは感性が麻痺しているというか、こういうのも好きなせいで、良く解らないんだけど、やっぱりグロというか残酷すぎって駄目な人は駄目かしらこういう展開は?」
「いえ、それ程でもないと思いますよ、残酷はともかくグロは、生首や臓物とか表現しませんでしたし……割とソフトかと?」
「ソフトよね?」
「まあ人によって感じ方は違うでしょうからなんとも……。それより、神奈さんの扱いの方が問題なんじゃないですか? あんまりですよ、あれは……」
「いやでも、この展開で今更、郁未さんvs神奈さんで一話とってもね……」
「あれじゃ、勿体ぶったり、大物ぶってたくせに、ワンパンチでやられる雑魚キャラですよ……(それでも)神ですか、あなたは?……といった感じです」
「戦闘能力は観鈴さんの三倍どころか、三乗ぐらいに跳ね上がっているんだけど……性格や戦術が未熟なせいで……絶対、三分の一の存在である美凪さんより弱いわね……」
「圧倒的なパワーと絶対的なスピードだけで勝てるほど戦いは甘くはないと言ったところですかね……?」
「まあ、そんなところね。それでも、郁未さんとあたしと舞さん以外には多分簡単には負けないと思うわよ。『力』の質と量だけは他のヒロインと段違いだから」
「では、今回はこの辺で」
「良ければ次回もまた見てね」
「戦わなければ生き残れません」





一言感想板
一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。




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