Kanon Princeess(カノン・プリンセス)




「なぜ……あたしは人気ないの……」
別に誰かに尋ねたわけではなかった。ただの独り言、けれど答える声があった。
「影が薄いからじゃないかしら?」
穏やかな笑顔をした『闇』が人の心をえぐるように言った。
「キャラ的に死んでると言うのかしら」
グサッ! という、心に何かが突き刺さる音が聞こえた気がした。 親友の母親でもある『闇』はさらに続ける。
「絵描きさん方にはその髪型が嫌われてますね」
「…………」
「DCになった時もシナリオ追加されませんでしたし……」
「それは、あ……」
あなただって同じじゃないと言いかけた瞬間、『闇』は目の前から消えていた。代わりに首筋に冷たい感触。 料理に使う刃物、大根などを切り刻んだり、魚を捌いたりする鋭利な刃、すなわち『包丁』が背後から彼女の首にあてられていた。
「私は『叔母』ですから」
「…………」
設定上、攻略対象になるのが無理だったわけで、貴方のように人気がなかったからではないと『闇』が主張しているのを察することができないほど彼女は鈍くはない。
「了承?」
「……了承よ……」
料理を切り刻むための刃が首から離れる。いや、その刃が刻んだ物がホントに料理かどうか解らないが……。少なくとも、自分が切り刻まれる対象の『物』になることだけは回避できたようだ。
「やはり、『姉』はウケないのですよ」
先程の会話の続きを『闇』は始める。
「時代は『妹』ですよ」
にっこりと笑って『闇』は言った。まるでそれが世界の法則であるように、この世の不文律であるように。
「『病弱』の方じゃないのね……?」
「ええ、『不治の病』の方ではありません」
あれは、不治というより『不明の病』といった方がいい気もするが、今問題なのはそこではない。
「妹……」
「それだけで『萌え』になります。この世界を生き抜く一つの強い武器に」
「……………………」
「どうしますか?」
「……あたしに勝算はあるの……?」
「殆どまったくこれっぽちもありませんよ」
「笑顔で言わないで……」
「でも、私なら一点でも突破口があれば挑戦しますよ」
「…………」
「やってみますか?」
「……やるわ……」
「了承」
今、新たな勝負の幕が上がったのだった。


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Kanon Princeess(カノン・プリンセス)序章