カノン・サバイヴ
第14話「13人目のヒロイン」






「ルールはとっても簡単よ」
青い髪の少女はトランプをシャッフルしていた。
「一度切り、チェンジも無し、完全な運の勝負」
青い髪の少女は一緒のテーブルに座っていた二人の少女の前にカードを一枚ずつ伏せてくばる。最後に自分の前にも一枚カードを伏せた。
「一番高い数字のカードだった者が勝ち。これ以上単純な勝負はない」
「あたしが一番だったら……ホントに良いのね」
茶髪の少女が確認するように尋ねる。
「ええ、参戦することを許可するわ」
「……フフフッ、そうやっと……」
「もう勝った気ですか? ちなみに、私が一番だった場合は……」
今度は金髪の少女が尋ねた。
「ええ、あの子を使って良いわ」
「了解しました。ところで、あなたが勝った場合はいったい?」
「私? 決まってるじゃない、私が出るのよ」
『なっ!?』
金髪の少女と茶初の少女が同時に驚きの声を上げる。
「驚くことないわ。多分、美汐さんの筋書き……彼女の予定の未来だと私が出向くことになっている。彼女の予知に素直に従うのも面白くないから、別の未来の可能性を二つほど用意することにしたの」
天野美汐の持つ赤い本には歴史が休むことなく刻まれていく。
それゆえに、美汐は一歩も動かずに、『過去』になった全ての情報を知ることができる。
名雪や佐祐理達の行動などを全て把握することができたことだろう。
それだけでも、充分驚異的な能力だが、希に、美汐が現在存在している時間より先まで歴史書が刻まれていくことがある。
つまり、予知だ。
「まあ、歴史書って言うぐらいだから、大きな流れしか載らないんだけどね」
だから、ここにいる少女達の行動、『暗躍』といったレベルのことまでは載らない。
表舞台に出てこない者の行動や思惑までは歴史に残ることはないのだから。
「そんなわけで、勝負といきましょう」
青い髪の少女は無造作にカードをめくる。
「私はクィーン」
「勝ったわ。あたしはキングよ、これで決まりね」
そう言うと、茶髪の少女はカードを投げ捨て、さっそく出かけようとした。
「お待ちなさい」
金髪の少女が制止する。
「私のカードはエースよ」
「なっ!? エースは1でしょ!」
「ポーカーを始め、トランプではエースは一番強い、一番上のカードです。そんなことも知らないのですか?」
「くっ……」
茶髪の少女は悔しげに唇を噛みしめた。
「決まりね、あなたにお任せするわ、葉子さん」
「解りました」
鹿沼葉子、それが金髪の少女の名前だった。



祐一は少女の正体を確かめるために某施設へと向かった。
しかし、そこに居たのは少女ではなく、祐一のよく知る人物、青い髪を三つ編みにした大人の女性、祐一の叔母、水瀬秋子だった。
「俺、この施設に覚えがあります……七年前、ここで俺とあゆは……うっ……実験?……失敗……」
「そう、思い出してしまったんですね、祐一さん」
「なんの実験だったのかまで思い出せませんけど……あの時、確かに、俺とあゆとそして……うう……」
祐一は頭を抱える。
「それ以上無理に思い出さない方がいいですよ、祐一さん。それに、あなたが私に本当に問いつめたいのは、七年前の昔話ではないでしょ」
「ええ……カードデッキ、エターナルワールド、モンスター、ヒロイン同士の戦い……全て秋子さんの仕業なんですね!」
「フフフッ、祐一さん、飛躍しすぎですし、証拠や確証も不十分ですよ……いくらでも誤魔化すことができますが、あえて答えてあげますね」
秋子はいつものおっとりとした笑顔で浮かべた。
「カードデッキを作ったのは私です」
「やっぱり……そうなんですね……」
「ええ」
秋子は『了承』と答える時の表情で当然のように肯定する。
「祐一さん、なぜあなたがヒロイン同士の戦いに関わるのですか。あなたは私の言うとおり大人しくしていてくださいね」
祐一は名雪も観鈴も、ヒロイン同士の戦いに苦しめられていると訴える。
だが名雪の答えは冷徹だった。
「戦う目的をなくしたヒロインは死ぬだけです。何の問題もありません」
「秋子さんがそんな人だったなんてぇ!!!」
部屋中の鏡を叩き壊す、祐一。
「やめなさい、祐一さん! 祐一さん!」
秋子は必死にとめる。
しかし、祐一は部屋から飛び出し、施設中の鏡を叩き怖そうする。
「そんなに戦いたいなら、俺がヒロインになりますよ!!」

ガシャアアアアアアアン!

「やめなさい!!!」
秋子を写していた背後の鏡から無数の花びらが生まれ、祐一の腕を薄く切り裂いた。
「秋子さんの目的は何なんですか……」
「今以上の『力』を手に入れることです。私に必要なのは最後に残ったヒロインだけ……そのためなら他がどうなろうと構いません」
「…………」
「必要だったのは祐一さんではありません。エターナルワールドに接触できるあなたの力……でも、ここまでくればもう用はありません……邪魔をするなら、あなたを消します」
「秋子さんがそういうつもりなら、俺も迷わずに言えます……さよなら、秋子さん……もう肉親だなんて思いません!」
秋子の手を振り払って、施設から飛び出していく、祐一。
「それでいいんです、祐一さん。あなたは真実を知る必要などないのです……」
祐一の後ろ姿を見つめる秋子の表情が、どれだけ愛しさに満ちているものだったのか祐一は知らないまま施設を後にする。
秋子の手には赤い月の紋章の刻まれたカードデッキが握られていた。



しおりん法律事務所。
「まったく、祐一さんはどこに行ったんだか……ごふっ!?」
吐血と共に倒れ込む、栞。
「ごほっ! げほぉっ!
栞は血を吐き続けながら、床をのたうち回る。
「はあはあ……あ……あまり、時間は無いみたいですね」



佐祐理のアジト。
「退屈ですね…………あうあああああああああああああああっ!」
佐祐理は突然ヒステリックに叫ぶと、暴れ回る。
佐祐理の苛立ちは決して収まることはなかった。



観鈴はエターナルワールドでモンスターと戦っていた。
そこに、栞が現れ、雪玉ランチャーで攻撃してくる。
「余計な時に来るがお……」
観鈴はAIR(空)のカードで翼人☆みすずちんAIRに変身した。
ファイナルベント翼人特攻であっさりとモンスターを倒した観鈴に、突然剣が斬りつけられる。
「あははーっ♪ 佐祐理にも戦わせください♪」
「佐祐理……さん……」
剣で斬り合う、二人。
「ふぇ?」
栞が遠距離から狙っていることに気づいた佐祐理は、先に栞に攻撃した。
「えぅ〜!」
栞は飛び蹴りをくらい、地面に叩き落とされる。
熾烈なヒロイン同士にサバイバルバトルが展開。
名雪も駆けつけ、四人の戦いは再現なく激しさを増していく。
「あははーっ♪ やっぱり戦いは最高ですね♪」
佐祐理はユナイトベントでジェノサイダー北川を召喚した。
佐祐理は、次第に他を圧倒していく。
その時、突如、空が暗闇に支配された。
そらから放たれる赤い光。
見上げるヒロイン達。
血のように赤い月を背後に、天より一人の少女が降り立つ。
「魔法使いのおばさん♪」
青い髪の少女は佐祐理の発言を無視して語った。
「戦いを続けなさい。最後に残った一人だけが、私と戦い『力』を得られるでしょう。最初にして最後のヒロインである、この天沢郁未と……」




「最初にして最後、最古にして最新、最強にして最狂……0にして13人目のヒロイン……ついに出てきましたね」
「あぅ〜……」
ここまでは予知どおりだ。
問題はこの後の自分達の行動だ。
歴史書では、天沢郁未がこのあと時間を……。
「流石に、家から出てきたのね。直接、この瞬間を確かめるために」
背後に声、それと同時に生まれる異常なまでの殺意と悪意。
振り向いた美汐は一瞬驚愕する。
「迷って出ましたか……香里さん……」
ウェーブのかかった茶色の髪の少女、美坂香里は妖艶な笑みを浮かべた。



「うぐぅ、ボクに何か用なのかな、おばちゃん?」

ドオオオオオオオオオオオオオオオオン!

「うぐぅぅっ!?」
不可視の衝撃が少女を吹き飛ばす。
「一緒に来ていただきますよ、月宮あゆさん」
鹿沼葉子は、あゆの首根っこを猫のように掴むと、姿を消した。





















次回予告(美汐&香里)
「というわけで第14話をお送りしました。元ネタ忠実?と同時に、完全なオリジナルな話が進行していますね」
「これで、謎の類は殆どなくなったわね。最初から謎なんてなかった気もしないこともないけど……」
「MOONというのが問題なのかもしれません。普通の方は混ぜるならONEの方を優先しますから」
「まあそうかもね?」
「というわけで、夏コミ行けませんでしたね、香里さん」
「ええ……て、脱線せないでよ。まあ、今回の話の最大の未練は、『餃子美味かったッス』ができなかったことね!」
「また、元ネタ知らない方には解らないネタを……」
「だって、アレは元ネタの方で三本の指に入る傑作よ! でもね、この配役でやっても『イチゴサンデー、美味かったぞ、名雪。作り方教えてくれ(祐一)』じゃ面白くもなんともないでしょ?」
「そうですね」
「逆に、餃子のままだった場合は全然名雪とイメージ繋がらないし、元ネタ知らない人は欠片も楽しめないわ」
「餃子も奥が深いのですね……」
「じゃあ、次回はとりあえず、完全にオリジナルな戦闘の話になると思うわ」
「せっかく、私達オリジナル設定のヒロインに技とか考えたことですしね」
「ちなみに、そのネタバレになるキャラ紹介がHPのどこかにこっそりアップされていたりするわよ」
「探すほどのものではないですけどね」
「じゃあ、今回はこの辺で、良ければ次回もまた見てね」
「戦わなけれ生き残れません」


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