カノン・サバイヴ
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指命を果たすために。 因縁を断ち切るために。 運命を変えるために彼女は甦る。 再び戦い、再び死ぬために彼女は甦るのだ。 「いきます、シュートベント！ ヴォルカニックゴットフレイム！」 巨大な白狐『真琴』とそれに付き従う全ての妖狐が一斉に口を開けた。 「へぇ……」 パーティドレスに変身完了した七瀬は笑みを浮かべて次の行動を待ち構える。 「発射！」 全ての妖狐が一斉に火球を七瀬に向けて撃ちだした。 「香里さんなら一撃で消し飛ばすところなんでしょうけど……ここは地味に……」 『ガードベントだよもん！』 「乙女ストリームバリア！」 全ての火球が七瀬の直前で、まるで透明な壁でもあるかのように遮られる。 「そんなっ！？」 「たいした技じゃないわ。両手をマッハの速さで旋回させジェット気流を起こすことで、空気の壁を作りだし、あなた達の火球を防いだだけよ」 「……説明的なセリフ有り難うございます！ ソードベント！ ミシオン群狐剣！」 美汐が神剣を召喚し、斬りかかると同時に、妖狐達も七瀬に喰らいかかった。 「雑魚が何十匹かかってきても、あたしには無意味なのよ！」 『ファイナルベントだよもん！』 「乙女流星拳！」 無数の光の拳が全ての妖狐と美汐を撃ち落とす。 「追撃の乙女彗星拳！』」 七瀬はファイナルベント（第１段階の）を連続で放った。 先ほどの流星拳と違い、一点に集中した光の拳達が全て美汐の体に激突する。 「かはぁっ！」 美汐は、派手に吹き飛び、名雪や観鈴達が埋まっている瓦礫に激突し、自らも瓦礫の中に埋もれていった。 「「ふん……この段階のファイナルベントを使うまでもなかったわね……」 七瀬はつまらそうに呟く。 「……そうね、一応トドメを刺しておいた方がいいかしらね？」 七瀬は一枚のカードをデッキから取り出した。 「ビルごと跡形もなく消し飛びなさい！」 七瀬はカードをスラッシュさせようとする。 その時、何かが飛来し、七瀬の手からカードを弾いた。 「……髪の毛？ こんなものがあたしの手を傷つけたというの？」 七瀬の手の甲に髪の毛が一本突き刺さっている。 七瀬はまるで針のように硬質化している髪の毛を引き抜いた。 「……何？ この恐ろしく攻撃的で禍々しい闘気は？」 誰かがここにやってくる。 それも、自分、香里、郁未に匹敵するクラスの『力』の持ち主がだ。 『……魔は滅ぼさなければならない……』 声が響いてくる。 その声で七瀬はこの闘気の持ち主が誰なのか『思い出し』た。 「ああ、そうね……あなたの存在を忘れていたわ……」 激しく強く、そして禍々しい闘気が人の形を成していく。 『全ての魔を滅ぼすまで……私は死ねない……』 七瀬の目の前に『川澄舞』が立っていた。 「……佳乃？」 刃物と化した黄色いバンダナが聖の心臓を貫いていた。 「あれぇ、心臓を刺されても即死ってしないのかなぁ？」 佳乃が聖から飛び退くと同時に、鋭利な刃物と化していたバンダナが元の普通のバンダナに戻る。 「……か……佳乃……どうして……？」 「お姉ちゃん、かのりんはねぇ……」 佳乃はバンダナに手をかけると、一気に解いてしまった。 古い自殺の傷痕。 その傷痕が、聖に目の前の少女が佳乃であることを再認識させる。 「魔法が使えるようになったんだよぉ〜！」 佳乃はそう言うと、左手を聖に向けて突き出した。 「イオラ！」 佳乃の『呪文』と同時に、聖の足下が突然爆発する。 「ねぇ、かのりん凄いよねぇ！」 「……か……佳乃……」 「で、『魔法』が使える『大人』になったから……もう、お姉ちゃんはいらないんだよぉ！」 佳乃は右手の人差し指で聖を指さした。 「メラゾーマだよぉぉっ！」 佳乃の指先から激しい炎が吹き出す。 その炎が何かの形を成していった。 「究極にまで洗練された炎は一つの形を成すんだよぉ……これがかのりんだけの『炎』……ゴットポテトだよぉ！」 美しく激しい炎で創り出されたポテトが聖に向かって飛翔する。 「バイバイだよぉ、お姉ちゃん〜♪」 「かのおおおおおぉぉぉっ！」 ゴットポテトが聖に激突した直後、霧島聖という存在はこの世から一瞬で跡形もなく『焼失』した。 「…美味しいお茶でした……末期のお茶？」 美凪は立ち上がった。 「……行かれるのですか？」 向き合って座っていたフードの女が問いかける。 「…はい、お世話になりました。栞さんにもよろしくお伝えください……もう会えないでしょうから……」 美凪は懐から一枚のカードを取り出した。 「…これだけは貰っていきます……」 いつのまにか、美凪の手にはカードの代わりに一降りの日本刀が握られている。 『デスブレード』、元々は栞のソードベントの一つだった物だ。 「…栞さんには大鎌と銃の方が似合っています……」 日本刀というのは力任せでは最大限の力を発揮できない。 技術と知識を必要とする武器だ。 その技術と知識が栞には無く、美凪には有る。 ただそれだけの差……そしてそれは絶対的な差だ。 「……自分だけ苦労を、損をしているとは思わないのですか？」 「…霧島さん……神尾さん……いえ、佳乃さんと観鈴さん……できの悪い『姉』達の始末をするのは『妹』としての当然の役目ですから……」 「……できの悪い『姉』ですか……その例えなら私にも解らないこともありませんね」 フードの女は微かに笑みを浮かべる。 「…では、ごきげんよう」 美凪は上品に別れの挨拶を済ませると、『外』への階段を登っていった。 「第１段階のままでなんて……お姉ちゃん、私を馬鹿にしてますね！」 「……あなたにはこの姿で充分なのよ」 栞と香里の対決はそんな会話から始まった。 「えうぅ！ ファイナルベント！ エターナルスノー！」 両肩のサテライトバニラキャノン、雪玉４ガドリング砲、胸部と両足の雪玉ミサイルポットが一斉掃射される。 「栞……その技は不完全ね……消えろ、脆弱なる幻の雪よ！ シュートベント！ 不可視の核撃！」 香里が右手を突き出した瞬間、栞と香里の間の空間が大爆発した。 「……えぅ……いつのまに核撃なんて使えるようになったんですか……それにしても、エターナルスノーがあんなあっさり消し去られるなんて納得いきません！」 栞が香里にそう主張する。 香里と栞はお互いに殆ど無傷だった。 「栞、あなたは組み合わせを間違えているのよ。全ての武器を同時に使えば、全ての武器の攻撃力を合計した攻撃力が出せると勘違いしている……そんな単純な『算数』じゃないのよ」 香里はできの悪い生徒に講義するように語る。 「まず、サテライトバニラキャノンが、無理に他の火器と同時発射しようとし集中と溜めが不十分なせいで、本来の十分の一も威力も出ていない」 「えぅ！？」 「さらに、サテライトバニラキャノンは他の雪玉のような『爆破』ではなく、『凍結』を目的とした兵器、同時に使用しても『威力』を相乗的に高めはしない……下手をすればマイナスかもしれないわね」 「えぅ……」 香里の言っている理論……理屈は説得力があった。 「それなら、まだ肩の武装は第１段階の時使っていた雪玉キャノンでも装備した方がマシね」 「えぅ……」 栞は何の反論もできない。 香里は、栞自身より、栞のことが解っているといった感じだ。 それが栞には何か悔しく、気に入らない。 「ならもうこれしかありません！ シュートベント！ サテライトバニラランチャー！」 デススノーマンが巨大な砲身に変形した。 栞は自分よりも巨大なその砲身と自らの体を連結させる。 「サテライトバニラランチャーの威力は、ダブルサテライトバニラキャノンの威力を上回ります……勿論、お姉ちゃんのトリプルメガバニラ粒子砲にだって負けません！」 最上位のシュートベント.、栞の持つ最強の破壊兵器。 だが、今までこれを使わなかったのには訳があった。 「撃てるの？ あなたの体が保つかしら？」 全てを見透かしたように、香里が言う。 「えぅ……」 この技（兵器）を使えば命ははない……そう銀髪の美女に言われていた。 サテライトバニラランチャーは、栞の精神力、体力……そして生命力を吸い上げる。 その上、発射の際の衝撃が、体に与える負担も未知数だった。 「犬死にはよしなさい、栞……」 「えぅ！ お姉ちゃんに負けるぐらいなら死んだ方がマシです！ サテライトバニラランチャー発射ですぅ！！！」 空の彼方から一筋の光が栞の胸に向かって降り注ぎ、砲身のファンから高熱が放射され、。 ダブルサテライトバニラキャノンを上回る高出力の白い閃光が撃ちだされる。 「……なんでそう意地っ張りなのよ……無駄に命を縮めるんじゃないわよっ！」 香里はファイナルベントのカードを装填した。 「出力だけはトリプルメガバニラ粒子砲を確かに上回ってる……だけど、それでもあたしは倒せないのよ、あなたには！！！」 香里は左手を突き出し、右腕を引き絞る。 「これがあたしの最強の一撃よ！」 次の瞬間、青い閃光が室内を埋め尽くした。 「……そんな……なんですか、アレ……お姉ちゃんは……滅茶苦茶です……」 栞はうつ伏せに倒れ込んで、顔だけ香里に向けていた。 もう身動き一つ……指一本動かす力すら残っていない。 栞の背後の壁が全て綺麗に『無くなって』いた。 「だいたい……アレ……『一撃』じゃないです……」 「あ、見えてたの？ 良く解ったわね、栞」 香里はまだかなり余力があるように見える。 流石に、呼吸も少し乱れ、かなり疲れているようたが、栞ほどではなかった。 「本来、第１段階用のファイナルベントじゃないのに無理して打ったから……かなり疲れたわよ」 香里は呼吸を落ち着けるように、大きく息を吐いた。 「……結局、お姉ちゃんには……敵わないんですね……」 「そうでもないわよ。あなたは強くなったわよ、栞。ただ……」 「……ただ？」 「お姉ちゃんが強すぎたのよ、ごめんね、栞」 香里は少し意地悪くクスリと笑う。 「……お姉ちゃんなんて……大嫌いです……」 栞は力のない笑みを微かに浮かべた後、意識を失った。 次回予告（美汐＆香里） 「というわけで、カノサバ第４２話をお送りしました」 「三カ所同時中継？だったせいで、予想外に時間がかかったわね。やっと『彼女』が出せたわ……」 「まあ、基本は七瀬さんの方の話で、香里さんと栞さんの話はどこに入れてもいい話という感じですね。別に前回のどこかに入っていても無問題だったと思います」 「まあ、作品内の時間軸では、七瀬さんが戦闘開始したのと同じ頃だからね、あたしと栞のやりとりは……」 「さて、次回は少し変わった感じになるかもしれません。次回に当たる話が４３話になるのか、外伝扱いになるのか書いてみないと解らないといった感じです」 「どのみち、舞さん……川澄先輩中心ってところね」 「では、今回はこの辺で……」 「……まあいいわ。良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 「ミもフタもないアドヴェント解説」 『ヴォルカニックゴットフレイム』 ヴォルカニックってどういう意味でしたっけ？ 火山的？ 真琴と配下の妖狐達による神火（火球）の一斉発射。 『乙女ストリームバリア』 最初はクリスタルウォール（ムウ）にしようかと思ったけど、七瀬らしく無いので、ジェット気流バリア（ミスティ）にしました。 両手をマッハの速さで旋回させジェット気流を起こすことで、空気の壁を作りだす防御技。 『ゴットポテト』 メラゾーマ（最強火炎呪文）の佳乃風アレンジ。 『サテライトバニラランチャー』 ダブルサテライトバニラキャノンを上回る高出力でバニラビームを撃ち出す大砲（デススノーマンが変形）。 |