カノン・サバイヴ
第4話「お米の国の占い師」




「…日本人はお米族……無洗米は邪道です」
一晩戻らなかった観鈴は、翌日、道ばたでお米を販売する少女・遠野美凪に出会う。
「…随分、深刻な顔をされてますね、神尾さん」
「……遠野さん……出稼ぎにきたの……?」
「…全てはお米の導きのままに……」

ピン!

コイントスをする、美凪。

「…遙かな古の昔……伝説のバンド・龍死腐獲留は全ての運命をコインで決めたと言います……」
「がお?」
「…ちなみに最近では、全ての運命を麻雀や囲碁で決めるのが主流です……」
「……何を決めるにも全て麻雀の勝負で決めたり……囲碁で勝つと怪物退治できたりするやつがおね……」
美凪は無言で頷いた。
「…というわけで、神尾さんの運命は残念賞!」
「が、がお……」
美凪は封筒(残念賞)を無理矢理観鈴に押しつけると、静かに懐からカードデッキを取り出す。
「遠野さん、それは!?」
「…私はヒロイン達の運命を変えるために来ました」
と告げる美凪。
いずれ死ぬことになる自分の運命をも、ヒロイン同士の戦いを止め、変えてみせると。
一瞬、名雪のことが脳裏をよぎる観鈴。
だが、観鈴はデッキを取り出し、美凪に戦いを仕掛ける。
応じる、美凪。
「…変身……」
「変身がお!」



「…美しきお米の尖兵……シスター☆ナギー……お米に変わって神罰です」
「がお……シスターというのもなんとなくレアで新鮮がお……」
「…ちなみに没コスチュームは魔法少女と割烹着です」
「がお!?」
美凪は一瞬で観鈴の懐に移動する。
「…ソードベント……お米剣」

ドカッ!

お米券(剣)で斬りつける、美凪。

「…ストライクベント……お米剣飛礫……」
「がおぉっ!?」

無数のお米券が観鈴を切り裂く。
「がお……てっきり米粒でも投げつけてくるかと思ったよ……」
「…そんな勿体ないことはできません」
「……ソードベント! どろり濃厚剣!」
「………」
観鈴は剣を召喚すると美凪に斬りつけた。
しかし、刃は全て美凪に紙一重でかわされてしまう。
「くっ! ナスティベント! がおブレイカー!」
「…………ん!」

ザンッ!

「がお!? 超音波を切り裂いた!? 非常識がお!」
「…いまさらです……トリックベント……シャボン玉ミラージュ……」
幻想的なまでに美しいシャボン玉達が美凪の姿を消し去っていく。
「このパターンはきっとカッターか硫酸がお……」
シャボン玉をカッターのように回転させたり、硫酸入りのシャボン玉を作り出すのは『生身』の頃から美凪がやっていたことだ。
「…残念賞」
背後から美凪の声が聞こえた瞬間、
「がおおっ!?」

ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

「…爆発するシャボン玉です……」
シャボン玉が全て爆発消滅すると同時に、美凪が姿を現す。
「う……う……」
もはや、「がお」と叫ぶ余力も観鈴にはなかった。
強い。
栞のような圧倒的な破壊力や戦闘力とは違う。
使っている武器は紙切れ(お米剣)やシャボン玉という武器とも呼べないようなものだけなのに、『剣』を使っている自分がまるで歯が立たない。
「う……」
観鈴は剣を美凪に向かって投げつけた。

スパン!

観鈴の剣がお米剣で二つに切り裂かれる。
その瞬間、観鈴は絶望を悟った。自分と美凪とのヒロインとしての格の違い……。

「…ファイナルベント……」
「にょわわわあああああっ!」
美凪の契約モンスター、みちるダイバーが出現した。
美凪は宙に浮かぶみちるに飛び乗る。
「…ツインテールベノン!」

ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

美凪を乗せたみちるの突進に吹き飛ぶ、観鈴。
だが、意外なことに観鈴はすぐに立ち上がった。
「……なぜ、まともに当てなかったの……?」
みちるダイバーの一撃は、ツインテールの一本がかすっただけだった。
もし、二本のツインテールと頭部がまともに直撃していたら観鈴の命はなかった。
「…言ったはずです……」
ヒロイン同士の戦いを止めるという美凪の言葉は、嘘ではなかったのだ。
だが観鈴は、傷付いた体を起こし、何かに脅迫されるように、再び美凪に戦いを挑んでいった……。




「シュートベント! 雪玉キャノン!」

ズドオオン! ズドオオオン!

「やめて、栞ちゃん! わたし、栞ちゃんとは戦いたくないよお〜!」
怪物を追ってエターナルワールドに来ていた名雪は、栞に襲われていた。
「だおおおおおおおお!」

ズドオオオオオオオオオオン!

吹き飛ばされた名雪の目には、揺らめく炎の向こうで雪玉ランチャーを構える栞が映る。
不本意ながら懸命にストライクベントを装填する名雪は、ケロピー特攻を発動。
巨大なケロピー型爆弾が栞に襲い掛かる。
直撃! 爆発! そして崩れ落ちていく栞。
あまりの衝撃の大きさに、名雪自身、驚き立ちすくむ。
「そんな…………」



名雪の放ったケロピー特攻で、消滅したしおりん(栞)。
慌てて現実世界に戻り、エレベータから飛び出した名雪の前には、うずくまる祐一が。
そして、その前に横たわる栞。
「……祐一さん……」
言葉が途切れると同時に、バトルメイド☆しおりんのカードデッキを持った栞の手がぽとりと落ちる。
「わたしが殺ったの……?」
かたずを飲んで見守っていた名雪の膝が、ガクガクと震え始める。
栞と祐一を乗せ走り去るタクシー。
取り残された名雪は、ヒロインになることがどういうことなのかを思い知り、耐え難い現実に叫び声を上げると、その場にへたり込むのだった。



同じころ、観鈴と美凪もエターナルワールドから帰還。
観鈴だけボロボロの有り様だ。
それでも戦いに勝ち残ると言う観鈴に美凪は、
「…ホントに人を殺せますか?」
と問う。
答えない観鈴。だがその言葉は、立ち去る観鈴の心に響き続ける。



名雪は、一人ふらふらと街をさまよっていた。
近くにはジークケロピーの接近音が聞こえる。
もう笑えなくなった(戦意を失った)名雪にジークケロピーが触手を伸ばし始めていたのだ。
秋子さんから連絡を受け名雪を探し当てた観鈴は、ダーク空にジークケロピーを威嚇させ危ういところを救う。
しかし、今の名雪には、自分の命などどうでもいいことだった。
「……祐一がが泣いてた……」



「祐一さんとデートです〜♪」
栞のいきつけの百花屋。私服姿の栞が、上機嫌で祐一の到着を待っている。
一命を取り留めたお祝い(実は死んだふりだったが)に、祐一から誘いがあったのだ。
その時、モンスターの接近音が栞の耳に聞こえ始める。
カードデッキを取り出し構える栞。
その時、
「うう……イチゴサンデー…………栞ちゃん!?」
屍のように生気のない名雪が店に入ってきた。
あまりの驚きで硬直する名雪。
動揺する栞。
そこへ観鈴が登場する。
名雪が栞の罠(死んだふり)にはめられたことを見破った観鈴は、祐一の名を借り栞をおびき寄せ、ダーク空を巧みに操って、名雪の前で栞の嘘と芝居が暴露されるように仕掛けたのだった。
お互いの企みをののしり、にらみ合う観鈴と栞。
そこへ物凄い形相の名雪が迫ってくる。
「わ、私、生身でやる気ないですよ……」
次の瞬間、名雪はヘナヘナとその場にくずおれる。
「栞ちゃん、生きてたんだ、良かったぁ……」
安堵のあまり、今にも泣き出す、名雪。
予測と違った名雪の言動に、観鈴、栞の二人はしばし無言。
しかし、堰を切ったように栞がいら立ちをあらわにする。
「まったく、甘ちゃんにはつきあいきれません」
そう言い捨てると、栞は百花屋から出ていった。
まだ、へたり込んだままの名雪と半分呆れ顔の観鈴。
その時、再びモンスターの接近音が聞こえ始める。
今度はダーク空ではない。
名雪は取り出したカードデッキをしばし見つめた後、何かを決意したように力強く変身しエターナルワールドへと向かった。


後から追ってきた観鈴の必殺技であっさりと化け物は倒される。
放出される化け物のエネルギー。
名雪は観鈴を押しやると、ジークケロピーにエネルギーを吸収させた。
「ごめん。ケロピーに食られる理由なくなっちゃった……」
名雪は決めたのだ。絶対あきらめずに、ヒロイン同士の戦いを止めてみせると。
その夜、水瀬家には、再びワインを注ぎテーブルを囲む4人(名雪、秋子、祐一、観鈴)の姿があった。



同じ頃、1人占いをしている美凪。
「…『悪魔』のカード……」
イメージは、屈服、誘惑、学究、超能力。
このカードの守護を持つヒロインを美凪は知っていた。
「…ついに動き出しますか、香里さん……」
さらにカードをめくる。
『隠者』のカード。イメージは、思慮、自制、真実、分別。
これは美凪自身を示すカードだ。
美凪は残りの二枚のカードも一気にめくる。
『正義』の逆位置にして『魔術師』……。
「…独善の魔法少女……」
その者が自分に決定的な運命をもたらす。
何度占ってもこの結果は変わらない。
「…私の占いは外れません」
だが、外れさせなければならない。
運命を変えなければならない。
そのために、自分はこの雪の街に来たのだから……。



















次回予告(美汐&香里)
「というわけで第4話をお送りしました。ここまでもほぼ原作通り……というよりダイジェストですね殆ど……」
「その上、いつもよりちょっと長いわよ」
「最初に書いたもっとも書きやすい部分、美凪さんの戦闘シーンだけで3Pほどいってしまいまして……それだけで、つまり元ネタの一話分だけだと短すぎる。だからといって、香里さん、佐祐理さんを登場させるには残りページが少ない(基本5P)……というわけで、こんな感じになりました」
「しかし、元ネタと違って、戦闘能力差が激しいわね、美凪さんと観鈴さん……」
「ヒロインとしての格(魅力)の差ですから仕方ありませんね」
「メインヒロインが最弱(魅力弱い)というのは鍵の伝統なのかしらね……」
「まあ、メインヒロインというのは基本的に基準、スタンダート、無難なキャラなものですからこの手のゲームは……」
『うぐぅ! メインはボ……』

ドカッ!

「登場もしてない雑魚は引っ込んでなさい」
『うぐぅ……自分だって第1話以来出番ないくせに……』

スバアアアアアン! グシャアッ!

「……(タイヤキ娘の残骸を一瞥)……さて、この調子なら後少しで原作に追いつけますね」
「ええ、とりあえず追いつくまではこのペースで行きたいわ」
「最大の問題はそこからですからね……追いついてしまったら、他の作品を書いて時を稼ぐか、オリジナル展開やっちゃうか、二つに一つ……『決断の時』ですね」
「というわけで今回はここまでね。じゃあ、次回もよければまた見てね」
「戦わなければ生き残れません」









おまけ
ゾ○ダコンテスト結果発表


 順位 項目名 票数
1 美坂栞 13
2 神尾観鈴 3
3 沢渡真琴 2
5 天野美汐 1
6 倉田佐祐理 1
7 不治の病ってとこまで一緒だし。でも、あのふざけた軽いキャラは似合わないかも…… 1


ぶっちぎりの一位でした。
















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