カノン・サバイヴ
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幸せだった。 それは逃げだったのかもしれないけど、あの人と一緒ならそれでも良かった。 夢幻の終わり。 現実を逃避するのを辞め、あの人と一緒に、あの街を、母親を捨てて旅に出た。 逃避から逃亡に変わっただけと他人は言うかもしれない。 それでもいい、私は現実を、あの人を選んだのだから……。 得体の知れない不安や恐怖から逃れるために、刹那の慰めと解っていても、何度も体を重ねた。 私は今、幸せなんだと自分自身を納得せるために何度も何度も……。 いつのまにか、私は完全にあの人に依存して生きていた。 あの人が居なければ生きていけないほど……弱い、愚かな女になっていた……。 あの人は今はもう居ない。 それなのに、私は……まだ生きている……。 あの人の居ない世界で生きていても何の意味もないのに……。 「…あの人は……国崎往人という人は……最後までヒロインになって戦うこと拒絶したんです……」 エターナルワールドから帰還した美凪は、名雪に自分がヒロインになった経緯を話しはじめた。 私には夫が、愛する人が居ました。 国崎往人、彼は人形使いでした。 彼は方術と呼ばれる見えない力で人形を操り、路上パフォーマンスで日銭を稼いでいました。 もっとも、彼の芸はただ人形が歩くだけの芸で、彼の目つきの悪さもプラスされ、ウケは、稼ぎはよくありませんでした。 おかげで、とってもエキサイティングでサバイバルな生活をするはめになったり、私が稼いで彼を養わなければならなかったりもしました。 私は別にそれでも良かったんですが、彼にも男としての、そして、人形遣いとしてのプライドがあったのでしょう、私にはあまり働かせてくれませんでした。 毎日いろいろなことがありました。 辛いこと、大変なこと、生きている以上、そういったことは毎日のようにやってきます。 でも、私は幸せでした。 彼と一緒に居られることが、彼に愛してもらえることが、彼を愛することをできることが、至上の喜びでした。 ところが、そんな幸せな生活を壊す者がやってきました。 ある事件に巻き込まれ、彼は人形を操る力を失ってしまったのです。 そんな時、絶望した彼の前に一人の少女が現れました。 ヒロインになって、失った力を戦いで取り戻せ…………と。 しかし、彼は最後までヒロインになって戦うことを拒絶しました。 その結果、彼は……彼はモンスターの犠牲となり、私の前にはカードデッキだけが残されたのです……。 「……以上です」 「…………」 ズシリと重い真実に、名雪は言葉を失った……。 車の中に祐一を監禁した佐祐理はイラだっていた。 「……なんで誰も来ない?……なんで誰も来ないんですか♪」 ドカッ! 「だから言っただろう、俺を人質にしても栞は動かない」 「あははーっ♪」 ガシャアアン! 叩き割られる車のフロントガラス。 「戦いたいんですよ、佐祐理は♪」 ドカアアアアッ! ボコオオオオッ! 「あははーっ♪ あははーっ♪ あははーっ♪」 狂ったように笑いながら、佐祐理は素手で車を破壊していった。 その頃、観鈴と栞もエターナルワールドから戻ってくる。 「はあはあ……少しはやるようになったってところですか?」 「ふぅ……栞ちゃんが弱くなったんじゃないの?」 「はぁ? 私がですか?」 「ホントに助けにいかないつもりなの?」 「私は自分だけが可愛いんです。他人のための犠牲は美しくありません」 「……最低がお……」 「だから、強いんです!」 栞は自分に言い聞かせるかのように強く主張した。 呆れて事務所を後にする観鈴。 入れ違いに、買い物袋を下げた男がドアを開ける。 一人になり、不安と苛立ちをあらわにしていた栞の元に、祐一が帰ってきたのだ。 「祐一さん……」 「栞、美味しいアイスを買ってきたぞ」 その夜、美凪が水瀬家から去っていく。 「美凪さん、どうして急に出ていくなんて…… 「…長居しすぎました……それに、あなたや観鈴さんとは違う道になりそうですから……」 美凪は祐一に視線を移す。 「…あなたは……いえ、なんでもありません。泊めてもらって助かりました…秋子さんによろしくお伝えください」 美凪は玄関から出ていく。慌てて後を追う、名雪。 「美凪さん、もう少し一緒に居た方が……だって、占いだと……」 「…大丈夫です、私はそう簡単に死にません……それより……」 「なに?」 「…相沢祐一から目を離さないことです」 「……どういう意味?」 「…今はこれ以上言えません……」 「今はって……じゃあ、いつなら……」 丁度、そこに観鈴が帰ってくる。 「美鈴さん、美凪さんが出ていくって……」 「…………」 「…………」 無言で見つめ合う、二人。 美凪は少女から新たに受け取った風のカードを取り出した。 「…このカードは神尾さんが使ってください。お別れで賞……進呈です」 カードを観鈴に差し出す美凪。 「これは?」 「…あの少女が私を戦うする気で渡してきたカードです。佐祐理さんを倒せと……」 「なんで、佐祐理さんを?」 「…国崎さんが巻き込まれた事件の犯人が佐祐理さんです……」 「!?」 「…ですが、彼女の思惑に乗るつもりはありません。では、失礼します」 美凪は自転車に乗って去っていく。 観鈴は美凪の残しいったカードを無言で見つめていた。 佐祐理は隠れ家でディナーをとっていた。 今日のディナーはカップ焼きそば。 そこに、モンスターの警戒音と共に少女が現れる。 「ヒロインは戦い合うものじゃなかったんですか、魔法使いのおばさん♪」 「誰がおばさんよ! このピチピチの……ごほん! そうよ、ヒロインは戦う者よ。戦わせてあげる」 「ふぇ、誰とですか?」 「ライスシスター☆ナギーよ」 「ナギー?」 「彼女を倒しなさい」 「……まあ、ヒロインなら誰でもいいです♪」 佐祐理は上機嫌で二つ目のカップ焼きそばに手を伸ばすと、後ろを振り返る。 「あなたも食べますか?……ふぇ?」 少女の姿はすでに消えていた。 「…やはり、鍵は……相沢祐一ですか……んっ!」 ふと視線を送ったガラスに、少女が姿を現す。 「どうしても戦いを止めるつもり?」 「…ええ」 「国崎往人のためか……でも、あなたは知らない。国崎往人はヒロインにならなかったことを悔やんでいた。自分のために戦うべきだったと……」 「…嘘です!」 「人間なら当然よ。彼は後悔にまみれながら無くなったわ……」 「…そんなはずありません!」 「あなたもそうなるわ」 美凪は激しく反論するが、少女は取り合わず姿を消した。 そして目の前には、少女に導かれやってきた佐祐理が。 「あなたが佐祐理の相手をしてくれないなら、ここで佐祐理が何するか佐祐理でも解りませんよ♪」 街中での突然の大量殺戮。佐祐理なら迷わずそれくらいのことはするだろう。 脅しをかける佐祐理に、美凪は一瞬、カードデッキを見つめた後、覚悟を決めたかのように変身し、戦いの世界へ身を投じていく。 エターナルワールド。 佐祐理に相対する美凪だが、その脳裏には少女の声がまとわり付いていた。 『国崎往人は後悔していた』。 (……国崎さん……あなたは本当に後悔していたのですか……?) 佐祐理の攻撃をまともに食らう間も、その言葉が頭から離れない。 「ふぇー、手応えがまったくありませんね……もっと真面目にやってください!」 手ごたえの無さに、狂暴性をむき出しにして攻撃する佐祐理。 そこへ、2人の戦いを察知した名雪が飛び込んでくる。 「美凪さん、しっかりして!」 「…名雪さん……」 「あははーっ♪ あなたの方が面白そうです♪」 「ふざけないでっ!」 美凪に代わり、佐祐理に対抗する名雪。 「あははーっ♪」 佐祐理がアドベントカードを装填すると、メタル北川が現れ、名雪を吹き飛ばした。 佐祐理はさゆりん☆ソードで追撃の連撃を決める。 佐祐理の力は凄まじく、次第に名雪も追い込まれていく。 「あははーっ♪ 二枚ありますよ♪ どっちがお好みですか♪」 メタル北川とファンシーアリクイのカードを見せびらかす、佐祐理。 「ふざけるなっ!」 「あははーっ♪」 そして、遂に佐祐理がファイナルベントを装填した。 佐祐理はさゆりん☆メテオキックを放つために空高く舞い上がる。 「あははーっ♪ さゆりん☆メテオキック♪♪♪」 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! さゆりん☆メテオキックが炸裂した。。 しかし、直撃を受けたのは、名雪を守るため、身を呈した美凪だった。 「はぇ〜……どういうつもりですか?」 ゆっくりと崩れ落ちる美凪。その粒子は乱れ、今にも美凪消え去りそうな状態だ。 「美凪さんっ!!」 美凪を抱きかかえる名雪。 「何を遊んでるんですか♪」 その間も、お構い無しに迫ってくる佐祐理の攻撃を、現れた観鈴が防ぐ。 「遠野さんを連れて逃げて!」 「……ふぇ、来ない時は一人も来ないくせに……」 戦いを観鈴に任せ、帰還する名雪と美凪。 「しっかりしてよ、美凪さん……美凪さんは運命を変えるんでしょ? 運命の通り死ぬつもりなの!?」 名雪は美凪を必死に励ます。 だが、うっすらと目を開けた美凪はわずかに微笑みを浮かべこう告げる。 「…違います……次に消えるヒロインは……本当は、あなただったんです……」 「えっ……」 「……運命は……変わるんです……よ……」 その時、駆け付けた祐一の姿が、ガラスに映り込み美凪の視界に入ってくる。 「祐一! 救急車! 早くっ!」 「あ、ああ!」 それを見つめていた美凪の目が、驚いたようにわずかに見開かれる。 残された力で、何かを指し示そうとする美凪。 だが、苦痛に襲われ、伝えることができない。 (…国崎さん……あなたは後悔なんてしていなかった。今なら解ります……あなたは私の運命を変えていたんですね……それがもっと大きな運命を変えることに……) 「美凪さんっ!!!」 美凪の手が名雪の手を強く掴み、 (……やっとあなたの所に……くに……往人……) そして、やがて力なく地に落ちる。 「ねえ……嘘だよね……目を覚ましてよ、美凪さん……美凪さん……美凪さんっ!!!」 エターナルワールドでは、空(AIR)のカードを手にした観鈴の周囲に、一陣の風が渦を巻き始めていた。 あおられよろめく佐祐理。 荒れ狂う大気の中では、観鈴が新たな戦士へと変化していった。 次回予告(美汐&香里) 「というわけで第10話兼最終話をお送りしました」 「かってに最終話にするなっ!」 「それは冗談ですが、ちょうど元ネタ的に前半終了部分ですし区切りのよい場所です。そしてこの作品的にも最大のターニングポイントでした」 「どういう意味?」 「ここまでということです」 「まさか、打ち切り!?」 「いえ、今でも部分的にオリジナル展開や要素は入っていたんですが、次回から完全にオリジナルなストーリーにぼちぼち移行していくということです」 「ついに決断したのね……で、具体的に言うと?」 「うぐぅやあぅーっ達を勝手な設定で参戦させます」 「それは……危険ね……収拾付かなくなりそう……」 「まあ、どのみち忠実にやりたくても、いよいよ限界に来てるんです。忠実にやってるつもりでも、解釈を間違えると忠実じゃなくなってるでしょうし……」 「オー○ィンの正体とか、お兄ちゃんの真意とかね……」 「ええ、それとうぐあぅ、そしてこの私の出番待ちがこれ以上限界だということです」 「……素直に本編登場したいと言いなさいよ……」 「まあ、ここが分岐点ということで、後で本編忠実版も元ネタが進んだらやるかもしれませんので、忠実じゃないと嫌という方はそちらを……」 「期待せずに待ってねということね」 「はい」 「しかし、まだどっちかというと本編忠実よりだったとはいえ、あっさりと美凪さんを殺したわね」 「ええ、本人の希望でしたから」 「へ?」 「美味しい死に様なので満足だそうです」 「……そう……」 「それに、往人さんがいない世界で生きていても意味がないと」 「……そう、まあ、同じ死に様でも佳乃さんとは差が激しいわね……」 「別に佳乃さんに恨みがあるわけでも、佳乃さんファンにケンカ売りたいわけでもないんですけどね。元ネタがああだった以上再現すればああなるしかないんです。苦情は元ネタの方にお願いします」 「配役に不満というのありだけど、一番似合うのが彼女だったから仕方ないわね。如何にも主人丸飲みにできそうなペット飼ってるから……」 「では、今回はこの辺で……またお会いしましょう」 「良ければ次回もまた見てね」 「戦わなければ生き残れません」 |