カノン・サバイヴ
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「あははーっ♪ いきなりファイナベント♪ さゆりん☆メテオキック♪」 無数の隕石と共に佐祐理の飛び蹴りが舞に襲いかかった。 しかし、舞は佐祐理より高い打点にまで飛び上がって、佐祐理と隕石をかわす。 「断月剣！」 そのままファイナルベント「断月剣」を発動し、地上に着地したばかりで体勢の整っていない佐祐理に斬りかかった。 重力、全体重を乗せた舞の更新の一撃である。 さゆりん☆バリアをはっても、バリアごと一刀両断されだろうし、さゆりん☆ソードなんて脆弱な剣で受け止めることも不可能だ。 一瞬にしてそう判断した佐祐理は、迷わずジェノサイダー北川を召喚する。 ジェノサイダー北川、ファンシーアリクイにまたがったメタル北川がみちるダイバーをおんぶしたような形の複合モンスターだ。 「スピンベント♪ スリー触角スパイラルです♪」 北川の頭部の触角と、肩の二つの触角（みちるのツインテール）が上空の舞に狙うようそそりたつと、ドリルのように回転を開始する。 そのまま、ジェノサイダー北川は飛翔し、舞に激突した。 「あははーっ♪ 馬鹿と触角は使いようなんですよ♪」 この場合、馬鹿の頭に触角が付いていると言っても良いだろう。 佐祐理は、香里以上に北川を使いこなしていた。 ただしこれは香里より佐祐理が優れているからというわけではない。 北川を嫌っていた香里が、必要以上に北川を使おうと、関わろうとしなかったせいで、北川の潜在能力がフルに発揮されなかったのだ。 佐祐理の場合は、北川のこと最初から人間とすら認識していないが、別に嫌悪もしていないので、『道具』として最大に能力を引き出し酷使している。 「ぐっ……」 地上に落下していた舞はうずくまり脇腹を押さえていた。 郁未との戦いで負った体中の傷が痛む。 特に脇腹に負っていた深い傷が、さっきの北川の一撃で再び開き、血が溢れ出していた。 「あははーっ♪ 呆気ないですね♪ トドメです♪ マジックベント♪ さゆりん☆メガフレア♪♪♪」 ジェノサイダー北川が口から超高熱の赤い光を吐き出す。 「くっ……」 第二段階である魔王狩人☆舞になっていたのなら、この程度の熱線を破る技などいくらでもあった。 だが、今の状態では第二段階になることの負荷に身体が耐えられるとは思えない。 この熱線の威力は断月剣と同等ぐらいだろうか？ ならば、再び断月剣を発動させて相殺を狙うか？ いや、それすら可能かどうか怪しかった。 「あははーっ♪ 永遠にさよならです♪」 佐祐理は勝利を確信する。 「仕方ない……」 舞がカードをバイザーにセットするのと、熱線が激突するのは同時だった。 「ふぇ？」 佐祐理には何が起きたのか理解できなかった。 熱線が激突し、爆発が佐祐理の姿を隠す。 次の瞬間、なぜか自分がうつぶせに倒れていた。 お腹が熱い？ 痛い？ 地面が赤く染まっていく……。 「ふぇ……佐祐理……斬られたんですか？」 そうとしか考えられなかった。 血の溢れる腹を押さえながら、佐祐理はなんとか立ち上がる。 振り返ると、バニーガール姿からボンテージ姿に変わった舞が片膝をついていた。 地面に突き刺した六芒剣テスタメントソードを支えにしてなんとか倒れないようにしているようである。 体中の無数の傷から血を噴き出させ、本来は漆黒のはずボンテージが赤く染まっていた。 「あははーっ♪ 何をしたか解りませんが、相当無理をしたみたいですね♪ これなら佐祐理の方が軽傷ですね♪」 「……く……ぁ……ぅ……」 舞は何か言うとするが言葉になっていない。 立ち上がることはおろか、指一本動かす力も残っていなかった。 「さて……もう杖で一度殴るだけでもお亡くなりになりそうですが……せっかくですから、佐祐理の最大の技で葬ってあげますね♪」 佐祐理はファイナルベントのカードを装填する。 ジェノサイダー北川が舞の上空に出現すると、自らの胸部を開いた。 胸部の中に黒い球体が生まれる。 その球体を中心に、空間が渦上にねじ曲がっていき、さっきまで北川が存在してい場所に、全てを呑み込む巨大な穴、小型の疑似ブラックホールが存在していた。 「く……」 あの渦の中に吸い込む技だと舞は察したが、どうすることもできない。 「あははーっ♪ さゆりん☆ブラックホールキック♪」 佐祐理は一瞬で舞の目の前にまで移動すると、佐祐理をサマーソルトキックで真上に蹴り上げた。 佐祐理はさらに、ブラックホールに向かって吸い込まれていく舞に向かって追撃するように跳躍する。 自分の身体を回転させて巨大なドリルと化した佐祐理が、舞を渦の中心へと蹴り込んだ。 舞は渦の中に消え、佐祐理は舞を蹴飛ばした時の反動を利用して地上に戻る。 舞が渦の中に消えると同時にブラックホールは消滅し、ジェノサイダー北川が大地に降り立った。 「あははーっ♪ どうもこの技はいまいちなんですよね♪」 ブラックホールに呑み込まれ無事に済むものいない。 そういった意味では威力は素晴らしいが、どうも自分で相手を殺したといった満足を感じることができなかった。 「これじゃ不完全燃焼です♪ もっともっと戦いたいです♪」 苛立ちを押さえられず、佐祐理は周りの建物を杖で破壊する。 「あははーっ♪ あははーっ♪ あははーっ♪」 意味のない破壊活動が続いた。 「ならば、私が相手をしよう」 赤く染まった白衣の医者が姿を現す。 「ふぇ？ あなた誰ですか？」 「霧島聖だ。君に聞きたいことがある」 聖はゆっくりとした足取りで、佐祐理に近づいていった。 「お互い特に何も感じることなく……ただ殺し合ったか……ちょっと期待外れね」 舞と佐祐理の戦いの一部始終を遥か上空から観戦していた香里はつまらなそうに呟いた。 「まあ無理もないわね。『正しい歴史』の流れだったら唯一無二の親友になれた……なんて解るわけもないものね……」 香里のように、未来や過去、存在する無限ともいえる可能性を見通すことのできる能力を持ってでもいない限り……。 正しい歴史。 原点ともいえる遙かな過去の段階からこの世界の歴史は狂っている。 だが、香里は正しい歴史に戻したいとも思わなかった。 その正しい歴史の中でも自分も栞も幸せにはなれないのだから。 「悪いわね、名雪……」 名雪にとっては、今の歴史に比べれば何倍も幸せな歴史を紡ぐ世界だった。 祐一と名雪が結ばれる未来、祐一と舞が結ばれる未来……その世界でも祐一が選んだ女性の数だけ未来は存在する。 正しいと呼べる方の歴史の世界に共通するのは、今の歴史の世界のように戦ったり殺し合ったりしない、ただの青春と恋愛しかないといった部分だ。 けれど、その世界達に香里の幸せは無い。 栞が生き続けられる未来は存在しない……一度奇蹟で回復する未来もあるが……その未来でもすぐに栞は死ぬ。 「だから……この血塗れな現在から繋がる今だ読み切れない未来の可能性に賭けるしかないのよ……」 今の歴史の流れに至るための原点とも言える分岐点。 それが、エターナルワールド、永遠の世界だ。 あの世界と関わることが無ければ、ただの恋愛と青春だけの物語が紡がれていただろう。 「郁未さんの思惑は全て解っている……でも、あたしにはあたしの思惑が……目的があるのよ」 そのためなら、利用できるものはなんでも利用さてもらう。 手段も選ぶつもりもなかった。 「さて、とりあえず、２回戦よ、佐祐理さん。連戦なのはサービスよ……今度はもう少し楽しませてよね」 「えううぅ〜〜！？」 「…今日はこれくらいにしておきましょう」 漆黒の喪服の美女はそう言うと、手に持っていた日本刀を消し去る。 「……えぅ、なんでたかが刀一本でアレを相殺できるんですか……」 栞は全身ボロボロでへばっているのに、美女は傷一つ、汚れ一つないどころか、呼吸すら乱していなかった。 二人が居るのは広い何もない地下室のような場所。 所々破損している壁や床はさっきまでここで行われていた訓練によるものだ。 「…では、また明日同じ時間に同じ場所に迎えに行きますので……」 美女がパチンと指を鳴らすと、栞の姿が掻き消える。 「…アフターサービスのしすぎかもしれません」 美女は部屋から出ると、階段を上がった。 「お帰りですか？」 階段を上り終わると、フードを頭から被った女が声をかけてくる。 「…場所の提供ありがとうございました」 美女はぺこりと頭を下げた。 「いえいえ、どうせ部屋などいくらでも余っていますから」 フードの影から覗く口元に微かに笑みが浮かぶ。 「…では、また明日お借りします」 「どうぞお好きなだけ使ってください」 美女はもう一度ぺこりと頭を下げると、女の座るカウンターの横を抜けて、地上への階段を上っていた。 しばらくすると、美女が上っていった階段から、一人の少女が下りてくる。 「ねえ、今の人って……まあいいわ。それよりアレはもうできてる？」 「まだ材料が揃っていないので……」 「はあ？ まだ揃えられないの？ 役に立たないわね、あの男も……」 少女はやれやれといった感じの表情でため息を吐いた。 「この分じゃまだまだかかりそうね。じゃあ、あたしはしばらく潜っていることにするから……できあがり次第……」 「ええ、お知らせします」 「じゃあ、お願いね」 少女は無数にある下り階段の中から適当な階段を選ぶと、その階段を下りていく。 「……今日はもう誰も来なさそうですね」 外の世界で何が起ころうと、自分のすることは解らない。 『時』が来るのをこの『迷宮』でただ待ち続けるだけ……永遠に……。 今の自分はこの『迷宮』の番人。 それ以上でも、それ以下でもないのだから……。 次回予告（美汐＆香里） 「というわけで第３２話をお送りしました。ちょっと間が空きましたね」 「実は影でグラナート・テスタメント（ラグナロクＳＳ）を毎日更新していたりしたのよね……」 「完全に自分だけの物でない作品ですので、公開の許可確認に時間がかかり……その間はこっそり更新でした」 「まあ、カノサバの隠しキャラ紹介と同じで、たいして隠してないから、探せば簡単に見つかる気もするけどね。まあ、それはともかく……勿体ぶりすぎて、佐祐理さんが書きにくて仕方なかったわ」 「物凄く久しぶりでしたからね、佐祐理さんが活躍されるのは……キャラや技を忘れていて、自分の過去の話を読み返すはめに……」 「しかも、こんだけ待っておきながら、ついに待ちきれずにやっちゃったのよね、例のドゥーム……」 「もういいやって感じです。逆に元ネタの方のを心配しますよ、最終回まで発動（成功）せずに設定だけの技で終わるのではないかと……」 「成功せずにリタイヤされたひには……ブチキレるわよ……。それに、いまさら誰もが予想するとおり、胸部のブラックホールに蹴り込む『だけ』の技だったら……しらけもいいところね……」 「これだけ引っ張ったのは絶対演出ミスだと思います」 「まったくよ」 「では、次回は最初で最後と思われる聖さんの大活躍（未定）をお楽しみください」 「シスコン医師死に花編ね」 「シスコンは香里さんも同じだと思いますよ」 「…………」 「…では、今回はこの辺で……」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 |