カノン・サバイヴ
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「川澄舞……魔王狩人川澄舞ね……いったいどうやってブラックホールから生還したのかしら?……いや、そんなことよりこのあたしの手を傷つけたことでどんな報いを受けるのか解っているの?」 「私は全ての魔を滅ぼす……ただそれだけ! 赤のファイナルベント! 紅蓮天衝斬!」舞は六芒剣を七瀬の足下に突き刺した。 次の瞬間、七瀬の足下から火柱が立ち上り、七瀬を空に押し上げる。 そして、全身を炎に包み、火の鳥と化した舞が七瀬に向かって飛翔した。 「……冬場には丁度良い暖房ね」 七瀬は空中で回転し、体勢を整えると、カードをスラッシュする。 『ソードベントだよもん!』 「乙女覇皇剣!」 七瀬は黄金の光の龍と化すと、火の鳥と化した舞と正面から激突した。 あっさりと勝敗はつく。 競り負けた火の鳥が地上に墜落した。 「力の違いが解った? あなた達『鍵界』のヒロインごときから見れば『神』にも等しい、このあたしを滅ぼすなんてことは絶対に不可能だということがこれで解ったでしょ?」 「……神……?」 紅蓮天衝斬を破られたダメージで片膝をついている舞が上空の七瀬を見上げる。 「ええ、大地にひざまづいて、助けてください、乙女様と拝めば……もしかしたら、助かるかもしれないわよ?」 七瀬はクスクズと悪戯っぽく笑った。 「……私は神など信じない……例え、神だろうと魔であるならば滅ぼす……それだけだ!」 舞の体中から凄まじい闘気と魔力が沸きだし、嵐を起こす。 「……黒のファイナルベント!」 舞は宙に浮かぶ七瀬より、さらに上空に一瞬で移動した。 「なんて禍々しい力……あなたの方がよっぽど魔よ……」 「崩魔重圧殺!」 舞の振り下ろした剣から黒い光輝が放たれる。 黒い光は七瀬に命中すると、球状に七瀬を取り込んだ。 「なに? こんな黒い光の球の中に閉じ込めたからって……ぐぅっ!?」 七瀬の体に凄まじい圧力がかかる。 七瀬を包み込んでいる黒い球体がじょじょに縮んでいった。 「……崩魔重圧殺は……闇の力……無限に圧縮を繰り返し、取り込んだモノごと最後は消滅する……」 「……が、ぐがああああああっ!」 黒い闇の球はすでにバスケットボールぐらいの大きさになっている。 さらにどんどん小さくなっていき、ベースボールサイズにまでなった。 「……闇に消えろ!」 舞はトドメとばかりに、さらに『力』を闇の球に込める。 その瞬間だった。 闇の球の中から腕が突き出されたのは。 「……!?」 無表情な舞の顔に明らかに驚愕が浮かぶ。 突き出た腕は『内側』から自分を閉じ込める闇の球を引き裂いた。 闇の球が引き裂かれた際の力の爆発が辺りを完全に破壊し尽くしていた。 「なるほどね……重力、引力といった力を操れるのなら、重力崩壊の塊であるブラックホールから生還するぐらい訳もないわね」 無傷な七瀬が感心したような口調で呟く。 それに対して、舞は剣を地面に突き立てて、辛うじて倒れずに立っていた。 「くっ……」 舞はデッキに手を伸ばす。 「今度はどんな必殺技を見せてくれるの? 水? 風? それとも土かしら?」 デッキに触れた舞の手が止まった。 どれを使えばいい。 どれを使えば目の前のこの魔物を倒せるのだ? どれを使っても、倒せる気がまるでしない。 「さすがにファイナルベントの三連続使用は体も辛いんじゃないの?」 七瀬の言う通りだった。 体にもだいぶガタが来ている。 それでも、ファイナルベントを使うしかなかった。 僅かでもこの魔物を倒せる可能性のある手段がそれだけである以上……。 「……この身に代えても……魔は絶対に滅ぼす!」 舞の体から再び闘気と魔力が溢れ出す。 「なるほど……確かにあの時よりは少しは強くなったみたいね」 七瀬は苦笑を浮かべた。 「……あの時? お前と会うのは初めて……のはず……」 「あなたは一度、このあたしに見逃してもらっているのよ」 「……?」 「あの時、言ったはずよ。あなたはあたしと出会ったことを全て忘れると。だが、もしあなたが再び敵としてあたしの前に姿を現せば……その時は恐怖と共に全ての記憶が甦る」 七瀬の言葉を聞いているうちに、舞に言いようのない不安感が高まっていく。 そして……。 「天上天下唯我乙女(あたしは七瀬! 七瀬なのよ! この世で唯一人の真の乙女!)!」 七瀬の一言と同時に、舞の脳裏に衝撃が走る。 舞は全てを思い出した……。 夜の学校。 私は一人で『魔物』と戦い続けていた。 魔物といっても、それは私自身の『心』の欠片、『力』の欠片達であった。 最後の欠片と戦い、分かり合い、融合を果たす。 そして、私は完全な存在となった。 「……これであの魔物……魔王を倒すことができる……」 青い髪の女。 今まで戦ってきた私自身の欠片とは違う、本物の『魔』の者。 私にこのデッキを渡し、戦うことを促し続ける女。 いいだろう、望み通り戦ってやる……ただし、お前とだ。 私は負けない。 私は完全な存在になったのだから……。 『へぇ……やけに『上』が騒がしいと思って見に来てみたら……面白い存在が居るじゃないの、この世界にも……』 女の声が突然聞こえてきた。 そして、声のした所を見ると、女が立っている。 私と同じ、この学園の制服を着ていた。 青い髪をツインテールにしていて、竹刀を持っている。 見た目は普通の少女にしか見えない……でも、あたしには解っていた。 これは人間ではなく、『魔物』。 それも、あの青い髪の女に優とも劣らない極上の『魔』の塊だ。 ここまで近づかれるまで、これほど強烈な魔の気配を放つ存在に気づかなかったのが不思議で仕方がない。 「……魔は滅ぼす!」 私は『魔物』に向かって、飛びかかった。 先ほど手に入れたばかりの『力』を全て剣に集中させる。 「魔即斬!」 あたしの渾身の一撃は、あっさりと『魔物』の持つ竹刀で受け止められていた。 『……なるほど、物ではなく、人外の者を斬るための剣ね……』 『魔物』は右手に持った竹刀で剣を受け止めながら、左手の人差し指で軽く剣を弾く。 次の瞬間、私の剣が粉々に砕け散った。 「!?」 さらに『魔物』は無造作に竹刀を振り、私の胴に叩きつける。 衝撃を感じた瞬間、私は吹き飛び、廊下の壁に叩きつけられていた。 『まだまだ『力』に目覚めたばかりで可愛いものね……』 『魔物』はクスクスと楽しそうに笑う。 「……魔……は……滅ぼ……」 私はなんとか立ち上がろうとするが、体に力が入らなかった。 『同じような『力』を持つ者のよしみで今回は見逃してあげるわ。あたしの目をよく見なさい』 私はなぜか逆らえず、『魔物』の瞳を凝視してしまう。 すると、私の意識が薄れてきた。 『あなたは、今日ここであたしと出会ったことの全てを完全に忘れるわ。けど、もし再び、あたしの前に敵として姿を現した時は、全てを恐怖と共に思い出すでしょう……その時は、最後まで……死ぬまで遊んであげるわ』 私の意識はすでに半ば消えかけている。 まともに思考が働かない。 『忘れるけど、覚えておきなさい。あたしの名前は七瀬留美、『永遠の向こう側』からやってきた永遠なる真の乙女』 その言葉を最後に『魔物』の姿は薄れ消え去り、私の意識も闇に完全に落ちていった。 「あの時の魔物!?」 「ようやく思い出してくれた?」 かって舞が手も足も出ずに敗れた唯一人の『魔物』。 舞の闘気と魔力が、七瀬を恐れるかのようにどんどん萎縮していった。 「この世界はあなたには似合っていないは……さあ、川澄舞、今から見せる世界から好きな世界を選ぶといい! そこがあなたの死に場所よ!」 『ナスティベントだよもん!』 「八道葉界!」 「んんんっ!?」 「まずは雫界! 電波に支配された狂気と恐怖の世界! ここに落ちた者は未来永劫狂気に支配され苦しむのよ!」 「痕界! 鬼という名の化け物達に支配された世界! 鬼に殺され、喰らわれる苦しみを永遠に繰り返す!」 「東鳩界! 一件普通の世界だが、魔女やロボットや超能力者などの人外にあふれた油断できない世界!」 「ホワルバ界! 雪に閉ざされた嫉妬と憎悪と裏切りと策略に満ちあふれた世界! その世界で生きる者の心は消して安らぐことはない!」 「マジカル界! 魔女の玩具として弄ばされ続ける世界! 魔法という驚異の前では全ての希望を捨てよ!」 「こみパ界! 萌と燃えだけしか存在しない修羅の世界! 血と殺戮! 常に誰かと争わなければならない! 休むことなく永遠に戦い続けなければならないのだ!」 「誰彼界! 何の価値もない虚無の世界! 何の面白さも刺激もない、無為なる永遠の繰り返し!」 「うたわれ界! まさしく弱肉強食の世界! 耳や翼を生やした一件可愛い者達が、殺したければ殺し、喰らいたければ喰らうケダモノの世界!」 舞はうつ伏せに倒れており、身動き一つ取らない。 「……息絶えたわね。どこに堕ちたの、舞? あなたに似合いそうなのはさしずめ、こみパ界か、うたわれ界ね」 七瀬は足下の舞を見つめながら呟いた。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで、カノサバ第43話をお送りしました」 「まあ、一応わざわざ外伝にはしなかったわ。途中で川澄先輩一人称の過去話が入ったけど……」 「しかも、二人以外の他のキャラを一切出さなかったのに、決着が付きませんでしたね」 「前後編って感じね。次回決着!……すればいいわね……」 「もはや、ホントに原作は関係ないですね……」 「まあね、八道葉界なんて技が出るくらいだしね……」 「では、今回はこの辺で……」 「……まあいいわ。良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 「ミもフタもないアドヴェント解説」 『崩魔重圧殺』 元ネタ無し。けれど探せばいくらでも似たような技ありそう。 黒い光の球体に閉じ込め、球体を際限なく圧縮(縮小)していって、最終的にはこの世から消滅させる。 『八道葉界』 乙女だから乙女座……。 葉界という『次元』に存在する八つの『世界』に相手の魂を堕とす技。 |