カノン・サバイヴ
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「……息絶えたわね。どこに堕ちたの、舞? あなたに似合いそうなのはさしずめ、こみパ界か、うたわれ界ね」 七瀬は足下の舞を見つめながら呟いた。 「ソードベント! 衝雷剣!」 舞は唐突に立ち上がると、剣から雷を放つ。 「なっ!? くっ!」 七瀬はとっさに黄金乙女で雷を切り裂いた。 引き裂かれ飛び散った雷が辺りの地面や壁を破壊する。 「八道葉界をうけてまだ生きているなんて……勇者は魔王を倒すまで不死身だとでも言うつもり……?」 「……地獄の修羅(同人作家)さん達もケモノ(ケモノ耳)さん達も……私は手におえないて……追い出された……」 「……そう……」 「……今度はあなたの番。どこの死界が良いか選べ……」 舞はそう言うと、剣を七瀬に向けて突き付けた。 「残念だけど、葉界(死界)とは落ちぶれたヒロインや忘れられたヒロインが落ちる所……神に近い乙女であるあたしには無縁の所よ」 七瀬の黄金乙女が自ら輝きを放つ。 「あなたにはもはやそんな色気過剰な衣装は不用よ! あたしが灰にしてあげるわ!」 七瀬は黄金乙女を突きだした。 次の瞬間、舞の身につけていた宝石や鎖が粉々に砕け散り、ボンテージが無残に切り裂かれる。 「!?……あの魔王の力にも耐えた服が……一撃でボロボロ……」 舞は茫然とした表情で自らの無残な姿を見つめた。 「さあ、今度こそ楽にしてあげるわ!」 七瀬はカードをスラッシュする。 『ナスティベントだよもん!』 「八道葉界!」 七瀬は再び、舞の魂を『異界』へと飛ばす技を放った。 「死界とは言ってくれますね……まあ、あながち間違ってはいませんが……誰がそんな世界にしたと思っているのですか……」 フードの女が呟く。 彼女は『迷宮』から一歩も動かずとも、外の世界で行われている全てのことを見通していた。 彼女の『目』から逃れることができるモノはこの世界には存在しない。 彼女の『目』は遙かな高見から全てを見下ろしていた。 「……ブーストベント……超加速」 ブーストベント『超加速』。 瞬間的に自らの速度を三倍にするカード。 以前、さゆりん☆メガフレアを回避し、佐祐理を斬り捨てる際に使用した技でもあった。 舞は逃げ続ける。 七瀬の八道葉界の影響を受けない所まで。 「……ブーストベント……超加速レットゾーン」 舞はもう一度同じカードを装填した。 舞の移動速度が六倍になる。 そして、体への負担も六倍に……。 「……くっ……ここまで逃げれば……んっ!?」 「お疲れさま」 逃げた先には七瀬が当然のように待ち構えていた。 「……そんな……」 「所詮、あなたの『力』なんて乙女の掌の上のサブキャラにすぎないのよ」 「……そう……逃げられないのなら、やっぱり……倒すしかない!」 舞は剣を上段に構える。 「笑えない冗談ね。衣装すらボロボロな今のあなたに何ができると言うの?」 「……あなたを倒せるまで……何十回でも、何百回でも攻撃を繰り返す……ただそれだけっ!」 舞の体から今までにない強大な闘気と魔力が溢れ出した。 舞の体をとりまく闘気、魔力といった『力』が形を成していく。 「破壊された衣装が再構築されていく!?」 「……私は死なない……魔を……お前滅ぼし尽くすまで何度でも甦り……最後にはお前を倒す! ソードベント! 氷結剣!」 衣装を完全に再構築させた舞は、冷気を宿らせた剣を七瀬に斬りつけた。 後方に跳んでかわした七瀬は、舞の剣の宝石に注目する。 「なるほどね、氷結剣が青……氷(水)の属性の負荷、衝雷剣が緑……雷(風)の属性負荷ってわけね」 ソードベントの際、それぞれ、対応する六芒剣の宝石が輝いていた。 「……緑は雷だけじゃない……ソードベント! 魔風剣!」 舞が緑色の宝石の輝く六芒剣を振るうと、七瀬の乙女空破斬のような風の刃が撃ちだされる。 「ちっ!」 七瀬は乙女空破斬で魔風剣を相殺した。 「ソードベント! 魔光剣!」 今度は緑色の光が七瀬に向かって放たれる。 「ちぃっ! うざいわよ!」 七瀬は魔力の光をあっさりと木刀で粉砕した。 「そんなせこい技のオンパレードであたしを倒せると本気で思っているの?」 「……倒す! ソードベント! 振動剣!」 黄色の宝石が輝く。 しかし、剣は何も変化したように見えなかった。 「もういい加減終わりにさてもらうわよ!」 七瀬は舞に斬りかかる。 舞の六芒剣と七瀬の黄金乙女が交錯した。 「んっ!? しまった!」 七瀬は何を思ったのか、突然剣を引き戻そうとする。 だが、その判断は僅かに遅かった。 紙か何かのようにあっさりと、黄金乙女が『切断』される。 魔風剣や魔光剣など鬱陶しいだけの脆弱な攻撃に苛立って、判断力が鈍っていたのだ。 黄色の宝石は、『土』の力。 剣を石なり、金剛石になりに変えて硬度をアップする技あたりだと勝手に決めつけていたのである。 舞は『振動』剣と言った。 その真の意味を剣と木刀が交錯するまで気づかなかったとは……。 硬度を高めるのではなく、硬度を無効にする攻撃。 振動により、分子や原子といった次元で物質を崩壊させたのだ。 いくら、全てが黄金という硬質な物質で作られている黄金乙女でも『物質』である以上この攻撃を受け止めることはできない。 「……これで終わりにする! ソードベント! 黒狼剣!」 黒い光輝の刃と化した六芒剣が七瀬の胴を切り裂いた。 舞は六芒剣を地面に突き刺すと片膝をついた。 基本技とはいえ、これだけ連続で多用すれば『力』の消耗も激しい。 ソードベント『黒狼剣』。 黒い光輝の刃が触れた物を全て空間ごと削り取る技だ。 もう力は殆ど残っていない……もし黒狼剣で七瀬を倒しきれていなかったら……。 「……駄目ね……なんでこう詰めが甘いのかしら……」 仰向けに倒れている七瀬が呟く。 「格下の相手に不覚を取るなんてね……それもファイナルベントとかの力押しならまだしも……こんな地味な形で……」 七瀬はふらつきながらも立ち上がった。 胴体の肉がかなりえぐり取られている。 「…………」 舞は、六芒剣を引き抜くと、ふらつきながらも上段に構えた。 最強のファイナルベントである『断魔剣』を使う力はもはや残っていない。 他のファイナルベントも一発撃てるかどうかといった所だ。 「……大物ぶって……全部の力を使わずに負けることほど間抜けなこともないわね……もはや、手段を選ばず、乙女最大の奥義で葬ってあげるわ!」 七瀬は切断され、元々の半分の長さしかない黄金乙女を構える。 『ファイナルベントだよもん!』 スリットのある柄の部分さえ残っていれば問題なくカードは使えるのだ。 「乙女天舞!」 七瀬が両手の拳を胸の前で合わせた瞬間、七瀬と舞の存在する空間がピンク色に染まる。 「乙女とは宇宙の真理、真の乙女は全てのヒロインの魅力を合わせ持つ完全なる調和のとれた存在なのよ!」 「……どういう意味なの?」 「すぐに解るわよ……まずは、みさき(盲目さん)!」 七瀬が舞に向かって右手をかざした瞬間、舞は暗闇に支配された。 「……目が……見えない……?」 何も見えない。 見えるのは闇だけである。 「次は澪(喋れないの)!」 「……!?……!……!」 舞は言葉を発することができなくなった。 「茜(嫌です)!」 舞の体が麻痺したように動かなくなる。 「他人との接触……触角を失った気分はどうかしら? これはおまけよ、繭(みゅーみゅー)!」 舞は匂いまで感じられなくなった。 「さあ、あなたに残された最後の五感聴覚も破壊してあげるわ……詩子(他人の言うことを聞かない)!」 何も見えず、聞こえず、喋れず、感じられず、匂いを嗅ぐことすらできない。 舞は五感の全てを断たれ、完全な無の世界に落ちていった。 「トドメよ、舞! 乙女彗星拳!」 七瀬は無数の光の鉄拳を舞の心臓一点を狙って放つ。 舞は受けることもかわすこともできないはずだった。 しかし……。 「なにかがあたしの鉄拳を遮っている……無力なはずの舞に何が……」 七瀬は驚愕の表情を浮かべていたが、しばらくすると表情が苦笑に変わる。 「そうか、そういうことね。あなたは肉体や技術だけではなく精神まで鍛え上げていた……精神力による最後の抵抗ってわけね……いいわ、それならあなたの精神……第六感まで破壊してあげるわ! 瑞佳(だよもん)!」 舞は地面に倒れ込んだ。 「これで舞はもう心臓が動いているだけ……最後にその心臓も止めて、楽にしてあげるのが……せめてもの慈悲かしら……」 七瀬はゆっくりと拳を引き絞る。 舞の心臓を打ち抜くために……。 その時だった。 恐ろしいほど強大な闘気と魔力が無力なはずの舞から立ち上ったのは……。 「嘘よ!? 真の乙女であるあたしを凌ぐほどの『力』の波動!?」 (……今の私は……全ての感覚を失い……『力』だけが高まっている……) 七瀬に、舞の『声』が聞こえてくる。 喉からでる音である声とは違う、直接魂に響いて来るような『声』だ。 (……制御不能なほどの『力』が際限なく高まっているの……) 「まさか……潜在的な『力』を引き出すために、わざとあたしの乙女天舞を!?」 (普段自分の意志でコントロールできる『力』だけではお前に及ばない……それなら、普段……自らの体を守るために無意識に抑圧し、眠らせている『力』を……全ての『力』を引き出すしかない……) 動かないはずの舞の両手が六芒剣を握り、上段に振り上げられた。 「あなた解っているの!? なんのために『力』が制御されたり、抑圧さているのか! 全ての『力』を解放なんてすれば体が保つはずがない! それに仮に耐えられたとしても全ての『力』を使い切ったら……待っているのは死だけよ!」 (……これしか手段は……無い!) 「やめなさい、舞! そうまでして、あたしを倒すことに何の意味が……」 (……お前はこの世界に居てはいけない存在……この世界に災いをもたらす者……だから消し去る……例え、あたしも消えることになっても……) 「あなた、あたしの正体を知って!?」 (…………) 舞は答えずに無言で、ファイナルベントを装填する。 「やめて、舞ぃ! あなたがホントに滅ぼさなければならない『魔』はあたしなんかじゃなくて、郁未と佐祐……」 (白のファイナルベント……) 六芒剣のダイヤモンドが狂おしいほどに激しく輝いた。 「舞ぃぃぃぃっ!」 (光輝剣舞!) 一条の光輝の矢と化した舞が七瀬を貫く。 その直後、七瀬の存在している空間を何千、いや何億もの光輝の線が埋め尽くした。 「……フフフッ……軽い気持ちで……このゲームにちょっかいかけたのが……間違いだったみたいね……」 七瀬は全てを悟ったような安らかな笑みを浮かべる。 「まあいいわ、無為に時を潰して待つよりも……この方がいいのかもしれない……」 「…………」 舞の手から六芒剣が離れ、第2段階の変身も解けた。 舞はゆっくりと七瀬の方を振り返る。 「……じゃあ、またね……永遠の果てでまた会いましょう……」 「…………」 安らかで、楽しげで、少し意地悪げな笑みを浮かべながら、七瀬留美という存在は跡形もなく『消滅』した。 「ベギラマだよぉぉっ!」 「ふぇっ!?」 エターナルワールドを歩いていた佐祐理に突然、超高熱の破壊エネルギーが襲いかかってきた。 佐祐理は最小限の動きで熱線をかわす。 熱線の飛来してきた先には、黒い帽子に黒マントといった魔女ルックに身を包んだ霧島佳乃が立っていた。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで、カノサバ第44話をお送りしました」 「またちょっと間が開いちゃったわね……まあ、なんとか一応今回で七瀬さんの話が片づいたことは片づいたんだけど……」 「乙女座になりすぎましたね。最初はホントにちょっとだけ採用するはずだったのですが……いつのまにかまるでアレが原作(元ネタ)とでもいった感じに……」 「いまいちだったから、根本から書き直そうかとも思ったんだけど……それよりも、さっさと『真の最終章』に行った方がいいわよね?」 「そうですね、最終章も何話かかるか予想不能ですし……では、今回はこの辺で……」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 「ミもフタもないアドヴェント解説」 『超加速』 原作でアクセルベントが出る前から考えていたのに……。 超加速、レットゾーン、デッドゾーンと三枚まで重複使用できる(最高九倍速)。 V−MAXをイメージしてくださいと言って解る方いるんだろうか? 『紅蓮剣』『氷結剣』『魔風剣』『振動剣』『光速剣』『黒狼剣』 それぞれ、剣に火水風土光闇の属性を付加させる魔法剣。 風の変形である雷属性の『衝雷剣』、魔力そのものを撃ちだす『魔光剣』などもある。 『光輝剣舞』 光輝(光の闘気)を込めた剣で、相手を億単位に切り刻む光速剣。 十七分割の凄いのというか、ライトニングプラズマ(光の線)をイメージしてください。 『乙女天舞』 永遠に属する五人+αのヒロインの魅力(特徴)を相手に与える。 繭が嗅覚なのが一番説得力がない……五感(+第六感)封じ技。 元ネタは言うまでもなく乙女座の人。 |