カノン・サバイヴ
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学園の生徒会室。 斉藤が七瀬に詰め寄っていた。 「どういうつもりだ、七瀬!? 勝手に相沢祐一のことを教えるなんて……やりにくくなるだけじゃないか!」 「彼女もあたし達と同じ考えになるかもしれないじゃない」 七瀬の方は斉藤をまるで相手にしていない。 「ならなかったらどうするんだ!」 「まあまあ、斉藤。言ってしまったものは仕方ないじゃないか。そんなに熱くなったら、失敗するぞ」 眼鏡の生徒会長久瀬が仲裁に入った。 「するとしたら七瀬のせいだ……」 「失敗はしない。僕がこの世界を支……この世界を救うためにも、我らは救世の乙女にならなければならないのだよ」 「……正直、そんなことはどうでもいいんです……天沢郁未の計画さえ潰してやれれば……あの女は俺のことを『背景以下扱い』しやがったんだっ!」 「事実じゃないの……」 七瀬はボソリと呟く。 「うがああああああああああああああっ!」 七瀬の呟きが聞こえたのか、天沢郁未を思い出したのか、斉藤は暴れ出した。 「やめろ! やめたまえ、斉藤! これは復讐ではないのだよ」 久瀬の制止の声を聞き、斉藤はやっと冷静さを取り戻す。 「……二度と邪魔するなよ、七瀬」 「………………」 そして、七瀬に釘をさすが、七瀬は肯定も否定もせずただ無言だった。 「ファイナルベント! どろり濃厚斬!」 苛立ちを誤魔化すように、モンスターを戦い倒すと、観鈴は水瀬家に帰ってきた。 「観鈴さん……また戦ってたんだね……?」 観鈴は名雪の問いには答えずに、家に入ろうとする。 「晴子さんがまた眠ってしまうかもしれないんだよ!」 「……うん、解っているよ」 「だったら、なんで傍に居てあげないの!?」 「…………」 「観鈴さんが他のヒロインを全て倒して、それで晴子さんが助かっても、晴子さんは喜ばないと思う……」 「にはは……そんなことは解っているよ」 「だったら……」 「それでも……お母さんに生きていて欲しいんだよ!」 「例え世界中を敵に回しても、お母さんを死なせたくない……それが間違ってるか、正しいかは関係ないの……そのためだけに観鈴ちんは戦う……それだけだよ」 観鈴は名雪の横を通り過ぎて家に入っていった。 「観鈴さん……」 モンスター襲来音と共に姿を現す『剣道着』。 「だおおっ!」 名雪は変身し、エターナルワールドに入ると同時に、剣道着を蹴り飛ばした。 「祐一に……手を出さないでっ!」 「だおおっ!」 「うおおおっ!」 ケロピーセイバーと釘バットが火花を散らす。 「一つを犠牲にするのは勇気でもなんでもないよおっ!」 名雪はケロピーセイバーで釘バットを跳ね上げた。 武器を失った剣道着を全力で殴り飛ばす。 「わたしは、大きな犠牲も一つの犠牲も出さないよ。綺麗事かもしれないけど……今はそれしかない」 名雪はそう告げると踵を返し立ち去ろうとした。 しかし、剣道着は立ち上がると、カードをスラッシュする。 『アクセルベントだよもん!』 剣道着は急加速すると、名雪を釘バットで殴りまくった。 「だ、だおぉ……」 さらに、剣道着はファイナルベントもスラッシュしようと……。 『ファイナルベントだよもん!』 剣道着がスラッシュするよりも早く、どこからともなく聞こえてくる女の声。 「乙女流星拳!!!」 先ほどの機械音のような女の声とは違う、明らかな生の女の声が響くと同時に、無数の光の拳が剣道着を貫いていく。 さらに、アイマスクを付けた少女が、光の拳の後を追うように姿を現すと、剣道着を派手に殴り飛ばした。 剣道着の変身が解ける。 「七瀬さんじゃない……?」 剣道着の正体は名雪のクラスメイトの斉藤だった。 「斉藤君!?」 名雪は倒れて苦しんでいる斉藤の元に駆け寄る。 「……水瀬……お前は……間違……」 名雪に体を支えられたまま、斉藤の姿は光の粒子になって消滅した。 アイマスクの少女はそれを見届けると、エターナルワールドから去っていく。 「ま、待つお〜っ!」 名雪も後を追って、エターナルワールドを後にした。 エターナルワールドから出ると同時に互いの変身が解ける。 謎のアイマスクの少女の正体は七瀬留美だった。 「七瀬さんが……仮面だったの?……どうして、斉藤君を!?」 「あたしも、相沢君を殺したく無くなったのよ」 「だ、だからって……」 「斉藤君には悪いことしたかもしれないわね?」 七瀬は笑みすら浮かべてそう言う。 「したかもしれないって……そんなっ!」 名雪は七瀬の胸ぐらを掴んだ。 「やっちゃったものは仕方ないわよ〜」 七瀬は意地悪げな笑みを深める。 七瀬の態度はどこまでも軽薄だった。 先ほどまで、名雪達が居た場所に一人の少女が立っていた。 「無駄足でしたね」 少女は呟く。 「あまりに雑魚すぎました。あなたの餌になる価値すらありませんでした……所詮は背景以下の男キャラといった所ですか」 少女がクルリと踵を返すと、綺麗な鈴の音が響いた。 『…………』 「そうお腹がすいたの? もう少し我慢してね。次こそは美味しい獲物を食べさせてあげるから」 『…………』 「解ってくれたんですね。では、行きましょうか」 少女は静かな足取りでエターナルワールドから去っていく。 その後を、巨大な『何か』が少女に付き従うように歩いていった。 夕焼けの野原。 観鈴の前に死んだはずの香里が現れた。 「……やっぱり、観鈴ちんが殺したのは偽物だったんだね。アレは誰だったの?」 「アレもあたしよ。無限に続く時の中の一つのあたしの可能性という名の存在、無限に存在する心のペルソナの一つ……」 「が、がお……難しいこと言って誤魔化さないで欲しいよ」 観鈴には香里が何を言っているのかさっぱり解らない。 「一言で言うならドッペルゲンガー、実在するただの鏡像よ」 「がお……」 やっぱり、よく解らなかった。 「そんなことより、あなたには戦ってもらう相手が居ると言ったはずよ」 「観鈴ちんも言ったはずだよ、戦う相手が居るなら、それはあなただって!」 「……相沢君が狙われているのよ」 少しの沈黙の後、香里が呟く。 「……!」 観鈴は、その呟きの内容を無視することはできなかった。 生徒会室。 久瀬は優雅に椅子に座りながら、鏡を眺めていた。 鏡には、モンスターとも機械ともつかない奇妙な存在が映っている。 「フッ……」 突然、生徒会室のドアが乱暴に開け放たれた。 「君は?」 「誰でもいいよ、警告に来たんだよ、祐一さんには手を出さないで」 そう言うと、生徒会室に入ってくる。 「……あなたが、神尾観鈴さんですか」 生徒会室に入ってきたのは観鈴だった。 久瀬は眼鏡の位置を人差し指でクイッと直す。 「聞いてる? 祐一さんには手を出さないで!」 「彼一人の犠牲で多くの命が助かるとしても?」 「うん」 久瀬は呆れたような笑顔でため息を吐いた。 「君みたいな人間には到底理解できないようだな、僕達の救世の行為が……」 「祐一さんの命を奪うことが救世?」 「結果的には間違いなくそうなる」 「どうしても辞めないというなら……」 観鈴はデッキをかざす。 「やれやれ、余計な犠牲は出したくないのだが……」 苦笑を浮かべると、久瀬もデッキを取り出した。 「変身がお!」 「フッ……」 久瀬はデッキを空に放り上げる。 落ちてきたデッキを受け止めると、 「変身!」 華麗に優雅に変身した。 エターナルワールドで観鈴と対峙するのは、学生服からタキシードに変身した久瀬。 『ソードベントだよもん!』 「ソードベントがお!」 久瀬はレイピアを、観鈴はどろり濃厚剣を召喚した。 「がおっ!」 「フッ!」 剣とレイピアが何度も交錯し、火花を散らす。 一見互角に見えるが、余裕がないのは観鈴だった。 久瀬は観鈴の攻撃を全て見切っている。 「フフフッ、僕は君と違って優秀なんだよ。攻撃パターンぐらい僅かなデータがあれば簡単に予測できるのだよ」 「が、がお……」 「言い忘れていたが、相沢祐一のことは諦めた方がいい、もう終わりだ」 「まさか、祐一さんに何を!?」 「世界を救うためだよ」 「がおおっ!」 観鈴は一度、久瀬と距離を取ると、空(AIR)のカードを取り出した。 大気の嵐が観鈴を包み込み、翼人☆観鈴が誕生する。 「ほう……」 「ブラストベント! がおサイクロン!」 飛来した神奈備命が撃ちだした竜巻が久瀬を襲った。 「くっ!」 久瀬は竜巻を切り払う。 「……助けに行く気か。だが、もう遅いのだよ」 いつの間にか観鈴の姿が消え去っていた。 祐一は、奇妙なモンスターに追いかけられていた。 どれだけ逃げても、街の中の反射物の中を移動するように追い続けてくる。 機械なのか、モンスターなのか、『それ』は祐一をエターナルワールドの中に引きずりこんだ。 そして、ゆっくりと祐一にトドメを刺そうとする。 その瞬間、 「シュートベント! 不可視の爆撃!」 突然の爆発でモンスターが吹き飛ばされた。 さらに連続で爆撃が起こる。 奇妙なモンスターは爆撃に追われるような形で逃げていった。 「……どうしてだ?」 祐一は自分を助けたゴスロリの少女に声をかける。 「……香里」 祐一を助けたのは美坂香里だった。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで、カノサバ第37話をお送りしました。やっぱり、生きてましたね、香里さん」 「誰もあたしがあれで死んだなんて思わなかったに決まってるわよ。元ネタですら、そうだったしね……」 「そうですね。というか、完全に郁未さんの役が香里さんのものになっているような……」 「まあいいんじゃないの、そんな細かいことは」 「細かいといえば、久瀬さんはあくまで生徒会役員ということしか原作では描写されていませんから、会長かどうか解らない……とかツッコミ入れる方がたまにいますよね」 「あそこまで好き勝手やったり、出しゃばったりしているのに会長じゃなかったら逆におかしいわよ……」 「まあ、所詮親の権力や財力傘にきて、学園で偉そうにしている傲慢なクズですから、会長じゃなくても可能なのかもしれませんが……」 「今……さらりとかなり酷いことを言わなかった?」 「事実しか述べていませんが、何か?」 「まあいいわ……あたしが弁護する理由も必要もないし……」 「では、今回はこの辺で……」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 「ミもフタもないアドヴェント解説」 『乙女流星拳』 1秒間に100発(99発は闘気の拳)の鉄拳を叩き込む技。 元ネタは言うまでも無し……名前のまんまです。 『釘バット』や『レイピア』 その名前の通りのただの武器。 タキシードだからって、スティックじゃあまりに弱すぎるのでレイピア、ただそれだけ。 |