カノン・サバイヴ
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彼女はいつものようにその場所に居た。 この場所を守り、管理し、ひたすらに『刻』が訪れるのを待ち続ける。 それが彼女の全てだった。 「おや、久しぶりですね、香里さん」 この場の番人たるフードの女は、突然目の前の空間から沸いて出た少女に声をかける。 「……あたしがここに来た用件は解っているわね?」 香里は挨拶や前置きは一切なしで、用件を告げた。 「はい、あのデッキのことですね?」 「あなたも七瀬さんも、今回の戦いには参加しない約束じゃなかったかしら?」 「ええ、そのつもりでしたが、あなた方の戦いが長引き、そして面白そうだったので、七瀬さんは気が変わられたそうです」 女は感情の感じられない声と瞳で淡々と話す。 「……そんな気まぐれで約束を反故にされちゃたまらないわね……」 「所詮は敵同士の口約束……私も、七瀬さんも、あなた方も、あくまで一時的休戦協定を結んでいるだけのこと……不毛な戦いを続けるより、刻を待つ方が良いと判断し……」 「気の遠くなる話よね……」 「ええ、ですから、時折、暇に耐えきれなくなり、『暇潰し』をしたくなるくらい多めにみていただけると嬉しいのですが……」 「……解ったわよ。本格的な戦争再開ではなく、あくまで『暇潰し』としてあなたはデッキを作り、七瀬さんはゲームに参加した……そういうことにしろということね?」 「はい、流石、香里さん、物分かりが良くて助かります」 女が初めて感情を見せた。 口元を微かに歪む、おそらく笑ったのだろう。 「それにしても、あなた達、仇同士のくせに最近馴れ合ってない?」 「余計なお世話です。それで、用件はもう済みましたか?」 「ええ、デッキを作ったあなたと、それを使って乱入してきた七瀬さんの真意、それを確かめに来ただけだから」 話は終わったとばかりに、香里は姿を消そうとした。 その時、『下』への階段から誰が上がってくる。 喪服のような黒い着物を着た銀髪の少女だ。 「……あなたの場合、元気?って挨拶するのも変よね……生きていないんだし……」 「…ちっす」 茫洋とした表情で遠野美凪は挨拶を返す。 「……なんで、『下』に潜っているのよ、あなたが?」 「…約束をすっぽかされて暇だったからです……えっへん」 美凪は胸を張ってそう答えた。 「えぅっしょん! 今誰かに噂でもされた気がします」 多分、あの銀髪の美女なような気がした。 特訓の約束を破ってここに来たから……。 「えぅ、今はそれどころじゃないですね。特訓の成果を実験で試す時です!」 栞はスノーバイザーデュオにカードを装填する。 「シュートベント! 雪玉4ガドリングです!」 栞は雪玉4ガドリングを召喚すると、七瀬に向けて発砲した。 「ん?」 名雪と斬り合っていた七瀬は、飛来する無数の雪玉に気づくと、慌てずにカードをスラッシュする。 『ソードベントだよもん!』 「乙女九頭龍閃!」 七瀬は、久瀬のアクセルベント並みに加速すると、自ら雪玉の弾幕に飛び込んだ。 「えぅ?……えううううううううううぅっ!?」 雪玉の弾幕を貫いて、栞の目の前に七瀬が現れる。 そして、そのまま栞を九カ所同時突きで突き飛ばした。 栞は派手に吹き飛ぶと柱に激突する。 「ふん、やっぱり弾幕貫いた後じゃたいした威力ないわね」 七瀬はもう栞には興味を無くしたといった感じで、再び名雪に攻撃対象を戻した。 「シュートベント! メテオケロピー!」 ケロピー火焔弾が七瀬に向けて発射される。 『シュートベントだよもん!』 「乙女空波斬!」 七瀬が高速で振り下ろした剣により生まれた真空波がケロピー火焔弾を真っ二つに切り裂き迎撃した。 「これで終わりよ」 七瀬はファイナルベントを装填しようとする。 その時、 「バニラストームです!」 デススノーマンが吐き出した竜巻のような吹雪が七瀬に炸裂した。 「さあ、新しいファイナルベントを見せてあげます」 栞の両肩にはサテライトバニラキャノンが、両手には雪球4ガドリングが装着される。 さらに、栞の両足と胸に、雪玉ミサイルポットが出現した。 「ファイナルベント! エターナルスノー!!!」 全ての火器が、七瀬を呑み込んだ竜巻に向けて、同時に発射される。 栞は勝利を核心した。 動きを封じる竜巻と共に、七瀬は跡形もなく吹き飛ぶしかない。 しかし、突然竜巻に真っ二つに『亀裂』が走ったかのように見えた次の瞬間、一瞬にして竜巻が消滅した。 虚空に、パーティドレスを身に纏い、黄金に輝く木刀を持った七瀬が浮いている。 「流石、香里さんの妹ね。少しは楽しませてくれるわね」 「えぅ! お姉ちゃんは関係ないです! お姉ちゃんは!」 竜巻を切り裂かれたのは驚いたが、今更勝敗は変わらないはずだ。 竜巻の拘束を解いたとはいえ、今からでは雪玉とバニラビームを避けるのは不可能なのだから。 『シュートベントだよもん!』 「乙女覇皇剣!」 七瀬は黄金の木刀を、迫る雪玉とバニラビームに向かって投げつける。 黄金の木刀が巨大な光の龍に変化すると、全ての雪玉とバニラビームを呑み込み爆発した。 無傷の七瀬が、優雅に大地に降り立つ。 少し遅れて、黄金の木刀が回転しながら飛来し、七瀬の右手に収まった。 「えぅ〜……初めての必殺技は素直にくらって倒されるのが礼儀なんですよ!」 「どこの礼儀よ、それ」 七瀬は黄金の木刀を振る。 その度に、木刀が美しい輝きを放った。 「さて、あなた達の言うところの第2段階になった以上、もう手加減はできないわよ。この黄金乙女の錆になる覚悟はできたかしら?」 「えぅ? 木刀って錆びるんですか?」 「……えっ? いや、この木刀は金でできてるから……金は錆びるのよね?」 「私に聞かないでください! というか、金でできていたら『木刀』じゃないです! 『金刀』です! キントウ! キントウ!」 「ちょっと、何勝手に変な名前付けてるのよ!?」 「キントウはキントウです! それ以外の何者でもありません!」 佐祐理は妙な既視感を覚える。 何か前にもこんなことをしたことがあるような気がするのだ。 「えう! 解りました。あなた、お姉ちゃんに似ているんですね?」 昔、『仲が良かった』頃、こうやってよく姉である香里とくだらないことで言い争いをしていたのである。 「何急にしんみりしているのよ……?」 「七瀬さん!」 観鈴とずっと戦っていた久瀬が声をかけてきた。 「どうやら、そろそろ時間切れのようだ。撤退しますよ」 「………………」 七瀬は答えずに、無言で久瀬を見つめる。 「……七瀬さん?」 「……そうね、そろそろ潮時ね」 七瀬はボソリと呟くと、口元を歪めた。 「七瀬?」 久瀬は、様子がおかしい七瀬に近づく。 「ウザイ!」 七瀬のその一言と同時に、黄金乙女が久瀬を切り裂いた。 「……な……七瀬……君は……?」 久瀬は切り裂かれた脇腹を押さえて蹲る。 「そろそろ潮時と言ったの。あなたに付き合うのはね……聞こえなかったかしら?」 七瀬は意地の悪い笑みを浮かべて、自分の足下で蹲っている久瀬を見下した。 突然のできごとに、名雪達も茫然と二人を見つめている。 「あなたには感謝しているわ。デッキを作るための材料を提供してくれたり、この国に戸籍すらないあたしを学園の生徒にしてくれたり……だから、しばらくあなたの野望(ゆめ)に付き合ってあげたのよ……でも、それももうお終い」 七瀬は黄金乙女を振り上げた。 「これからせっかく、彼女達とバトルを楽しもうって時に、あなたみたいなウザイ存在は邪魔なのよ、戦闘意欲が白けるの……あたしの気持ち解るわよね、会長は頭がいいから」 「……ふ、ふざけるな!」 『アドベントだよもん!』 赤いオープンカーに変形したモンスターが七瀬を轢き殺すような勢いで疾走してくる。 七瀬は後方に軽く跳ぶと、オープンカーの突進をあっさりとかわした。 『ファイナルベントだよもん!』 オープンカーに飛び乗ると、久瀬は七瀬を轢き殺すために、車を走らせる。 七瀬は笑みを浮かべたまま、やれやれと言った感じでため息を吐いた。 ゆっくりとした動作でデッキに手を伸ばす。 カードを引き抜こうとした瞬間、七瀬の表情が一瞬変わった。 何かを感じたように一瞬だけ鋭い表情を浮かべた七瀬は、再び笑みを浮かべると、デッキから手を離す。 「そうね、あたしが殺る価値もない男……あなたに譲るわよ」 そう呟くと同時に、七瀬は遥か上空に向かってジャンプした。 「ちぃっ!」 久瀬が舌打ちする。 オープンカーは七瀬がさっきまで居た場所を通過し、さらに加速していった。 「逃がさん! 逃がしはしませんよ! 僕は裏切り者は決して許さない!」 久瀬はハンドルを切り、Uターンしようとした。 その時である。 「アドベント……ダブルフォックス」 無数の狐の群がオープンカーに突撃してきた。 「くっ! ええい! このまま全匹轢き潰してやる! ファイナルベント! ワールドデットドライブ!」 高速スピンした車が次々と狐達を弾き飛ばしていく。 「フッ、所詮、狐など……なああっ!?」 勝ち誇った笑みを浮かべようとした久瀬が驚愕の表情で固まった。 もう一匹、狐が突進してくる。 久瀬のオープンカーよりも巨大な双頭の九尾の白狐だ。 白狐の上には、豪華な装飾の巫女装束の赤毛の少女が乗っている。 「……『真琴』、喰らいなさい……」 久瀬は咄嗟にオープンカーから飛び降りた。 次の瞬間、オープンカーが白狐の一つの頭に一口で噛み砕かれる。 「……化け物……」 久瀬は逃げ出した。 どう考えてもこんな巨大なモンスター反則である。 「真琴、吠えなさい」 オープンカーを噛み砕いたのとは別の頭が口から赤い光を吐き出した。 光は久瀬の真横を通り過ぎ、一瞬で、久瀬の隣の地面を蒸発させる。 久瀬はもはや恥も外聞もなく、ただ恐怖に支配され、逃げ続けた。 「真琴、お回りです」 巨大な白狐がグルンと一回転する。 その際、尻尾の一つが、久瀬をボールのようにかっ飛ばした。 断末魔の声と共に、久瀬は空の彼方に吸い込まれていき、すぐに見えなくなる。 「あ、ごめんなさい、真琴……アレ、食べたかったですよね?」 『グルルルルルッ……』 「えっ? 不味そうだから、あの男はいらない……そうですか、それなら問題ないですね」 豪華な巫女装束の少女、天野美汐は女神のような穏やかで優しげな笑みを浮かべて自分の相棒を見つめていた。 「く……なんということだ……」 久瀬は生きていた。 ボロボロになりながらも、なんとかエターナルワールドから一時脱出しようと歩き続けている。 「七瀬……それに、あの化け狐の女……覚えていたまえ……次は必ず殺し……」 ドスッ! 「がはぁっ!?」 久瀬は自分に何が起きたのか解らなかった。 突然、体を何かに撃ち抜かれたように感じ、口から血が吐き出されたのである。 自分の体を三又の矛のような物が貫いているという事実に気づくのにはかなりの時間がかかった。 『あはは〜っ♪ ここですか、祭りの場所は♪』 ゆっくりと一人の少女が遠くからこちらに近づいてくる。 その少女の姿は『魔法少女』としか言いようのないものだった。 しかも、やけに派手で装飾過多で、いかにも番組後半のパワーアップバージョンというか、二段変身後といった感じである。 久瀬はその魔法少女の顔に見覚えがあった。 「倉田……佐祐理?」 久瀬以上の権力と財力を持った家の令嬢として生まれながら、殺人鬼として刑務所に入れられた少女。 「ふぇ? もうお祭り終わっちゃったんですか? 食べ残しみたいなのしか残っていません♪」 『食べ残し』、佐祐理の視線が久瀬に向いていることから考えると、間違いなく久瀬のことを言っているのだろう。 「あははーっ♪ 戻れ〜さゆりん☆トライデント♪」 「ぐっ!?」 久瀬に突き刺さったままだった三又の槍が、意志を持ったかのように独りでに久瀬の体から抜け出すと、佐祐理の左手に向かって飛んでいった。 「さゆりん☆クィーンビュート♪」 佐祐理がそう言うと、三又の先端が消え、代わりに七色に輝く光が柄から吐き出される。 佐祐理が柄……ロットを振ると、光はムチのようにしなり、久瀬に炸裂した。 「ぐがはあっ!」 「あははーっ♪ 佐祐理の新しい魔法のステッキ(バイザー)『マジカルセブンチェンジャー』は七種類の武器に変形してとても便利でお買い得なんですよ♪」 光のムチは久瀬の首に巻き付く。 佐祐理はそのままムチを振り上げ、久瀬を空高く放り上げた。 「あははーっ♪ ホールドベントです♪」 佐祐理は久瀬を追うように空高く舞い上がる。 空中で久瀬に追いつくと、佐祐理は自分の右足を久瀬の首に、左足を久瀬の左足に引っかけた。 さらに、右手で久瀬の右手、左手で久瀬の左手を掴み固定する。 「あははーっ♪ さゆりん☆マジカルスパークです♪♪♪」 佐祐理はそのまま錐揉み回転しながら、地面に向けて落下した。 「……が……ぅ……ぅ……」 「あははーっ♪ あははーっ♪ まだ生きているんですか? 呆れたしぶとさですね♪」 さゆりん☆マジカルスパークをくらっても久瀬はまだ微かに生きている。 佐祐理は久瀬の髪の毛を掴むと、再び空高く放り上げた。 「今度こそ、終わりですよ〜♪ シュートベント♪ さゆりん☆ギガフレア♪」 通常の魔法ステッキ形態になったバイザーから赤い熱線が撃ちだされると同時に、背後に出現していたジェノサイダー北川の口と両肩からも超々高熱の熱線が放射される。 四条の熱線が一つの究極の熱線と化し、久瀬に直撃した。 悲鳴を上げる間もなく、久瀬という存在は髪の毛一つ、いや、細胞一つ残さず消滅する。 「あははーっ♪ 超重力の魔法女王さゆりん、ここに完全復活です♪ 伊達にあの世は見てないですよ♪」 佐祐理の高笑がエターナルワールドに響いた。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで、カノサバ第39話をお送りしました」 「はい、元ネタ忠実なようで、実は殆ど忠実なかったわね、今回は。というか、前回までは忠実ぽくできたというべきかしら……」 「省略した部分は再現しようがなかったり、再現しても面白くもなかった部分です。例を上げるなら、謎の狐遣いの少女が、あっちこっちのヒロインに契約金せびるなんて話は再現してもしょうがないし、意味もなければ面白くもありませんよね」 「それはそうよね。というわけで、前回の戦いから一気に疑似(男)ラストまでやっちゃったのよ」 「ある意味原作忠実な「前座」は終わり、本当のヒロイン達+七瀬さんの「本戦」が次回から始まります」 「そうね、復帰や復活しまくりだし……ああ、ちゃんと生きてた理由の説明は今後あるので、ツッコミは待ってね」 「では、今回はこの辺で……」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 「ミもフタもないアドヴェント解説」 『乙女九頭龍閃』 九カ所の急所を同時に撃ち抜く突進技。 『乙女空破斬』 空破斬ってダイ? 龍狼伝? スターオーシャン?……というぐらいよくある技(及びネーミング。 高速で振った剣の真空波で相手を切り裂く基本技。 『黄金乙女』 第2段階のバイザー。 七瀬の乙女心(力)を無限の破壊力に変える伝説の木刀(全て金でできてる)。 『乙女覇皇剣』 黄金乙女に大量の闘気を込めることにより、光(黄金)の龍を創り出す。 『エターナルスノー』 第2段階の装備による『エンド・オブ・スノー』のような全弾発射技。 装備のレベル(破壊力)が上がった分、体にかかる負担は多い。 『マジカルセブンチェンジャー』 七種類の武器に変形する万能な魔法のステッキ(バイザー)。 『さゆりん☆マジカルスパーク』 どこぞの筋肉一族の三大フィニッシュホールドの一つ。 つまり、そういう伝説のプロレス技です。 『さゆりん☆ギガフレア』 さゆりん☆メガフレアをさらりパワーアップさせた究極の熱線呪文。 |