カノン・サバイヴ
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「…ん……」 「目が醒めましたか、香里さん?」 「……さん。あたし、寝ちゃってたんですね。今、何時ですか?」 「丑三つ時ですね」 一瞬、丑三つ時って何時のことだったかなと考えてしまう。まだ頭が完全に起きていないらしい。 丑三つ時、深夜2時から2時半ぐらい。 「……アレから家に帰らなかったんですか?」 「ええ、香里さんの寝顔をずっと見ていました」 「ん…………」 香里は相手から視線を外した。 寝顔を見られるのは裸を見られるより恥ずかしい。 他者に無防備な所を晒したくない。 弱いところは絶対に見られたくない。 どんなに気を許した相手でも、どんなに好きな相手でも……いや、逆に好きな相手にこそ見せたくなかった。 ちなみに嫌いな相手(例、北川など)に裸なり寝顔を見られた場合は恥ずかしさより殺意を抱き、しかるべき報いを与えることになるだろう。 「ん?」 「どうしました、香里さん?」 「いえ、そういえばこのモンスター……ホントに役に立つのかしらと思って? 元が元だけに……」 「馬鹿とハサミは使いようですよ、香里さん。香里さんの役に立てるのなら彼も本望でしょう。こんな形でない限り、ずっと香里さんと一緒にいられるなんて幸福は獲られなかったでしょうから……」 そういう女性の手には一枚のカードが握られていた。 「まあ、前よりは害は無い……とは思いますけど……なんか……」 明確な理由のない嫌悪感が沸く。 早い話、一言でいうなら、彼と四六時中一緒というのが気持ちが悪い。 「あらあら、そこまで彼が嫌いだったんですか?」 「人間だった時から鬱陶しかったんですよ……それがモンスターになってまで……」 「フフフッ……それより、そろそろ、香里さんにも参戦して欲しいのですが」 女性は香里にカードを投げ渡す。 「……あたしもあなたにとっては手駒の一つですか?」 「香里さんは特別ですよ」 「………………」 香里は身体にシーツを巻きつけ立ちあがった。 「名雪や栞ちゃんと戦うのは気が進まないですか?」 香里は シャワールームの方に向かいながら吐き捨てるように答える。 「あたしはそんな甘い女じゃないわ」 『夜の学校に現れる仮面の女』という噂を確かめに来た名雪が見たのは、2人の鉄仮面が戦いあい、同時に果てる姿だった。 「鉄仮面たちが戦って最後の生き残りを決めるというゲーム……単純なゲームでしょ?」 「香里!? なんでここに……」 物陰から現れた香里は、名雪の問いには答えずに続ける。 「あたし達が参加させられてるゲームを簡略化して、他人に演じさせて見たのよ。あたし達のゲーム……潰し合いを眺めているあの人がどんな気持ちなのか知るためにね……」 「ゲームって……もしかして香里も!?」 香里は口元を微かに歪ませると、カードデッキを取り出した。 「参加資格はデッキを持っていること、クリア条件は自分以外の12人のヒロインを全員倒すこと……とてもシンプルだけど面白そうなゲームでしょ」 「面白くなんかないよ! ただいたい戦う合う理由なんてないよ!」 「そういうゲームなのよ……変身!」 美しいゴスロリの衣装に香里が変身した瞬間、周囲の雰囲気が一変する。 見た目は何も変わっていない。だが、何かが完全に変わっている。 「エターナルワールド……まあ解釈はいろいろあるけど、資格のある人間と化物しか存在できないバトルフィールドって所ね。現実の世界だと巻き添えで器物破損や人を殺しちゃったりしちゃいろいろと面倒だから……」 その時、モンスターの気配が二人に走った。 「……変身だお」 体操服とブルマに変身完了した名雪の目に烏賊型のモンスターと戦う香里の姿が映った。 「名雪、昔、北川君ってひとが居たわよね」 烏賊モンスターと戦いながら、香里が話しかけてくる。 「えっ?……うん、少し前に行方不明になったんだよね……」 「今、会わせてあげるわ、彼のなれの果てを……ファイナルベント!」 次の瞬間、異様に長い触角の少年が姿を現した。 「北川くん!?」 妙なメタリックな鎧というか装甲をしていて、触角の長さも異常に増していたりしたが、それは確かに名雪の知る、クラスメイトの北川である。 「触角プレッシャー!!!」 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 香里を背中に乗せた北川がモンスターと激突し大爆発を起こした。 爆炎が離れた後には、香里と北川だけが立っており、モンスターの姿は塵一つ残さず消滅していた。 「ストライクベント! 北川ホーン!」 ブチ! 「ぎゃあああああああああっ!」 香里は北川の触角をむしり取ると、槍のように構える。 触角を抜かれた痛みでのたうち回っていた北川はいつのまに消滅していた。 「……北川くん……大丈夫なの?」 「無用な心配よ。彼、もう人間辞めてるから。それより、今は自分の心配をしたら?」 容赦なく名雪に襲いかかってくる、香里。 「待ってよ、香里! ヒロイン同士で戦う理由なんてないよお!」 「理由? そうね、生まれた時から恵まれている名雪には解らないでしょうね……あたしの気持ちは……!」 「だおっ!」 北川ホーンが名雪を貫く。 「嫌だよ〜、香里と戦うなんて……」 「そう……じゃあ、死んで」 香里は再びファイナルベントのカードをセットする。 すると再び北川が姿を現した。 「触角プレッシャー!!!」 「ケロピ……」 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 「だおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」 触角プレッシャーの直撃を受けて、派手に吹き飛ぶ、名雪。その手からケロピーのアドベントカードが落ちる。香里はそれを拾い上げると、死んだように動かない名雪をそのままに、ゆっくりと立ち去っていった。 「なんで観鈴ちんにつきまとうの、遠野さん?」 「…全てお米の導きです……」 「がお……」 この後、占いで名雪の状態を知った美凪と観鈴は、エターナルワールドから名雪を回収するのだった。 「な!?」 同時に、タイムリミットの時と同じように佳乃の体が薄れだす。 「そ、そんな……かのりんが消える!? 助けてポテ……」 「ぴこ♪」 ごっくん♪ ポテトは佳乃を丸飲みにした。 「だおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」 名雪は目を覚ました。 佳乃の最後が鮮明に脳裏に甦ってくる。 「うぅ……わたしも……ケロピーに……」 ぶつぶつと香里への恨み言をつぶやきながら居間に降りてきた名雪。 「おはよ…………だお!?」 挨拶しかけた名雪は、思わず息を飲み込む。 なんと朝食の席に香里が座っていた。 「あら、一人で名雪が起きてくるなんて何年ぶりかしら」 「おはよう、名雪」 香里は何事もなかったように挨拶をしてくる。 「お母さん、なんで香里が……」 「朝、ゴミを捨てに行ったらたまたま香里さんに会ったので、朝食に誘ったのよ」 「……そうなんだ……」 「名雪、早く食べないと遅刻するわよ」 「う、うん……」 香里の自然すぎる態度に動揺を隠せない、名雪だった。 「ねえ、名雪、これ燃やしたらどうなるかしら?」 登校中。香里はポケットからケロピーのカードを取り出した。 それは、昨日の香里との戦いが、ヒロイン同士の戦いが夢なのではなく現実だったことの確かな証明。 香里はライターの火をカードの周りでちらつかせる。 「……香里……」 「フフフッ、冗談よ。そんな酷いことしないわ、あたし達親友でしょ」 「…………」 「見つけたがおっ!」 「あら、あなた確か……」 観鈴が会われる。彼女は香里に戦いを挑みにやってきたのであった。 「名雪の家に居れば、探さなくても会えたのに……無駄なことしたわね」 「うるさいがお! 覚悟するがお!」 「やめて、観鈴さん! 香里も……」 名雪の制止を無視して、二人は変身すると、エターナルワールドへ消えていった。 「ソードベント! どろり濃厚剣!」 「ストライクベント! 北川ホーン!」 ガキィ! 「えっ!?」 「がおっ!?」 観鈴と香里の間に突然現れた美凪が割り込んだ。 「…ケンカはメッですよ」 しかし、美凪を無視して、二人は激しい戦いを繰り広げる。 戦いの中、観鈴の剣が香里の手からケロピーのカードを弾き飛ばした。 すかさず拾い上げた美凪は、現実世界へと戻り、名雪の元へ。一 「…一緒に戦いを止めてくれるなら、これを進呈」 「解ったお」 名雪は力強く頷いた。 再びミラーワールドに渡る美凪と名雪。 だが不意にモンスターに攻撃を受け、香里と観鈴に近付けない。 その間にも、香里と観鈴の激闘は続く。 「ファイナルベント! ケロピーキック!」 名雪がモンスターを倒した時には、 観鈴のどろり濃厚剣が香里の喉元に突きつけられていた。 「観鈴ちんの勝ち〜!」 次回予告(美汐&香里) 「というわけで第5話をお送りしました。ここまでもほぼ原作通り……と言っていいんでしょうか?」 「なんでそこであたしを見るのよ……」 「いえ、冒頭の部分がちょっと……」 「元ネタまんまのストーリーを再現するのは書いて面白くなくなるというか飽きるといか……読む人も面白くないかな?とか思えてくるのよ」 「だったら、完全オリジナルな作品を書けば……」 「フッ、それができれば苦労無いわよ……」 「…………」 「…………」 「…まあ、それはそもかく、結構かかりそうですね、原作に追いつくには……」 「そうね、一回で元ネタ2話分ぐらいのペースだしね……」 『えぅ〜、私の出番がまったくありませんでした』 「では、今回はこの辺で……」 「そうね、また……」 『無視しないでください!』 「何よ、栞……あたしだって本編登場は1話以来よ。あなたは今までさんざん登場してたからいいじゃない……」 『地味で影の薄いお姉ちゃんと一緒にしないでください。私はメインヒロインなんで……』 ガスッ! 『………………』 「じゃあ、今回はこの辺で、良ければ次回も見てね」 「戦わなければ生き残れません」 |