カノン・サバイヴ
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「佐祐理を……わざと見逃すというのですか? 馬鹿にしてくれますね……」 「やめておきなさい。勝てない相手に挑むのはただの馬鹿よ」 「あははーっ♪ 佐祐理は利口に、賢しく生きる気なんてないですよ♪ ソードベント♪ さゆりん☆ソード♪」 魔法のステッキから光の刃が生え、さゆりん☆ソードが完成する。 佐祐理は無防備に立ちつくしている香里に斬りかかった。 パキィン! 「ふぇ!?」 あっさりとさゆりん☆ソードが砕け散る。 「言ってなかったかしら? 不可視の壁は一度発動すれば常時維持することが可能なのよ。まあ、体全体という広範囲を守るのと常時維持し続けるために、防御力自体は大したことないんだけどね。ファイナルベントか、第2段階のヒロインの攻撃ならあっさりと破壊できるわね」 「ふぇ……」 香里は自分の能力をたいしたことないように言った。 それゆえに、佐祐理のプライドを傷つける。 さゆりん☆ソードは『そんな程度』のものにあっさりと砕かれたと……。 「第2段階に……もう少し強くなれたら遊んであげるわ。じゃあね」 香里は佐祐理を無視して歩き出す。 「あははーっ♪ 佐祐理を無視するなんて良い度胸……ふぇ!?」 佐祐理の体が唐突に薄れだした。 「ほら、時間切れみたいよ、さっさと戻った方がいいわよ」 香里は歩みを止めずに、振り返りもせずに言う。 「ふぇ…………忘れないでくださいよ……この屈辱は必ず晴らしますからね♪」 そう吐き捨てると、佐祐理は元の世界へ戻っていった。 「さてと……佐祐理さんが時間切れということは、名雪達ももう現実世界に戻ってるわね」 とすると今エターナルワールドに残っているのは……。 「急ぐとしますか」 香里の姿が掻き消える。 元の世界に戻ったわけではなく、時間節約のために空間転移したのだった。 転移先は……。 「うっぐっぐっぐっぐっ! とりあえず今回は栞ちゃん一人で我慢しておくことにするよ」 満足げな表情で、あゆは元の世界へ戻るために、翼を羽ばたかせようとした。 その時、 「悪いけど延長戦よ」 何もなかった空間に突然、香里が姿を現す。 「うぐぅ? 誰かと思えば……郁未さんの玩具の香里さんだね?」 「そう言うあなたは、実験動物の月宮あゆでしょ?」 「うぐうううううううううううっ! ボクを侮辱すると許さないよ!」 「あら、どう許さないのかしら? 失敗作さん?」 香里はからかうように笑った。 「うぐぅ! こうだよ! シュートベント! 閃光の翼(ライトニングフェザー)!!!」 香里に無数の光の羽が襲いかかる。 「脆弱ね! フィストベント! 美坂マグナム!!!」 バコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 右ストレートの一撃で全ての羽が四散した。 「うぐぅ!?」 「次はこっちの番ね?」 香里は籠手型のバイザーに新しいカードを装填する。 「うぐぅ! ガードベント! 守護の翼!」 背中の光の翼があゆを守るように包み込んだ。 「だから脆弱すぎるって言ってるでしょ! フィストベント! 美坂ファントム!!!」 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 香里の左ストレートから放たれる衝撃波があゆの光の翼を打ち砕き、あゆを空の彼方に吹き飛ばした。 「…………うぐぅううううううっ!」 あゆは香里に破壊された光の翼を消すと、新しい光の翼を作り出し、空中で体勢を何とか立て直す。 香里の姿は見えない。 さっきの左ストレートでかなり遠くに自分が飛ばされたからだ。 「うぐぅ、これは今回は引き上げた方が良いかも……」 あゆは相手の強さが解らないほど馬鹿ではない。 栞相手の時は絶対に自分が負けるわけがないという自信があった。 でも、今は……香里相手では……。 運が良ければ勝てるかも……といった感じだ。 危険な勝負はしたくない。 先に他のヒロインを倒して、もっと強くなってから戦えばいいのだ。 そうすれば確実に勝てる。 「そうと決まれば長居は無用だよ!」 あゆが逃走を開始しようとした瞬間、 「どこへ行くのかしら?」 背後から香里の声が聞こえてきた。 「うぐぅ!?」 あゆは背後を振り返る。 「シュートベント! 不可視の爆弾!」 ドオオオオオオオン! 「うぐううううううううっ!?」 不可視の爆発の衝撃で、あゆは地上に叩きつけられた。 宙に浮いていた香里がゆっくりと降りてくる。 「あたし達異能者は、空間を飛び越えることも、宙を駈けることもできるのよ。他のヒロイン相手ならともかく、あたし相手では、あなたの飛行能力なんて何の強みにもならないのよ」 「……うぐぅ……それなら……」 あゆはダブルタイヤキバスターカノンを召喚した。 「なら、今度は火力で勝負?」 「ダブルタイヤキバスターカノン!!!」 「無効!」 光線を打ち出そうとしていたバスターカノンが消え去る。 「うぐぅぅっ!?」 「あたし、飛び道具って嫌いなのよ。戦いって自分の『力』だけで行うものでしょ?」 香里が使う武器はクィーンバグナグだけ、重火器どころか、剣の類すら使わない。 自らの拳と超能力だけで戦う、それが香里のプライドだった。 しかし、相手にまでそれを強要する気はない。 どんな反則的な武器でも使えばいい。 自分はそれを正面から叩きつぶすだけだ。 「……コンファインベント……まだ使えたんだね……」 「当たり前でしょ? パワーアップして能力減ってどうするのよ」 まあ、仮に無効(コンファインベント)のカードが無かったとしても、数発ならバスターカノンの一撃に耐えられないこともない。 それに、さっきみたいな至近距離でなければ、かわすこともそれほど難しくはない。 「うぐぅうっ! ならボクの最大の技で! 栞ちゃんを倒したこの技で葬ってあげるよ!」 あゆはファイナルベントのカードをデッキから取り出した。 「……栞を殺った?」 「姉妹仲良く天国に逝かせてあげるよ!」 あゆはファイナルベントのカードを背中のリュック型バイザーに装填する。 「ファイナルベント! 天使達の昇天!!!」 三体のちびあゆが香里の三方を取り囲み、タイヤキバスターカノンの光線で三角形の檻を作り出した。 あとは爆破するだけだ。 「うぐ……」 あゆが合図である指を鳴らすよりも速く、香里が行動した。 「うりゃあっ!」 ちびあゆの一体を右拳で殴り飛ばす。 支点(光線の発射と受信する箇所)の一つが消失し、三角形の檻が崩壊した。 「うぐうううううっ!? そんなのありなのっ!?」 「ありよ」 香里はファイナルベントのカードを籠手型バイザーに装填する。 「北川君に放ったのは30%ぐらいの力だったけど、あなたには60%ぐらいの力を使ってあげるわ」 「うぐぅ! 遠慮するよ! 10%で充分だよ、ボクなんて……」 あゆは反転して逃げ出そうとする。 「遠慮はいらないわ! ファイナルベント! インフィニティフィスト!!!」 あゆの背後……今はあゆが反転したため正面だが……に香里に良く似た半透明な女性が出現した。 「うぐぅっ!」 慌てて再度、反転して逃げようとしたあゆの目の前に、香里が……。 二人の香里が同時にあゆに殴りかかる。 『言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよ言葉通り言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよよ言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよ言葉通りよぉぉっ!!!』 拳の連打でタコ殴りにした後、最後はアッパーであゆを空高く打ち上げた。 「う……うぐうううううううううううううううううううううううううっ!?」 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 遙か上空であゆは大爆発する。 あゆの残骸のような光の羽が空から降り注いだ。 時間切れになった香里がエターナルワールドを去ってから、数時間後。 何もない空間に一枚の光の羽が現れた。 一枚の羽が二枚に、二枚の羽が四枚に、羽はどんどん増えていく。 そしてある程度の量になると光の羽が集まり、何かの形を成していった。 光の塊は、人の形に、月宮あゆを作り出す。 「うぐぅ……香里さんも酷いよ……ボクが不死身じゃなきゃ死んでいたよ」 あゆは手首を動かしたり、指を握ったり開いたりして、体に問題がないか、完全に再生できたのかを確認した。 「でも、おかげで香里さんの能力はだいたい覚えたよ……次は絶対に負けないよ」 あゆは「うっぐっぐっぐっ!」と一頻り笑うと、元の世界に戻ることにする。 自分には他のヒロインと違って『時間切れ(タイムオーバー)』というのはあまり意味を持たないが、この世界に長く居るのは良くない。 あゆが飛び立とうした瞬間、 「ほう、不死身というのは面白いな」 唐突に女性の声が聞こえてきた。 「うぐぅ?」 あゆは声の聞こえた方を確認する。 今、ここには自分以外に誰もいなかったはずだ。 気配も何もなかった。 いや、声が聞こえてきた今ですら、気配はない。 しかし……そこには人が居た。 「お医者さん?」 そこに居たのは医者としか思えない恰好をした大人の女性だった。 青い長い髪、妙に落ち着いたというか、全てを悟ったような表情をしている。 目つきはどちらかというと鋭い。 しかし、最大の特徴は彼女のが着ていた白衣が、真っ赤だったということだ。 いや、赤いのだから白衣とは言わないか? 「君、霧島佳乃という少女を知らないか?」 女性は懐から写真を取り出すと、あゆに見せる。 「うぐぅ? そんな娘、ボク知らないよ」 「そうか……」 女性は写真を懐にしまうと、もうあゆに用はないといった感じで歩き出した。 「うぐぅ……」 あゆは思案する。 エターナルワールドに居る時点で普通の人間でないのは間違いない。 ヒロインか、モンスターか、どちらにしろ倒しておいた方が良いだろう。 今度こそ、香里に勝つためには少しでも『力』が欲しい。 あゆはダブルタイヤキバスターカノンを召喚した。 「ばいばい、名前も知らないお医者さん」 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! スパン! 「うぐぅ!?」 あゆは我が目を疑う。 女性が振り返りもせずに、ダブルタイヤキバスターカノンの一撃を切り裂いたのだ。 メス一本で……。 「シュートベント、レイン・オブ・メス」 ザザザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! 「うぐぅぅぅっ!?」 あゆの頭上からメスが雨のように降り注ぐ。 降り注ぐメスの激しさに、あゆは翼でガードすることも、飛んで逃げることもかなわず、無様に地面を転がってメスの雨から逃れた。 「うぐぅ! いきなり何するんだよっ!?」 「ふむ、いきなり人に銃をぶちかますよりはマシだと思うが?」 あゆは転がって逃げてるうちに女性の足下にまで来ていた。 「うぐぅ! それはその……」 あゆは気まずそうな表情でうずくまる。 「ふむ?」 「……と油断させて、超至近距離、閃光の翼(ライトニングフェザー)!!!」 こっそりと装填したシュートベントが発動した。 しかし、 ズザザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! 全ての光の羽が切り裂かれる。 女性の手にはそれぞれ三本のメスが握られていた。 「手術完了だ」 女性は踵を返すと、あゆを無視して歩き出す。 「うぐっ、ボクを無……」 あゆが後を追うとした瞬間、あゆの背中の光の翼が細切れになって崩壊した。 「うっ?」 次にあゆの右腕が、その次に左腕が、全てが細切れになって崩壊していく……。 「うっ? ううっ!? うぐぐううううううううううううううううっ!?」 断末魔の叫びと共にあゆは消え去った。 「ソードベント、サウザンドメス。ただ単にメスで切り刻むだけの単純な技だ」 ブラッティードクター☆ひじりんこと霧島聖は、何事もなかったかのように現実世界に戻っていった。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで第18話をお送りしました。やっぱり戦闘シーンを2つぐらい入れると、それだけで終わってしまいますね」 「まあ、なんとかこれで全キャラ揃ったわね?」 「ええ、赤羽……いえ、霧島聖さんの登場で全ヒロイン集結です。後は減るだけですね」 「そうね、なかなか思い切って減らせないんだけどね。やっぱ元ネタが気になって」 「増やす方は簡単に決断するんですけどね、香里さんみたいに」 「まあ、ぼちぼち決着付いていくわよ、この話も……」 「では、今回はこの辺で……」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 |