カノン・サバイヴ
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かくして、物語は一つの結末を迎える。 けれど、未来という可能性は無数に存在し、運命は必ずしも一つではない。 この物語にも大きく分けて三つの結末が用意されている。 それを決めるのは美坂香里という一人の少女。 戦い続けなければならないヒロイン達の運命……。 あなたは、その結末を知ることになる。 「では、あの時、あたしがもう一つの可能性を選んでいたらどうなっていたのか……それをお見せするわ」 時として1%の希望は100%の絶望より質が悪い。 パンドラの箱になぜ希望だけが残されていたのか? それは希望こそが人間にとって最大の災厄だからだ。 諦め、妥協してしまえばそれ以上下手に苦しまなくて済む。 いつまでも、僅かな希望という可能性を捨てきれないから、苦しみ続けなければならなくなるのだ。 「人は二つのことから過ちを犯す、絶望と希望から……」 という格言があった気がする。 では、これから自分が行う行為はどちらなのだろうか? 完全に絶望するために、最後に残った僅かな希望を自らの手で摘み取る。 「偽りの希望はいらないのよ……」 香里は『星』のカードを破り捨てた。 「目が覚めた、名雪?」 目覚めた名雪が最初に見たのは、自分を冷たく見下ろす香里だった。 「……香里? わたし……わたしは観鈴さんに?」 目覚めたばかりの名雪は、頭を抱える。 記憶が、意識がまだはっきりしなかった。 「……『倒された』のよ。『殺され』はしなかったけどね。神奈備命様もふざけたことしてくれるわね……」 「そうだ、観鈴さんは!? 戦いはどうなったの!?」 名雪はベットから立ち上がると、香里に詰め寄る。 「川澄先輩も栞も消えたわ。最後の三日間が終わるまで後一時間少々……そろそろ、神奈備命様が郁未さんの待つエターナルダンジョン最下層に辿り着く頃かしらね?」 「舞さんと栞ちゃんが!?」 「跡形もなく消え去ったわ……残っているのは郁未さん、神奈備命こと観鈴さん、そして、あたしの三人だけよ」 「そんな……そんなのって……」 また誰も救えなかった。 「……止めなきゃ、お母さんと観鈴さんの戦いだけでも……!」 名雪は部屋から飛び出そうとする。 「待ちなさい、名雪」 香里は名雪の肩を掴んで止めた。 「放して、香里! 止めなきゃ……」 「駄目よ、あなたは敗者、神奈備命様のきまぐれ……観鈴さんの甘さのおかげで生きてこそいるけど、敗者であるあなたは本来死者なのよ。死者が生者の……敗者が勝者の邪魔をする権利はないわ」 「そんな理屈知らないよっ!」 「本来それは絶対なのよ。なぜなら、敗者は本来生きていないのだから、何もできないのよ……」 「でも、わたしは今生きているよ! だから……だから!」 「だから、あの二人の戦いを止める?……いいわ……」 「香里! 解ってくれたんだね!?」 名雪の顔に笑顔が浮かぶ。 だが、その笑顔はすぐに曇ることになった。 「いいわ……なら、あたしを倒して証明して見せなさい! あなたが死者でも敗者でもないということを!」 「香里! なんでこんな意味のない戦いをしなければいけないの!?」 名雪と香里は、体育館か倉庫のような何もないただひたすらに広いだけの部屋に移動していた。 「意味ね……戦いに意味を求めること自体くだらないと思うけど。少なくとも、あたしにとってはこの戦いは意味があることよ……証明するために必要なこと……」 「証明って何を?」 香里は懐から一枚のカードを取り出す。 「この世界には夢も希望も何もないってことをよ!」 カードに黒い雪の絵が浮かび上がった。 カードから闇、いや、黒い光輝が溢れ出し香里の姿を呑み込む。 「香里!?」 黒き光輝は荒れ狂い、名雪を吹き飛ばした。 黒い光輝の乱流が収まると同時に、空から無数の黒い雪が降り注ぐ。 そして、羽ばたきの音。 黒い雪に混じって、黒い羽が舞い降りる。 名雪は雪と羽の降ってくる先を見上げた。 そこには漆黒のウェディングドレスを身にまとい、闇の翼を羽ばたかせた美しき悪魔がただずんでいた。 「……香里……戦うしかないの……?」 名雪は一枚のカードを引き抜いた。 光の雪(KANON)のカード。 名雪がそのカードをかざした瞬間、辺りを光り輝く無数の雪の結晶が降り注ぐ。 名雪が左手を突き出すと、ケロピーをかたどった銃が出現した。 名雪はその銃に雪のカードを呑み込ませる。 光の雪の結晶達が弾け飛ぶと同時に名雪の姿が変化した。 光り輝く純白のウェディングドレス。 闇の輝きを放つ香里の漆黒のウェディングドレスとは対照的な姿である。 「名雪……あたしとあなたは対極ね」 白いウェディングドレス姿の名雪を見下ろしながら、香里は言う。 「あなたが白ならあたしは黒、あなたが善ならあたしは悪、あなたが天使ならあたしは悪魔、あなたが希望なら……あたしは絶望よ! シュートベント! ダークライトニングフェザー!」 無数の黒い光輝の羽が名雪に降り注いだ。 「くぅっ……」 名雪の体の所々が浅く切り裂かれる。 「それ……あゆちゃんの……?」 名雪の疑問に答える代わりに、香里は右手に巨大なライフルを出現させた。 「シュートベント! ダークバスターカノン!」 香里は黒い『タイヤキバスターカノン』の引き金を引く。 「だおっ!」 名雪は飛び上がって、辛うじてダークバスターカノンの光弾をかわした。 「…………」 香里は左手にもダークバスターカノンを出現させると、二つのダークバスターカノンを合体させる。 「あゆさんは決して『弱い』わけではなかった。ただ、戦闘経験が……迷わず、確実に、効率よく、人を殺す方法を知らなかっただけよ」 ダブルダークバスターカノンの高出力の光弾が名雪に直撃した。 「……なんで、こんなに……」 なぜ、こんなに強いの? あゆとまったく同じ武器しか使っていないのに、香里の『強さ』はあゆとは段違いだった。 「飛び道具はあまり好きじゃないんだけどね……」 そう言いながら、香里の銃さばきはあゆの何倍も洗練されている。 その上、飛べる香里に対して、飛べない名雪は明らかに不利だった。 「ダークバスターカノンはあたしの『力』が尽きない限り弾切れになることもない……いつまで逃げ続けていられるかしら?」 ただ力任せに撃っていただけのあゆとは違い、香里の射撃は正確無比な上に、名雪の未来位置まで予測して撃ってくる。 「ぐっ、わたしが逃げる方向を予め予想して……」 「動く標的を撃つ時の基本でしょ、それくらい?」 「あゆちゃんはその基本もできていなかったんだね……」 だからこそ、スキがあった。 香里にはそれがない。 名雪はただ逃げ回るだけで精一杯だった。 「そろそろ……終わりにしましょうか?」 ダブルダークバスターカノンから今までとは比べものにならない程の高出力の一撃が放たれる。 「だおおおおおおおっ!」 爆発が名雪を呑み込んだ。 「なっ……!」 香里は、突然、背後から圧倒的な重圧を感じた。 羽ばたきの音と同時に、白い雪と白い羽が舞い降りる。 「ごめんね、香里……」 「名……っ!」 振り向いた瞬間、ケロピーブレイカーが香里を切り裂いた。 「……まったく……やってくれるわね」 袈裟懸けに切り裂かれた胸を押さえながら、香里は苦笑を浮かべる。 名雪と香里の立場が逆転していた。 地にうずくまる香里を、白い翼を羽ばたかせ宙に浮かぶ名雪が哀しげに見下ろしている。 「……ごめん……ごめんね、香里……」 「これで……これでいいのよ……この調子で『全力』できなさい、名雪!」 香里は黒い翼を羽ばたかせ、飛び上がった。 「ソードベント! ダークブレイカー!」 香里の左手にダークブレイカーが出現する。 「香里……」 名雪は哀しげな表情のままケロピーブレイカーを握る右手に力を込めた。 「名雪……行くわよ!」 香里は黒い閃光と化し、名雪に襲いかかる。 名雪も白い閃光と化すと、黒い閃光に迷わず向かっていった。 黒と白の光が、その軌跡を絡み合わせながら、次々と天井を貫き『天』へと上っていく。 この戦いを見ていた者が居たとしても、白と黒の光が絡み合いながら飛翔していくようにしか見えなかっただろうが、実際は香里と名雪は何度も互いに斬り合っていた。 時にはブレイカー同士がぶつかり合い、時には同時に相手の肉を切り裂く。 「そう! これでいいのよ、名雪!」 「香里! 嫌だよ! わたしは香里と戦うのは……傷つけるのは嫌だよ!」 「なら終わりにしなさい、あなたの手で! 『力』であたしをねじ伏せなさい! 勝者にだけ敗者の命を自由にする権利があるわ!」 「香里!」 「名雪!」 黒と白の光は最後に一際激しく激突すると、共に消え去った。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで、カノサバ第64話こと、第60話アナザーb?をお送りしました」 「あっさり再開したわね」 「せっかく考えていた話なんでやってしまおうかと……」 「このルートは、ダークやグロテスク?な話が駄目な人にはお勧めできないわ。まあ、所詮、今までこの作品であったそういう風にも感じられた表現をもうちょびっと強くしたぐらいで、本物のそういうのが好きな人から見たら、物足りないというか、お遊びでしょうけどね」 「一応、こうやって注意というか予め言っておきませんと。プロレス技としかイメージしていなかったストラトムーンもそう見えた方居たようですし……」 「まあ、かなり前のあゆさんの扱いぐらいなんとも感じなかったって方なら問題なく見られると思うわよ」 「下手をすればあれよりたいしたことないかもしれませんしね」 「まあ、そんなわけで一応念のため警告?したところで……」 「今回はこの辺でさよならですね」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |