カノン・サバイヴ
第9話「美凪の復讐」





「…神尾さんには永遠の孤独の呪いがかけられているのです……誰かと親しくなれば……相手も自分も弱らせ……ついには命を奪ってしまう……誰かを愛することも、愛されることも許されない……一人孤独に死に……生まれ変わってまた同じ苦しみを繰り返す……未来永劫……この世の果てまで……一人きり……」
「そんな……」
「…そして、彼女の母親も今は意識不明の状態です……」
「!?」
「母親を救うため……呪いを解くため……神尾さんは戦うしかないんです……戦って勝ち残って『力』を獲るしか方法が存在しないのです……」
「なんで美凪さんはそんなことまで知っているの?」
「…お米(占い)はなんでも知っています……」
はじめて観鈴の事情を知った名雪は、ただ戦いを止めるだけでは解決できないことがあると知る。
そして、そうした問題を背負っているのは、観鈴だけではないことも……。



その頃、佐祐理と観鈴は、とある廃屋に身を潜ませていた。
相変わらずイライラし、歩き回る佐祐理。
「戦っている間だけが頭がスッキリするんです♪」
という佐祐理は、名雪を誘い出すよう観鈴に命じる。
佐祐理にとって戦いの意味とは、その程度の次元かと、観鈴は相手にする様子もない。
ところがそこへ、なぜか名雪が自ら姿を現した。
「あははーっ♪ 自分から殺されに来ましたね♪」
奮い立つ佐祐理。
だが名雪は、佐祐理ではなく観鈴と戦う目的で、ここへやって来たのだった。
観鈴の戦いの重さを知った名雪は、思い悩んだ挙げ句、自分が相手となり全力でぶつかり合うことで、ヒロインの苦悩を受け止めようと考えたのだ。
話を聞き終えた観鈴は、納得したかのように、静かにカードデッキを取り出す。
だが、2人の間に佐祐理が割り込む。
「佐祐理に譲ってください♪」
一瞬、見つめ合った後、観鈴は意外にも佐祐理に譲って脇へと引く。
「さあさあ、早く始めましょう♪ 佐祐理、ウズウズワクワクしてきました♪」
とまどう名雪を佐祐理が急かす。
仕方なく構える名雪。
「変……」
「あははーっ♪」

ドカァッ!

その瞬間、佐祐理が振り下ろした鉄パイプが名雪の腕を直撃する。
「うっ……」
不意をつかれうめく名雪。
「その呻き声、痛そうな表情……佐祐理、ゾクゾクしてきちゃいました♪」
佐祐理は、戦いの快感を得るためなら手段を選ばないのだ。



腕の痛みは、エターナルワールドへ渡っても名雪を苦しめる。
「うう……」
「あははーっ♪ もっと苦しそうに鳴いてください♪ 佐祐理を楽しませてください♪」
カードを抜こうにもままならない名雪を、執拗に攻め続ける佐祐理。
「あははーっ♪ 佐祐理を絶頂させてくれる程の断末魔を聞かせてくださいね♪ ファイナルベント♪」
ついにファイナルベントが炸裂したその時、横から弾くように観鈴が現れる。
「はぇ……何のマネですか?」
いぶかる佐祐理に観鈴が答える。
「名雪さんは観鈴ちんが自分で倒す……そして、その前に……」
その前に佐祐理を倒すと宣言した観鈴は、容赦なくどろり濃厚剣で斬り込んでいく。
「ふぇぇぇっ!?」
倒れ伏す佐祐理。
「さよならがお……」
ファイナルベントを装填する観鈴。
すると今度は、メタル北川がその攻撃を阻んだ。
「美坂かかあああああああああああっ!」
吼えながら佐祐理に迫るメタル北川。
「あははーっ♪ 今度は佐祐理が飼ってあげますよ、北川さん♪」
次の瞬間、名雪達は驚きの光景を目にする。
なんと佐祐理がメタル北川と契約したのだ!
少女が佐祐理に渡した契約のカードは、1枚ではなかったのだ。
「あははーっ♪ 魔法使いのおばさんは佐祐理にだけは気前が良かったんですよ♪ 最初から契約済みの使い魔(ファンシーアリクイ)もくれましたね♪」
佐祐理の後ろに並び立つファンシーアリクイとメタル北川。
2体を巧みに操る佐祐理の攻撃に、名雪と観鈴は翻弄されていく……。



「くっしゅん!」
「どうしました、風邪ですか?」
「ううん、きっと誰かが私の美貌と知性のこと噂しているのね」
「………………」
「そういえば、佐祐理さんてすごく我が儘だったのよ。カードデッキ渡して帰ろうとしたら……『使い魔がいないと魔法少女としてカッコがつきません♪』……とか言って、モンスター用意させるし……将来的には使い魔増やしたいとか、合体させたいとか、魔法の種類は百種類ほど欲しいとか……」
少女の愚痴は続く。
「……おや? 来客のようですね。では、私はこれで失礼します」
女性は少女の愚痴から逃げるように姿をけした。
「ちょっと……あら?」
女性の後を追おうとした少女は、女性の言葉嘘ではないことに気づき、その場に残る。
そして、来客を出迎えた。
「いらっしゃい、美凪さん」



とある施設の一室で、美凪は少女と向かい合っている。
ヒロインの宿命に反し戦いを止めようとする美凪に、少女は突然1枚のカードを投げ渡す。
「…これは……そういうことですか……」
「佐祐理さん……あんな危険人物を参加させたのも……あなたに本気で参戦してもらうためよ、美凪さん。もし、それでも戦わないのなら……次に脱落するのはあなたよ」
と言いおき、少女は姿を消す。
「………………」」
残された美凪が部屋を振り返ると、鏡の前には一冊のアルバム。
拾い上げる美凪。
だが中には1枚の絵も残されていない。
その時、わずかに揺らめく鏡面の奥から、モンスターのチェーンが鋭く伸び、美凪の頬をかすめていく。
一瞬でモンスターは消えるが、少女の声は響き続けていた。
『戦いなさい』



一方、タイムリミットが近づいても戦いを止めようとしない佐祐理の攻撃に、名雪と観鈴は離脱のタイミングを失っていた。
「あははーっ♪ 佐祐理も消えるかもしれない……このスリルがたまりませんね♪」
激しく自らの体を薄れさながらもなおファイナルベントを抜く佐祐理。
「あははーっ♪ あはは……ふぇ?」
だが、佐祐理自身が限界によろめく。
その隙をつき、観鈴と名雪は脱出に成功。
ボロボロの状態で帰還する。
しかし、後を追うように現実世界に戻った佐祐理は、フラつく足取りでなおも落ちている鉄棒を拾い上げる。
「もっと……もっと佐祐理と遊びましょう……遊んでください♪」
逃げる名雪と観鈴、追う佐祐理。
「もっと……も……ふぇ……ぇぇ……ぇ……」
だが佐祐理の強靱な精神力もここで尽きたか、気絶しその場に倒れ込む。
なんとか逃げた名雪と観鈴も、ほとほと疲れ果てへたり込む。
大きく息をつき空を仰ぐ観鈴。
「家に帰ろう」
促す名雪に、観鈴はどこか晴れやかな顔つきで答える。
「……うん」。



その夜、美凪は名雪が観鈴と戦うために出向いていったことを知る。
依然、ヒロインの運命が変わらないことに肩を落とす美凪。
おもむろにマッチをすり、炎を見つめる美凪は、次に消える運命にあるヒロインを占いはじめる。
かたずを飲んで答えを待つ名雪に、美凪が告げる。
「…次に消えるヒロインは……私です……美人薄命……ぽっ」



同じころ水瀬家には、栞のために佐祐理の生存を確かめようと祐一が帰ってくる。
否定も肯定もしない観鈴。
だが会話のやり取りに佐祐理が生きていると確信した祐一は、観鈴が呼び止めるのも聞かずに、厳しい表情で家を後にする。
その時、観鈴に緊張が走る。
モンスターの接近音が聞こえるのだ。
走り出す観鈴。
だが、そこに祐一の姿はない……。



ひとり某施設の調査にあたっていた美凪は、七年前、ここで爆発事故があったことを突き止める。
生き残った男女のうち、女性は重傷、しかし男性はまったくの無傷だったという。
それが少女と祐一。
報告を受ける名雪だが、今はそれよりも、美凪の運命の方が気になって仕方がない。
なぜ、ヒロインになったのかを問う名雪。
美凪の答えは意外なものだった。
「…私は夫……愛する人の代わりにヒロインになりました……」
そしてその男は死んだ……と。



席を立つ美凪。
思いに沈む名雪。
するとその時、どこからともなくモンスターの接近音が響きはじめる。
周囲に目を配る美凪の首に、いち早くモンスターのチェーンが絡み付く。
そのままエターナルワールドへ引きずり込もうとするモンスター。
寸前にデッキを取り出した美凪は変身。
名雪も駆け付け、エターナルワールドへと渡っていく。



その頃、栞の事務所には観鈴が訪れていた。
祐一の大事を告げる観鈴。
だが栞はすでに、祐一の身に何が起きているかを知っていた。
祐一を拘束している張本人、佐祐理から連絡があったのだ。
「祐一さん、佐祐理の物にしちゃいますよ♪ えっちなことや非道いこといっぱいしちゃいますよ♪」
祐一に悪戯されたくなかったら、他のヒロインを引き連れやって来いと。
しかし、観鈴がやってきた今も、栞はまるで動こうとしない。
理由は「戦うのは自分のためだけ」だから。
眉をひそめる観鈴に、栞が付け足す。
「あなたとなら戦う理由があります……」


「…はああああああああっ!」
エターナルワールド。
いつもと違う戦いぶりを見せる美凪に戸惑う名雪。
「…ああああああっ! いやああああっ!」
なぜかムキになっている美凪の攻撃は、執拗に繰り返される。
「どうしたの!? ムキになるなんて美凪さんらしくないよおっ!」
「…こいつは……こいつだけは私が殺りますっ!!!」
「……美凪さん……」
「…砕け散りなさい! ファイナルベント!」
そして炸裂するツインテールベノン。
モンスターは爆発炎上、戦いが終わる。
「…国崎さん……」



時を同じく、始まる戦いがあった。並んでデッキを構える観鈴と栞。
二人はエターナルワールドへと疾走する。









次回予告(美汐&香里)
「というわけで第9話を……」
「……ページが足りなかったわね…………」
「……見事に美凪さんの最後の話の最初で終わってますね……」
「次回こそ必ずね……」
「ところで、香里さんの生死ですが……」
「それは今後の展開次第よ」
「お願いですから、アレは人形(身代わり)だったとか言って生き返らないでくださいね」
「そんなどっかの剣客や白拍子みたいなことだけはしないわよ……」
「あと、ずっと前から偽者だったとか……アメコミでしか許されないこと言わないでくださいね」
「まあ、崖か火口か海に落ちたのだったら、生きてる可能性90%よね、少年漫画なら……」
「墓に埋葬までしたのに、生き返った作品を見た時にはひきましたよ……あ、香里さんならサイボーグになって甦るのがお似合いかもしれません」
「あたしはどっかの科学忍者かっ!?」
「まあ、香里さんはともかく、祐一さんは大変ですね、三役(妹、女記者、某ゴロウちゃん)……かなり無理があります」
「ええ、滅茶苦茶無理あるわね……」
「では、次回、今度こそ、美凪さんの最後?でお会いしましょう」
「良ければ次回もまた見てね」
「戦わなければ生き残れません」




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