デス・オーバチュア
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「邪魔よ……っ!」 赤い爆光が「白く煌めく暴風」によって内側から消し飛ばされる。 爆発はイリーナに何のダメージも与えておらず、言葉通りただの視界の邪魔でしかなかった。 「神滅……」 「んっ」 ギルボーニ・ランが低い姿勢で、イリーナの2メートル近くまで迫ってきている。 彼にとって、先程の一撃(赤光の爆発)は、一瞬でもイリーナの視界を奪えればそれで十分だった。 「掌波(しょうは)ぁっ!」 「ちぃぃっ!」 ギルボーニ・ランが右手を突き出し、イリーナが無造作に右手を振り払う。 「赤く輝く掌」と「白く煌めく甲」がぶつかり合い、バチィ!と心地よい音を響かせる。 次の瞬間、ギルボーニ・ランが吹き飛び、イリーナが数歩後退った。 「いぃ……痛いじゃないのっ!」 イリーナが右手を斜めに『宙を掻く』ように振り下ろすと、目に見える『白い暴風』がギルボーニ・ランを追いかけていく。 そう、ここまでイリーナが行った行動は右手二回、左手一回、計三回手を無造作に振った……それだけだ。 手を振るう度に巻き起こる白き暴風が、爆光を弾き飛ばし、ギルボーニ・ランを打ち返し、さらに追撃する。 「まったく……」 イリーナは「焼け焦げた右手の甲」を左手でおさえていた。 「掌波……波って……撃ち出されてないじゃないの……」 左手が擦る度に右甲の火傷が消えていく。 「ああ、やっぱり闘気放出(ビ~~ム)ってのは俺には向かないらしい」 何事もなかったかのように、ゆっくりとした足取りでギルボーニ・ランが舞い戻ってきた。白き暴風は避けたのか防いだのか、いずれにしろ彼に新たな深傷は見受けられない。 「道具(玩具)を使えばできるのに、おかしな奴ね……」 「ふん、男は不器用な生き物さ」 ギルボーニ・ランは軽口を叩くと、両手を胸の前で交差させた。 彼の左右の空間には、三本ずつ、計六本の極東刀が生える。 「六連抜……」< 「とうっ!」 六本の極東刀が『抜刀』される直前、イリーナは後方へ跳び離れた。 『六連抜刀(ガルウィング)』とは二本の腕で六本の刀を同時に操る妙技。 残像的には六本の刀を六本の腕がそれぞれ操っているように見えるが、実際には腕が二本しかない以上、刀を離し、また掴み、離し、掴み……を延々と繰り返しているのである。 例えるなら超高速のお手玉のようなものだ。 その性質上、刀(腕)の動きは止まることなく、歩み(足)をその場から進めることはできない。 一瞬速く『刀の間合い』から飛び出してしまえば無力化できる……とイリーナは推測していた。 「刀・投擲(シュート)!!!」 「なあぁっ!?」 ギルボーニ・ランは抜刀しその場を切り刻むのではなく、六刀を前方へと投げつける。 (弾き飛ばすのは無理!) イリーナの『高速思考』は、白き暴風での迎撃(手で薙ぎ払う)は不可能と判断した。 聖皇斬(手刀で切り落とす)、聖皇閃(闘気放出で消し去る)、聖皇脚(蹴り飛ばす)……どれも不適切! 迫る六刀は神滅の闘気でコーティングされており、恐ろしいほど鋭く輝いている。 一刀の時のような爆発ではなく、打ち抜くための強化……刺し滅ぼす意志が感じられた。 「仕方ない……」 イリーナの両手にそれぞれ十字架が出現し、握られる。 「秘剣! 裂空牙(れっくうが)!」 狂乱の女皇を覆う神闘気が瞬間的に数倍に跳ね上がり、天が十字に引き裂かれた。 「なんだ……?」 空間に大きな十字……より正確に言うなら『×』字の亀裂が刻まれている。 ギルボーニ・ランは必殺の六刀が、その×字に噛み砕かれ、吸い込まれるように消えていくのを確かに目撃していた。 「裂空牙……天を引き裂く牙よ」 空間の亀裂が自然に消滅し、亀裂の向こう側に居たイリーナが姿を見せる。 「はっ、技の名前を聞いたじゃないんだがな……まあ、見たとおりのモノってところか?」 「そうね……もう少し『説明』をしてあげましょうか? まずはコレ」 イリーナは右手に持った十字架の上先端をギルボーニ・ランの方へと向けた。 『透き通るような幅広い剣刃』が発生し、十字架は剣と化す。 「デミウルが十三使徒のオマケで創った物よ。原理的にはパープルや西方なんかで売ってる玩具と大して変わらないものなんだけど……」 限りなく透明な剣刃の『中』に白輝が激流のごとき勢いで注ぎ込まれた。 「玩具は私の神闘気に耐えられず一瞬で消し飛んじゃうのに対して……」 白輝は際限なく注がれ続け、やがて透明だった剣刃は『燦然と輝く白刃』へと変質を終える。 「コレはどれだけ神闘気を注ぎ込んでも決して壊れることがないっっ!」 言い切ると同時に、イリーナはギルボーニ・ランに白輝の剣を振り下ろしていた。 いつの間にか、距離を消し飛ばすように『間合い』が詰められている。 「ちぃぃっ!」 ギルボーニ・ランは新たな極東刀を召喚するなり抜刀し、白輝の剣刃に叩きつけた。 「……くぅぅっ!」 「そう、『力』を抜いちゃ駄目よ。ちょっとでも『気』を抜けば一気にバッサリよ~」 赤い光輝を帯びた極東刀が、白輝の剣によってゆっくりと押し返されていく。 「ちっ、刀が悲鳴を上げてやがる……」 極東刀は神滅の闘気で限界まで強化(コーティング)さているにも関わらず、今にも粉々に砕け散りそうだった。 もしも、強化をせずに極東刀を振るっていたら、刃を合わせた瞬間に粉砕され、そのままギルボーニ・ランも斬り裂かれていたに違いない。 「まあ、気を抜かなくても……」 イリーナは左手に持った十字架を天高く翳した。 次の瞬間、十字架に白輝の剣刃が形成される。 「無駄だけどねぇぇっ!」 イリーナは左手の白輝の剣を振り下ろし、赤輝の極東刀と交差している右手の白輝の剣に叩きつけた。 「ぐふぅっ!?」 『後押し』された右手の白輝の剣が、赤輝の極東刀を叩き折り、ギルボーニ・ランの左肩をズバアアンと勢いよく斬り裂く。 「死ねっ!」 「とぉっ!」 イリーナはさらに左手の白輝の剣でギルボーニ・ランの首を跳ねようとしたが、一瞬速くギルボーニ・ランが後方へと跳び離れる。 「たっく……なんて無茶しやがる……」 ギルボーニ・ランは右手で左肩を強く押さえつけていた。 彼の左肩は文字通り『薄皮一枚繋がっている』だけで、手を離せば腕は自らの重さで崩れ落ちるだろう。 「ああ、この剣の心配してくれるの?」 普通、あんな強引なことをすれば、どちらかの剣、あるいは両方が折れても不思議はなかった。 まったく同じ大きさ、重さ、強度の剣ならなおさらである。 「大丈夫よ、この剣はそう簡単には折れないし……例え、折れても簡単に創りなおせるからね~」 そう言うと、イリーナは双剣の『白輝の剣刃』を簡単に消して見せた。 「はっ、そいつは便利なことで……ぐおおおおおぉっ!」 ギルボーニ・ランは左肩を押さえつける右手にさらに力を込める。 切断面から鮮血が吹き出すのも構わず、ギルボーニ・ランは力を加え続ける。 「あああああああああああ……はああぁっ!」 気勢の叫びと共に、ギルボーニ・ランの全身から赤輝の闘気が迸った。 「……ふう、こんなところか」 ギルボーニ・ランは『左肩』をグルグルと回したり、左腕を派手に動かしたりしてみせる。 「……随分と生々しい回復の仕方ね……」 「回復? 再生? そんないいものじゃないさ……お前と違ってな」 白輝の剣によって切り裂かれたはずの部分は、『固まった血』と『溶けたような肉』で貼り付いていた。 「確かにグロテスクね」 「ふん、神様と違っては『生物』なんでな……生き汚いのさっ!」 轟く銃声。 ギルボーニ・ランは右腰から拳銃を引き抜くなり、全弾(十三発)を発射した。 「いまさらっ!」 イリーナは二つの十字架に再び白輝の剣刃を宿らせると、無造作に振り回す。 巻き起こる白い輝きを宿す剣風が、弾丸を全て吹き散らした。 「ただの弾丸(そんなもの)が効くわけがないでしょう」 先程の弾丸には赤輝(神滅)の闘気がまったく込められていない。 「もっとも、神滅の闘気を最大まで込めようと……」 「簡単に斬り落とすんだろう、どうせ?」 イリーナが迎撃している間に、ギルボーニ・ランの姿は元の場所から倍以上遠ざかっていた。 「間合いを稼ぐための目潰し?」 「いや、ただの排莢作業だ」 ギルボーニ・ランは、撃ち尽くした弾倉(マガジン)を排出し、赤い弾丸を一発だけ込めた新たな弾倉をガヌロン(拳銃)に装填する。 「赤い弾丸?」 「あの時の約束どおり、とっておきの『牙』を見せてやるよ……」 ガヌロンの銃口が天へと向けられた。 「まあ、この『広さ』なら室内でも問題ないだろう」 ギルボーニ・ランの全身から赤輝の闘気がガヌロンへと流れていく。 だが、「裏切り者の断末魔」の時のように急激ではなく緩やかに、激流ではなく清流のような『気の流』れをしていた。 「開け、異界の扉ぁぁっ!」 ガヌロンから赤い光弾が発射され、天に着弾する。 赤い光条が四方八方へと走り、瞬時に天を埋め尽くす程に巨大な魔法陣が描き出された。 「何この魔法陣……魔法円? どこの術式よ!?」 魔法円の中心に描かれた星はよく見かける五芒星や六芒星ではない。 あえていうなら九芒星……それも星と呼ぶにはあまりにも奇妙な形をしている。 「九芒星(ノナグラム)……いえ、変形九芒星(エニアグラム)……?」 「どこの術式だと? 俺が何なのか、忘れたのか?」 「あっ! 異……」 「来いっ! 神滅竜輝(しんめつりゅうき)ラグナスゥゥッ!!!」 ギルボーニ・ランの呼び声に応えるように、天(赤輝の変形九芒星)から黒き轟雷が降った。 「ぐううぅっ!?」 氷原を一人歩いていた皇牙が、突然左胸を押さえて蹲った。 「……何よ……この心臓を鷲掴みにされたみたいな感覚は……?」 息苦しい、気持ち悪い。 そして……怖い? 「怖い!? 宇宙最強の生物であるこのあたしが何に恐怖を感じるというのよ!?」 有り得ないこと、認めてはいけないことだ。 「……違う、これは畏怖? 強制的な支配……これって……」 思い当たる『存在』が一つだけある。 正確には『あった』だ……。 「でも、そんなことがあるわけ……」 『有り得ないなんて有り得ない』という言葉もあるが、それにしてもその可能性はあまりにも……。 「……ちぃっ!」 皇牙は舌打ちすると、物凄い速度で氷原を駈けだした。 自分の目で『それ』を確かめるために……。 それは刀というにはあまりにも巨大過ぎた。 大きく、分厚く、鋭く、黒く輝く……それはまさに黒き牙だった. 「どっから見ても『牙』以外の何物でもないわね……」 比喩表現ではなく、『実在の巨大な生物』の牙をもぎ取り、柄(持ち手)を付け刺しただけ……そんな大雑把な造りの武器である。 あれでは『刺す』ことはできても『斬る』ことなどできないだろう。 刀剣というより鈍器だ。 「……まさに『異界竜の牙』ね……」 「ふん」 ギルボーニ・ランは自分の身長より長い剣刃(黒光りする牙)の刀を容易く引き抜く。 「轟(ごう)っ!」 「ぶうぅっ!?」 黒き牙(ラグナス)が横に一閃された瞬間、猛き暴風がイリーナを吹き飛ばした。 闘気も何も込められていない、ただの力任せの『素振り』である。 「さあ、行くぜ。しっかりと『受け』ろよ」 ギルボーニ・ランは黒き牙を持った右手を引き絞り、左手を突き出し……『神滅』の構えをとった。 「ラグナスで放つ神滅はただの神滅とは違い……こう呼ばれる……」 彼の全身から溢れ出す赤輝の闘気が、暗く、どす黒く染まっていく。 「牙竜天星(がりゅうてんせい)!!!!」 爆発的な勢いで飛び出したギルボーニ・ランが、黒輝の闘気に包まれて『黒き轟竜』と化した。 「くっ! 秘剣・断空……」 「遅せぇよオオオッ!」 下段で交差した白輝の双剣が振り切られるより一瞬速く、超低空を駈け抜けた黒き轟竜がイリーナを呑み込んだ。 イリーナを一呑みにした黒き轟竜はそのまま天へと昇っていく。 「牙があぁぁっ!」 天に消える(激突する)寸前、黒き轟竜が内側から引き裂かれた。 竜の消滅と入れ替わるように、天に×字の巨大な亀裂が刻まれる。 「とおぉっ、喰われながらも斬りつけるか……大した神様だ」 ギルボーニ・ランは空中で数回後方宙返りして、華麗に床へ着地した。 彼を追うように黒き牙も落ちてきて、その傍らの床へと突き刺さる。 「お……おのれ……おのれおのれおのれぇぇぇっ!」 烈火の如く怒りながら、空から降下してきたイリーナの腹部は無惨に『剔り取られ』ていた。 剔り取られたというより消し飛ばされたといった方が正確かもしれない。 彼女の胸部と腰の間は、左側に僅かに皮だけのように薄い肉が残っているだけだ。 普通なら背骨すら残ってない以上自立できるわけもなく、それ以前に絶対に即死しているはずである。 人間……肉体に左右される生命体ならば……。 「し、死ぬかと思ったぞ……この神(わたし)がああああああああああああっ!」 イリーナの全身から神闘気が爆裂するように放出された。 異常の速さで、欠落していた腹部が復元されていく。 回復や再生なんていった生物的で生易しいものじゃない。 まるで無から有を創り出すかのような……新たな肉体の構築だった。 「的(心臓)が外れたのが拙かったか……?」 久しぶりの使用でまだ慣れていないせいか、召喚前に負った致死レベルのダメージのせいか、打ち抜こうとした場所から『僅かに』ずれてしまった。 「まあ、的に当たったら当たったで……」 それでも『殺しきれず』にこうやって復活されたかもしれない。 「とりあえず狙いは頭と心臓……それでも駄目なら肉片一つ残さずに消し去るさ」 ギルボーニ・ランは再び黒き牙を引き抜くと、復元を終えた神(イリーナ)へと先端を向けた。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |