カノン・サバイヴ
第49話「最終遊戯」


『来なさい! ヒロイン同士の戦いに決着を付けるわよ!』
香里の『声』が全てのヒロインの脳裏に直接響く。
それが最後の戦いの開始の合図だった。


「ふぇ〜、タイムリミットですか?」
学園の地下、エターナルダンジョンの一室に名雪、観鈴、佐祐理、舞の四人と香里が集まっていた。
「そうよ。後3日以内に決着を付けられなければ全ては終わり、誰も願いを叶えることができなくなるわ」
「あははーっ♪ 願いですか?」
佐祐理には願いなどない。
願いを叶える過程である『戦い』こそが彼女の欲する全てだった。
「残ったのは、あたしと郁未さんを除いて、あなた達4人……」
「ふぇ? 後二人ぐらい居た気がしましたよ?」
「今ここにこれなかった者は脱落と見なすわ」
「そんな、栞ちゃんが……?」
「さあ、何も考えずに戦いなさい、願いを叶えるために!」
香里の声が響く。
その時、地上への階段から足音が聞こえてきた。


「なるほど、こんな隠れ家があったんですね……しかも学園の地下とはふざけてますね」
姿を現したのは学園の制服を着た天野美汐だった。
「どういう原理か解りませんが、実際に存在する地下の深さとは比べものにならない短さの階段でした」
「地下数千メートルの階段をリアルに下りたいというなら、仕掛けを解除してあげるわよ」
「慎んで遠慮させていただきます」
「あら、そう」
美汐と香里は互いに口元に皮肉げな笑みを浮かべる。
「で、香里さん、私は遅刻でアウトとか言わないですよ?」
「ええ、参加させてあげるわよ、ラストゲームに。どうやら、あたしの予知と違う未来をあなたは選んだみたいね」
「あなたの思い通りになるつもりはありませんので……」
「あははーっ♪ 戦いが終わってしまうのはつまりませんが、勝ち抜いて、永遠に戦える世界を望むのも悪くないですね♪」
「くだらない願いがお……」
「これだけ人数が居れば十分すぎるわね。戦いなさい、最後の一人を決めるために!」
最後のゲーム……最後の戦いが始まった。



『あなたは最後です……先に名雪さんや観鈴さんの『力』をいただきます』
そう言って、美汐はここから出ていった。
今、この場所に残っているのは香里だけである。
美汐をリタイヤと判断したのは、香里の予測したもっとも可能性の高い未来では、彼女は香里に挑んでくることになっていたからだ。
美汐は二度ほど、自らの破滅……バットエンドを回避している。
一度目はこの前の香里との戦い。
香里の気まぐれで美汐は見逃された。
そして、二度目は……最初に香里とではなく、先に名雪か観鈴に戦うことを決断したことである。
「だけどね、美汐さん……バットエンドを回避した末に、もっと悲惨なバットエンドに辿り着くこともあるのよ」
香里にはすでに、美汐の新しい未来の結末が『視えて』いた。



『だよもん! だよもん!』
と鳴きまくる茶色髪の女の子型のモンスター達がエターナルワールド中を跳び回る。
「あははーっ♪ さゆりん☆クィーンビュート♪」
佐祐理の光の鞭が次々にモンスター達を薙ぎ払っていった。
「あははーっ♪ ファイナルベント♪」
佐祐理は自らの頭上で鞭を旋回させる。
「マジカルビックバイパー♪」
佐祐理が光の鞭を地面に叩きつけると、光の鞭は巨大な光の大蛇と化し地をはっていった。
光の大蛇はモンスターを片っ端から呑み込みながら行進していく。
「あははーっ♪ こんなんじゃ全然足りないですね♪」
モンスターを全て片づけると、佐祐理は獲物を求めてエターナルワールドを歩いていった。



「……ブーストベント、超加速レットゾーン」
舞の姿が消えると同時に、だよもん型モンスターが数体切り裂かれる。
「……うざい」
だよもん型モンスターはまだ十体以上いた。
一体一体切り捨てていくのは面倒と判断した舞は、空高く跳躍する。
「……黒のシュートベント」
六芒剣のブラックダイヤモンドが輝いた。
「……崩魔重子弾!」
舞の周りに無数の黒い球体が生まれる。
舞が剣を振り下ろすと同時に、黒い球体が隕石の雨のように地表に降り注いだ。
「…………」
舞が地上に降り立つ。
モンスターは全て黒い球体の雨によって一掃されていた。
「……佐祐理」
決着を付けなければならない相手は決まっている。
今だ姿を見せぬ魔王と、別の世界では親友だった少女だ。
もしかしたらこの世界でも親友になれる可能性はあったのだろうか?
この世界の自分と彼女の間には何の縁もない。
それでも、彼女は自分の手で片づけないという気がしていた。
魔王とも異界の魔物とも違う、純粋なる魔の存在、魔物を狩る者としても放置しておけない。
それ以上、無いはずの因縁を舞は感じていた。



「なんで、こんな同じモンスターが急に大量に……」
後三日でゲームが終わるということ何か関係があるのだろうか?
ヒロイン同士の戦いはしたくない。
だが、モンスターは別だ。
名雪は現実世界に出ていこうとするモンスター達を倒し続けていた。
カイザーケロピーのケロピー火焔弾が次々にモンスターを撃ち落としていく。
「数が多すぎるよ……」
倒しても倒してもキリがなかった。
それに対して名雪の方の体力や力は無限ではない。
名雪が限界を感じ、一度撤退しようとした時だった。
全てのモンスターが一斉に爆発したのは……。
「いつまでこんな雑魚と戯れているのですか?」
ある意味豪奢ともいえる装飾がされた巫女装束の赤毛の少女が姿を現す。
「あなたには何の恨みもありませんし、嫌いでもありませんが……私が香里さんを倒すための糧(かて)になっていただきます」
そう言うと、天野美汐は神剣を手に名雪に襲いかかった。




『…観鈴さん』
「うん、解っているよ、美凪さん」
観鈴は背後からの姿無き声に振り返ることもなく答える。
『…全てはあなた次第……私はあなたがどんな決断をしようと、それに従います』
「がお……ずるいよ、美凪さんも佳乃さんも、わたしに押しつけて……さっさと逝っちゃうんだもん……」
『…………』
「……ひとりじゃ無理だよ……ひとりじゃがんばれないよ……」
『…あなたはもう一人ではありません』
「にはは……そう……そうだったね」
『…行きましょう、観鈴……姉さん」
「うん、美凪」
観鈴は黒いカラスの翼を羽ばたかせると、ビルから飛び降りた。



未来は絶えず変動を続ける。
どの未来が訪れるのか、選ばれるのか。
囲碁にでも例えるなら、何十手も先を予測することができていても、予想外の一手が打たれた瞬間、もう一度そこから予測をし直さなければならなくなる。
「ここはもう……視えたわ」
名雪、観鈴、佐祐理、舞、美汐、この五人の選んだ未来は視えた。
だが、全ての集約する未来、このゲームの最後の結末は今だ視えず……確定していない。
なぜなら、これから自分が選ぶ行動によっても、それは変動するからだ。
「まあ、自らは動かれないのですか、香里さん?」
フードの女セリオが声が香里の思考を中断させる。
「もう一カ所気になるところがあるのよ……そこ次第であたしの決断も決まるようなもの……」
「ホントはもう決断されているのではないのですか?」
「そうね……そうかもね、踏ん切りがつかないだけなのかもしれないわね」
そう答える香里の瞳は遥か遠くを見つめていた。



「侵入者!?」
葉子の顔に驚愕が浮かぶ。
あり得ないことだった。
この場所を知っているのは、自分と香里と郁未だけ。
偶然誰かがここに紛れ込むこともは絶対にありえない。
それなのに……どうやって、誰が進入したというのだろう?
「えぅえぅえぅえぅ♪」
奇妙な笑い声?が響きわたる。
「なるほど……そうことですか」
葉子は侵入者の正体を悟ると同時に、彼女がどうやって、どうして進入できたのかも想像がついた。
「招いた覚えはありませんよ、美坂栞さん」
「死神は呼ばれなくてもやってくるんですよ」
鉄の扉を切り裂いて、死神装束の少女が姿を現す。
「何しに……と聞くまでもありませんね」
「えぅえぅ♪ 狩りに来ましたよ、魔王の魂を」
そう言うと、栞は大鎌を振りかぶった。



















次回予告(美汐&香里)
「というわけで、カノサバ第49話をお送りしました。最終章開幕です」
「流石に欠番というのはなんだから、素直にこれは49話よ」
「ところで、最終章だからって、最後は一人記憶喪失、一人財閥の総帥、一人刑務所、一人子供に刺されて……終わりとかにならないですよね?」
「どこの最終章よ、それ……」
「某グリーエンです」
「いや、普通そんな結末考えつこうとしても考えつかないわよ……天才よね、あの声優さんは……常人の知性じゃないのは間違いないわ」
「では、この作品に無関係な話はそれくらいにして、ついに後戻り不可能な最終章ですね」
「もうみんなリセット(復活)がないからね……敗北=消滅ね。そう長い話にはならないと思うわ」
「では、今回はこの辺で」
「良ければ次回もまた見てね」
「戦わなければ生き残れません」


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