カノン・サバイヴ
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「佳乃はそのゲームが好きだな」 「うん」 「勇者じゃなく、魔法使いに自分の名前をつけているのか」 「うん、魔法使いが好きからぁ」 「そうか……」 「ねぇ、お姉ちゃん?」 「かのりん、大人になったら魔法使えるようになれるんだよぉねぇ?」 「……ああ、なれるさ。だから、そのバンダナは大人になれるまで取っちゃ駄目だぞ……」 「うん! 楽しみだよぉ〜」 手首の自殺の痕を隠すための、もう自殺をさせないための封印ともいえる黄色いバンダナ。 大人になまるまでそのバンダナを付けていれば魔法が使えるようになれる……。 姉のついたその嘘は……真事になった。 歪んだ、悲しい形ではあったが……。 願いの叶った少女は今幸せなのだろうか? 光り輝くポテト、メドポテトが佐祐理に迫っていた。 佐祐理は高速で思考を行う。 この攻撃を防げるかもしれないのはさゆりん☆ブラックホールバリアしかないという結論が割り出された。 だが、間に合わない。 今からカードを装填し、ブラックホールバリアが形成完了する前にメドポテトは佐祐理に激突するだろう。 佐祐理は回避しきれないことを解っていながら、跳躍して直撃を避けようとした。 「無駄だよぉ〜!」 回避はやはり間に合わず、メドポテトが佐祐理に直撃しようとした瞬間、透明な繭が佐祐理を包み込む。 「ふぇっ!?」 自分に起きたことを佐祐理が理解するよりも速く、メドポテトが透明な輝く繭に跳ね返された。 鏡に光が反射するかのように。 「まさか……マホカンタ!?」 佳乃は跳ね返ってきたメドポテトを横に跳んでかわそうとしたが、左腕がメドポテトに触れ、一瞬で『消滅』する。 「うぎゃあぁぁぁぁっ!?」 消滅してしまった右腕の切断面を押さえて、佳乃は転げ回った。 切断面というのも正確ではない。 斬られたのでも、千切られたのでもなく、ただ腕のそこから先が『無くなって』いたのだから。 「…石鹸泡鏡玉……ミラーシャボン玉です」 そこには、黒い喪服のような着物の銀髪の美女、遠野美凪が立っていた。 「があぁぁ!」 佳乃が叫ぶと、佳乃の体が一度光の粒子に戻り、再度佳乃の姿を形成しなおす。 消滅したはずの右腕も存在していた。 佳乃はとても苦しげな表情で息を荒くしている。 「…斬られたり、砕かれたのなら簡単に再構築できる。けれど、『消滅』……自らを構成する『材料』を消去された場合は……どこか他の部分の材料を失った部分の材料に回さなければいけない……皮肉ですね、自らの必殺技が自らを滅ぼすことを可能な唯一ともいえる技とは……」 「うぅ〜」 美凪は佳乃のことを全て解っているかのように『説明』を口にした。 「…佳乃さん、あなたの正体は暗黒物質ニュートリノ……原子よりも小さな素粒子の存在です」 「うう〜、そんなの知らないよぉ! かのりんはかのりんだよぉ!」 「…全てをすり抜ける暗黒の素粒子……ようは亡霊に過ぎません」 「かのりんは幽霊なんじゃないよぉ! 物だって触れるし……」 「…それはあなたが……」 「うるさいよぉ! メラミ!」 火球が佳乃と掌から美凪に美凪に向けて撃ちだされる。 しかし、火球は美凪の体をすり抜け、背後の壁に激突した。 「うぅ!?」 「…かわしたわけではありません。体を物質化させるのをやめて本来の存在に戻っただけです」 美凪は淡々と言う。 「…私とあなたにはすでに体がありません。『力』と『意志』……いや『遺志』でしょうか? 亡霊、残留思念、エネルギー生命体、そんな呼び名が相応しい存在です」 「……嘘だよ……かのりんは……そんなものじゃないよぉ……」 「…嘘ではありません。現に私達はもうこのエターナルワールドという世界でしか満足に存在することができなくなっている。現実世界の普通の人間の目には、私達の姿は映らず、触れ合うこともできない……これを幽霊と言わずになんと言うのですか?」 「そんなの信じないよぉ! かのりんは生きているんだよぉ! イオナズン!」 爆音と共に美凪の姿が爆煙の中に消えた。 「…大気中の水素を圧縮して精神エネルギーにより爆発させる呪文ですか」 「うぅ!?」 当然のように佳乃の背後に美凪が立っている。 「…どんな威力だろうと……当たらなければ無力です」 「うぅ〜……」 「あははーっ♪ 何がなんだかよく解りませんが、戦うなら佐祐理を無視しないでくださいよ♪」 巨大なシャボン玉に閉じ込められている佐祐理が口を挟んだ。 「…あなたは生者にして勝者……死者同士の因縁に関わる必要も……死者である私をもう一度殺す必要もありません」 美凪は一度大きく息を吸い込むと、一気に吐き出す。 すると、佐祐理を内包した方シャボン玉はふわふわと空の彼方に向かって飛んでいった。 「…さあ、邪魔者はいなくなりました。決着をつけましょう……同じ魂を持つ姉妹同士の……」 「うわああああっ!」 佳乃をは叫ぶ声を上げると、右手に炎、左手に冷気を集めだす。 「…やはりそれですか」 先ほど、ミラーシャボン玉で跳ね返されたことを忘れているのか、自分の認めたくない正体を告げられたショックで冷静な判断力を失っているのか、佳乃は迷わずメドポテトを作りだした。 「消えろろぉぉぉっ!!!」 佳乃の手からメドポテトが撃ちだされる。 「…遠野御米流殺人剣奥義……」 美凪は腰に差した刀に手を置き、腰を屈めて居合いの構えをとった。 「何をしても無駄だよぉぉっ!」 美凪は居合いの体勢のままメドポテトに向けて駆け出す。 メドポテトと美凪が接触する寸前、美凪の姿が佳乃の視界から消えた。 「どこぉへ…………なっ!? ポテトの下をかいくぐって!?」 美凪は居合いの形のままさらに体を屈めてポテトをの下をくぐり抜ける。 「…ライトニング・ライス!」 ポテトを完全にくぐり抜けた次の瞬間、美凪の姿は佳乃の向こうに移動完了していた。 いつの間にか刀も抜かれている。 「あはは、な、なんともな……ううっ!?」 佳乃の居る空間に『米』の字が蒼い光で描かれた。 『米』の字の四つの点はそれぞれ佳乃の両手両足に、十字は佳乃の体を中心に浮かび上がっている。 「…見てください、天翔るお米の輝きを……」 チィン! 美凪が刀を鞘に戻した瞬間、佳乃の両手両足が切断され、体が十字に切り裂かれた。 そこに霧島佳乃の姿はもはやなかった。 ただ一枚のカードが地面に落ちているだけ。 美凪はそのカードを拾い上げた。 「…還りましょう、佳乃さん……私達の在るべき場所……還るべき所へ……」 美凪はどこか哀しげに呟くと、カードを大切そうに懐にしまう。 「…終わりの始まりの刻は近い……後は全てあなた次第です、観鈴さん……」 美凪はゆっくりとした足取りでエターナルワールドを去っていった。 「……茶番は終わったわね」 雪道を歩いていた香里は懐から四枚のタロットカードを取り出した。 星と戦車と力と魔術師。 「長かったわね……」 今までの全てはここに至るための通過点にすぎない。 永遠の異邦人の気まぐれな介入などの寄り道もあったが結局は『この場所』に辿り着いた。 「もう未来の可能性は指で数えられるぐらいしか存在しない……」 いよいよ選ばなければならないようだ。 自らの結末を決める最後の選択肢を……。 「その前に……思い残すことがないようにしないとね」 香里はどこか自嘲するような笑みを浮かべると、水瀬家へと向かう足を早めた。 「結局、残るべき者だけが残る……全ては予め定められているのかもしれませんね」 水瀬名雪、神尾観鈴、川澄舞、倉田佐祐理。 最初の『予測』通りこの四人が残った。 終わりの時は近い。 「くーっ……」 「…………」」 フードの女はは自分の目の前のベットで眠っている少女を見つめ続ける。 「……うにゅ〜、祐一?」 「目が覚めましたか、水瀬名雪さん?」 「う〜、だお〜?」 名雪は明らかにまだ寝ぼけているようだった。 「ここはどこだお〜?」 半覚醒状態の名雪は辺りを見回す。 見覚えのまったくない殺風景な部屋だ。 ベットやテーブルといった最低限度の家具以外何もない。 「ここはエターナルダンジョン。全ての元凶にして根元ともいうべき場所です」 「だお?」 「そう全てはここから始まりました」 フードの女は淡々と語り始めた。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで、カノサバ第47話をお送りしました」 「疑似編は実はとっくに終わって……疑似編のさらなる蛇足ともいうべき佳乃編がこれで終了よ」 「とりあえず後1話ほど4部のエピローグのような話を入れようかと思っているのですが……5部(最終章)の冒頭に回した方がいいでしょうか?」 「最終決戦前夜&作品の根本のネタ晴らしだしね……なんというか部を終わらせるにしては話数が半端だったりもするのよね」 「それは仕方ないですね」 「まあ、とりあえず次回はあたしと相沢君の大人の恋の話ということで」 「つまり蛇足の蛇足の蛇足ですか?」 「……どいう意味よ……」 「言葉通りです」 「…ひとの決めセリフを……」 「では、今回はこの辺で」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 『遠野御米流』 美凪はバイザーを持っておらず、本来栞のソードベントの一つであったデスブレイド(冥府刀)を借りているだけある。 遠野御米流とは、日本人が米の栽培を始めた太古の昔から存在する、神聖なるお米を守るための戦闘術である。 『ライトニング・ライス』 正式名は天翔御米閃(あまかけるおこめのきらめき)。 某流浪人の奥義はあくまで名前の元ネタのみ。 一度の居合い抜きで、相手を米の字(両手両足切断、体を十字に切り裂く)に切り裂く。 |