カノン・サバイヴ
第15話「巫女姫☆ミシオンvsチャイナ☆カオリン」




青い髪の少女、天沢郁未は悠然とヒロイン達を見下す。
他のヒロインと変わらない年頃の少女に見えながら、彼女の体から無意識に放たれる威厳は畏怖を憶えるほどで、同時に気品のある凛々しさと、妖艶なまでの色気を同時に持っていた。
「カードデッキを配っておきながら、自分が参加するとはどういうことですかっ?」
「だお……」
「がお……」
「どうでもいいですよ♪ もったいぶってないで戦え、魔法使いのおば……」

ガオオン!

「ふぇぇっ!?」
佐祐理の左胸が唐突に爆発する。
うずくまる、佐祐理。
「シュートベント、不可視の弾丸。最弱な技だけど、本気で撃てば佳乃さんのファイナルベント程度の威力はあるわ。今のは力を殆どいれなかったから安心していいのよ」
郁未は右手の人差し指で今度は栞を指さした。

ガオオオン!

「えううぅぅぅっ!?」
文字通り弾丸に撃たれたようにうずくまる。
「話にならない弱さね……」
郁未は気怠げにため息を吐いた。
「話になるかならいかは観鈴ちんを倒してから言えがおっ!」
翼人☆みすずちんAIRになった観鈴が郁未に斬りかかる。
「ガードベント、不可視の壁」

バリリィィィイン!

「がおおおおおおっ!?」
ガラスの砕けるような音が響くと同時に、郁未に斬りかかった観鈴が反対方向に吹き飛ばされた。
「へぇ……流石、第2段階、わたしの不可視の壁を砕くとわね」
郁未はクスリと笑うと、人差し指と親指だけを立てて銃の形を作っていた手をひらき、パーの形にした手を倒れている、観鈴に向ける。
「これは頑張っている、あなたにご褒美。シュートベント、不可視の爆撃」

ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

突然、観鈴を中心に凄まじい爆発が起こった。
「えぅ〜……今の……私のエンド・オブ・スノーと同じぐらいの威力が……?」
「そうね、あなたのエンド・オブ・スノーと佐祐理さんのメテオキックの威力はだいたい7000APぐらい、私の不可視の爆撃8000APだからだいたい同じね」
「えぅ!? シュートベントの方がファイナルベントより強いなんてインチキです!」
吐血しながら、抗議する、栞。
「まあ、私は元からあなた達で言うところの第2段階……最終段階だから……」
「ファイナルベント! ケロピーキック!!!」
「ん?……壁では無理か……ガードベント! 不可視の盾!」
不意打ちの名雪のキックに郁未は右手をかざした。

ガコオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

「だおっ!?」
名雪はキックのポーズのまま空中に浮いている。
名雪の足の先端と郁未の右手の間には見えない何かが……いや、赤い光があった。
「体全体をバリアで包む不可視の壁と違って、一点に防御を集中するのが不可視の盾。盾を作っている部分以外は無防備になるのが欠点な技よ」
「それはいいことを聞きました! 名雪さんごと吹き飛んでください、ファイナルベント、エンド・オブ・スノー!!!」

ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

栞は迷わず、エンド・オブ・スノーをぶちかます。
「フフフッ、油断大敵ですよ」
勝ち誇る、栞。
しかし、
「ホントいい性格をしているのね、栞ちゃんは……危なく名雪を盾にしてしまうところだったわ」
爆炎が晴れると、無傷の郁未が現れる。
郁未の右手には名雪が抱き抱えられ、左手には穴空き包丁が握られていた。
「えぅ〜……まさか……その包丁で……」
「ええ、全弾切り落とさせてもらったわ。この技、結構疲れるのよ……五右衛門さんじゃあるまいし……あまり非常識なことさせないでね」
「化け物……」
栞は絶望を感じる。
勝てない……。
この化け物にだけは絶対に勝てない。
怖い……。
なんとかして逃げなければ……。
「ソードベント、微塵切り、本来攻撃用の技なんだけどね……」
郁未は抱き抱えていた名雪を地面に転がす。
「だお〜」
「ほら、名雪。敵に庇われてどうするの? 私が佐祐理さんみたいな極悪人だったらあなたは盾にされてたのよ」
「あははーっ♪ 誰が極悪人ですか♪ 佐祐理はとっても良い子ですよ♪」
郁未の背後の上空から佐祐理の声が聞こえてきた。
郁未の注意が栞や名雪に集中している間に背後からファイナルベントを発動していたのである。
回避不可能な必殺のタイミング。
佐祐理には勝算があった。
例え、郁未が不可視の盾を使ったとしても、キックと共に降る全ての隕石を受け止めきることはできないはずだ。
逆に全体を守る不可視の壁を使ったなら、キックで叩き壊すまで。
観鈴の剣程度で壊れる壁など自分のファイナルベントの敵ではない。
「あははーっ♪ 確かにあなたはここにいる中で一番強いでしょうが、全員を敵に回したのが敗因ですね♪」
「なんか、あなたにだけ言われたくないような気がするんだけど……」
「殺っりました♪」
郁未は焦らずにカードをデッキにセットする。
「ソードベント! 包丁千本!!!」
空から迫ってくる佐祐理に向けて、郁未は無数の包丁を投げつけた。
「ふぇっ!?」
佐祐理は急に止まれない。
佐祐理と隕石はそのまま包丁と郁未に激突する。

ドカカカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

凄まじい爆発の後には、郁未と佐祐理の二人ともが倒れていた。
ゆっくりと郁未が立ち上がる。
「やっぱり、AP(攻撃力)の劣る技で迎撃するのは無理があったわね。少しだけダメージを受けちゃったわ」
佐祐理の方はピクリとも動かない。
「ええっと、これで残っているのは……」
郁未は辺りを見回した。
ピクリとも動かない観鈴と佐祐理、地面を転がっている名雪、残るは……。
「えぅっ!?」
「じゃあ、栞ちゃんで最後ね。せっかくだから、ファイナルベントを見せてあげようか?」
「えうううううううううううううううううううううううぅぅっ!?」
栞は死を覚悟した。
今での病気の時の何倍も死を身近に感じる。
シュートベントで自分のファイナルベントを上回る人間のファイナルベント!?
即死感実……。
「大丈夫よ、栞ちゃん。一瞬で消滅できるから、痛みも恐怖も感じる間もないのよ」
「恐怖なら今、充分すぎる程感じてます!!!」
栞は駄目元でカードに手を伸ばした。
ガードベント……いや、ファイナルベントで迎撃すればもしかしたら即死を免れる程度に相手のファイナルベントの威力を削れるかも……。
「ファイナルベント!」
「ファイナルベント! エン……」
『うぐぅ! シュートベント! ダブルタイヤキバスターカノン!!!』
二人がファイナルベントを装填しようとした瞬間、一条の光が天から降り注いだ。



「何よ……あの光……」
天を貫くような巨大な……巨大すぎる光の柱。
その光景は、美汐と戦闘を開始しようとした香里の目にも飛び込んできた。
「あれは……あゆさん!? くっ、私の予定が完全に狂いました……」
美汐は舌打ちする。
「あなた知ってるの?」
「あゆさんのバスタータイヤキカノン……香里さん、アニメは好きですか?」
「何よ、唐突に……」
「バスターランチャーとか、バスターライフルとか、グンニグルランサーとか、巨大ロボットが使う最強のビーム兵器……あれが実在したとでも思ってください」
「はあっ!? そんなものを生身の人間が使えるわけ? 非常識もいい加減にしなさいよ……」
「異能者(超能力者)の香里さんには言われたくないでしょうね、あゆさんも……」
「あなただって、霊能者じゃない……」
「美少女呪術師☆みっしーとでもお呼びください。シュートベント! 霊波!」
「シュートベント! 不可視の弾丸!」
美汐の手から放たれた青い光と、香里から放たれた赤い光が中間で激突し、互いに消滅した。
「不可視と言いながら見えてますよ、香里さん」
美汐は意地悪くクスリと笑う。
「悪かったわね、まだ秋子さんほど洗練して使えないのよ!」
「修練が足りませんよ」
超能力にしろ霊力にしろ、一般人には見えないし、感じることができない。
しかし、威力が高まれば一般人にも『光』として見えることがある。
それが、美汐や香里の青や赤の光だ。
秋子の場合、香里以上に威力がありながら、質を高めることにより一般人どころか同じ能力者にすら見ることも感じることもできない力へと昇華させているのである。
「悪いけど、あなたより、あゆって戦った方が面白そうだから、あなたはさっさと倒させてもらうわよ」
香里は赤い月のカードを取り出した。
「MOON(月)……」
MOON(月)のカードの力で香里が変化していく。
「くっ! やはりそのカードを持っていましたか……」
ゴスロリの衣装が、深いスリットの入ったチャイナ服に変化した。
「チャイナ☆かおりんMOON……北川君なんかと契約していた時とは次元が違うことを教えてあげるわ! フィストベント! クィーンバグナグ!」
香里の拳に真紅に輝くバグナグが装着される。
「異能力では秋子さんに及ばないけど、あたしには最強のこの拳があるのよ。北川君は寧ろあたしの本来の力を妨げていたのよ、相性が悪かったのね」
角(触角)の武器では、せっかくの香里の拳が生かし切れなかった。
だが、今は違う。
今度の契約モンスターは全てが香里にぴったりとフイットしていて、香里の力を何倍にも高めてくれた。
その証拠に武器はバグナグ、鎧は動きやすいチャイナ服、スリットが入ってるので蹴りも自在に放つことができる。
さら、契約モンスターにも異能力があり、香里の異能力にプラスの修正を与えた。
「あはははははっ! あたしの敵になれるのはこの世で秋子さん一人だけよ! あなたごとき敵じゃないのよ、美汐さん!」
「APの高さが全てではないということ教えてあげます」
美汐は左手に呪紙の束を、右手にクリスタルの数珠を構える。
「宗教めちゃくちゃね……」
巫女の恰好をした呪術師が陰陽師の呪紙と密教の数珠……これで黒魔術か白魔術でも使ってきたらパーフェクトだ。
「いきますよ! シュートベント! クリスタル数珠ビット!!!」
クリスタルできた数珠の球が分かれ、四方八方から香里に襲いかかる。
「ちっ!」
香里は瞬時に不可視の壁で防ぎきれない威力があること察し、防御をやめて、回避を選択した。
不可視の盾はもとより、攻撃系の技で迎撃するのも、この多角的な攻撃には有効な集団に思えない。
数珠は一つ一つが意志を持つかのように自在に動きを変化させた。
「けど、あなた自身は無防備よ!」
香里は数珠の包囲網を突破すると、美汐に襲いかかる。
「甘いです、ガードベント! 呪紙結界!」
美汐の周りで展開した呪紙が青い光を発し、美汐を包み込んだ。

ガキィ!

香里の拳は青い光の膜にあっさりと弾かれる。
「攻防一体、それくらい基礎ですよ、香里さん」
「フッ……甘いのあなたよ! フィストベント! 美坂マグナム!!!」

バコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

香里の右拳は青い膜を突き抜け、美汐を殴り飛ばした。
「伊達に第2段階じゃないわよ。あたしの右拳は栞のエンド・オブ・スノーと匹敵する威力があるのよ」
「…………確かにそのようですね……呪紙結界で威力を削っていなかったら、一撃で殺られていたかもしれません」
美汐は左頬を抑えながら起き上がる。
美汐は痛みに耐えながらも、冷静に香里の戦力を分析した。
不可視の力による遠距離攻撃と防御、拳と蹴りによる近距離の格闘能力。
基本的に遠距離攻撃しかない重火器型の栞、ケロピーを投げつけるぐらいしか遠距離武器がない接近戦型の名雪と違って、香里は遠近共にスキがない。
自分も遠近どちらもできる万能型だが、遠近ともに威力が香里に劣っている。
第1段階と第2段階のAPとGPの差……それが決定的だ。
「だが、要は戦い方次第です! ソードベント! ミシオンソード!!!」
美汐の両手から青い霊気の剣が延びる。
「フィストベント! クィーンバグナグ!」
「銀河を切り裂くミシオンソードの一撃受けきれますか!」

ガキィ!

「なっ!? 第1段階のソードベントのくせに、あたしのクィーンバグナグと互角!?」
驚愕する、香里。
しかし、香里は一つ勘違いをしていた。
確かに、段階に差がありながら互角なのがすごいが、美汐にとってミシオンソードは最強の接近武器(ソード、フィスト)であるのに対し、香里のクィーンバグナグは一番弱いフィストベントなのだ。
美汐が欲しかったのは、香里の一瞬の動揺。
その瞬間を逃さずに、美汐はファイナルベントを放つ。
「ファイナルベント! アカシックミシオバスター!!!」
美汐が空中に描いた魔法陣から霊気で作られた狐が放たれた。

「なっ!?」
至近距離すぎる。
ガードベントを使う間もない。

ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

「ファントムフォックス……真琴の前に私が愛した狐の亡霊……それが私の契約モンスターです」
これ以上信頼できるモンスターはいない。
そして、同時にこの子になら、契約が切れて喰い殺されても悔いはない……。















次回予告(美汐&香里)
「というわけで第15話をお送りしました。完全にオリジナル、しかも1話丸々戦闘シーン(しかも長め)という問題作です」
「うう……」
「どうしました、香里さん?」
「なんであたしが負けるのよ……戦闘能力も、作者の思い入れもあたしの方が圧倒的に上なのに……」
「実力の差です」
「だから、戦闘能力は……」
「強さとは戦闘能力ではありません。戦術の巧みさと覚悟の深さです」
「くっ……」
「香里さんや佐祐理さんは感情のむらがありすぎるから、不覚を取るんです。戦いとは常に冷静なものが勝つものです」
「悔しいけど否定できないわ……」
「そんなわけでヒロイン全員戦闘開始ですね」
「戦闘能力の差がかなり激しいけどね」
「戦闘能力高いのに負ける方もいるので問題ありません」
「くぅっ……」
「では、、今回はこの辺で」
「……良ければ次回もまた見てね」
「戦わなければ生き残れません」




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