カノン・サバイヴ
第45話「攻撃魔法など花拳繍腿、補助魔法こそ魔法少女の王道」



七瀬が消滅して数分後、美坂香里が姿を現した。
香里が瓦礫の山に視線を送ると、瓦礫が独りでに持ち上がり、気絶している名雪と観鈴が姿を現す。
「流石に……名雪に七瀬さんを倒させるのはやっぱり無理だったわね……」
まあいい。
自分が七瀬さんを倒すという、一番確率の高く、そしてつまらない未来を回避できただけマシだ。
香里が名雪を凝視すると、名雪の姿が掻き消える。
「……さて、こっちはどうしようかしらね」
ついでに、名雪と同じ場所にでも『飛ばす』か?
それとも、このままここに放置しておくか?
「まあこのまま時間切れで消滅なんてのはいくらなんでも……あれよね」
とりあえず、神尾観鈴には用はないし、自分の担当でもないが、彼女がここで居なくなるよりは、居た方が、この先、このゲームがどう展開しようと、都合が良い……と思う。
香里が視線を送ると、先ほどの名雪と同じように観鈴の姿が掻き消えた。
「保険は……可能性は多いにこしたことがないわね」
香里はそう言うと、『本命』の存在に近づく。
死んだように道端にうつ伏せになっている川澄舞。
香里は彼女を抱き上げた。
『シュートベント! メビウスクリスタル数珠ビット!』
突然、何十発ものの水晶でできた数珠の球が香里に襲いかかる。
香里が大爆発に包まれると同時に、天野美汐が姿を現した。
「……外しましたか」
「悪くない不意打ちだったわよ」
美汐の背後に舞を抱き上げたままの香里が当然のように立っている。
「最初からあれで倒せるとは思っていません。ただの挨拶代わりです」
美汐はそう言いながら、香里の方を振り向くと、天野神剣を召喚した。
「それはまた随分と……礼儀正しくなったものね」
香里は皮肉げな笑みを浮かべる。
「一気に終わらせてもらいます! ファイナルベント!」
美汐はカードを装填すると同時に香里に襲いかかった。
香里の両手は舞を抱えているため、塞がったままである。
「天野神剣乱舞!」
超高速で移動する美汐の神剣が、舞ごと香里を何度も切り刻んだ。
「真琴!」
最後に神剣で舞と香里を串刺しにすると、二人を突き刺した剣を後方に投げ捨てる。
巨大な双頭の白狐『真琴』が『香里と舞の串刺し』をパクンと一口で丸呑みにした。



「ベギラゴンだよおおぉぉっ!」
佳乃は両手の掌を前方で合わせると、先ほどのベギラマを遥かに上回る超々高熱エネルギーを撃ちだした。
「あははーっ♪ シュートベント♪ さゆりん☆ギガフレア♪♪♪」
通常の魔法ステッキ形態になったバイザーから赤い熱線が撃ちだされると同時に、背後に出現したジェノサイダー北川の口と両肩からも超々高熱の熱線が放射される。
四条の熱線が一つの究極の熱線と化し、佳乃のベギラゴン(超々熱線)と激突した。
「あははーっ♪ 威力はまったく互角みたいですね♪」
二人の丁度中間の空間で超々熱エネルギー同士がぶつかり合い停滞している。
「うぅ〜、かのりんの最大高熱呪文なのにぃ〜」
「あははーっ♪ 悪いですけど、いつまでもあなたみたいな雑魚に付き合っていられないんですよ♪」
佐祐理は右手のステッキから熱線を放ちながら、左手だけで、新しいカードをを装填した。
「スライスベント♪ さゆりん☆マジカルクレッセント♪」
佐祐理の衣装の翼が巨大な三日月型のブーメランに変化する。
「シュート♪」
「うぇっ!?」
佐祐理の投げつけたブーメランは、ぶつかり合う熱線を避けて、弧を描き、佳乃に炸裂した。
「あははーっ♪ 見せてあげますよ♪ 佐祐理の48の攻撃魔法と52の補助魔法……100のマジカルを♪」
「……うぅぅ!?」
マジカルクレッセントの直撃で吹き飛ばされた佳乃は佐祐理の姿を見失う。
「どこぉへ〜?」
「あははーっ♪ ホールドベント♪ さゆりん☆マジカルヘッドロック」
「ぐぎょあぁ!?」
突然、佳乃の背後に出現した佐祐理が、佳乃の頭にヘッドロックを極めた。
「うぅ〜、ソードバンダナだよぉ!」
佳乃の左手から黄色いバンダナが伸びると、刃物のように鋭利になり背後の佐祐理を貫こうとする。
「あははーっ♪ さゆりん☆マジカル脇固め♪」
佐祐理はあっさりと佳乃の頭を解放し、バンダナの刃をかわすと、今度は佳乃の右手を脇固めで極めた。
そして、一瞬で佳乃の右腕をへし折る。
「ぐぎゃああああああああっ!?」
「あははーっ♪ どうですか、佐祐理の『補助』魔法の味は?」
佐祐理は、右手を押さえて地面を転がる佳乃を、笑顔で見下して尋ねた。
「……うぅ〜……どこが魔法なんだよぉ!?」
「あははーっ♪ 攻撃魔法が効き難い相手に使うための『魔法』なんですよ♪」
そう言うと、再び佐祐理の姿が佳乃の視界から消え去る。
「さゆりん☆マジカルブレーンスピン♪」
「うぅぇ!?」
佳乃の頭の上に、体操競技のあん馬に乗っかかるような形で佐祐理が出現した。
そして、佐祐理は体操のあん馬のように旋回を開始させる。
「さゆりん☆マジカルレッグラリアート」
佐祐理は回転の勢いを乗せたまま、佳乃の頭をレッグラリアートで蹴飛ばした。
「……ぐぅ……マジカルって付ければ何でもいいと思って……だいたい今のは打撃技だよぉ……」
「あははーっ♪ 今トドメを刺してあげますね♪」
佐祐理は佳乃をダブルアームスープレックスで捕らえる。
「あはははーっ♪」
佐祐理はその体勢のまま回転し、巨大な竜巻と化した。
「うぇぇ〜……」
竜巻の中で佳乃の体は垂直になっていく。
佐祐理は佳乃を空高く放り投げた。
そして、佳乃を追いかけるように飛び上がる。
「ファイナルホールドベント♪ 魔法の断頭台♪」
佐祐理はギロチン(断頭台)の刃ように右足を佳乃の首に引っかけると、そのまま地面に激突した。



「あははーっ♪ あなたみたいな雑魚には武器は無用です♪ マジカルセブンチェンジャーを使うまでもないです♪」
佐祐理は、頭から大量の血を流し倒れている佳乃を無視して、立ち去ろうとした。
しかし……。
「うぅ〜、ついうっかり『生身』の時の感覚でダメージ受けていたよぉ〜」
佳乃が何事もなかったかのように立ち上がる。
「ふぇ?」
「あぁ、血がいっぱい出てるよぉ〜」
佳乃は折られたはずの右腕で頭の血を拭った。
「はぇ〜、しぶとい人ですね♪」
「今度は負けないよぉ! ヒャダルコ!」
佳乃の突き出した右手から吹雪きが吹き出す。
「あははーっ♪ 脆弱♪ 脆弱ですよ♪ ストライクベント♪ さゆりん☆マジカルハング♪」
佐祐理の両手に装備されていた龍の頭のような籠手が伸びると、佳乃の両腕に噛みつき、佳乃を宙に持ち上げた。
「あははーっ♪ この程度の吹雪、気持ちいいだけですよ♪」
マジカルハングは佳乃を空高く放り上げる。
「さて、どの武器のファイナルベントで死にたいですか? どれも、あなたみたいな雑魚には勿体ない技ですよ♪」
刹那の思案の後、佐祐理はファイナルベントを装填した。
「喜んでくださいね♪ 特別にマジカルセブンチェンジャー最後の型を魅せて(見せて)あげますね♪」
魔法のステッキが佐祐理の右腕の龍の籠手と合体していく。
「さゆりん☆パイルバンカー♪♪」
龍の口から覗くステッキの先端が鋭い杭のようになっていた。
佐祐理は落下してくる佳乃に向かって駆け出す。
「ファイナルベント♪ マジカルショータイム♪」
佐祐理は右手で佳乃の心臓の位置を殴りつけた。
佳乃の口から血が吐き出される。
「エンドです♪」
凄まじい爆発と爆音と共に、杭が佳乃の心臓を貫いた。




次回予告(美汐&香里)
「というわけで、カノサバ第45話をお送りしました」
「さて、蛇足というか寄り道かもしれない魔法合戦?で一話使っちゃったわね」
「ええ、これを省けば今回で第4部最終話にすることも不可能ではありませんでした」
「まあ、佐祐理さんのベントを消費する機会&佳乃さん最後?の活躍といった所よね」
「相変わらずミもフタもないですね……」
「まあ、なんにしろ、第4部はもうすぐ終わるわよ、それにともなって人気投票もね、」
「では、今回はこの辺で」
「良ければ次回もまた見てね」
「戦わなければ生き残れません」













「ミもフタもないアドヴェント解説」


『メビウス数珠ビット』
最大108個の数珠が同時に相手に襲いかかる。

『天野神剣乱舞』
天野神剣乱舞の太刀……といった感じの技。
高速移動で相手を散々切り刻んだ後、真琴に喰わせてて消化させるえげつないファイナルベント。

『42の補助魔法』
別名42の関節技(サブミッション)。
打撃技が混ざっていたりする上に、おそらく全部披露されることはない。

『魔法の断頭台』
どこぞの悪魔将軍の技。
相手の首に自らの足をギロチンの刃のように引っかけ、地面に叩きつける技。

『マジカルショータイム』
サユリオー・アクション!……といった感じの技。
さゆりん☆パイルバンカーからのファイナルベント。
魔力を込めた爆発で杭を打ちだし、相手の急所を一撃で粉砕する技。



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