カノン・サバイヴ
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『紅蓮天衝斬』。 相手の足下から吹き出せた火柱で相手を吹き飛ばしつつ焼き尽くす、ここまでがソードベント『紅蓮天衝』。 さらに、上空に吹き飛ばされている相手に向かって、自らの全身を炎で包みつつ激突(炎の剣で斬り捨て)するのが赤のファイナルベント『紅蓮天衝斬』である。 「えげつない技……もう少しで首を刎ねられた上に火だるまになるところだった……」 舞の炎の剣は郁未に届いていなかった。 郁未の首に触れる寸前で、郁未の左手で刃を捕まれている。 「くっ……」 郁未は左手が火傷や切り落とされるの恐れず、力を込めた。 何かの軋む音が響く。 六芒剣が握り潰されると判断した舞は左手を振るった。 「スイングベント! 灼魔鎖!」 左手の鎖が赤く発光しながら郁未に迫る。 郁未は迷わず六芒剣を離し、跳躍して鎖をかわした。 「高熱をはわせた鎖で焼き切る……その鎖も結構便利ねっ!」 言葉と同時にシュートベント『不可視の爆撃』が発動される。 「くっ!」 舞は六芒剣を盾代わりにかざした。 六芒剣のダイヤモンドが輝く。 ガードベント『光輝障壁』。 光属性の闘気(オーラ)で自らの前面に光の壁を作る技である。 「なるほど、そんな技があるなら、盾なんて無用なわけね」 『不可視の爆撃』の威力は全て『光輝障壁』で無効化されていた。 だが、郁未は焦るどころか、楽しげに笑みを深める。 「だいたい解って来たわ、あなたの能力。六芒剣というのは六種類の属性の効果を剣に与えるのね。だから、本来ただ剣を振り回すだけの剣士にすぎないあなたが、炎や光なんかを自由自在に操ることができる……『魔法剣士』ってところね」 ここで言う魔法剣士というのは、魔法も使える剣士ではなく、剣に魔法を宿らせ、剣をかいしてのみ魔法の効果を発揮できる剣士のことだ。 「…………」 舞は否定しない。 図星だったし、そもそも隠しているつもりもなかったからだ。 郁未は地上に降下する。 舞もまた地上に降り立った。 「さて、あなたの技を全種類見てみたい気もするけど……そろそろ終わりにしましょう」 郁未はファイナルベントを装填する。 郁未の体中から赤い光が溢れ出した。 「…………」 舞は郁未の動きを警戒する。 郁未の行動に合わせて、それに対抗できるカードをいつでも装填できるように。 舞の意識は目の前の郁未にだけ集中していた。 それがあだとなる。 突然、背後から足を捕まれたのだ。 「んっ!?」 舞は驚愕する。 背後にもう一人郁未がいた。 もう一人の郁未は両腕で舞の両足を捕らえたまま回転する。 ジャイアントスイングの要領で舞を空高く放り上げた。 空には赤い光を放つ本物の郁未が待ちかまえている。 郁未は、飛んできた舞の首に自分の両足をからめた。 舞に肩車されるような恰好になった郁未は、その恰好のまま舞と共に後方宙返りを開始する。 何度も何度も宙返りを繰り返し加速しながら、地面に急降下した。 「アークデーモンムーンストライク(魔王降月衝)!」 郁未の両足で頭部を固定され、両腕まで郁未の両手で捕まれていた舞は身動き一つできない。 重力や回転の勢いを全て乗せられて舞は脳天から地面に激突した。 「案外呆気なかったわね……」 郁未は虚しそうに呟くと地面に突き刺さっている舞に背を向けた。 香里は少し不満だった。 郁未にここまで圧倒的に勝たれては、ここまであっさり舞に負けられては面白くない。 もう少し足掻いて欲しい。 『あたしの期待』を裏切らないで欲しい。 エターナルワールドから立ち去ろうとしていた郁未は足を止めた。 香里の身勝手な期待にこたえるためではないが、舞が立ち上がったのである。 「へぇ……」 郁未は嬉しげな笑みを浮かべた。 「…………」 舞は六芒剣を地面に突き立てて体を支える。 「その体でまだやれるの?」 「……まだ一番強い技を……使っていない……」 舞の言葉に、郁未は心底楽しげに笑った。 「確かにそれじゃ死にきれないわね。いいわ、あなたの最大の技を受けてあげる。私の方もまだ力を使い切れてなくて不完全燃焼なのよ」 郁未は赤い月の描かれたカードをデッキから取り出す。 栞にとっての雪のカード、観鈴にとっての空のカードにあたる潜在能力を引き出し完全体になるためのカードだ。 「元々あなた達で言うところの第2段階である私は別に姿は大して変わらない。このカードはいわばリミッターを解除、手加減するのをやめるための決意のカードにすぎない。だから、オリジナルの月のカードは香里さんにあげてしまったの、私にはこれ(複製カード)で充分……」 郁未の体から今までと比べ物にならない強烈な赤い光が放たれる。 光の強さと比例するかのように郁未から感じられる威圧感も増大した。 「そして、この状態で放つファイナルベントはアークデーモンムーンストライクなどとは比べ物にならないのよ」 郁未はファイナルベントを装填する。 舞も同時にファイナルベントを装填した。 舞は六芒剣を頭上高くかざす。 六種の全ての宝石が輝きを放った。 舞の背後から出現した魔物(ちびまい)が六芒剣と融合し、恐ろしく巨大な剣へと変化を遂げる。 「へぇ……契約モンスターの全ての力を、契約モンスターそのものを剣にしたのね」 「アークデーモンスレイヤー(魔王滅殺剣)……」 「文字通り私を殺すためだけの剣なのね……やってみなさい!」 郁未は空高く舞い上がった。 舞のアークデーモンスレイヤーの刀身から黄金の光が天を貫くように立ち上る。 郁未は空に月を描くかのようにムーンサルトを極めると、そのまま郁未に向かって降下(飛び蹴り)した。 「アークデーモンムーンバニッシュ(魔王赤月消滅脚)!!!」 「断魔剣!!!」 舞は天を貫き剣先の見えないほど巨大な剣をそのまま振り下ろす。 二人の究極のファイナルベントが正面から激突した。 郁未と舞の戦いの様子を映し出していた鏡から強烈な光が放たれ、名雪と観鈴の視覚を奪う。 「だお〜!?」 「がお〜!?」 『死にたくなかったらさっさとそこから離れなさい』 名雪の脳裏に声が響いてきた。 「香里?」 『弾けるわよ……』 「何が……」 何が弾けるの?と尋ねるよりも早く、鏡が『内側』から砕け散る。 次の瞬間、物凄い『力』の爆発が起こった。 「見るに耐えない姿ですね……」 柿沼葉子は郁未の姿を見るなりそう呟いた。 郁未は左腕を丸ごと失い、宙をふわふわと浮遊している。 「腕の一つや二つすぐに生えるわよ」 郁未は「あははーっ♪」と佐祐理のような楽しげな笑いで答えた。 「普通は生えませんし……そもそもそんな姿になってまで生きていたりもしません」 左腕どころか左胸も殆どない。 「まさか、あそこまで威力があるとは思わなかった……全力で撃った私の蹴りと殆ど互角の威力とはね……」 「それで、相手の方はどうなったんですか?」 「さあ……ファイナルベント同士のぶつかり合いの衝撃でプライベートエターナルワールド自体が吹き飛んじゃったから……私と同じように現実世界のどこかに強制的に弾き飛ばされたんじゃないかしらね?」 郁未は無責任に言い放った。 「まあ、胸に蹴りを当てた手応えがあったから……生きていたとしても瀕死の状態ね……」 「それでも自分も真っ二つに斬られていては……勝ったとは言えませんよ」 「真っ二つじゃない……なんとか少しだけかわして左腕一本で済ませ……駄目……ちょっと休ませてもらうわね……」 「解りました」 葉子は郁未を抱き留める。 郁未は瞳を閉ざすと、死んだように眠りに落ちた。 「さてと……住む所が無くなっちゃったわね」 香里は眼下の瓦礫の山を見下ろし呟く。 プライベートエターナルワールドを内側から破壊した郁未と舞のファイナルベントの余剰エネルギーは現実世界の香里達の住処であった施設を跡形もなく破壊した。 今度の爆発は地下の施設も例外なく全て消し飛んでいる。 「いくら名雪が大ボケでも爆発に巻き込まれて観鈴さんと心中なんてことは……無いわよね? そこまで面倒は見きれないわよ……」 忠告をしてあげただけでも感謝して欲しいぐらいだ。 祐一はさっき水瀬家に送ってきたし、とりあえず、これからの住処の心配でもすることにしよう。 「とりあえず、郁未さんが行くと思われるのは『ダンジョン』か『タワー』ね……」 でも、どちらにも今すぐ行く気にはなれなかった。 「……そうね、久しぶりに『家』に帰ってみようかしら」 意外と隠れ家として盲点かもしれない。 栞は事務所で暮らして居るはずだから、今は誰もいないはずだ。 自分の家族は栞だけ。 その栞とも今は殺し合う仲……。 「フフフッ……」 不思議と口から笑いが漏れてくる。 そろそろ決断しなければいけないかもしれない。 自分の最後の運命を、結末を……。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで第26話『魔を断つ剣』をお送りしました。郁未さんVS舞さん、丸々二話も使うはめになってしまいました」 「第3部入ってから好き勝手やってるけど、もはやこの二人に至っては完全に元ネタ関係なしのバトルになってるわね……」 「いえ、久しぶりに元ネタも少し影響受けたんですよ」 「どこが?」 「郁未さんのファイナルベントです。投げ技というかプロレス系のファイナルベントを使ってみたくなったんです。で、急遽、アークデーモンムーンストライクという技を作りました」 「でも、アークデーモンムーンストライクってずっと前から決まっていた技じゃなかったかしら? キャラ紹介にもあるし……」 「いえ、それはアークデーモンムーンバニッシュに改名された技のことです。ずっと前から郁未さんのファイナルはライダーキック(跳び蹴り)と決めていましたから……まあただの跳び蹴りと言っても、一撃で月を跡形もなく消し飛ばすぐらいの威力がありますけどね……」 「で、舞さんの方は?」 「最初にファイナルベントとして断魔剣を考えたんです。ですが、その後いくつも剣の技を思いついてしまい使わないのが勿体ないので、あういう形になったんです」 「あういう形ってファイナルベントが七種類ってことね……」 「はい、多分この作品で使い切ることはできないと思いますが……」 「というか、本当に七種類も考えてあるの?」 「………………」 「まあいいわ。ところで、アークデーモンムーンストライクにしろ、本編の中の描写だけで読者が脳内でイメージできるかってのが心配なのよね……」 「設定資料というか技(ベント)リストなんかを作ってもいいのですが……それはそれで設定病扱いされてマイナス評価されるかもしれませんしね……」 「というか、ミもフタもない言い方で説明したいわね……それが一番早い気がするのよ……」 「なるほど、では、次回予告の後ろに試しに付けてみますか?」 「いいの?」 「実験です。では、今回はこの辺で……」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 「アークデーモンムーンストライク」 ドッペルゲンガー郁未(分身)にジャイアントスイングで空高く放り投げてもらった敵をフランケンシュタイナー(相手と向き合う形ではなく、普通におんぶなので厳密には違うかも)の要領で回転せながら落下していく。 インパクト(地面激突)の瞬間は、相手の腕まで掴んで固定していたりする。 最初、佐祐理さんのメテオキックに対抗して、月を落としてぶつける飛び蹴りだったりした……。 「断魔剣」 スピリット・オブ・ソードで愛の力で断空光牙剣風味に真っ向唐竹割り。 「アークデーモンムーンバニッシュ」 ムーンサルトで勢いを増しただけのただの飛び蹴り。 不可視の力、闘気、魔力などを体中から放出しているため、直接「足」が相手にヒットしなくても凄まじい威力がある。 「紅蓮天昇斬」 最近アニメになった滅茶苦茶なお侍さんのではなく、サイバーアップだ消魔鳳凰斬……科学忍法火の鳥でも可。 紅蓮天衝(エロゲ)って必殺技の名前みたいだという馬鹿話がネーミングの始まり。 「ほんとミもフタもないわね……」 「解る人には地の文で詳しく説明するよりイメージしやすいと思います」 「解らない人にはとことん解らないでしょうね……」 |