カノン・サバイヴ
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「うっぐっぐっぐっぐぅっ! 全員まとめて吹き飛んだよぉ」 遙かな上空に背中から光の翼を生やした少女が浮かんでいた。 「真のヒロインはボク一人なんだよ! ついでに……郁未さんまで倒しちゃったしね、だいたいヒロインなんて歳じゃ……」 「楽しそうね、あゆちゃん」 「うぐうううううううううっ!?」 背後から声にあゆは驚愕する。 そして、驚愕が一瞬にして恐怖に変わった。 他のヒロインと一緒に吹き飛ばしたはずの郁未が宙に浮いている。 郁未はあゆの顔面を右手でガシッと掴んだ。 「で、誰が歳なかしら?」 「うぐぅ! 郁未さんじゃないよ! そう、秋子さんのことだよ!」 ギリリリリリリリリリリリリリリリリッ! 「痛い! 痛いよ、郁美さん! 頭が割れちゃうよ! 力抜いてよ!」 「私は永遠に17歳、秋子さんは永遠に28歳よ! 解ったかしら、あゆちゃん?」 「う、うん! 解ったよ! ボク、秋子さんのことお母さんみたいに思って慕って……」 ギリリリリリリリリリリリリリリリリッ! 「うぐぅぅっ!?」 「……お姉さん……」 「うん! 実のお姉さんだと思ってるよ!」 「そう、あゆちゃんは良い子ね」 やっと、郁未の手から力が抜けた。 あゆは安堵する。 しかし、 「シュートベント」 「うぐっ? 郁…… 」 「不可視の核撃」 カッ! 自分の顔を掴む手から放たれる目を焼き尽くさんばかり赤い光、それがあゆが最後に見た光景だった。 空から降り注いだ一条の黄金の光、大爆発、爆発が晴れるとクレーターの中で微動だにせず倒れている、栞。 光の降り注いだ先、上空を見ると、光の翼を生やした少女と天沢郁未が宙に浮いていた。 そして、天沢郁未が少女にアイアンクロー?を極めていたかと思うと、次の瞬間、赤い閃光が名雪の視覚を奪った。 視覚を取り戻した名雪の目に映るのは宙に浮かぶ天沢郁未だけ。 光の翼の少女は消えていた。 まるで最初から存在していなかったのように跡形もなく。 「……核爆発?」 さっきの閃光と衝撃を表現する言葉はそれ以外に名雪には思い浮かばなかった。 無論、本物の核爆発を見たことも、感じたことも名雪はないが……。 「少しやりすぎてしまったみたいね」 天沢郁未が名雪の目の前に降臨する。 「私は顔見せだけで、あなた達とあゆちゃんを戦わせる予定だったのに……」 「がおっ!」 突然、現れた観鈴が郁未に斬りかかった。 しかし、郁未の姿が無数の花びらと化す。 観鈴の剣は花びらを舞い散らしただけだった。 パシィンパシィィン! 「がおおおおおおっ!」 観鈴の背後に現れた郁美は、往復ビンタ(平手打ち)で観鈴を弾き飛ばす。 唖然と見守っていた名雪の前で再び、郁未は花びらと化して姿を消した。 パシシィィン! 名雪の背後に現れると、郁未は名雪をビンタ(平手打ち)で横に弾き飛ばす。 「少し修正が必要みたいね」 郁未はカードを一枚引き抜くと、デッキにセットした。 「タイムベント! 時空振!」 「だおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」 体が何かに引き込まれるような、ねじ切られるような奇妙な感覚、そして名雪の意志は途切れていく。 「……あれ?」 名雪は自分のベットの中で意識を取り戻した。 部屋の外に出ると、丁度秋子が出かけるところだった。 「じゃあ、名雪、留守番お願いね」 「えっ? お母さん?」 秋子は玄関を開け、外に出ていく。 何かはっきりしない違和感を感じながら、名雪は居間へ向かった。 「えっ? カードデッキ? なんでここに……」 フローリングに落ちている自分のカードデッキを拾う。 だが、何かおかしい。 「ケロピーのマークがない!? なんでブランクに戻って……」 カードデッキはモンスターと契約した時点で、そのモンスターの紋章が刻まれるのだ。 しかし、その紋章がカードデッキからなくなっている。 名雪はカレンダーに目をやった。 2月……。 半年も前、しかも、今日は丁度カードデッキを拾った日である。 「まさか……時間が戻って……!?」 この後、確か観鈴と出会って……。 ケロピーと契約し、モンスターを倒す。 自分を倒そうとする、観鈴。 佳乃が現れ、問答無用で襲ってくる。 「まったく、観鈴さんも………だお!?」 名雪はふと意識を取り戻した。 これが『2度目の世界』と認識している意識。 その意識がさっきまで消えていた? 自分はさっきまで何をしていたのだろう。 前とまったく同じことを繰り返していた? 「もしかして……未来を変えられるかも……」 しかし、名雪の『意識』は再び消え……。 戦う、佳乃と観鈴。 デッキを破壊され、ポテトに食べられる、佳乃。 登場、美少女弁護士栞。 荒れ狂う、重火器。 名雪は『意識』を取り戻した。 「まただお……また、同じことを繰り返してるお……変えたいと思ったのに……また、同じことを繰り返すなんて……」 『それでいいのよ、あなたはそのままでいい』 名雪の背後に天沢郁未の幻影が語りかける。 「そんな……このままいけば……もう一度、香里や美凪さんの死を体験しろというの!? 変えないと!」 『無理よ、あなたの記憶は一時的なもの、明日にも消える。ヒロイン達の運命は何一つ変わらないのよ』 「じゃあ、なんでこんなことするの!?」 『あなたのためではないわ、それだけは確かなこと……』 天沢郁未の幻影は消え去った。 「どうすればいいの?……まだ、美凪さんには出会ってもいないのに……」 「そうだおっ! 佐祐理さんさえ牢獄から出てこなければ!」 佐祐理の担当でもある弁護士の栞に相談する、名雪。 「ヒロインになって脱獄できないように、警備を厳重にっ!」 「なぜ、名雪さんがそんなことを知っているんですか?」 「とにかく、お願い栞ちゃん!」 「解りました……」 栞は携帯電話で電話する。 「はい、拘留中の倉田佐祐理についてちょっと……ええ、はい……」 電話しながら部屋を出ていく、栞。 「美凪さん……」 名雪は今度こそ運命が変わることを祈った。 『栞、さっきの電話なんだ?』 「いえ、なんでもないですよ。話を合わせてもらってありがとうございました、祐一さん」 栞は祐一からの電話を切る。 栞が名雪の前で電話したのは刑務所ではなく祐一の所だった。 「願いを叶えるには十三人に必要ですからね。手こずるかもしれませんが、仕方ないですね……」 脱獄する、魔法少女さゆりん。 戦い合う五人のヒロイン。 エンド・オブ・スノーとさゆりん☆メテオキックの直撃で消え去る、香里。 名雪を庇ってさゆりん☆メテオキックをくらい死亡する、美凪。 「まただお……どうしてこうなるんだお……」 結局、何一つ歴史を変えることができず、名雪達は元の時間へと戻った。 「修正は完了したわ。あなた達は戦い続けなさい」 天沢郁未が名雪の目の前に降臨する。 「私は顔見せだけよ、あなた達はこれからあゆちゃんと戦う……」 「がおっ!」 突然、現れた観鈴が郁未に斬りかかった。 しかし、郁未の姿が無数の花びらと化す。 観鈴の剣は花びらを舞い散らしただけだった。 パシィンパシィィン! 「がおおおおおおっ!」 観鈴の背後に現れた郁美は、往復ビンタ(平手打ち)で観鈴を弾き飛ばす。 唖然と見守っていた名雪の前で再び、郁未は再び花びらと化して姿を消した。 ドカアアアアアアアアアッ! 名雪の背後に現れた郁未に、名雪のケロピーフィストが炸裂する。 「へぇ……よく私の現れる場所が解ったわね。記憶が消えなかったの?」 「さあね……きっと、あなたを一発殴りたくて仕方なかったから忘れなかったんだよ!」 「この程度殴ったうちにはいらないのよっ」 郁未は平手打ちで名雪を弾き飛ばした。 「う……くっ……結局、全部同じことを繰り返したの? 何のためだおっ!?」 「あなた達は知る必要はないの。あなた達の戦いは何も変わらないのだから」 「いや……一つだけ変わったお……」 「何?」 「消えていったヒロイン達の重さが二倍になったおっ! これ以上は増やさない! 人を守るためにヒロインになったんだから、自分以外のヒロインを守ってもいいはずだよ!」 「名雪さん……」 名雪を見つめる、観鈴。 「…………」 無言の栞。 「あははーっ♪ くだらないことをごちゃごちゃとうるさいですよ♪」 佐祐理がお米剣で郁未に斬りかかった。 例によって、郁未は花びらと化して消える。 『私と戦うのは最後の一人だけよ。続けなさい、戦いを……』 という声を最後に郁未の気配は完全に消え去った。 そして、 『うぐぅ! シュートベント! ダブルタイヤキバスターカノン!!!』 一条の光が天から降り注ぐ。 巫女装束の美汐とチャイナ服の香里の死闘は決着の時を迎えようとしていた。 「だが、要は戦い方次第です! ソードベント! ミシオンソード!!!」 美汐の両手から青い霊気の剣が延びる。 「フィストベント! クィーンバグナグ!」 「銀河を切り裂くミシオンソードの一撃受けきれますか!」 ガキィ! 「…………」 香里は冷静に右のクィーンバグナグでミシオンソードを受け止めた。 美汐はファイナルベントを装填する。 「ファイナルベント! アカシックミシオバスター!!!」 美汐が空中に描いた魔法陣から霊気で作られた狐が放たれた。 「……フッ、亡霊には消えて貰うわ! フィストベント! 美坂ファントム!!!」 「なっ!?」 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 左拳の一撃は霊気でできた狐が霧散させ、美汐を吹き飛す。 「悪いけど、あたし左利きなのよ」 「…………なぜ?」 倒れたままの美汐が問うように呟いた。 なぜ、冷静にミシオンソードを受け止められた? なぜ、アカシックミシオバスターを狙ったように打ち落とせた? なぜ、自分のモンスターが亡霊だと知っている? まるで全てのこと予め知っていたかのように香里の行動は的確で冷静だった。 「あたしに一度見た技は通用しないわ」 香里は美汐の疑問を察したかのように答える。 「一度見た?……あなたに私の技を見せるのは初めてのはず……」 香里だけに限らず、他のどのヒロインにも技を見せたことはなかった。 いつも一緒にいる真琴にさえ、アカッシク美汐バスターは見せたことはない。 「過去や未来を覗き見できるあなたも、過去自体を変えられたことは気づけないのね」 香里は冷笑した。 「過去を?…………そうですか……そういうことですか」 美汐は香里の言葉の意味を察する。 天沢郁未には時間すら操る能力があることを美汐は知っていた。 「時間を、歴史を超えて記憶を持ち越せるのはあたし達異能者だけ。普通の人間は過去をやり直したことを、現在がすり替わっていることに気づくことすらできない」 「フッ……まったく、これだから異能者は……化物は嫌いなんですよ……」 バサササッ! 美汐の体が無数の呪紙と化し消失する。 「逃げた?……まあいいわ」 香里は笑みを浮かべると、先ほど、光の降り注いだ場所へと歩き出した。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで第16話をお送りしました。タイムベントのせいで内容はまったく進んでません。下手をすれば逆行してます」 「まあ、いいんじゃないの? 良い方向に未来が変わったんだから♪」 「………………」 「えっと、ちょっと解りにくいかもしれないけど、郁未さんがヒロインを倒しまくったことと、あゆが消滅されられたという事実がなくなっているのよ。記憶の残っている名雪以外のヒロインから見れば、郁未さんは現れて言いたいこと言うだけ言って消えて、空から光が……てなるわけね」 「あまり細かい矛盾は気にしないでください。歴史を変えた歪みだとでも思ってください。ようは郁未さんが自分が登場するタイミングなどを少しずらしたり、行動を微妙に変えるだけで、ヒロイン達に重傷を与えなかったことになったり、あゆさんが来る前に退場することが可能になります」 「顔見せだけでするつもりだったのに、つい戦っちゃった♪ ついあゆを完全に消し去ってしまった♪……というミスを修正したわけね。まったくあの人らしいミスね……実は意外と好戦的で短気なのよ、あの人……」 「いえ、香里さん、実は、うっかり祐一さんの写真を破いてしまって、その事実をなかったことにするために時間を戻したという可能性も……」 「そのネタはあんまりなんで採用しなかったわ……そんな理由のタイムベントで、あたしに負け直したなんていくらなんでもあなたも嫌でしょ?」 「それほど酷な話はないでしょう」 「じゃあ、今回はこの辺で……良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 追伸。 「あ、そういえばいまさらだけど、あたしのゴスロリと栞のメイド服を想像しにくい人は、頂き物(リナリナ秘宝館)にある絵を見てね。作者の頭の中ではあんな感じの恰好で動いてるから」 「私の場合は普通に巫女服を想像していただければ問題ありません。朝霧の巫女でも見るか、戦巫女でもプレイしてみてください」 |