カノン・サバイヴ
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僕の名は久瀬。 下の名前は秘密だ。 久瀬様、久瀬会長と気安く呼んでくれて構わない、僕は寛大だからね。 今はまだこの学園の支配者にすぎないが、いずれはこの世界の全てを支配することになる男だ。 そのために邪魔な存在がある。 天沢郁未、エターナルワールド、そしてそれに関わる全ての者。 あんな非常識な『力』を持つ者達を野放しにしていては、いつ僕の野望の妨げになるか解ったものではない。 だから、斉藤から天沢郁未の存在を、七瀬からエターナルワールドとデッキとヒロインについて聞いた時、今回の行動を思いついたのだ。 『……この紙に書いてある材料を用意してください』 「……オリハルコン、ガマニオン、スターダストサンド……聞いたことのないものばかりだが……?」 久瀬が今話しているのは、七瀬から紹介された常にフードで顔を隠している胡散くさい女だ。 しばしの沈黙の後、女は新しい紙に何かを書き始める。 『……失礼、ではこれなら用意できますか?』 「ダイヤモンド、プラチナ、プルトニウム、爆縮レンズ、形状記憶合金、流体金属……まあ、これなら手に入らなくもないが……」 『では、お願いします。二度手間の制作になりそうなので、早く欲しいなら、材料の調達を急いでくださいね』 「二度手間?」 『スターダストサンド……放射性物質の粉を集めたり、この世界の金属でオリハルコン……重圧反応精神感応金属を作ったり……まず材料の変換をしなければなりません』 「……まあ、いいだろう。どれだけ日数がかかる?」 『あなたが材料を早く調達してくれれば、その分早くできあがります』 感情の一切感じられない声と瞳で女は言った。 「……わかった。すぐに用意させよう」 気に入らない女だったが、期待以上の物を作り上げてくれたのでよしとしよう。 オルタナティヴデッキ。 これは良い物だ。 天沢郁未の抹殺、エターナルワールドの抹消以外にも使えるかもしれない。 あの女と、あの女を紹介してくれた七瀬には感謝してもいいかもしれないな。 さて、斉藤が思った以上に役立たずだった以上、僕が直接動き回らなければいけないようだ。 やれやれ、困ったものだな……。 「香里……助けてくれたんだな」 「相沢君……」 香里はしばらく、祐一を見つめた後、無言で踵を返し立ち去ろうとする。 「待て、香里! なぜ俺は狙われたんだ!? なぜ、お前は俺を助けたり……」 香里は足を止めた。 「……郁未さんの代わりよ。彼女が生きていたら、あなただけは必ず守ったでしょうから……」 祐一に背中を向けたまま香里は答える。 「郁未……秋子さんが……」 「相沢君、あなたは何も知らなくていいのよ。あなたは大きな意味では関係者ではあるけれど……個々の殺し合いとはもっとも縁遠い所にいるのだから……」 「どういう意味だ?」 「あなたは居るだけでいいのよ。何もしなくていい。何も心配しなくていい。あなたの命だけはあたしが守るから……」 そう言うと、香里は再び歩き出した。 「ま、待て、香里!」 祐一は後を追おうとする。 「……じゃあね、相沢君」 祐一の目の前で、香里の姿は掻き消えた。 とある港。 久瀬の前に香里が姿を現していた。 「直接、僕を潰す気かな? 天沢郁未の下僕である美坂香里さん?」 「あなたに世界を救う乙女になれるチャンスをあげるわ」 「ほう……」 「モンスター達を大量に学園に仕込ませておいたわ。あたしの合図一つで一斉に無差別にモンスター達は学園で殺戮を開始するわ……」 香里は感情を感じさせない声で淡々と言う。 「正気かね? 君の通っていた学園でもあるはずだ、クラスメイト、親しかった友人も居るだろうに……」 「とっくに普通の人間やめてるあたしにとっては、他人が、人間が何十人、何百人死のうが関係ないわ。でも、あなたは違うはずよ? 学園の支配者であるあなたにとっては生徒達は大事な下僕でしょ?」 香里は薄笑みを浮かべていた。 「選ばせてあげるわ。オルタナティヴのデッキを渡し、全てを破棄するか? それとも、あたし達の邪魔を続けるのか?」 その時、観鈴と七瀬が姿を現す。 「香里さん……どうしてそんな酷いことができるの……?」 「無駄よ。会長は目的達成のためなら手段も犠牲を問わない真の乙女だから」 「あなたは黙ってて!」 「あなたみたいな甘ちゃんは乙女たる資格ないわね……」 「戦って決めればいいわよ、誰が真の乙女かをね」 言い争っていた観鈴と七瀬は、香里の言葉に従うかのように、互いのデッキを取り出した。 『変身がお(よ)!』 二人は変身すると、エターナルワールドの中に消える。 「さあ、あなたの答えを教えてもらえるからしら、生徒会長さん?」 「…………答えは決まっているのだよ! 最初からね!」 そう言うと、久瀬はデッキを放り上げた。 久瀬はタキシード姿に変身完了する。 「生徒は皆、僕の『物』。僕のために犠牲になるのは義務なんだよ」 「そう……非道い生徒会長ね」 久瀬もまたエターナルワールドに消えていった。 エターナルワールドでは、観鈴と七瀬がどろり濃厚剣と竹刀で斬り合っていた。 そこに、久瀬のレイピアが割り込む。 「正気なの!? 生徒が何人犠牲になってもいいの!?」 「だから言ったでしょ、会長は自分の野望のためには犠牲を問わない真の乙女だって」 戦いは続いた。 観鈴がトリックベントで大量に分身すれば、アクセルベントで加速した久瀬や、七瀬の力任せの竹刀がまとめて分身を薙ぎ払う。 かと思えば、今度はブラストベント『がおサイクロン』が二人をまとめて吹き飛ばした。 「とどめがお!」 観鈴は第2段階に変化すると、ファイナルベントを装填する。 『ファイナルベントだよもん!』 立ち上がった久瀬もファイナルベントのカードをスラッシュさせた。 機械とも怪物ともつかない奇妙なモンスターがやってくる。 奇妙なモンスターは赤いオープンカーに変形した。 久瀬はオープンカーに飛び乗ると発車させる。 一方、観鈴もバイクに変形させた神奈備命で久瀬に向かって疾走していた。 「翼人特攻!」 「ワールドデッドドライブ!」 久瀬がオープンカーのボンネットの上に飛び移ると同時に、オープンカーが高速でスピンを開始する。 そのままスピン回転しながら、オープンカーは、突進してくる観鈴のバイクに激突した。 「くうぅっ!」 「がおおっ!」 久瀬と観鈴はお互いに派手に吹き飛ばされる。 威力は互角だったようだ。 二人はふらつきながら立ち上がると、再び戦いを開始する。 その戦いを遥か頭上の橋の上から眺めている少女がいた。 「えぅ〜、なんかごちゃごちゃしてますね〜」 死神の少女、栞の目が久瀬で止まる。 「えぅ? アレも……男もヒロインに数えていいんですか? 気持ち悪いですよ……まあいいです、久しぶりに格好良く決めます! ファイナル……えうううううっ!?」 ファイナルベントを装填しようとした栞を、背後から駈けてきた一匹の狐が突き飛ばした。 そのまま、栞は真下の混戦地帯に落下する。 「えうぅっ!?」 「……栞ちゃん?」 「えぅ〜……あ、観鈴さん、こんにちわです」 栞は少し気まずげに挨拶した。 「……こんにちわ」 観鈴もとりあえず反射的に挨拶を返してしまう。 狐は一匹ではなかった。 何匹もの狐達が混戦に割り込んでくる。 「ちょっと、何よ、この狐!? モンスターなの?」 七瀬は次々と狐を薙ぎ払いていった。 しかし、あまりの数でらちがあかない。 他の者も同じような状況だった。 そこへ、カイザーケロピー(バイク形態)に乗った名雪がやってくる。 「ファイナルベント バーニングヴァージンロード!」 名雪はファイナルベントで全ての狐をまとめて吹き飛ばした。 「久瀬さん……学校を襲おうとしてたモンスターは全て、わたしが退治してきたよ」 バイクから降りると、名雪は久瀬にそう告げた。 「一般生徒なんて何人死のうが知ったことじゃないわよ。会長はもっと大きな視野で物事を……」 「わたしは助けたいから助けただけだよ! 誰の死ぬところも見たくないの!」 久瀬の代わりに答えた七瀬に、名雪はそう言い返す。 「呆れた甘ちゃんね……そんなの真の乙女とは対極よ!」 七瀬は名雪に竹刀を叩きつけようとする。 名雪はケロピーブレイカーで竹刀を受け止めた。 「人の命を何とも思わないのが乙女なら……そんなものにはなりたくないよ〜!」 全てを『視ている』者が居た。 彼女の周りでは狐達が舞っている。 「お祭りはもうすぐですよ、皆さん」 巫女装束の少女は呟いた。 白い上着と赤い袴だけの地味な巫女服ではない。 質素だが美しい刺繍のされた上着、派手な髪飾りや鈴や勾玉などを身に纏っていた。 『………………』 「じゃあ、行きましょうか、茶番を終わらせるために」 少女が歩き出す。 すると、先ほどまで好き勝手に舞っていた狐達が、少女に付き従うように後を追って歩き出した。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで、カノサバ第38話をお送りしました」 「最初で最後の久瀬会長メインの回ね、きっと……冒頭まで占拠して……」 「まあ、原作忠実が良いと言う人も、無理に合わせるのがかえって良くないと言う人もいるので正直迷い気味ですが……ここから先は原作通りに行きたくても行けないので心配無用ですね」 「本編でも語ってるけど、オルタナティヴデッキを作ったのは久瀬会長じゃないわよ、一回の高校生がどれだけ財力や権力あったてあんなモノ作れるわけないじゃない」 「その時点で元ネタとは違いますしね」 「後、『だよもん』と喋っているのはバイザーなの! セリフじゃないの! 機械音声なの!……これが一番誤解されている気がするわ……」 「『だよもん』は意味はありますが、直接的な意味ではありません。詳しくは今後の本編で徐々に説明していく予定です」 「完全説明すると、ネタバレになっちゃうのよね……」 「では、今回はこの辺で……」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 「ミもフタもないアドヴェント解説」 『ワールドデットドライブ』 胸をはだけ、ボンネットに飛び乗り世界の果てへ……。 ボンネットに飛び乗ることに意味があるのか、スピンで落ちないのか、等のツッコミは無しの方向で。 要は恰好(良ければいいんです)だけです。 ちなみに、久瀬のコスチュームの没案として「王子様ルック」というのが……。 |