カノン・サバイヴ
第33話「閃光のポテト」





「霧島佳乃という少女を知っているか? お前が殺したのか?」
聖は写真を佐祐理に突き付ける。
「ふぇ?」
佐祐理は聖が何を言ってるのか解らないっといった表情で可愛く首を捻った。
「どうなんだ!?」
「あははーっ♪ 退治した悪人の名前や顔なんていちいち覚えていないですよ♪」
「なっ……!」
「魔法少女である佐祐理は正義のために毎日何人も悪人をやっつけているんですから♪」
佐祐理は呆然としている聖を無視して、誇らしげに言う。
「君……貴様は自分が絶対の正義だとでも思っているのか? いくらでも人を殺す権利があると……?」
「あははーっ♪ 当たり前じゃないですか♪ 悪人だから佐祐理が殺すんじゃなくて、佐祐理が殺した存在が悪人、つまり悪なんですよ♪」
「…………」
聖は言葉を失った。
目の前の少女は完全に狂っている?
「正義は佐祐理が決めるんですよ♪」
そう言った瞬間、佐祐理の姿は聖の目の前に移動していた。
バイザーを兼ねた魔法のステッキが聖に襲いかかる。
「くっ……」
聖は身体をそらせて辛うじてステッキをかわした。
「ソードベント、ブラッティーメス」
聖の両手に血を固めたてつくったような赤いメスが三本ずつ召喚される。
「ふぇっ!?」
聖の両手が佐祐理を左右から切り裂くように交差されたが、その時には、佐祐理はすでに空高く跳躍していた。
「あははーっ♪ マジックベント♪ さゆりん☆サンダー♪」
天空から雷が次々と降り注ぐ。
「くっ!」
聖は辛うじて雷をかわし続けた。
「サンダー♪ サンダー♪ サンダー♪」
「くぅ……シュートベント、シューティングメス!」
聖は雷をかわしながら、両手のメスを上空の佐祐理に向かって投げつける。
「ふぇっ! ガードベント、さゆりん☆バリア♪」
佐祐理が杖を華麗に振ると、七色に輝く半透明な障壁が生まれ、全てのメスを跳ね返した。
「あははーっ♪ ファイナルベント♪ さゆりん☆メテ……」
「シュートベント、レイン・オブ・メス!」
「ふえええっ!?」
佐祐理がファイナルベントを発動するよりも早く、メスの雨が降り注ぐ。
「さよならだ、狂った少女よ……」
聖はファイナルベントのカードを装填した。
「ピコピコ……PIKO!」
聖の足下に鋼鉄で作られたメカポテトが姿を現す。
「ファイナルベント! ライトニングポテトシュート!」
聖はボールのように丸まったメカポテトをサッカーボールのように蹴飛ばした。
「ふぇ! ガードベント♪ さゆりん☆バリア♪」
七色に輝く半透明な障壁が形成される。

バリリィィィィン!

メカポテトボールはあっさりと障壁を破壊し、そのまま佐祐理に迫った。
佐祐理は考える。
このボールを防ぐ方法、一瞬の間にいくつもの方法が脳裏に浮かぶが、どれも防ぎきれる可能性の低いものばかりだった。
ファイア、サンダー、ブリザード……駄目だ、どれもボールに属性を追加効果を与えるだけで、炎なり雷を纏ったボールはそのままの勢いで自分に激突する。
パンチング、手刀パンチング、両手パンチング、後ろ回し蹴り……普通のサッカーボールではないそんなことで弾き飛ばせるわけがなかった。
「そうです! アドベントです♪」
佐祐理とメカポテトボールの間にジェノサイダー北川が出現する。
佐祐理はジェノサイダー北川を蹴飛ばして、自分だけさらに上空に逃れた。
次の瞬間、ジェノサイダー北川が大爆発する。
「ぐぎゃあああああああああああああっ!」
断末魔と共にジェノサイダー北川が消滅した。



「はぇ〜……」
なんなんだろう、この地味に強い女は?
この前戦った舞とかいう少女のように強い『力』は感じないのに、手こずっているのはこの地味だが確実な攻撃をしてくるこの女の方だ。
こうなれば、この高さによる落下の加速を利用してさゆりん☆メテオキックを……。
それとも、スッキリしないのであまり好きではないさゆりん☆ブラックホールキックを使うしかない?
しかし、佐祐理の思考はそこで強制終了させられた。
「ふぇっ!?」
目の前に霧島聖が居る。
ジェノサイダー北川を踏み台にしての二段ジャンプで初めて到達できるこの高空になぜ、この女が居れるのだ?
そんな跳躍力があるはず……。
佐祐理は聖の足下に気づいた。
銀色の毛玉に乗っている。
銀色の毛玉が飛んでいたのだ……。
「……サウザンドメス」
目の前に居たはずの聖が、自分の背後に移動完了している。
「あは……あははーっ♪ あはははーっ♪ あはははーっ♪」
佐祐理は自分が切り刻まれたことに気づいていた。
「佐祐理が……この佐祐理が……あははははははーっ♪」
左腕が小さなサイコロサイズの無数の肉片になって崩壊する。
次は左足が、その次は右足が……。
「あはははははははははーっっ♪ あははは……」
聖は佐祐理という存在が完全に消え去るのを最後まで見届けずに、地上に舞い降りた。
「……佳乃。私はお前の仇を討てたのか……?」
聖は一人呟く。
あの女が妹の仇か解らないまま……殺してしまった。
確かに、あのような狂った少女は生きていない方が世の中のためかもしれない。
だが、あの少女がこの世の中にっとって、人々にとって害だとか、そんなことは自分にとっては何の関係もないことだ。
自分は正義の味方でもなんでもない。
ただの人殺し過ぎないのだ。
「佳乃……」
妹を、佳乃を生き返らせる……今はそれだけ考えていればいい……。



香里は唸っていた。
「う〜ん……一体どこで計算を間違えたのかしら……?」
霧島佳乃を過小評価していたのが原因の一つであるのは間違いない。
所詮、第2段階にすらなれない者、数合わせにずぎないヒロインとあなどっていった。
それとも、倉田佐祐理を過大評価していたのだろうか?
今だ第1段階とはいえ、あの狂気とも言うべき凶暴さと残忍さ、多種多様の魔法、戦いや殺しにおいては賢い頭脳。
「また未来を計算し直さなければいけないわね……」
香里は気怠げにため息を吐いた。
無数に存在する未来の中からもっとも確率の高い未来を弾き出す。
自分が望む未来に到達する確率を上げるために調節する。
「未来が一つしか存在しないなら楽でいいんだけどね……」
香里は苦笑を浮かべた。
何をしても同じ未来にしか辿り着けないのなら、人は誰も足掻きしない。
「あたしはどこまでも足掻いてやるわよ……」
絶対に望む未来に辿り着いてみせる。
それができなかった時は……。
「できなかった時は…………」
香里は首を横に振った。
必ずできると信じなくてどうする?
自分を信じることができない者が、勝利を、未来を勝ち取れるわけがないのだ。
「さてと、会いたくないけどアレに会いに行って……その後は、名雪を……」
しなければならいことはいくらでもある。
本来、郁未がすべき役目も自分が負わなければならないのだ。
ゲームを、物語を滞りなく進めるために……。
そして、自分自身のために……。
運命はどこまでも加速する。
いや、加速させるのだ。
このあたし……美坂香里の手によって……。






次回予告(美汐&香里)
「というわけで第33話をお送りしました。運命(展開)というのは神(作者)にも解らないものなのですね……キャラが勝手に動き出す……」
「まったくよね、ずっと前から決めていた勝敗が、実際に書いたら変わっているんだもの……しかも、思い入れとかひいきがある方が負けるし……」
「そもそも対戦相手の時点で予定通りになりませんでしたね。あっさり聖さんを倒して(重力穴犠牲者)、佐祐理VS舞という流れにいくはずだったのですが……」
「……こうなっちゃったのよね。まあ、なってしまったものはしょうがないわ」
「ええ、それよりも佐祐理VS舞戦があっさり消化されすぎたという的確な感想を頂いてしまい……痛かったりします」
「まあ、友情バトルとかしにようにも、お互いの間に友情どころか面識もないのよね……佐祐理さんの歴史が本来のカノンとは子供の段階で違うから……」
「かといって、一目惚れのように、友情なり、負の感情のこだわりにしろ、出会ったばかりの川澄先輩に対して佐祐理さんが持ったりしたら不自然ですしね……」
「ええ、戦いになるまでしばらく時間をかけるにしろ、友情抱くような感じになっちゃうわけには佐祐理さんはいかないのよ……改心というか、甘くなってしまったら彼女じゃなくなってしまうわ……」
「難しいところですね……まあ、今はお二方の冥福を祈りましょう」
「さて、次回は名雪と観鈴さんの話をスキップさせて、新展開をお送りするわよ」
「……それは酷するぎるのでは……」
「冗談よ。多分、久しぶりに『主人公』の話になる……はず(未定)よ……」
「では、今回はこの辺で……」
「良ければ次回もまた見てね」
「戦わなければ生き残れません」





「ミもフタもないアドヴェント解説」


『ライトニングポテトシュート』
雷獣シュートより、ライトニングやファイナルのタイガーの方が好きです。
旧SFC版の翼は名作(迷作)です。少なくとも、平成になってから描かれた翼よりは面白いです。

球状になったメカポテトを聖が全ての力を込めて目標に蹴飛ばすだけの技。
若林君でも止めることのできない究極の必殺シュート。


『その他の聖のメスによる技』
最近アニメになった某奪還屋さんの赤い人の技をイメージしてください。
もっとも、奪還屋さんちゃんと漫画読んだことなかったんで、ここまでそっくりな技というかメスの使い方するとは思いませんでした……。

というか、聖は片手に3本ずつで良かったですよね? 4本メス持つのは力を入れにくくて使いづらいと思いますよ(実際に試してみた)、赤羽さん。



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カノン・サバイヴ第33話