カノン・サバイヴ
第41話「逆襲のさゆりん」


あたしはずっとずっと待ち続けている。
この異境の地で、『刻』が訪れるのを一人永遠に待ち続けていた。
あたしは寄る辺なき者。
この世界にとっての異物。
誰とも縁を結ぶこともできず、この世界に受け入れられることも決してないのだ。



「さあ、今度こそ誰が真の乙女か決着をつけましょう」
七瀬は観鈴と名雪と対峙していた。
今度は、この前の久瀬の最後の時のように時間切れにはさせない。
時間はまだまだたっぷりとあるのだ。
「二人がかりでいいわよ。それでもまだ足りないぐらいだから」
「観鈴ちんをなめるながおっ!」
観鈴は跳躍すると、ダーク空を背中に装着し黒い翼を生やす。
そして、そのままファイナルベントを放った。
「ファイナルベント! どろり濃厚斬!」
『ソードベントだよもん!』
「ぬるいわよっ! 乙女飛翔斬!」
ドリルのように回転しながら落下してくる観鈴に対し、七瀬は自らもドリルのように回転しながら飛翔する。
空中で二つの人間ドリルが激突し、大爆発を起こした。
「がおっ!?」
観鈴は弾き飛ばされ、背中から地上に激突する。
一方、七瀬は余裕を持って、優雅に地上に着地した。
「七瀬さん、辞めようよ〜、戦う理由なん……」
「ええ、無いわね」
名雪は最後まで言葉を口にするより早く、斬り飛ばされる。
「だお!?」
ソードベント『乙女疾風斬り』、高速で突進して相手の胴体を一閃する技だ。
「あたしは別に叶えたい願いなんてないわよ。あなた達が願いを叶えるための過程である『戦い』がしたいだけなの……暇潰しにね」
「ひ……暇潰し……?」
「ええ、暇潰しよ!」
ふらつきながら立ち上がった名雪に、七瀬はソードベント『乙女九頭龍閃』を放った。
「だおおおおおおおっ!」
名雪は派手に吹き飛ぶと、ビルに激突する。
「隙ありだよ!」
第2段階に変身した観鈴が、七瀬の注意が名雪に向いていた間に、ファイナルベント『翼人特攻』を発動していた。
「そう、迷わず戦おうとする分だけ、あなたは名雪さんより強い……けれど!」
『ファイナルベントだよもん!』
「まだまだ弱いわよ! 乙女流星拳!」
無数の光の拳と共に、七瀬が神奈に激突する。
「がおお!?」
弾き飛ばされたのは、神奈(バイク形態)の方だった。
「弱い……弱すぎるわよ!」
七瀬は苛立ったようにそう言うと、さらにシュートベント『乙女空破斬』を放つ。
『乙女空破斬』は落下中の観鈴を吹き飛ばし、ビルの傍でなんとか立ち上がろうとしていた名雪に激突させた。
「期待外れね……暇潰しにもならなかったわ……」
七瀬は、瓦礫に埋もれている二人に背を向ける。
その時だった。
『パレードベント! 妖狐大行進!』
無数の狐を引き連れた巨大な双頭の白狐が進軍してくる。
まるで津波のような狐の群が七瀬を呑み込んだ。
「くっ!」
七瀬は狐達の攻撃をなんとかさばき続ける。
しかし、最後の巨大な白狐の突進はかわせずに、はね飛ばされた。
宙に舞う、七瀬。
「ソードベント! 天野神剣!」
白狐の頭部から跳躍した少女、天野美汐は、古い日本の直剣を召喚し、七瀬に斬りかかる。
「……とっ!」
七瀬はなんとか空中で体勢を整えると、竹刀で美汐の剣を受け止めた。
二人は空中で数度斬り合った後、それぞれ、地上に着地する。
「なかなか見事な不意打ちだったわよ」
七瀬は楽しげな笑みを浮かべた。
「試合ではなく、殺し合いで、正面から挑むのは愚か者のすることです」
美汐は剣を正眼に構える。
「そうね、卑怯なんて言わないわよ。でも……」
七瀬の姿が唐突に消えた。
「なっ!?」
「でも、不意打ちじゃ倒してもあまり面白くないでしょ!」
七瀬は、消えた時と同じように唐突に美汐の足下に出現すると、ソードベント『乙女飛翔斬』を放つ。
美汐は剣で竹刀を受け止めることには成功するが、そのまま七瀬の馬鹿力で空に打ち上げられてしまった。
そこに七瀬はすかさずシュートベント『乙女空破剣』で追撃する。
「ガードベント! 天野神鏡!」
美汐は両手を重ねて突き出した。
美汐の突き出した両手の前に、美しい装飾のされた鏡『神鏡』が出現する。
『乙女空破剣』……真空波の刃が鏡の中に吸い込まれていった。
「利子を付けてお返しします」
鏡の中から空破斬が撃ちだされる。
「ちっ!」
七瀬はもう一度『乙女空破斬』を放ち、美汐の撃ちだした『乙女空破斬』と相殺させた。
「なかなかやるじゃ……くっ!?」
二発目の空破斬が七瀬に直撃する。
「利子をお付けしますと言ったはずですよ」
美汐は、『乙女空破斬』の直撃を受けた七瀬に、急降下しながら斬りかかった。
今なら、『乙女空破斬』のダメージで少なくとも、体勢ぐらいは崩しているはずである。
『乙女飛翔斬』で迎撃することはできないはずだ。
しかし、美汐の急降下の一撃はあっさりと竹刀で受け止められる。
七瀬は力任せに竹刀を振り、美汐を弾き飛ばした。
「くっ……なんて馬鹿力ですか……」
「なかなかやってくれるわね。流石にこの姿のままじゃ失礼だったかしら?」
七瀬は殆どダメージを受けていない。
「いいわ、あなたには『永遠』の力の一端を見せてあげるわ」
そう言った次の瞬間、七瀬の姿がピンク色の光に包まれた。



「どうすればあそこまで切り刻まれて甦ることができるのか……医学的に興味がないこともないがっ!」
両手に三本ずつ握られたメスが佐祐理を切り裂こうとする。
「ふぇっ!」
佐祐理はバックステップと同時に剣で防御しメスの攻撃を辛うじて耐えきった。
「あははーっ♪ さゆりん☆ハンマー♪」
刃が消え、柄が伸び、先端の形状が変化し……剣から巨大なハンマー(大槌)に変形する。
「無茶な変形をする……質量や体積というものを無視していないか?」
「あははーっ♪ 魔法なんだから当たり前ですよ♪」
佐祐理はハンマーを振り下ろした。
聖は後方に跳んでかわす。
ドオオンという凄まじい音と共に、先ほどまで聖が立っていた場所に小さなクレーターができていた。
「あははーっ♪ あははーっ♪ あははーっ♪」
佐祐理はハンマーを振り回し続ける。
そして、それを聖がかわし続け、地面がクレーターだらけになっていった。
「威力は凄いが、そんな遅い攻撃に当たるわけがあるまい……シュートベント! シューティングメス!」
聖はハンマーの一撃をかわすと同時に、計六つのメスを投げつける。
「ふぇ!? ガードベント♪ さゆりん☆ブラックホールバリア♪」
佐祐理の目の前に、小型のブラックホールが創り出され、メスをあっさりと呑み込んだ。
「あははーっ♪ さゆりん☆クィーンビュート♪」
ハンマーは一瞬で元の魔法のステッキに戻ると、先端から七色の光を吐き出し、ムチと化す。
「ちっ!」
聖は再度召喚したブラッティーメスで、襲いかかってきた光のムチを切り裂いた。
「さゆりん☆ソード♪」
ステッキから吹き出した七色の光が今度は刃として物質化する。
マジカルセブンチェンジャーの変形のタイムロスは一秒以下だった。
「シュートベント! レーザーメス!」
聖は人差し指から赤い光を撃ちだす。
「あははーっ♪」
佐祐理は剣で光をあっさりと切り裂いた。
「ならこれは耐えられますか? さゆりん☆ドリルクラッシャー♪」
刃が消えると、今度は先端がドリルのように変形する。
ドリルが回転開始すると同時に、柄が伸び、聖に襲いかかった。
「ちっ! ぐはぁっ!?」
聖はメスで受けようとしたが、ドリルはメスを弾き、砕き、聖の右肩を貫く。
「あははーっ♪ 少し狙いがそれましたね♪ 今度こそ心臓を一突きですよ〜♪」
佐祐理は一度、柄の長さを元に戻し、聖の右肩からドリルを引く抜くと、再度ドリルを突き出した。
「シュートベント! レイン・オブ・メス!」
その時、佐祐理の頭上からメスが雨のように降り注ぐ。
「ふぇっ!?」
ドリルは聖に向けて伸ばし中、バリアの類を作る間はない……かなりの数のメスが佐祐理に直撃した。
「……はぇ〜……痛いじゃないですか♪」
「ちっ! 致命傷にはならないか……」
佐祐理は体中に切り傷を作りながらも、寧ろ楽しげにあははーっ♪と笑う。
「あははーっ♪ お返し行きますよ♪ さゆりん☆マジカルバレル♪」
魔法のステッキがかなり無理のある変形で、銃に変形した。
「なっ!?」
「ファイナルベント♪ マジカル☆シュート♪」
銃の先端から高出力の七色の光が撃ちだされる。
「くっ! ファイナルベント! ライトニングポテトシュート!」
聖はファイナルベントを発動させた。
七色の光とメカポテトが激突する。
直後、凄まじい閃光と爆発が起こり、二人を吹き飛ばした。



「……はぇ〜……」
瓦礫の中から佐祐理が姿を現す。
佐祐理は辺りを見回した。
聖の姿がどこにもない。
逃がしたようだ。
「はぇっ! ふぇっ!」
佐祐理は苛立ちをぶつけるように、銃を建物や空に向けて乱射しようとした。
しかし、銃は無反応。
先ほどの一撃で魔力を全て撃ち尽くしたようだ。
「ふぇっ!?」
さらに、佐祐理の体がブレ始める。
「あははーっ♪ お楽しみはお預けですか♪」
佐祐理は近くの瓦礫を何度か蹴飛ばした後、少し欲求不満そうな表情でエターナルワールドを去っていった。



聖はふらつきながら、エターナルワールドを歩いていた。
あの爆発の際に離脱せずに、戦いを続けていればおそらく自分は負けていただろう。
あの銃による一撃は自分のファイナルベントと互角……いや、僅かに自分のファイナルベントを上回っていた。
そして、佐祐理にはそれ以上の技や武器がおそらく存在する。
「これが第一段階と第二段階の差といったところか……」
戦闘技術や戦術の未熟さ、早い話無駄の多さが佐祐理の欠点だった。
だが、今は圧倒的な武器の破壊力がそれを補って余りある。
技術と経験だけで、圧倒的なパワーに対抗するのは難しいことだ。
不可能ではない……現に、前の戦いで『力』で劣る聖が佐祐理を倒せたように……。
「……どうしたものかな……んっ?」
聖の前方に人影が現れる。
「……なあああああっ!?」
あまりに信じられないモノを目撃し、聖の思考が一瞬停止した。
「…………か、佳乃!?」
佳乃は死んだはずである。
こんな所に居るはずがないのだ。
頭では解っている。
けれど、現に今、目の前に佳乃が居るのだ。
「お姉ちゃん〜!」
佳乃が駆け寄ってくる。
「佳乃っ!」
聖は両手を広げて、佳乃を迎える形をとった。
幻でもいい。
佳乃を……妹を再び抱きしめることができるのなら……。
佳乃は聖の胸に飛び込んでくる。
「お姉ちゃん〜!」
「佳乃!!」
そして、姉妹が抱き合った直後、聖の背中から黄色い刃が突き出ていた。













次回予告(美汐&香里)
「というわけで、カノサバ第41話をお送りしました」
「疑似ヒロイン編はすでに終わってるようなものね……七瀬さんは少しあの人達(斉藤、久瀬)雑魚と違うから……)」
「予定では、七瀬さん対三人の決着までついて、その後のアレまでいくはずだったのですが……その後の佐祐理さんvs聖さんが長引いてしまい、そこまでいけませんでした」
「あなたが名雪達みたいに素直に瞬殺されなかったのがそもそも悪いような気も……」
「では、今回はこの辺で……」
「……まあいいわ。良ければ次回もまた見てね」
「戦わなければ生き残れません」




「ミもフタもないアドヴェント解説」

『乙女疾風斬り』
高速の抜き打ち胴……相手を横一文字に斬り捨てる突進技。

『乙女飛翔斬』
対空技。大昔、闘神伝ってゲームがありましたね……。


『妖狐大行進』
インペラーのファイナルベントと似た感じ。
この技からさらにいろいろな技に繋げる(コンボ攻撃)ことができる。

『天野神剣』
天野家に伝わる三種の神器の一つ。
美汐の霊力(呪力)を破壊力に変える性質を持つ。

『天野神鏡』
天野家に伝わる三種の神器の一つ。
相手の攻撃を吸い込み、打ち返すことができる。


『マジカル☆シュート』
マジカルセブンチェンジャーのマジカルバレル形態(銃)で、自らの全魔力を破壊エネルギーに変えて撃ちだすファイナルベント。




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