カノン・サバイヴ
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アレはあたし達とは違うよ。 人は誰でも僅かながら必ず『魔物』を持っている。 でも、アレは殆ど全てが『魔物』だけでできている。 ううん、『魔物』なんてものじゃなく、『魔族』……『魔物』などととは比べものにならない純粋な魔の力の塊。 この世界でもっとも強い『魔族』……『魔王』。 アレの好きにさせてはいけない。 アレは気まぐれでこの世界そのものを無に還すこともできる。 だから、あの『魔王』を倒そう。 あたし達の『力』で……。 あたしを、『魔物』を受け入れたあなたの力で『魔』を滅ぼすの。 この世界はアレの玩具ではないのだから。 例え、アレがこの世界の……であったとしてもだ。 アレを倒せるのは、アレと限りなく同じものでありながら、アレとは源を別にする『力』を持つあたし達だけ。 アレの天敵であるあたし達にしかアレは倒せないのだから……。 「このゲームがなくても……私はお前と戦うことになっていた……」 舞は呟く。 適当に町並みが再現されているいつものエターナルワールドと違って、今、舞の居る場所には何もなかった。 辛うじてあるのは地面、上下の感覚ぐらい。 舞にとってそれは都合が良かった。 上下の概念するらない無重力空間のような場所だったら、常に飛行や浮遊しながら戦うはめになる。 それは嫌だった。 足場がないのは落ち着かない。 体に力を入れにくい、動きにくい。 「私の中の魔物が教えてくれた……私の力……魔物は……元々お前達を倒すためのもの……」 舞とは逆に、郁未は意味もなく宙に浮いていた。 その方が落ち着くといった感じである。 「そうね、覚えているわ……ずっと昔大昔……『私達』を捕まえて研究しようなんて馬鹿な組織が生まれるよりずっと昔……私達と良く似た『力』で私達を狩る人間達がいた……」 ここで言う『私達』とは厳密には天沢郁未のことではない。 郁未の力の源である『異形の化け物』……郁未の父親や恋人の種族のことだ。 郁未の場合、異形の化け物と交わって力を得ただけの葉子と違って、郁未自身も異形の化け物の一族とも言える。 それゆえに郁未の『力』は誰よりも強いのだ。 「……魔には魔を……これはお前達を滅ぼすための力……人間の世界にお前達はいらない」 「それはあなたにも言えるんじゃなくて?」 「…………」 化け物を倒すために化け物になる。 では、化け物を倒し終えた後はどうなるのか? 考えるまでもない。 今度は自分が化け物として人間から追われ、退治される対象になるのだ。 人は自分にない『力』を持つものを恐れ、排除しようとする。 現に、舞は子供の頃、『力』を見せてしまったため、悪魔の子と呼ばれ、母親と共に迫害されて育った。 「……私は全ての魔を滅ぼす……ただそれだけ!」 舞は剣型バイザー『消魔剣』にファイナルベントを装填する。 「はあああああっ!」 舞は気合いと共に跳躍した。 地上世界だったら月と重なる高空まで到達した舞の背後に、魔物……ちびまいが現れる。 ちびまいの掌から巨大な光の弾が放たれ、舞の剣に宿った。 「ファイナルベント! 断月剣!」 舞は郁未に向かって急降下し、光り輝く剣を振り下ろす。 「ガードベント! 不可視の盾!」 常時展開の不可視の壁など紙切れのようにあっさりと切り裂かれると判断した郁未は、両手をつきだし不可視の盾を形成した。 鈍い音が響くと同時に、舞は上空へ、郁未は後方に弾き飛ばされる。 「…………」 舞は空中で体勢を立て直すと宙返りして着地した。 「痛……指切っちゃったじゃないの……」 立ち上がった郁未の左手の人差し指から血が流れている。 舞の断月剣は不可視の盾を真っ二つに切り裂き、郁未の指を傷つけたのだ。 「やっぱり……このままじゃ無理……」 舞はデッキから白紙のカードを引き抜く。 「なっ?」 郁未の顔に僅かに動揺が浮かんだ。 モンスターもヒロインもまったく倒していないのに、すでに使えるというのだろうか? 白紙のカードに雪の絵が浮かび上がる。 赤、青、緑、黄、白、黒の六色の光の嵐が舞を取り巻いた。 光が混ざり合い黄金の光の奔流が生まれる。 光が晴れた後には、新たな姿の舞が立っていた。 漆黒のボンテージに、銀のアクセサリーと無数の宝石。 右手には剣を、左手には鎖、胸元の銀の十字架が神秘的な輝きを放っている。 ボンテージ☆舞、いや魔王狩人☆舞の誕生の瞬間だった。 「ここからが魔王と勇者の本当の戦いといったところね」 祐一のいる部屋に戻っていた香里が呟く。 香里の脳裏には、郁未と舞の戦う姿がはっきりと浮かび上がっていた。 「香里?」 「相沢君にも見せてあげるわ」 香里は祐一の額に軽くデコピンする。 それだけで、祐一の脳裏にも香里が『視ている』のとまったく同じ映像が浮かび上がった。 「なんだ……あの舞の恰好は……?」 「純銀は破邪や封魔の金属、宝石は魔力を秘めた石、宝石で自らの魔力を高め、銀で相手の魔を討ち滅ぼす……理想的な装備だと思うわよ?」 「いや、そういうことじゃなくてだな……」 なぜ、ボンテージなのか問いつめたい祐一だった。 「バニーガールがレベルアップして女王様(の衣装)になったてことかしら?」 祐一の思考を読んで香里が答える。 異能力など使わなくても祐一の考えてることぐらい簡単に予想できた。 「そういうもんなのか……」 「世の中そんなものよ」 クスリと笑うと、香里は祐一にしなだれかる。 「香里!?」 「相沢君は、この服(ゴスロリ)よりあいう恰好(ボンテージ)が好みかしら?」 「あのな……からかうなよ……」 確かに女王様の恰好は香里の方が似合うかもしれない。 いや、舞もまたミスマッチであるいみ似合っているような……。 祐一がそんなことを考えてることを見通した香里は、さらにくすくすと笑った。 昔の、ただの学生、祐一の同級生だった時の自分だったら『何考えてるのよ、相沢君!』と鉄拳制裁していただろう。 自分の性格というか、価値観もだいぶ変わったものだ。 郁未と舞が戦っている時に、ベットの上で祐一を誘惑しているのだから。 「魔物を滅ぼす力と魔物の力を同時に使えるという点で川澄先輩は特殊なのよ……まさに、あたしや秋子さんのような『魔物』の天敵ね」 神聖な力と魔性の力。 対極の力、本来両方を持つことなどできない。 例として、香里や郁未が聖別された武器やアクセサリーなどを身に纏ったら自分の力を弱めるだけ、下手をすればダメージまで負ってしまう。 「どうも、異能力というのは普通の超能力と違って『魔』属性みたいなのよね……」 本来、普通の超能力は人間の潜在能力の発展であり属性など持たない。 自分達の力の源が異形の化け物であることが原因かもしれない。 ちなみに、聖属性の力というのは、美汐の未来視などがそうだ。 神の血を引く者、神に仕える者が使う力が聖なのである。 例え同じ効果の能力であっても聖と魔の違いは存在するのだ。 「まああまり気にすることもないのよね、所詮強い方が勝つだけなんだから」 聖魔というのは善悪ではない。 ただの『力』の色分けのようなもの。 聖が強ければ魔を滅ぼし、魔が強ければ聖を呑み込む、ただそれだけのこと。 太古の昔から続く、異能者と異能者を狩る者の戦い。 このゲームに関係なく戦う合う定めの二人。 「フフフッ……」 なぜか笑いがこみ上げてくる。 普段、自分達は郁未を楽しませるために、戦いを繰り広げているようなものだ。 それが、今は郁未が自分を楽しませてくれている。 「とりあえず、相沢君の誘惑を再開しようかしら?」 「おい……声に出てるぞ」 「冗談よ。それで、まだあたしに何か訊きたいことがあるのかしら、相沢君? キス一つに付き質問一つ答えてあげてもいいわよ」 香里は蠱惑的な笑みを浮かべていた。 「……六芒剣」 『六芒剣テスタメントソード』、鍔の部分にダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、トパーズ、ブラックダイヤモンドが六芒星の形に埋め込まれた西洋風の剣。 舞は六芒剣にカードを装填した。 鍔のエメラルドが点滅する。 「……シュートベント! 魔光剣!」 六芒剣から緑色の波動が郁未に向かって撃ちだされた。 「シュートベント! 不可視の爆撃!」 舞と郁未の丁度間の空間で凄まじい爆発が起こる。 「互角の威力!?」 爆煙の中から舞が飛び出した。 「断月剣!」 降下しながらの縦一文字斬り、第1段階の時のファイナルベントを郁未に放つ。 「ソードベント! 万能包丁!」 郁未は辛うじて舞の断月剣を受け止めた。 「……ホールドベント! 封魔鎖」 舞の左手に巻かれていた鎖が生き物のように蠢き、郁未の右手に絡みつく。 「……これでもう逃げれられない」 「逃げる? 誰に言っているの!? 不可……」 「この距離で撃つの?」 「くっ…」 間合いが近すぎた。 この位置で爆発を起こせば自分も間違いなく巻き込まれる。 しかも、鎖で互いが繋がっているため、相手を吹き飛ばせば自分も引きずられる可能性も高い。 「……私はこの距離で問題ない……ソードベント、紅蓮剣!」 舞がカードを装填するとルビーが光り、六芒剣の刃に炎が宿った。 「くっ、ならソードベント! 不可視の剣!」 万能包丁の刃先に限りなく透明な刃が生まれ、包丁が長剣となる。 舞の炎の剣と郁未の不可視の剣が何度もぶつかり合った。 本来、不可視の剣は見えにくいため間合いが取りづらい。 だが、舞は確実に郁未の攻撃をさばいていた。 一方の郁未も、炎の剣はかすっただけでも炎が燃え移ることを察し完璧に受けきっている。 「このままじゃ持久戦になるわね……」 持久戦になれば自分が不利になるからではなく、このまま相手のミスを待ちながら地味に鍔迫り合いを続けるのが郁未には耐えられなかった。 そんな普通の剣士同士でもできる戦いをしてどうする? 何のための超常的な能力だ? 「シュートベント! 包丁千本!!」 郁未は不可視の剣を一瞬手放すと、体をひねって超至近距離から無数の包丁を投げつけた。 間合いの近さと鎖が今度は舞にとって不利に働く。 絶対に回避不能のタイミングだった。 剣で叩き落とせる包丁の数でもない。 カッ! だが、包丁は全て叩き落とされていた。 「……ソードベント、光速剣……」 六芒剣のダイヤモンドが輝いている。 ギリギリのタイミングだった。 六芒剣のカード交換が終わるのと、包丁が舞に突き刺さるのと……1秒以下のタイム差。 舞は再びカードを交換する。 「……赤のファイナルベント! 紅蓮天衝斬!」 舞は六芒剣を郁未の足下に突き刺した。 「なっ!?」 次の瞬間、郁未の足下から火柱が立ち上り、郁未を空に押し上げる。 剣だけではなく舞の全身が炎に包まれ、舞が火の鳥と化した。 火の鳥は郁未に向かって飛翔する。 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 火の鳥は郁未に激突した。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで第25話『超常決戦』をお送りしました。ちなみに、頂上の誤字ではありません。わざとです」 「前編って感じよね……まだ決着ついてないでしょ?」 「はい。ところで……」 「何かしら?」 「『赤』のファイナルベントというのはどういう意味ですか? まさか……」 「察しの通りよ……川澄先輩だけファイナルベントが複数あるのよ」 「それはいくらなんでも……」 「まあ全種類使う前にリタイヤする確率の方が高いと思うわ……」 「それはそうと、効果音は極力使わないようにしたのですが……どうしょうか?」 「効果音や擬音の多用は萎えるとか問題外という意見を採用したのね?」 「はい。ただ、効果音使わないことで逆に悪くなっていたりしないか心配だったりします」 「こればかりは他人の意見訊かないと解らないわね」 「そうですね。では、今回はこの辺で……」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 |