Kanon Princeess(カノン・プリンセス)
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世界と微妙に位相のずれた北の雪国。 閉ざされた世界。 そこに住む者達は、自分たちが外の世界と隔絶されていることを認識すらしていない。 この世界の全てを知る者は永遠の28歳の主婦唯一人だけ……。 「そろそろ潮時ですね……」 「あははーっ♪ 飽きたというわけですね♪」 「終わりの始まりです」 「あははーっ♪ 旬が過ぎすぎたというわけですね♪」 「………………」 「あははーっ♪ あははーっ♪ あははーっ♪」 舞台裏で笑う少女。もっとも彼女の場合、どこだろうと狂ったように笑い続けているが……。笑顔が彼女にとっての普段の顔、常に笑顔の彼女はあるポーカーフェイス、自分の真意を他人に読み取らせないという意味では。 得体が知れない。それが『28歳』と『あははーっ♪』を一言で表現できる唯一の言葉だった。 「時が来たよ、祐……兄くん……」 『占い』という設定(能力)を手に入れてたのはそれほど昔のことではない、つい最近のことと言ってもいい。だが、まるでずっと昔から持っていた能力のように、いつのまにか自分に馴染んでいた。 『力』は昔からあった。 要はその『力』を効率よく安定して使える『手段』を手に入れただけのことだ。 「……カラスさん………」 偶然引いたカードの意味を都合のいいように『解釈』する。それが舞の占いだった。 もっとも偶然が実は『力』によってもたらされる必然だったりするのだが……。 「……ごはん……嫌いじゃない……」 『烏』と『米』のカード。 「…………夕食のメニュー?」 正しいカードを引く能力があっても、カードの意味を理解する知識がなければ何の意味もなかった。 「にはは、みすずちん、出番無しだね」 「神尾さんを『存在価値無し1号』に任命するよぉ」 「2号は霧島さんだね」 「…………」 「…………わたし、個性が弱いのかな?」 「『がお』とか『にはは』とか『どろり濃厚』とか二次創作で使いやすいネタ満載なんじゃないのかなぁ……」 「でも出番無い……」 「あたしよりはマシだよぉ、きっと……」 自分の個性(売り)なんてきっと『ポテト』と『バンダナ』だけなんだろうなと佳乃は思った。 しかも、今までの話しでその個性(設定)が生かされたことなどあっただろうか? ただポテトに命令して、ポテトを操っていたりしただけだった気がする。 それが自分の個性? これではまるで…… 「犬(ポテト)のおまけがお?」 「………神尾さん、そういうことはっきり言うから友達できないんだよぉ……」 「が、がお……」 それ以上、二人は会話をせずに、黙って遙か遠くの海を眺め続けていた。 「実は第1話から舞台が特殊な場所に変わっていたんです。気づいていましたか、真琴?」 「あう?」 「祐一さんの記憶をリセットして最初からやり直した際に、私達が元々進んでいた雪の街から、雪の街とそっくりな海上都市に移動していたんです」 「あぅ? それに何の意味があるの、美汐?」 「海を眺めることができます」 「…………それだけなの?」 「はい、それだけです。なんで海を眺めることができるんだとツッコミを入れられる前に言っておこうと思いまして」 「あぅ……」 「あははーっ♪ それだけが理由ではありませんよ♪」 美汐と真琴の二人しかいなかったはずの部屋に、いつの間にか佐祐理が沸いて出ていた。 「ふぇっ! 佐祐理は沸いて出たりしませんよ♪」 「ナレーションに突っ込むより、海上都市の理由を教えていただけませんか?」 「あははーっ♪ 邪魔者の進入防止と祐一さんの逃亡防止です♪」 「……なるほど……」 道理で、祐一と自分たち妹の他に人がいないと思った。 学校の教師や不動産屋も秋子さんが兼業してたし……。 「……でも、それももう終わりですね♪」 「あう?」 「あははーっ♪ なんでもないですよ♪ では、佐祐理はこれで失礼しますね♪」 「…………」 佐祐理の姿はすでにかき消えている。神出鬼没という意味では確かに魔法少女といってもいいかもしれない。 「あははーっ♪ キャラが多すぎるせいで、全キャラ登場するだけでページがかかってしまって、ちっともお話が進まないんですよね♪」 だから、自分が『主役』としてどんどん話を進めなければいけない。 「……主役はあたしよ……」 「ふぇ!?」 佐祐理の背後から殺気と共に気配が生まれる。 「……あははーっ♪ 香里さん居たんですね? 主役なのに存在感が薄いので忘れていました♪」 「言ってくれるじゃないの……」 香里は懐からバグナグを取り出すと、指にはめた。 「あははーっ♪ 佐祐理とやるつもりですか?」 佐祐理は魔法の杖(玩具)を構える。 「……それもいいかもね……最近ストレス溜まってるのよ……」 「あははーっ♪ 出番がないからですか?」 「正解よ!」 香里は佐祐理に向かって駈けだした。 「あははーっ♪ 魔法使いと格闘家の勝負は一瞬で決まります♪」 魔法使いが呪文を言い切る早く相手を殴ることができれば格闘家の勝ち。 格闘家が攻撃をヒットさせるようり早く呪文を放つことができれば魔法使いの勝ち。 これ以上ないほどシンプルだ。 「さゆりん☆サン…………」 「遅いわよ!」 「ふぇぇぇぇっ!?」 ドカカッ! 佐祐理は派手に吹き飛んでいく。 流石にバグナグで突き刺すわけにはいかないので、蹴り飛ばしただけだ。 「不覚でした♪……呪文が間に合わないとは……」 少しふらつきながらも、佐祐理は無傷で帰ってきた。 「呪文も何も……スティックで殴りかかろうとしただけでしょう……呪文は関係ないわよ……呪文は……」 「やりますね、香里さん♪」 「ひとの話を聞いてないわね……」 「でも、佐祐理にはもっと凄い呪文があるんですよ♪ さゆりんファ……」 バカカッ! 「ふぇ!?」 佐祐理はまたしても派手に吹き飛ばされる。 「……あははーっ♪ 今度こそ最後ですよ♪ さゆりんブリザ……」 バシイイッ! 「…………さ、さゆりんフレ……」 ドココッ! 「………………さ、さ、さゆりんデ……」 「いい加減にしなさいよ!」 バココオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 3時間後 「…………ま……負けたわ……あたしの負けよ……」 力尽きたのは香里の方だった。 「あははーっ♪ 佐祐理の魔法の勝利ですね♪」 「……体力勝負であなたに負けるとは思わなかったわ……」 そう、蹴り飛ばされる佐祐理ではなく、蹴り飛ばす香里の方が先に体力が尽きてしまったのである。 「あははーっ♪ 佐祐理は普通よりちょっと鈍い女の子ですから、丈夫なんですよ♪」 「丈夫にも限度があるわよ……」 「楽しかったですよ、香里さん♪ あははーっ♪ あははーっ♪ あははーっ♪」 佐祐理の勝利の高笑いが響く。 しかし、佐祐理は当初の(香里に会う前にしようとしてたこと)目的をすっかり忘れていることに気づいていなかった。 「あれがカノンアイランド(人工島)か……」 目つきの悪い青年が海の向こうの海上都市を見つめていた。 黒シャツ一枚というとても寒そうな格好をしている。 「…安易な名前をつけないでください」 「いきなり、背後から現れるな、遠野……」 「…お迎えにあがりました……国崎さん……」 遠野美凪は優雅を通り越しどこか不思議な物腰をしていた。 「ところで、お前どうやってこの海を渡ってきたんだ?」 この港についてからいろいろと調べてみたのだが、海上都市に向かう船は一切存在しない。 都市の持ち主である『倉田』と『水瀬』の許可が無い限り誰も進入できないらしい。 「…歩いてです……」 「何? 海を二つに割れるのか!?」 「…そんなことできるわけありません……お馬鹿さん?……」 「…………」 「…今、実践して見せてあげますね」 美凪は懐から白い封筒を数枚取り出すと、海上に投げ捨てた。 「…こうしてお米券の上を歩いて……」 「できるか!?」 「…右足が沈む前に左足を前に出して、左足が沈む前に右足を前に出せれば簡単です……えっへん」 「お前は忍者か仙人か……!」 「…それからいろいろなことがありました」 国崎さんが祐一さんを誘惑して都会に連れ出したりしましたが、結局、祐一さんはお兄ちゃんの日(年に一度海が真っ二つに割れる日)に島に帰ってしまった。 自分の居場所は12人の妹達の居る場所だと気づいて……。 「…詳しくはアニメ版シスプリ最終話をご覧ください」 「んにゅぅ……みもふたもないよ、美凪……」 「…ちなみに、みちるは実は13人目の妹だったんです……スパイ……往人さんの回し者……孤独なライセンスです」 「んにゅ……意味不明な上に、なんか酷いこと言われてる気がする……」 「…そして、祐一さんにフラれた負け犬な国崎さんはカノンアイランドを去っていくのでした……ぱちぱちぱち」 「たく、何しに出てきたんだ、俺は……」 往人はバス停に向かって歩いていた。 この雪の街を去るために……。 「……ん?」 バス停には先客が一人居た。 長い黒髪(銀髪にも見える)の長身の麗人。お米の国の人。 「…国崎さん、遅いです」 「……遠野?」 「…待ちくたびれたで賞、進呈です」 「待ったのはお前だろう……というか、なぜここに来たんだ?」 「…惨めな負け犬につき合うためです……一人では寂しいでしょうから……」 「……負け犬……はともかく、ずっと一人で旅をしてきたからな、寂しいなんてことは……」 「…失恋(傷心)の一人旅希望?」 「違う!」 「…残念です、がっくり」 なぜ、残念がる? 「そういえば、みちるの奴はどうした?」 「…アニメオリジナルキャラなど所詮すぐに忘れ去られてしまう存在です……」 「それは元ネタの話だろう……」 「…アニメ版のアクセサリー集に存在してなかった程度の扱いです」 「そうじゃなくて……みちるのことだ……」 「…シスプリタイピングはなぜ発売中止になったのでしょうか?」 「おい……ひとの話聞いてるのか……?」 「…ヴァイスエバーグリーンはなぜ放送中止に……」 話が完全にずれ始めた頃、バスがやってきた。 「……まあいい。それで、ホントに一緒に来るのか?」 「…はい、この街ではお米券が交換できませんから……」 「それが理由か!?」 「…冗談です」 「……ホントに冗談か?」 「…お米券は手製ですから、全国どこでも対応できます……」 「それは金権偽造……犯罪だ……」 「…国崎さんも共犯です」 「う……」 確かに遠野からもらったお米券はすでに何枚から使用している。 「…逃亡二人旅…………ぽっ」 美凪はなぜか、顔を赤らめた。 ここは夢を見続けやすい場所。この世界(雪の街)自体が誰かの見ている夢のなのかもしれないほど……現実と夢の境の曖昧な場所……。 だから、存在しないはずの者が存在し、奇蹟すら起こる。 雪の街から出た瞬間、みちるは消えた。みちるは現実じゃないから……。 でも、私は現実を、国崎さんを選んだ……。夢だと解っていながら見続けるのは悲しいから……。 それに……。 「…充分楽しめましたから……もういいです……」 「何か言ったか、遠野?」 「…いえ、これから私たちはどこへ流れ流され……辿り着くのだろうかと……」 「とりあえず、次の街で旅費を稼がないとな……」 「…甲斐性なし……」 「悪かったな……じゃあ、なんでそんな甲斐性なしに付いてきたんだ?」 「…私は…………『てごめ』にされちゃいましたから……」 「おい……」 「…………ぽっ」 バスは雪の街から遠ざかる……そして……今も風の中……。 Kanon Princeess Fin 「ちょっと待ちなさいよ! この作品の主役はあたしじゃなかったの!」 「美凪さんが主役だったみたいですね……途中加入キャラのくせに……」 「うぐぅ! 最終回にボクの出番が一回もないなんて許されることじゃないよ!」 「私の出番がない話なんて嫌いです! 「あははーっ♪ 香里さんの相手をしていたせいで、作品終了までに祐一さんと結ばれる計画を忘れてました♪」 「佐祐理……抜け駆けは駄目……」 「あははーっ♪ 勿論舞も一緒だよ♪」 「それならいい……」 「最終回、主人公(男)を一回も登場さずに終わらす作品なんて見たこともないな……」「あぅ〜、祐一が登場しないのはいつものことだよ」 「フフフッ……いつのまにか祐一さんは不用になってましたね、この作品」 「秋子さん……酷すぎます……」 「えっと、これで全員かな? なんかまだ誰か忘れてる気がするだけど……」 「気のせいだ、名雪。カノンは名雪、あゆ、真琴、栞、舞、佐祐理、香里、美汐、秋子のヒロイン九人、そして俺の十人で全員のはずだ、」 「祐一がそういうなら……」 「あははーっ♪ あとは背景さん(七瀬)や背景以下さん(齋藤、栞の同級生などなど)ですね♪」 「はちみつくまさん」 「がお……一人で帰っちゃうなんて往人さん、酷いよ……」 「う〜ん、お姉ちゃんの所に帰るのと、このままここ(カノンの世界)で暮らすのどっちが楽しいかなぁ?」 「ぴこぴこ」 「そうだね、ポテトの言うとおり、ここの方が面白そうだよねぇ」 「ぴこぴこぴこ」 「…触角な脇役(男)の存在など覚えているものなど誰一人いないのでした……おしまい」 「遠野?」 「…ナレーションのお仕事のお金が少し入りますから、安心してくださいね……ひもの国崎さん……」 「誰がひもだ!」 「……ダメ亭主?」 「それだと意味あまり変わらん……」 「…………ぽっ」 往人と美凪の物語は続く……しかし、それはまた別の話。 Kanon Princeess(本編) ホントにおしまい(完結) |