カノン・サバイヴ
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「……えぅ!……はぁ……はぁ……」 栞は苦しみと共に目を覚ました。 呼吸が苦しい、心臓が……。 「…サテライトバニラキャノンを一発撃っただけでそのざまですか?」 「えぅ!? 誰ですか!?」 最近は祐一さんも顔出さないので、事務所には自分以外誰もいないはずである。 「…私のことはもう忘却の彼方なのですか?」 漆黒の和服を着こなした銀髪の美少女。 相変わらず顔を隠すようにサングラスをかけていた。 「そのサングラスはどうかと思います、遠……えぅ」 美女の右手の人差し指が栞の唇をふさぐ。 「…私には名などありません……あなたの夢の一欠片……とでも思っていただければ結構です」 そういえばこの前この人とあったのは夢の中だった。 だって、この人の正体が想像通りだとしたら、矛盾が生じる、その人は現実ではもう……。 「…私のことは気にせずに……現実と夢幻、リアルワールドとエターナルワールド、常世と幽世……その境などあやふやなものです……」 「つまり幽霊ですか?」 「…………」 銀髪の美少女は肯定も否定もしない。 「…時間がありませんので用件を済まさせてもらいます」 銀髪の美少女は胸元から数枚のカードを取り出した。 「…戦っているうちに徐々に思い出し……いえ、思いついてると言うべきですか……」 「……えぅ、解っています。サテライトバニラキャノンより上位のカードのことですね……」 銀髪の美少女が無言で頷く。 「…私はいくつかの選択の幅を持たせました。それは……今のあなたのそのざまが示すとおり、あなたに全ての武装を使いこなせるだけの体力…生命力が無いと判断したからです……」 「えぅ……」 「…ファイナルシュートベントどころか、現在あなたが一応拾得している最上位シュートベントすら……使った瞬間、あなたは死ぬでしょう」 「えぅ!」 確かに使いこなせる自信はなかった。 だから、この前は使わなかった……けれど、そこまで……。 「…命を使い切るか、体が耐えきれず消滅するか……どちらにしろアウトです」 銀髪の美少女は二枚のカードを栞に投げ渡す。 「…その二枚は一応返しておきます……ですが、相打ち覚悟でもない限りは使わないことです」 そして、残りのカードを胸元にしまった。 「待ってください! 他は返してくれないんですか!?」 「…その二枚すら使いこなせない今のあなたには必要ないでしょう」 「えぅ!?」 栞の背中にゾクリと寒気が走る。 今、銀髪の美少女がとてつもなく冷たい目をしたように感じた。 サングラスで隠されて目など見えないはずなのに……。 「…代わりにいくつか新しいカードをあなたのデッキに入れておきました……戦っているうちに必用になった時に……カードの使い方も思いつくでしょう……」 用件は済んだとばかりに、銀髪の美少女は背中を向ける。 「待ってください!」 「…………まだ何か?」 「威力の弱い武器の数がいくら増えても駄目なんです! もっと強くならないと……お姉ちゃん達に勝てません!」 「……それで? もっと強い武器のカードをよこせとでも?」 「いいえ、私自体がもっと強くならないと……スピードもパワーも……」 スピードもパワーも足りなすぎた。 武器の破壊力で負けていなかった、まさっていたかもしれないのに……敗れた原因はそれである。 「……だから……私を鍛えてください!」 時間は少し遡る。 香里は真っ赤な白衣?を着た医者と遭遇していた。 「問答無用で切りつけてくるなんて……かなり焦っているみたいね」 「ここにはモンスターかヒロイン……倒すべき対象しかいないと解ってきたのでな」 左右の手にそれぞれ三つのメス。 六つのメスが香里に襲いかかるが、香里は余裕でかわし続ける。 「殺す前に聞いておく。霧島佳乃を知っているか?」 「ええ、よく知っている……わよっ!」 「なにっ!?」 香里の放った後ろ回し蹴りが聖を吹き飛ばした。 「まったく、尋ねる前に攻撃して……あたしじゃなければ死んでいたわよ」 「……佳乃のこと知っているのか?」 聖は立ち上がりながら尋ねる。 「ええ、勿論よ。佳乃……あなたの大切な妹を殺したのは……」 「……殺したのは?」 「倉田佐祐理よ」 「……倉田佐祐理?」 「いつも『あははーっ♪』と狂ったように笑っている女よ……一目見ればすぐに解るわ。居場所も知っているから教えてあげましょうか?」 「それは助かる……だが……」 なぜ、そんなことを教えてくれる? お前に何の得がある? 自分達は敵同士ではないのか? 目の前の女に対する不審と疑問が沸く、だが、佳乃の仇という相手の情報を得ること以上に優先することではない。 「別にあたしには信じてもらう必要なんてないのよ。だいたい、他人に妹のこと尋ねて回って、答えてくれた相手の情報が信じられるか否かなんてどうやって決めるつもり?」 「それは……」 「あなたは全て信じるしかないのよ。嘘だという証拠がない限り……仇といわれた相手を殺すしかない」 「ぐっ……」 「まあ、とりあえず、倉田佐祐理に会って尋ねてみたら? 自分の妹を殺したのか?ってね。まあ、否定されたとしてもその否定を信じるか信じないか、それもまたあなたが決めることになるわね」 「…………」 今はこの女の言いなりになるしかない……ようだ。 聖は女から、倉田佐由理の居場所を聞いた。 「じゃあね、先生。頑張って妹さんの仇をとってね」 居場所を聖に伝え終えた女は無防備に聖に背中を向ける。 「先生? 君は……」 「まあ、患者の顔を全て覚えてるわけないわよね……そうそう、別に背後からあたしを狙ってもいいわよ、そのメスが使い物になるならね」 聖は自分の両手に意識を向けた。 いつのまにかメスが全て凍りついてる。 会話に集中しすぎていて、冷たさ自体気づかなかったのだろうか? 「そうか、君はあの時の……」 「まだ生き長らえていたのが不思議?」 女の声には自嘲的な笑いが混じっていた。 「元々持っていた能力が……この訳の分からない『変身』とやらでそこまで強化されたのか……」 「別にあたしのことは分析してなくていいわよ。それとも、妹の復讐より、医学的興味の方が優先されるのかしら?」 「む……」 「じゃあね、霧島先生」 女の、美坂香里の姿は言葉と共に完全に消え去った。 それは人の形をしていいながら、どんな魔物より禍々しい気を放っていた。 私は迷わずその魔物に斬りかかった。 しかし、次の瞬間、舞の体は壁に壁に叩きつけられていた。 見たことのない制服と竹刀……あの竹刀で叩きつけられたのだろうか? それにしては体中の骨が砕けたようなこの痛みは……。 相手の口元に笑みが浮かぶ。 圧倒的な実力の差。 舞は死を覚悟した……。 「…………んっ」 「あははーっ♪ やっとお目覚めですか?」 意識を取り戻した舞が初めに見たのは、見知らぬ少女の笑顔だった。 舞はその笑顔に妙な違和感を覚える。 本当に笑っていない? 笑っているのに笑っていない? 「あははーっ♪ ここまであなたを引きずってくるの大変だったんですよ♪」 「……ありがとう」 「あははーっ♪ お礼なんていいですよ♪ これからあなたを殺すんですから♪」 「……?」 意味が、状況が解らない舞に、答える代わりに少女は、倉田佐祐理はデッキを取り出した。 「意識の無い相手を殺しても面白くもなんともないんですよ♪ さあ、佐祐理と戦え!……です♪」 舞は自分の体を探ってデッキを見つける。 取り上げてはいないようだ。 そのチャンスはいくらでもあったのに。 「あははーっ♪」 佐祐理は心底楽しげに笑うと、デッキを構える。 舞もデッキを佐祐理に突き付けるようにかざした。 アリクイマークのデッキとラビット(うさぎさん)マークのデッキが輝く。 「変身です♪」 「変身……」 二人の声が重なった。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで第31話をお送りしました。実は香里さんと聖さんの会話まではずっと前……半月ぐらい前に書けていたのですが……」 「どうもそこから話が脱線しすぎたというか、そこまでの話もどうも納得できないというか、いまいちというか……1から書き直そうかとも思ったのよね……」 「でも、結局書き直してませんね。舞さん、佐祐理さん、聖さんの戦いに至るまでがかなり唐突な気もしますが……まあ、ヒロイン同士が出会えば問答無用デュエルスタンバイ!……ということで」 「後もつかえてるしね」 「ええ、脇役同士の過去話(聖×香里)なんかにページをとっている暇はありません」 「…………」 「…では、今回はこの辺で……」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 |