カノン・サバイヴ
第46話「究極魔法」




「……これで終わりだと言うのですか?」
美汐は納得のいかない表情で呟いた。
あまりに呆気なさすぎる。
自分に都合が良すぎる出来事を容易く信じるほど美汐は甘くはなかった。
美汐は警戒をとかない。
意識を集中し、辺りの気配を探った。
「…………んっ!?」
突然、双頭の白狐『真琴』の体が『何か』に内側から打ち破られる。
「真琴ぉぉっ!?」
現れた黒い影の右手が輝きだす。
「なっ!? そのす……」
次の瞬間、青い光の奔流が美汐を呑み込み、天野美汐という存在をこの世から完全に消し去った。



地面に両手両膝をついた美汐は、吐き気を必死に堪え、荒い呼吸をなんとか整えようとする。
「……い……今のはいったい……?」
美汐の前に、舞を抱き上げた香里が何事もなかったように立っていた。
香里は特に『見下す』わけでもなく、無表情に美汐を見つめている。
「……幻覚を……私に見せたとでも……いうのですか?」
美汐はなんとか顔だけを上げて、香里を睨みつけた。
「……幻ではないわ。あなたが見たのはひとつの未来という可能性……実際に戦えばああなるということを見せてあげただけよ」
「……そんな馬鹿なことが……」
どこからが『見せられた未来』だったというのか?
どこまでが実際に行った戦闘だったのか?
それさえも美汐には解らなかった。
「本当にあなたを倒してしまうことは至極簡単なこと。でも、それじゃ……あなたを生かして置いた理由がないのよ。せめて、誰か一人ぐらい倒すか、苦しめてくれないと……パワーアップした意味がないでしょ? 犠牲を払い、覚悟を決めてまでね……」
だから、こんな面倒な手段を取ったというのか?
美汐は実際に敗れる何倍もの屈辱を感じていた。
完全に格下に思われている。
そして、実際にそれほどの差を見せつけられた気分だ。
「……後悔……しますよ……今、私を殺さなかったことを……」
精一杯の意地を、負け惜しみにしか聞こえないであろう言葉を口にする。
「ええ、ぜひそうさせてね。期待しているわ」
嫌みではなく、本当に期待しているといった表情で香里は言った。
「……くっ……」
この屈辱を、負け犬の気分を晴らすには、目の前のこの女を倒す以外にない。
次に会った時は必ず……。
敗れておきながら『次』があることが自体が最大の屈辱だったりするのだが……。
「じゃあね。最後の戦いで会いましょう……」
舞を抱えた香里はゆっくりとエターナルワールドから去っていった。



さゆりん☆パイルバンカーがステッキとマジカルハングに分離した。
「……ふう、流石に少し疲れましたね♪」
いくらなんでも、心臓を貫かれたら、もう生き返ってはこないだろう。
その上、貫く際の爆発で肉体も四散させたのだからなおさらだ。
佐祐理は背を向けて、今度こそその場から立ち去ろうとする。
「マヒャドだよおおおおおぉぉっ!」
以前のヒャダルコとは比べものにならない猛吹雪が襲いかかってきた。
「いい加減しつこいですよ♪」
佐祐理はすかさずカードを装填する。
「さゆりん☆ハンマー♪」
魔法のステッキが巨大なハンマーに変化した。
「あははっ、そんなカナヅチでどうやって吹雪を防ぐのかなぁ?」
「こうやってですよ♪ さゆりん☆アースクェイク♪♪♪」
佐祐理は足下の地面をハンマーで思いっきり叩きつける。
次の瞬間、大地が震撼した。
「べぶぅ!?」
突然の大地震に佳乃が転倒する。
それと同時に吹雪きが止んだ。
「あははーっ♪ まだまだですよ♪ さゆりん☆アースクロス♪」
佐祐理がもう一度地面を叩くと、佳乃の倒れている所に向けて、大地に亀裂が走る。
佳乃が倒れている地面を中心に大地に巨大な十字の裂け目が生まれた。
当然、佳乃は大地の裂け目に落ちていく。
「こんどこそ永遠にさよならです♪」
佐祐理が再度地面を叩きつけると、佳乃を呑み込んだ大地の裂け目が塞がった。
「あははーっ♪ あははーっ♪ あははーっ♪ これでもさゆりん☆ハンマーはまだ半分の力しか使ってないんですよ♪ 全部見せられなくて残念です♪」
ハンマーを肩に担ぐと、今度の今度こそ立ち去ろうと、踵を返……。
「ふぅ〜、危なかったよぉぉ」
空から間の抜けた声が聞こえてくる。
「それにしても、大地を十字に裂いても、まだ半分の力だなんてホントかなぁ?」
佳乃はゆっくりと空から降りてきた。
「生意気に空飛べたんですか?」
「うん、ルーラっていう帰還魔法の応用だよぉ」
「はぇ〜……」
ちなみに、佐祐理は佳乃の使う魔法の名前の由来を知らない。
佳乃の使う『魔法』の名前はとあるテレビゲームの物と同じなのだが、子供の頃は上流階級、その後は放浪したり、牢屋の中で暮らしてきた佐祐理はそのゲームの存在すら知らなかった。
佳乃は両手を突きだし、何か印のようなものを結ぶ。
「じゃあ、今度はかのりんの番だねぇ。イオナズンだよおおおおぉっ!」
佳乃が呪文を唱えると同時に、佐祐理の周りが突然大爆発した。
爆煙が佐祐理の姿を隠す。
「あははーっ♪ じゃあ、次は佐祐理のターン(番)ですね♪」
佐祐理の声が聞こえた。
爆煙の中からではなく、佳乃の耳元から。
「ファナイルベント♪ マジカルデスバレー♪」
背後を振り返ろうとした佳乃の視界に映ったのは巨大なハンマーだった。
佳乃はハンマーで横に派手に吹き飛ばされる。
「まだまだですよ♪」
吹き飛ばされる先に、佐祐理が待ち構えていた。
佐祐理は、吹き飛ばされてきた佳乃を今度は上空に向けてハンマーで打ち上げる。
「ぐぇ!?」
さらに、打ち上げられた上空には佐祐理が先回りしていた。
「落ちろです♪」
佐祐理はハンマーを振り上げると、思いっきり佳乃に叩きつける。
佳乃は物凄いスピードで地面に落ちていき、そして地面に激突した。
「おまけです♪ 追撃の魔法の断頭台♪」
佐祐理はさらに、地面にできたクレーターで仰向けに倒れている佳乃に向けて『魔法の断頭台』を放つ。
「この前の魔法の断頭台は30%ぐらいの力でしたが、今回は全力ですよ♪」
右足をギロチンの刃に見立て突き出すと、上空に向けて突き出した両手から魔力を放出し、加速して佳乃の首めがけて急降下していった。



「……どんなに不死身でも首を刎ねられたら終わりですよ♪」
佐祐理は首の無い佳乃の死体に向かって呟いた。
正確には首を刎ねたというより、頭を跡形もなく粉砕してしまったのである。
デスバレーと魔法の断頭台の合わせ技、これ以上の破壊力のある『魔法』はもう残った魔力では使えない。
もし、再度立ち上がってこられたら……。
佐祐理の微かな不安を否定するように、佳乃の姿が光の粒子になって消え始めた。
「あははーっ♪ やっと片づきましたね♪」
安心したように笑うと、佐祐理は踵を返して歩き出す。
『非道いよぉ〜あんまりだよぉ〜、君を極悪魔法少女一号に任命するよぉぉ〜』
「ふぇ!?」
佐祐理は慌てて背後を振り返った。
クレーターから佳乃の姿は完全に消えている。
その代わり、空に光の粒子が集まっていき、新たらしい佳乃が形成されていった。
「ふぇ〜……」
佐祐理は初めて、いや、かなり昔に忘れてしまった感情を取り戻す。
恐怖という名の感情を……。
佐祐理は、その感情を否定するように、さらなる攻撃を決意した。
だが、それよりも速く。
「見せてあげるよぉぉ! かのりん究極にして極限の魔法をぉ!」
佳乃の右手に炎が、左手に冷気が集まる。
「右手にゴットポテト、左手にアイスポテト、我が前には絶対的な死と破壊を……」
『呪文』と共に、右手の炎と左手の冷気がポテトの形を取った。
佳乃はその二つのポテトを合わせて、光り輝く究極のポテトを創り上げる。
「絶対消滅魔法『メドポテト』だよぉ! ポテトに触れた物を例外なく全てこの世から完全消滅だよぉぉっ!」
佳乃は『メドポテト』……光り輝くポテトを佐祐理に向けて撃ちだした。



「久しぶりね、相沢君」
「香里?」
祐一が玄関を開けると、舞を担いだ私服姿の香里が立っていた。
「……それ……というか、その舞はなんだ?」
「ああ、これ? 相沢君へのバレンタインプレゼントよ」
そう言うと、香里は舞を祐一に担がせる。
「おい、香里!」
「冗談よ。はい、こっちが本物のチョコとプレゼント」
香里はラッピングのされた二つの箱をどこからともなく取り出すと、祐一に差し出した。
「…………」
とりあえず、祐一は香里のプレゼントを受け取る。
祐一は香里の真意を測りかねていた。
今はバレンタインがどうとか言っている状況ではないはずである。
「チョコには他意はないわよ。ただ、相沢君のことを好きだからあげただけ。まあ、バレンタインなんて菓子メーカーのうんぬんなんて冷めたことわざわざ言っても仕方ないしね。そっちのプレゼントもついでに渡せる丁度良い機会でもあったし……」
そう言うと、香里は祐一に背中を向けた。
「香里?」
「後でまた来るから、それまで川澄先輩は預かっておいて。おそらく、水瀬家……いえ、相沢君の傍が一番安全だろうから……」
香里は祐一の言葉を待たずに歩き出す。
「どういう意味だ、香里?」
「言葉通りよ」
香里は振り返りもせずに、去っていった。






















次回予告(美汐&香里)
「というわけで、カノサバ第46話をお送りしました」
「バレンタインスペシャル版でお送りしましたわよ」
「……唯単に更新日がバレンタインだっただけじゃないですか……」
「甘いわね、作品内の時間もバレンタインなのよ」
「だから何だという気が……それに今日はバレンタインなどという低俗な日というより、ゲームボーイアドバンストの新型の発売日と言って欲しいですね」
「なんか、それっておばさんぽいというより、おたくっぽい発言よね……」
「余計なお世話です」
「ああ、そうそう、忘れるところだったわ」
「曹操……乱世の奸雄……いえ、なんでもありません。で、なんでしょうか?」
「今回使った技(魔法)をデスバレーにしたため、以前使ったデスバレーは別の名前に変更(修正済み)させてもらったのよ」
「変更はそれだけですから、わざわざ見直していただなくても、変更されたことを覚えて(了承)いただけさえすれば無問題です」
「まあ、そんなわけで、おそらく次回で佳乃編?は決着がつくと思うわよ」
「では、今回はこの辺で」
「良ければ次回もまた見てね」
「戦わなければ生き残れません」



『さゆり☆アースクェイク』『さゆりん☆アースクロス』
さゆりん☆ハンマーで大地に莫大な魔力を打ち込み、大地震を起こす魔法。
クロスの方は大地を十字に切り裂き、相手をその亀裂(裂け目)に落とす魔法。

『さゆりん☆デスバレー』
デスバレーと書いて摩天楼(死の谷でも可)と読んでください。
ドラゴンボールのような連続攻撃をさゆりん☆ハンマーで行うファイナルベント。

『メドポテト』
かのりんの最大呪文。
炎の+エネルギーと氷の−エネルギーを全く同量で合わせることによって、全てを消滅させる究極の破壊(消滅)エネルギーを生み出す。
矢ではなく、ポテトの形をしているところが佳乃のオリジナル。
元ネタはあのゲームを元にした某漫画。



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