カノン・サバイヴ
第52話「滅魔の剣と魔法の弾丸」


「あははははーっ♪」
舞の胴体を貫いた佐祐理(人間ドリル状態)はそのまま回転を続けた。
地面ごと舞の体が引き回され、千切れ飛んでいく。
「あははーっ♪ 思ったよりあっけなかったですね♪」
佐祐理が勝利を確信した瞬間、舞の姿が無数の水の雫となって砕け散った。
「ふぇ?」
「……トリックベント、水鏡陣」
舞の声が佐祐理の遥か頭上から聞こえてくる。
「……緑のファイナルベント、風魔雷牙突!」
「ふぇっ!?」
無数の風の刃が佐祐理に向かって降り注いだ。



無数の風の刃が佐祐理の体を切り刻んでいく。
「はぇ〜っ!」
「……これで終わり!」
風の刃の猛攻を防ぐので精一杯で身動きのとれない佐祐理に向けて、舞が雷を纏わせた剣を突きだして急降下してきた。
「はぇ〜! アドヴェントです♪」
佐祐理の眼前にジェノサイダー北川が出現する。
舞の剣はジェノサイダー北川に突き刺さった。
剣を中心に凄まじい雷が発生し、ジェノサイダー北川を一瞬で粉々に砕け散らせる。
「あははーっ♪ 身代わりご苦労様です♪」
佐祐理はすかさずファイナルベントを装填した。
佐祐理のステッキがトライデントに変形する。
「ファイナルベント♪ マジカルジャスティス♪」
「んっ!?」
舞を取り囲むように新たに十二本のトライデントが出現した。
計一三本の佐祐理のトライデントが一斉に舞を串刺しにする。
「正義は佐祐理が決めます♪」
佐祐理がトライデントを手放し後方に跳ぶと同時に、全てのトライデントが一斉に爆発した。



「あははーっ♪ 悪だから倒すのではなく、佐祐理が倒した存在が悪になるんですよ♪」
故に、佐祐理は絶対正義の魔法少女なのだ。
佐祐理は爆煙に背を向け歩き出す。
「……十字戒」
「ふぇ?」
爆煙の中からの声に、佐祐理は振り返った。
マジカルジャスティスを受けて、まだ生きてるというのだろうか?
突然、佐祐理の背後に巨大な十字架が出現すると、佐祐理を張り付けにした。
「はぇ〜!?」
爆煙が晴れ、舞が姿を現す。
「……青のファイナルベント……」
体中血塗れの舞が六芒剣を振るった。
六芒剣のサファイア(青い宝石)が輝く。
「聖者神水槍!」
六芒剣を突き出して突進する舞の姿が、巨大な水の槍と化した。
「ふぇ!? ふぇぇっ!」
佐祐理は十字架の戒めから逃れようとあがく。
「……さよなら、佐祐理」
水の槍は、十字架ごと佐祐理を貫いた。



「……くっ」
舞は六芒剣を地面に突き刺すことで、なんとか倒れるのを防ぐ。
体に突き刺さった一三本のトライデントが爆発したのだ。
生きているのが不思議な程の重傷である。
出血も常人の致死量はとっくに超えていた。
だが、ここで『終わる』わけにはいかない。
佐祐理を倒しても、まだ倒さなければいけない『魔』がもう一人居る。
剣を引き抜くと、舞は今にも倒れそうな足取りで、この場から離れようとした。
「……あ……あは……あはははーっ♪」
舞は足を止めると、振り返る。
佐祐理が立っていた。
体の真ん中に風穴を空けた佐祐理が血を吐きながら笑っている。
「…………」
舞は無言で六芒剣を正眼に構えた。
「ふぇ? なぜ生きてる?とか、化け物とか言わないんですか?」
「……いまさら……お互い様……」
「あははーっ♪ それもそうですね♪」
佐祐理は今までで最高の笑顔で笑う。
「じゃあ、決着をつけましょうか♪」
「…………」
舞は無言で頷いた。
「……これが本当の最後の最後……」
舞はファイナルベントを装填する。
勝とうが、負けようが、この一撃で全ての『力』を使い切る……全てが終わるのだ。
「あははーっ♪ 最後はこれに決めましたよ♪」
佐祐理のステッキが銃に変形する。
『ファイナルベント!』
二人の声が重なった。
舞は六芒剣を頭上高くかざす。
六種の全ての宝石が輝きを放った。
舞の背後から出現した魔物(ちびまい)が六芒剣と融合し、恐ろしく巨大な剣へと変化を遂げる。
佐祐理のマジカルバレルの銃口に七色の光が、佐祐理の全ての魔力が集まっていった。
舞のアークデーモンスレイヤーの刀身から黄金の光が天を貫くように立ち上る。
「マジカルラストシュート!」
「断魔剣!」
巨大な、黄金の光の刃と七色の光の弾丸が真っ正面から激突した。




「がお……」
観鈴は転げ落ちるようにエターナルワールドから帰還した。
「危なく巻き添えで消し飛ぶところだったね……」
かなり遠く、二人に気づかれないくらいの遠距離から観戦していたのにも関わらず、二人のファイナルベント同士のぶつかり合いの余波は観鈴の所まで余裕で届いたのである。
プライベートエターナルワールドだったら間違いなく『破壊』されていただろう……郁未と舞の激突の時のように。
「あれじゃ……二人とも消滅かな?」
『…どちらにしろ……あの二人とはもう会うことはないでしょう』
姿なき美凪の声が断言するように答えた。
「どういう意味かな?」
『………………』
美凪は今度の観鈴の問いには答えない。
「……まあいいよ。それよりも、早く郁未さん達の居場所を見つけないとね」
『……はい。もう彼女のゲームのルールに付き合う必要もありません』
「にはは、そうだね。今度はこちらの都合とルールに合わせてもらわないと」
そう言うと、観鈴は再び変身し、空高く舞い上がっていった。



「学校の下の迷宮の次は、こんな所に『塔』ですか……まったくふざけてますね」
「盲点をついたと言って欲しいですね。誰もこんな馬鹿馬鹿しい、ふざけた所にあるとは思わないでしょう」
「えぅえぅえぅ♪ 確かに学校の地下に巨大な底なしの迷宮あるとか、こんな所に頂上の見えない塔があるなんて普通は思わないですね……まあ、そんなことはどうでもいいんですよ」
「…………」
「馬鹿とラスボスは高いところ……最上階に居るのがお約束ですからね……そこをどいてもらいますよ」
「………………」
「えぅえぅ♪」
栞は、葉子が『ここを通りたければ私を倒してみなさい』とか『あなたに私を倒せますか?』とか言い次第、振りかぶったままの大鎌を振り下ろすつもりだった。
「……いいでしょう、お通りなさい」
「えぅ!?」
葉子は意外なことにあっさりと道を譲る。
「……いいんですか? そんなにあっさり通しちゃって……」
「不満ですか? どうしても私と戦って、無駄な『力』を消費したいというなら、付き合って差し上げてもいいですが……」
「…………えぅ」
流石にそれは馬鹿な選択な気がした。
無傷で通れるのに、わざわざ戦う必要はない。
「じゃあ、通りますよ! ホントに良いんですね! 止めるならいまのうちですよ!」
「……どうぞ」
「えぅぅ〜」
栞は釈然としなかったが、葉子の横をすり抜け、部屋の奥へ走っていった。
だんだんと栞の足下が遠くなっていき、ついには聞こえなくなる。
「……言い忘れましたが、普通に階段で上っていくと、最上階に着くまで何十年かかるかわかりませんよ」
葉子はぼそりと呟いた。



右手を動かそうと思っても、感覚がない。
そうか、さっきの激突で消し飛んだのか……。
まあいい、左手でも銃は持てる。
仰向けに倒れていた佐祐理はなんとか立ち上がると、足下に転がっていたマジカルバレルを拾い上げた。
「はぇ〜……」
マジカルバレルの弾丸は佐祐理自身の『魔力』。
マジカルラストシュートで殆ど全ての魔力を撃ちだしてしまった今、何の役にも立ちそうにない。
かといって、マジカルバレルから他の形態に変形させる魔力が残っているかどうかも怪しいところだ。
「まあ、命を魔力に変換すれば、一発か、二発ぐらいは撃てないことはないですね……そう思いませんか?」
佐祐理の目の前に舞が立っている。
体中血塗れで生きているのが不思議なほどの深手をおっているようだが、両手両足はまだ残っているようだ。
「……もう『力』は無い……」
舞は六芒剣を振りかぶる。
「……剣を一度振るだけの力しかない」
「あははーっ♪ 決着をつけるにはそれで十分じゃないですか♪」
佐祐理はマジカルバレルの銃口を舞に向けた。
生命力を魔力に変換し、マジカルバレルに注いでいく。
「……魔は滅ぼさなければならない!」
「あはははーっ♪」
佐祐理が引き金を引くのと、舞が剣を振り下ろすのはまったくの同時だった。



最初に視えていたもっとも可能性の高い未来は二人の相打ちだった。
剣と銃で最後の決着をつけるというところまで同じ。
だが……。
「違う武器を選んでいたら……別の未来もいくつかあったのよ……」
パイルバンカーが舞の胸を貫く未来……お互いを剣で貫き合う未来……。
階段から足音が聞こえてきた。
誰かがこのエターナルダンジョンにやってくる。
「…………」
現れたのは、右胸に風穴を空けた舞だった。
「勝ったの?」
香里は結末を『視て』いながらあえて尋ねる。
「……首を刎ねた……」
答えると同時に、舞は階段に倒れ込み、意識を失った。
「そう……じゃあ、このまま死んだら、相打ち……一命を取り留めたらあなたの勝ちね」
僅かなズレで撃ち抜かれたのは心臓のある左胸ではなく右胸。
しかし、だからといって、ここまで傷つき出血していては生きてる方がおかしかった。
「手遅れぽいけど……手当してあげて」
香里が呟くように言うと、無言でセリオが倒れている舞を回収しに行く。
本当に僅かな差だった。
弾丸が左胸を貫いてたら、舞もその場で絶命していたはずである。
セリオが意識の無い舞を抱き上げて、下の階へ降りていった。
それからしばらくすると、佐祐理が死んだ『証拠』がやってくる。
「おかえり……あたしの雪(KANON)のカード」
佐祐理に『貸していた』雪(KANON)のカードは独りでに飛んでくると、香里の手に収まった。









次回予告(美汐&香里)
「というわけで、カノサバ第52話をお送りしました」
「相打ちか、川澄舞死亡という予定でサブタイトルまでずっと考えていたんだけどね……まあ、こうなっちゃったわよ」
「結構気に入っていたサブタイトルだったんですが……没(日の目を見ること無し)ですね」
「ここまでというか、川澄先輩と佐祐理さんはずっと前から予定されてたんだけど、ここから先はね……」
「まあ、香里さんと名雪さん次第で何パターンも変化しますね……」
「やっぱり、川澄先輩の方が殺られる展開の方が今後の展開楽だったかしら?」
「では、今回はこの辺で」
「良ければ次回もまた見てね」
「戦わなければ生き残れません」




「ミもフタもないアドヴェント解説」


『水鏡陣』
水で作った分身を自分の身代わりにする技。
分身というより、残像のようなもので、観鈴の分身のように動いたり、攻撃したりはできない。


『風魔雷牙突』
無数の風の刃(真空波)で相手を切り刻みながら、雷を纏った剣で相手を貫く。


『マジカルジャスティス』
正面、背後、右、左、正面右、正面左、背面右、背後左、上、右上、左上、右下、左下、と相手の13方向からトライデントで串刺しにし、その後トライデントを爆破させる。
イメージは時を操る中国人の戒めの洗礼.


『聖者神水槍』
自らを巨大な水の槍と化し、相手を貫く。
十字戒……巨大な十字架に張り付けてから使うのが基本。


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