カノン・サバイヴ
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「私は……？」 何もない真っ暗な空間に美汐は浮かんでいた。 『名雪に負けてボロボロになった挙げ句、誰かにトドメを刺されたのよ』 声と共に香里が姿を現す。 「……私は……死んだのですか……？」 「ここはあなたの精神世界。あなたの現実の肉体はもうすぐ消滅するわ」 「……そう……ですか……」 「随分あっさりとしているわね」 「……フ……フフッ……いまさら、ジタバタしても仕方ありませんから……」 美汐はあらゆるものから解放されたようなスッキリとした気分だった。 「……で、あなたはなぜこんなところに？」 「最後にお別れも兼ねて、一つあなたに教えて置こうと思ってね」 「それは……わざわざ……ありがとうございます」 美汐は嫌みというより、どこか楽しげに言った。 「あなたの自慢の六神通……瞬間移動（高速移動）、読心術、未来視なんてのは正当な異能者なら誰でもできる初歩の初歩、基本能力にすぎないのよ」 「…………」 「だから、あなたがもしあたしと戦っていたら、あっさりとあたしに負けていたでしょうね」 「……フフフッ……わざわざそれを教えにきてくれるなんて……ホント酷い人ですね……あなたのその言葉が何よりのトドメになりましたよ……ん？ もしかして名雪さんも……？」 「名雪は最強の異能者である郁未さんの娘よ。潜在的な異能力はあたしは勿論、川澄先輩以上かもしれないわ……無意識に能力を使っていても何の不思議もないわね」 「それで納得がいきました……私の爆裂呪紙結界に何度も耐えたのも……あの異常な回復力も……私を上回る高速移動も……一番弱い相手と思って名雪さんを選んだんですが……どうやら、大間違いだったようですね……」 「まあ、気にすること無いわ。生き残っている誰を選んでも、あなたは勝てなかったでしょうから」 舞と佐祐理は明らかに格上、そして今の観鈴は香里の予測が正しければおそらく……のはずであり、美汐の勝てる相手ではない。 「ホントに……容赦のない……酷い人ですね……」 「…………」 「……でも、ホントはあなたのこと嫌いではありません……同じひねくれ者同士……同族嫌悪はしていましたが……まあ、ひねくれ度でも荒み度でもあなたには勝てませんが……」 「……余計なお世話よ」 「……では……お別れのようですね……」 「ええ、地獄でまた会いましょう」 その言葉を最後に香里の姿は消えた。 「……地獄……ですか……」 そうか、真琴はきっと天国だろうから、死んでも会えないのか……。 「まあいいです……地獄から天国に攻め入るのも面白いかもしれませんね……」 香里は必ず自分と同じ地獄に堕ちてくるだろうし……退屈はしないだろう。 「……地獄では負けませんよ……今から楽しみですね……」 その言葉を最後に、美汐は沈黙した……永遠に……。 青い光の矢に貫かれた美汐の体が、派手に砕け散った。 「美汐ちゃん！？」 散らばった肉片も名雪の目の前で光の粒子となって消え失せる。 天野美汐という少女が存在した証はこの世界から細胞一つ残さず完全に消滅した。 名雪は光の矢が飛来してきた先を見る。 遥か遠くのビルの屋上に一瞬だが人影を目撃した。 「あれは……そんな……でも……」 一瞬だったが、見間違えるはずがない。 美汐のとは違う、少し変わった巫女装束のような着物。 神尾観鈴とその契約モンスターの着ている衣装だった。 「例え名雪に勝てていても、『彼女』に圧倒的な力で倒されていた……それだけの違いしかなかったのよ」 香里の予測と、実際の戦闘結果の誤差は、名雪の予想以上の奮闘……それだけだった。 「これは……もう少し名雪に期待をしてもいいということかしらね」 香里は再び未来視を、先ほどの『現在』の誤差を計算に入れて予測を開始する。 「さて、あの二人は素直に殺し合うかしらね……」 今はまだ自分は動く必要はないようだ。 さしずめ、一回戦の第一試合が終わり、第二試合が始まるといったところだろうか。 次の試合は第二試合にしては好カードすぎる気がするが……。 「優勝候補の一人が消える可能性のある試合……興味深いわね」 美汐の言うとこの天眼通、一般的に千里眼などと呼ばれる、遠くの場所を視る能力を香里は使っている。 香里は『視る場所』を名雪から、別の人物に切り替えた。 「……佐祐理……」 「あははーっ♪ 気安く佐祐理の名前を呼ばないでくださいよ♪」 「…………」 「あははーっ♪ ちゃんと佐祐理を楽しませてください♪」 それだけの短い会話が終わると、戦いは始まった。 「さゆりん☆マジカルクレッセント♪」 佐祐理は巨大な三日月型のブーメランを構える。 「シュートベント♪ マジカルムーンイリュージョン♪」 佐祐理が空高くマジカルクレッセントを投げつけた瞬間、『昼』だったはずのエターナルワールドが暗闇に閉ざれ『夜』と化した。 暗闇が、佐祐理の姿を、全てを、隠す。 舞に見えた物は一つだけ、空から落ちてくる満月……高速回転しながら光り輝くマジカルクレッセントだけだった。 「…………」 この暗さが逆に唯一の明かりであるマジカルクレッセントの姿を際だたせている。 受け止めるのも、回避するのも簡単だと舞は判断した。 しかし、落ちてくる満月が突然二つに増える。 二つが四つ、四つが八つ、八つが……と満月が無数に増えていった。 「…………」 舞は六芒剣にカードを装填する。 その直後、無数の満月が地表に激突した。 「あははーっ♪」 佐祐理の手に一つに戻ったマジカルクレッセントが収まると同時に、夜が昼へと戻った。 「今のはほんの挨拶代わりですよ♪」 「……解っている」 無傷の舞が平然と立っている。 満月がいくつに増えようと、全てかわせば何の問題もない。 舞は超加速で全てを回避していた。 「……次は私の番」 六芒剣のトパーズ（黄色の宝石）が輝く。 「……黄のファイナルベント……」 舞は六芒剣を地面に突き刺した。 次の瞬間、大地を裂き、巨大な黄金色の龍が姿を現す。 「ふぇっ！？」 「……地龍咆哮！」 地龍が口から莫大な光を吐き出した。 「ガードベント！ さゆりん☆ブラックホールバリアです♪」 光が佐祐理の作りだした小型のブラックホールに呑み込まれていく。 「あははーっ♪ 見た目が派手なだけで……はぇっ！？」 ブラックホールが光を吸いきれずに『破裂』した。 佐祐理は破裂の際の衝撃で後方に派手に吹き飛ばされる。 「……追撃」 吹き飛ばされる佐祐理に、今度は地龍本体が襲いかかった。 「あははーっ♪ あまり調子に乗らないでください♪」 佐祐理は空中で回転して綺麗に着地すると、右手を襲いくる地龍に向けて突き出す。 「マジカルウェーブ♪」 佐祐理の掌から放出された魔力が、地龍を透明な魔力の膜で包み込み動きを封じ込めた。 「ファイナルベント♪」 佐祐理のステッキがソードに変形する。 佐祐理が空高く跳躍した。 同時に地龍を封じ込めた魔力の膜も浮かび上がっていく。 「マ・ジ・カ・ル・斬！」 佐祐理は膜ごと地龍を一刀両断した。 二つに両断された地龍は光の粒子になって消え去る。 「…………」 「あははーっ♪ あなたはどの武器のファイナルベントで殺されたいですか？」 さゆりん☆ソードが再び元の魔法のステッキ「マジカルセブンチェンジャー」の基本形態に戻った。 「…………」 「決めました♪ さゆりん☆ドリルクラッシャー♪」 魔法のステッキが今度はドリルに変形する。 「…………ん」 「あははーっ♪ 行きますよ♪ ファイナルベント♪」 二人は同時にカードを装填した。 舞の視界から佐祐理が消える。 「マジカルスパイラルダンス♪」 「……！？」 突き出した両足の先端にドリルを装着し、ドリルの回転に合わせて自らも人間ドリルとなった佐祐理が、舞を真上から踏みつけた。 次回予告（美汐＆香里） 「というわけで、カノサバ第５１話をお送りしました」 「殆どひっぱれずに始めちゃったわね、川澄先輩VS佐祐理さん戦……いいのかしらこんなに早くあっさりと始めちゃって？」 「いいのではないですか？ 最終章ですし……。それより、前から気になっていたのですが、なぜ、舞さんだけ『川澄先輩』と呼ぶのですか？」 「いや、作品内で『川澄先輩』と呼んじゃったから……それがずっと尾を引いているだけよ。まあ、この作品内では佐祐理さんの方は学校行って無い可能性が大ってのもあるんだけど」 「まあ、私も原作（カノン）忠実なら、あの二人を名前をさん付けで呼ぶ可能性は本来低い気もしますが……あくまでこの作品内ではということで……」 「さて、そんな突っ込まれてもいない細かいことはともかく、下手すれば次回でもう決着ね、この試合……ホントどんどん消えていくわね……」 「最終章は伊達ではないということです」 「結末は何種類か考えてあるけど、実はまだ決めかねているのよ。無理やりでもハッピーエンドか、救いなく最後まで殺し合うか……」 「両方の結末放送って方法もありますが、それだとＳＳとしての評価で二つある必要性がうんぬんとか言われそうですしね」 「それに、元ネタの方で考えていた結末の何パターンかすでに先にやられちゃって、封じられていたりするのよ。元ネタと同じ結末だったらそれこそ逆にクレーム来そうだしね」 「では、今回はこの辺で」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 「ミもフタもないアドヴェント解説」 『マジカルムーンイリュージョン』 漆黒の暗闇に辺りを包み込み（時間を夜にして）、満月（高速回転のブーメラン）をいくつも降り注がせる技。 『地龍咆哮』 尋龍点穴。龍脈（地脈、大地に流れる気の流れ）の穴（もっとも気の溜まっている場所）を探しだし、そこを突くことで、地龍『黄龍』を召喚する技。 地龍はあくまで気（生気、精気）の塊であり、生物ではない。 例え破壊されても、大地の気が尽きない限り、何度も呼び出す（創り出す）ことが可能。 『マジカル斬』 マジカルウェーブで相手の動きを封じ込め、さゆりん☆ソードで一刀両断する卑怯技。 某作品のサイキック斬が元ネタ。超能力と魔力が違うだけ。 『マジカルスパイラルダンス』 両足の先にドリルを装着し、相手を踏み潰し（貫き）、そのまま踏みにじる（回転）する残酷技。 紙一重で直撃をかわせても、回転の生み出す渦（竜巻）に呑み込まれしまう。 早い話、マジカル☆オンステージ（某格闘）をイメージしてください。 |