カノン・サバイヴ
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永遠の世界。 それがなんなのか正確に知る者は少ない。 いや、もしかしたら誰一人、知る者はいないのかもしれない。 永遠の世界とはなんなのか? どういう法則(システム)で成り立っている世界なのか? その世界へ行くための方法は? その世界から帰ってくる方法は? 全てを解き明かさなければならない。 時間はそれほどない。 急がなければ……。 「本来、永遠の世界とは、「神隠し」などの際に人が消える先の世界といった方が正しいわね」 「神隠しですか?」 郁未の発言に、葉子は納得できないといった表情を浮かべる。 「魔の三角海域でもなんでもいい、要は私達が普段存在してる世界とは異なる世界への入り口……」 「異次元? 永遠の世界は単なる異次元だと? それとも平行世界の一つ?」 「平行世界は多分違うと思う。平行世界とは言うのは『微妙』に違う世界よ。例えば、私と葉子さんがこうして共にいる世界と、私が葉子さんを殺してしまった世界、あるいは私が葉子さんに殺されてしまった世界……要はたった一つの出来事、事情が違う結果になってしまった世界、違ってしまった瞬間からまったく違う未来に進む世界が生まれるの……それこそ無限に……選択の数だけ……」 「多次元宇宙とか言われるものですね?」 「さあね、科学的なこと、難しいことは解らないわ。だって、私達の能力はそれとは対極に存在する原理でなりたっているのだから……」 超常的な能力、それは科学的に証明や分析しきることができない非科学的な力だ。 「それなのに、この力は科学的、人工的に与えられたものだというのが皮肉よね」 郁未は皮肉げな笑みを浮かべる。 科学的という程のものではないのかしれない。 『力』を持つある存在と作為的に交配させる、ただそれだけの方法。 「ある意味とても原始的な方法ね……と話がずれたわね。異次元ではあるのは間違いない。けれど、普通に『異次元』という単語から想像する異次元とは違う。精神世界、夢の中といった本来肉体を伴わない世界に近いのかもしれない……しかし、それだと精神や魂といった非物質的なものだけではなく、肉体という物質まで消えるのが納得できない……」 「…………」 「まあ、手がかりや思い当たることが何もないわけでもないし……気長に研究しましょう。できるだけ急いで……」 「そうですね」 研究が一つの形を成すのは二人がこの会話を交わした時より、さらに七年の月日を必要とした。 「……お母さん?」 名雪は、唐突に沈黙してしまった秋子に声をかける。 「……あら? ごめんなさい、どこからどこまで話せばいいのか、どう話せばいいのか考えてるうちに意識が過去に飛んでしまったみたいね」 「全部話せばいいがお!」 「……観鈴さん」 秋子は少し困ったような表情を観鈴に向けた。 「なにがお?」 「科学や物理の専門用語を理解できますか? 全てを話するとそういう単語が大量に出てくるのですが……」 「がお……」 「やっぱり理解できないみたいですね」 秋子は「困りましたね」といった感じの表情を深める。 「お母さんのしてた難しい研究の話なんてどうでもいいよ。ただ、何をしたのかだけ話してくれれば……」 「そうですね……では一言で言うなら……」 「一言で言うなら?」 「祐一さんを実験台にしました」 「俺を実験台に? どういう意味だ、香里?」 「言葉通りよ。実験台、モルモット、研究材料のことね」 香里は涼しげな表情で答えた。 「相沢君はね、あゆさんのことで永遠の世界へ行きかけていたのよ」 「唐突だな……」 「そうでもないわ。永遠の世界への基本的な行き方は、『現実逃避』だから……あゆさんのことでよほどショックだったのか、よほど忘れてしまいたかったのか、とにかく相沢君は永遠の世界へのリンク、アクセスが成立しかかっていたの」 「……そもそもその永遠の世界というのはなんなんだ?」 「さあ……良く言えば繊細な、悪く言えば脆弱な精神の持ち主の人間が逃げ込む場所かしら? 自己を護るために……」 香里の言葉には容赦がない。 「まあ、あたしも栞のことで以前はかなり現実を拒絶したり逃避してたけど……永遠の世界なんかに行くことはなかった……誰でも行けるという場所ではないんでしょうね。何か条件なり資格があるのかもしれないわ」 「条件……」 「何か思い当たることあるの?」 「……いや、とくに……」 「そう……」 「私の研究に協力してくれる代わりに祐一さんはあゆさんを助けること望みました。勿論、その願いは叶えてあげました。あゆさんの魂を永遠の世界の存在として再生させる形で。 この作業もかなり有益ではありました。疑似永遠の世界『エターナルワールド』の実用実験としてかなりのデータが取れましたから」 「疑似?」 観鈴が気になったのはその一言だった。 疑似? 良く似た偽物? 「どうしてそんな酷いことしたの、お母さん……普通に生き返らせてあげれば……」 「名雪……私でもそう簡単に死者を生き返らせたりできないわ。死者を生き返らせる……それはもう超能力や魔術の範疇を超えているわ」 「お母さんでもできないんだね……?」 「…………」 秋子は肯定も否定もしない。 「さて、これで話は終わりです」 秋子はイスから立ち上がった。 「お母さん?」 「名雪、私があなたの大切な祐一さんにどんなに酷いことをしたか、あゆちゃん……本来何の関わりもない幼い少女にどれだけ非人道的なことをしたか解ったわね。これで、私を憎み倒す理由は充分ね」 「お母さん!?」 秋子はカードデッキを懐から取り出す。 「私や香里さんはデッキが無くても能力は使える。むしろ、デッキを使うことで能力に制限や限界が与えられるぐらいなのよ……」 「じゃあ、なぜデッキを使うがお?」 「何の能力も無い生身のあなた達を異能力で殺す……私のしたいのはそんな一方的な殺戮じゃない。もしかしたら自分の方が倒されるかもしれないというスリルのある戦いなのよ!」 水瀬秋子は天沢郁未に変身すると同時に、小さな鏡を頭上に放り投げた。 「さあ、名雪、私と戦いなさい。そのための力を与えたはずよ」 「そんな……できないよ、お母さんと戦うなんて……」 「名雪……あなたはまだそんなことを……」 「お母さん……」 「だったら、観鈴ちんが代わりにた……」 「……私が戦う」 名雪と観鈴を押しのけて一人のバニーガールが飛び出す。 「……川澄先輩?」 名雪はバニーガールの少女の名前を呟いた。 祐一を介して僅かだが少女と面識があった。 「……舞さん……その姿……ようやくデッキを使う気になってくれたのですね」 突然の舞の乱入に唖然としていた郁未だが、すぐに楽しげな笑みを浮かべる。 「……お前を……魔を倒すために……お前から貰った魔の力を使う……だたそれだけっ!」 舞は一瞬で郁未との間合いを詰めると、迷わず剣型のバイザーを突き出した。 郁未は飛び上がってかわす。 背後の壁に突き刺さった剣を舞が抜いた瞬間、壁が爆音と共に爆発した。 「……ソードベント、爆裂剣」 ここにいる誰も知らないことだが、あゆの本体を霧散させた技である。 「フフフッ、楽しめそうね」 郁未は秋子の口調から郁未の口調に完全に切り替わる。 郁未は小さな鏡の中に吸い込まれていった。 舞も無言で後を追う。 二人を吸い込んだ鏡は天上の壁に張り付くと、そのまま落ちてこなかった。 「がおっ!」 観鈴も後を追おうと、変身すると鏡に向かって飛び上がる。 しかし、 ガキィィィン! 「がおっ!?」 鏡に弾き返され、地上に墜落した。 観鈴が激突したのに鏡の方も亀裂が一つ走っていない。 「無駄よ。痛い思いするだけだからやめておきなさい」 「香里?」 いつのまにか部屋の入り口に香里が立っている。 「プライベートエターナルワールド。いつものエターナルワールドとは切り離された小さな閉鎖空間だから、あの小さいな鏡からしか入れな上に、あの鏡に入れるのも使用者が招き入れた者だけなのよ。一対一の決闘用の空間ってところね」 「ねえ、香里……」 「何、名雪?」 「別にエターナルワールドじゃなくても変身してて平気だったんだ?」 香里はゴスロリの衣装に変身していたし、さっきの舞もバニーガール姿だった。 「あなたね……そんなこと気にしている場合じゃないでしょ?」 「う〜、でもなんとなく気になったんだよ」 「はあ、まったく親子揃って……のんきというか、何も考えてないというか……」 緊張感も何もあったもんじゃない。 郁未も、自分が戦うのは最後の一人が決まってからと言っていたはずなのに、戦闘を始めてしまうし……。 「とりあえず、大人しく観戦してなさい」 そう言うと、香里は部屋から出ていった。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで第24話をお送りしました。かなり間があいてしまいましたね」 「他の停滞している作品に比べればたいしたことないわよ」 「どうもなかなかスムーズに話が進みませんでした。とりあえず、あゆさん補足&作品ネタバレ?な会話メイン話はこれくらいにして、次回から戦闘メインに戻ります」 「丸々1話、秋子VS舞、頂上(超常)決戦をお送りする……予定よ」 「では、今回はこの辺で……」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 |