カノン・サバイヴ
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永遠の底へ……どこまでも……どこまでも……堕ちていく……。 「おや、今日はもう上がりですか?」 地下への階段から上がってきた少女に、フードとマントで全身を隠した人物が声をかけた。 「あたしが潜っている間に、誰か来た?」 少女は返事の代わりに問いを返す。 質問というより確認だった。 微かにだが、自分とフードの人物以外の気配の残滓を感じる。 「葉子さんが三秒ほど居られました」 フードの人物は事務的に答えた。 「三秒?」 「香里さんが居られるか確認されるとすぐに帰られました」 フードの人物は事務的というより機械的だった。 感情をまるで感じさせない声、フードから覗く瞳は揺らぐことさえない。 「なるほどね。それにしても、何か妙な気がするわね……あの三人何かあったの?」 「施設を破壊され、郁未さんが深手を負ったそうです、常人なら即死なほどの……」 「はあっ?」 少女はフードの人物の言葉を一瞬理解できなかった。 「……あの化け物が深手を負った? 嘘でしょ?」 「いいえ、事実です。確認も取りました」 少なからず動揺している少女とは対照的に、フードの人物は機械的のように冷静である。 「だって、あの化け物はこの世界の神みたいなものじゃない……あたし達以外の誰にそんなことができ……」 「川澄舞」 「んっ!」 フードの人物の上げた名前を聞いた瞬間、少女の顔が一瞬強ばった。 「魔王と勇者の戦いといったところですかね?」 「なるほどね……そんな面白いことになってたんだ……」 少女は笑みを浮かべる。 「ねえ、作って欲しいものがあるんだけど……」 「急に甘えた声ださないでください。気持ち悪いですよ」 フードの人物は僅かに顔を歪めるが、少女は気にせず「おねだり」を続けた。 「私もどこかの猫型ロボットと勘違いしていませんか?」 「似たようなものでしょ?」 「………………」 「お願い♪」 「……材料費はいただきますよ」 フードの人物は嘆息と共に了承する。 「友達価格ってことでまけてね♪」 「………………」 いろいろと言いたいことはあった。 友達どころか、『あなた達』は自分にとって『仇』だったはずだとか、あの化け物のゲームにはとりあえず干渉しない方向だったはずだとか……だが、今の彼女に何を言っても無だろう。 目先の『面白そうなこと』に完全に意識が逝っている……。 「……まあいいでしょう」 ただ待ち続けることに退屈していたのは、自分も彼女と同じなのだから。 暇つぶしには丁度良いかもしれない。 「郁未さんの計画がどうなろうと、収拾つかなくなろうと、私の知ったことではありませんから」 「じゃあ、よろしくね。あたしはそろそろ部屋に帰るから」 少女は楽しげな笑みを浮かべたまま、上がってきたのとは別の下りの階段を下りていった。 「ん?……」 カードを引いた瞬間、香里は怪訝そうな表情を浮かべた。 「どうしました、香里さん?」 「ちょっとね……訳の分からないカードが出たから……まあ、解釈不能なカードはとりあえず置いておいて……始まったわね、栞の絶望的な戦いが……」 家に居ながら遥か遠くの景色を見通す。 それくらい、異能者である香里や葉子には容易いことだった。 「絶望的ですか?」 「ええ、負けるわよ、栞は……」 「…………」 葉子は香里の顔を盗み見る。 香里は完全に無表情だった。 思惑通りにことが運ぶことを喜んでるように、妹の栞を心配しているようにも見えない。 「未来は、可能性は無限に存在している……けれど、あなたが望む未来『だけ』は存在していないのよ、栞……」 「えぅ〜、逃がしたものは仕方ないですから、代わりに雑魚二匹で我慢しますか」 そう言うと、栞は振り返り、背後に立っていた二人に視線を向けた。 「……雑魚ですか……言ってくれますね」 「あぅ〜」 真琴は美汐の後ろに隠れながら、栞を威嚇するように睨みつける。 「第2段階と第1段階の力の差は絶対的なんですよ。今、それを証明してあげます」 栞は大釜を振りかぶり、攻撃態勢をとった。 「……ところで、栞さん」 欠片も動じず落ち着き払った口調で美汐が尋ねる。 「えぅ?」 「現実世界をその恰好で彷徨いてるのはどうかと思いますよ」 「えぅっ! 余計なお世話です! 空を飛んできたから誰にも目撃されていません!」 栞はムキになって反論した。 すでにデスメイド☆しおりんに変身完了している栞と違って、美汐と真琴は私服である。 「そうですか。では、始めましょうか? ただし、ちゃんとエターナルワールドに入ってからですよ。それがこのゲームの唯一にして絶対とも言えるルールです。それくらいは守れなくはないですよね、栞さん?」 「……えぅ、わかりました。私は佐祐理さんみたいな卑怯者じゃないですから、変身中に殴りかかったりしないから、安心して変身してください」 美汐は口元に微かに苦笑を浮かべると、デッキを取り出した。 栞の言葉を信じてはいない。 いつ攻撃されても対処できるように、警戒を続けながら、美汐は変身する。 真琴もまた美汐に続いて変身した。 「では、お待ちしています」 巫女服とアンミラの制服に変身完了した二人は、背後の水たまりに飛び込んで消え去る。 「9分55秒もあれば二人倒してもお釣りがきますね」 そう言うと、栞も水たまりに飛び込んだ。 「二人がかりなら勝てるなんて思っていないですよね? この前、尻尾をまいて逃げたぐらいですから」 栞は意地の悪い笑みを浮かべながら言った。 「ええ、安心してください。戦うのは真琴だけですから」 「えぅ?……聞き間違えですか? 今、なんて言いました?」 「戦うのは真琴だけと言いました。真琴!」 「シュートベント! 狐火!」 美汐の背後から突然出現した真琴が栞に向けて火球を撃ちだす。 「ちぃっ!」 舌打ちと共に、栞は大鎌で火球を切り払った。 「こんなものが、私に効くと…………えぅ!?」 真琴が白紙のカードをかざしている。 カードに雪の絵が浮かび上がる。 真琴は迷わずバイザーに雪のカードを装填した。 「ぁぁぁぁぁぁぁぁあああうううううううううううううううううっ!」 真琴の絶叫と共に黄金の炎が生まれ、真琴の全身を包み込む。 「そんな、この前は……」 「男子三日会わずんば刮目して見よです……真琴はオスではなくメスですけどね」 荒れ狂う黄金の炎が消え去ると、そこには姿を豹変させた真琴が立っていた。 風に流れる長い髪、狐のような耳、獣の牙のような犬歯、刃のような両手の爪、病的なまでに白い肌、そして九つの尻尾……。 最大の違いはその表情、真琴の顔から全ての感情が消えている。 赤く変色した瞳がただ鋭く冷たく栞を見つめていた。 「えぅ〜、この前と同じ……」 栞が言葉を最後まで発するよりも早く、真琴の姿が唐突に消滅する。 「この前と同じだとは思わない方がいいわよ」 「えぅ!?」 背後から声がした瞬間、何者かに肩を捕まれた。 「ストライクベント、ゴットフォックスネイル(天狐神火爪)」 「えうううっ!」 肉がえぐられる感覚と焼かれる感覚が同時に栞に走る。 栞は地面を転がるようにして前方に逃げた。 「……ふん」 真琴は自分の右手を無感情に見つめる。 僅かに赤い液体と何かの肉片が指先にはりついていたが、次の瞬間、ジュッ!という音と共にそれらは蒸発して消えた。 「えぅぅ……」 栞は右手で左肩を押さえている。 左肩の肉がごっそりとえぐり取られていた。 しかも、傷口が焼け焦げている。 「ふん、どうもいまいち加減が上手くいかないわね。まあ、そのうち慣れるでしょう」 呟くと同時に、真琴の姿が再び消えた。 「えぅ!」 栞は二度も同じ手をくうわけにはいかないと、真琴の姿が消えた瞬間、己の背後に向けて大鎌を振るう。 だが、そこに真琴の姿はなく、大鎌は虚しく空を切った。 「ストライクベント! ゴットフォックスネイルスラッシュ(天狐神火爪斬)」 「上!?」 炎を宿らせた剣と化した真琴の手刀が、栞の左手を切り裂く。 「えぅぅ!」 切られた痛みを実感する間もなく、傷口から炎が栞の腕を駆け上っていく。 栞を炎をかき消すために、地面を転がった。 「無駄です。真琴の炎は神の炎、相手を灼き尽くすまで決し消えることはありません」 観戦していた美汐の言葉通り、炎は消えることなく、栞の全身に燃え移っていく。 「えぅ……あまり調子に乗らないでください!」 栞はカードバイザーでもある愛銃スノーバイザーデュオを発砲した。 「遅すぎて欠伸が出るわよ」 真琴の姿が消え去り、弾丸は何も無い空間を貫いていく。 「えぅ、そんな……」 「弾丸の速度より真琴の方が数倍速いのですよ、当たるわけないじゃないですか」 馬鹿にすると言うより、哀れむように美汐が言った。 「よく相手の視線や銃口の向きで弾丸の軌道を予測してかわす……などいったパターンが漫画などにありますが、真琴の場合、撃たれた後からでも余裕で回避が可能なのです。いえ、弾丸が発射され到達するまでの間があれば、回避するどころか……」 「あんたを切り刻んでもお釣りがくるわよ」 栞の目の前に、両手を交差させた真琴が出現する。 「ファイナルベント、妖狐乱舞」 次の瞬間、真琴の右腕が栞の体を貫いていた。 栞は痛みすら感じられず、ただ今の自分の状況に驚愕する。 「終炎(しゅうえん)!」 真琴の言葉と共に凄まじい爆音が辺りに響いた。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで第28話をお送りしました。最近、更新ペースが少し悪すぎですね」 「何日も前に途中まで書きかけてあったのよ……といより、この辺の話はもうかなり前から決まっていた部分だからどんどんやっちゃっても良かったのよ」 「この後に控えている(予定)佐祐理さんの話は……元ネタの方がドゥームをどこまでも引っ張るのでやりにくいんですよね」 「いい加減、名雪達にも出番を上げないといけなしね」 「全員が第2段階になっていくことと、APが増量なのは、この作品上仕方ないというか、すでに手遅れです。げんなりされてる方、我慢してくださいね。元ネタ比重高かった頃と違って、今の段階だと第1段階のままで殺すのは不公平というか可哀想というか……」 「まあ、そのせいで第2段階になるまでは死なないなと安心されちゃうのは、作品的にマイナスかもしれなけどね。それはそうと、最近、北川君の人気が上昇というか、扱い酷いことのお叱り?の票が多いわね、美汐さんなんてもうすぐ順位抜かれるし……」 「……同情票というものでしょうか?」 「まあ、そういう意見があるならそれなりに出番を増やそうかなとか思わないこともないけど……当分先ね。それに…………フフフッ」 「どういう意味の笑いかなんとなく解りますね……まあ、この作品でもっとも不幸なのは北川さんではなく、佳乃さんだと思いますが……出番1話だけ、今後もよくて聖さんの回想があるかないかですから……」 「……確かにアレ以上酷い扱いは無いわよね……名雪は一応主役だし、相沢君はヒロイン?だし、聖さんも今後一回ぐらいは見せ場あるだろうし……」 「まあ、蟹役に選ばれたのが不幸だったと思うしか……では、今回はこの辺で……」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 追伸 「冒頭の二人はあまり気にしないでね。特に片方は正体が解るわけないし……解ったら異常よ……まあ、オリジナルキャラではないんだけどね……気にしちゃ駄目よ」 「では、下記にミもフタもないアドヴェント解説を書いておきますので、見たくない方は見ないでくださいね」 『ゴットフォックスネイル』 爆熱ゴットフィンガー。 超高熱を発する手刀(爪)を相手に突き刺す。握りつぶす使い方もあり。 『ゴットフォックスネイルスラッシュ』 手刀の爪を刀や剣のように伸ばし、炎を宿らせる。 ストライクベントではなくソードベントのような気もする技。 『妖狐乱舞』真琴ファイナルベントC ゴットフォックスネイルで相手を切り刻み、トドメとして手刀を相手に突き刺す技。 終炎はヒートエンドと読んでも可。言葉と同時に突き刺した相手を爆破延焼させる。 |