デス・オーバチュア
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青煌の閃光が駆け抜けた後には、何一つ残っていない。 全てを消し去る破壊の青光。 「ふぅん、塵一つ残さず消……っ!」 サーフェイスは唐突に言葉を句切り、空を見上げた。 「殲風裂破(せんぷうれっぱ)!!!」 遙か上空の黄金の輝きから、九つの巨大な旋風(螺旋状の風)が解き放たれる。 「があぁっ!?」 九つの旋風は一つの超巨大な旋風と化して降り立ち、サーフェイスを呑み込んだ。 「恐ろしく荒々しい風だが……それ故に隙間も大きかったな」 サーフェイスは旋風の渦の中……限りなく無風の中心地(静穏域)に立っていた。 大きな隙間(渦の内側)といっても、両手を広げれば外壁(風)に接触しかねないギリギリの空間(スペース)しかない。 無論、そんな狭い空間に偶然填り込むわけもなく、サーフェイスが直撃の瞬間、咄嗟に見切り、最小限の移動(回避行動)を行った結果だ。 「……むっ!?」 渦の彼方(僅かに覗く上空)から、黄金の輝きが飛び込んでくる。 「今思いついたばかりの『奥義』……試させてもうっ!」 眩き黄金の輝きの正体はガイ・リフレインだった。 下は大地、前後左右は風の壁、唯一の出口である上をガイに塞がれ、サーフェイスには逃げ場がない。 「逃げ場がないのは……貴様も同じだぁぁっ!」 天へと突き出された青刃の両手剣から、爆流の如き青光が解き放たれた。 「九鬼(くき)……」 瞬間、ガイを包む黄金の輝きが数倍に膨れ上がる。 「裂斬剣(れつざんけん)!!!」 黄金の光球と化したガイは、青光の爆流に逆らって突進し、九つの斬撃を同時にサーフェイスへと叩き込んだ。 超巨大旋風が内側から弾け飛び、黄金の輝きが拡散する。 「ふんっ、教えていない『殲風』の使い方をしやがって生意気な……いや、結果的にそうなっただけか……?」 ディーンは庵の中で、二人の死闘を肴に杯を傾けていた。 「……にしても『中』での技はまだまだだな。あんな不完全なパクリ技で奥義とは笑わせてくれる」 そう言って、ディーンは実際に愉しげに嗤う。 「…………」 ガイは無言で足下を見下ろしていた。 彼の足下の大地には、アドーナイオスが「肘や膝といった関節が有り得ない方向に曲がった形」で埋まっている。 その周辺には、青刃の両手剣の破片と思われる青い結晶の粒がまき散らされていた。 「……終わったか……?」 サーフェイスが『もう動かない』ことを充分に確認すると、ガイは背中を向けて歩き出す。 「…………」 『アレで生きてたら人間じゃなくて異界竜並みの化け物だよ』 今だ相手を倒した実感を持ちきれずにいるガイに、静寂の夜(アルテミス)が話しかけてきた。 九鬼裂斬剣。 簡単に言えば殲風裂破を『直接』相手に叩き込む技だ。 そもそも殲風裂破とは、旋風を巻き起こす程の剣撃を九発同時に放つことで、九つの旋風を発生させ、それを一つに束ねて『超巨大な旋風(殲風)』を生み出す荒技である。 対して九鬼裂斬剣は、九つの剣撃を旋風を巻き起こすためではなく、相手を『壊滅』するためにそのまま刃を斬りつける乱舞(突進乱撃)技だ。 『普通の人間だったら一発で跡形もなく消し飛ぶ剣撃……それを九つも打ち込んだんだよ、形が残っているのが不思議なぐらいだよ~』 「いや、八発だ……脳天を狙った一撃は剣で防がれた……」 もし当たっていれば、両手剣の青刃のようにサーフェイスの頭部が粉々に破砕されていたことだろう。 「粉々? そうだそこもおかしい……」 サーフェイスは原型を留めすぎている……それが勝利を確信できない理由の一つだ。 「跡形もなく消し飛ばすどころか、四肢を断ち切ることもできていない……骨が砕けただけだ……っ!」 『むぅぅ~、それは確かに……歯応えはすっごくあったんだけね……ありすぎるぐらい……』 八つの斬撃は、サーフェイスの両肩、両肘、両膝、腹部、そして左胸(心臓)に的確に叩き込まれている。 にもかかわらず、手も足も体から離れていないことが……曲がり形(なり)にも人型を留めていることが納得いかなかった。 「……くっ!?」 ガイが足を止めた瞬間、背後で白い光輝が間欠泉のように噴き上がる。 『ハァァァァァァァァァァァァ……!』 振り返ったガイの目に写ったのは、天へと遡り続ける白き爆流の中に漂うサーフェイスの姿だった。 「自らを浮かび上がらせる程の闘気の奔流……いや、そんなことよりも……」 倒れる前よりさらに数倍に高まった闘気の『量』よりも、問題は闘気の『質』の変化である。 「神闘気だと……!?」 この『気質(きしつ)』は人間のものではない……限りなく神のものに等しい闘気……ガルディア皇族だけが持つ神通の力……神闘気だ。 「ありえない……」 サーフェイスがガルディア皇族であることはありえない。 だが、ガルディア皇族以外の者が神闘気を持つこともまたありえない。 矛盾……肯定不可能な現象だった。 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ……!』 「神闘気を治療に回しているのか……吸血鬼か獣人並みの回復力……いや、それ以上か……?」 神闘気の奔流の中で、サーフェイスの肉体の壊れた部分が超速で『修復』されていく。 『……認めよう……』 「ああっ?」 サーフェイスが初めて叫び以外の言葉を発した。 『敗北を認めてやろうと言ったのだ。剣士サーフェイスは確かに貴様に打ち倒された……』 どこまでも尊大な態度で、サーフェイスは敗北を宣言する。 『流石は現ソードマスターといったところか……今はまだ僅かに貴様の方が剣の腕は上と認めざるをえない……』 「…………」 その自信と余裕に満ち溢れた物言いのせいか、素直に負けを認めているのか、負け惜しみなのか、よく解らない。 『……だがっ!』 「だが?」 『……『私』という存在そのものを打ち滅ぼすことは……凌駕することは……何者にもできはしないーっ!』 バイザーの向こうの『左目』が青く光り輝いたかと思うと、白き闘気が数倍に膨れ上がり……弾け飛んだ。 「化け物が……っ!」 「ふぅん、破壊の皇……『破皇』と呼べ……圧倒的な恐怖と絶対的な畏怖を込めてな!」 サーフェイスはゆっくりと地上へと降り立つ。 まるで神の降臨のように、厳かな雰囲気を放ちながら……。 「ちっ……」 『……ガイ……』 心配げなアルテミスの声がガイの脳裏に直接響いてきた。 「解っている……」 そう言われるまでもなく、解っている。 サーフェイスの闘気の総量はおそらく自分の三倍近くある。 いや、三倍(推測通り)ならまだいい……サーフェイスの闘気の量と強さは底なしにすら思えた。 「それに対してこっちは……」 『奥義は後一回だよ……それに……』 「ああ、解っている……」 以前は一度放つだけで両腕を犠牲しなければならなかった殲風裂破だが、今では三回までなら両腕健在で放つことができる。 九鬼裂斬剣もかかる負荷はまったく同じため、殲風裂破一回分に値する。 つまり、すでに奥義を二回分消費しているのだ。 「今の奥義では倒しきれない……」 サーフェイスの肉体が九鬼裂斬剣を受けながら『粉砕』程度で済んでいたのは、その圧倒的な闘気に守られていたからだろう。 その闘気が神闘気という桁違いに上質なものに切り替わり、さらに膨れ上がった今、残り奥義一発で致命傷を与えられるとは思えなかった。 「ふぅん、覚悟はいいか?」 サーフェイスの左手に握られた『刃無き両手剣』の鍔から白光が噴出し、白く煌めく剣刃として『物質化』する。 「やはり、お前の能力は『気(エネルギー)』を『物質』に変えることか……」 普通、闘気剣(オーラソード)の類は闘気を剣の形に固めただけのものだ。 あくまで光線や粒子を刃の長さや形で維持し続けるか、固体化させるだけで、本物の刃(金属)に変わるわけではない。 だが、サーフェイスの闘気刃の場合は明らかに元の刃と同じ鋼か、それ以上の金属として変質していた。 「詮索無用と言ったはずだが……」 サーフェイスは肯定も否定もしない。 「固体化と物質化ではまったく違う……お前の場合、水から氷だけでなく、あらゆる物質を創り出せるようなもの……」 広大な海の水のように、この男の闘気は無尽蔵だ。 『材料』は無限にあるといっても過言ではない。 「そして、もし俺の予想が正しければ……お前の真の能力は『万物を支配する能力』と言っても……」 「そこまでだっ!」 「くっ!」 サーフェイスが突きだした両手剣の剣刃が『伸び』て、ガイの右肩へ打ち込まれた。 「……やはり錯覚ではないな……」 インパクトの瞬間、ガイは自ら後ろに跳び退き、剣刃に『刺し貫かれる』ことから逃れる。 「一瞬だが、確かに刃の『長さ』が変わっている……」 「それ以上の謎解きは無用だ……そして、貴様を殺すのにこれ以上の能力は必要ないぃぃっ!」 サーフェイスが全身から白い闘気を放出させながら大上段に振りかぶると、剣刃が100㎝以上伸長した。 今度は瞬間ではなく、その長さで剣刃が安定(固定)される。 「影も形もなく消え去るがいいっ!」 全身から放出される無尽蔵の神闘気が、全て剣刃へと集束し凝縮されていった。 「っぅ!」 サーフェイスは再び放つつもりだ、『世界を撃ち抜いた一撃』を……それも、神闘気によって何倍……何十倍にも破壊力を高めて……。 「一か八か、ディーンの奥義をやってみるか……?」 『駄目だよ、ガイ! 人の身で『鬼』の技は再現できない……』 だからこその九鬼裂斬剣だった。 九鬼裂斬剣はディーンが見せた奥義が参考というか、刺激になって閃いた技である。 そのままでは模倣できない超絶技だが、殲風裂破を応用すれば『似た技』なら起こすことができた。 「なら『二刀』で……いや、待て……!」 『ガイ?……ああっ!?』 ガイの『閃き』は、全てを共有するアルテミスにも瞬時に伝わり、彼女を驚かせる。 『そっか……忘れてたよ、アレのこと……』 「俺もだ……ディーンの剣に拘りすぎていた……」 殲風院流の修行……ディーンの剣技を習得すること、剣の腕に追いつくこと……その発想自体が間違っていたのだ。 「……俺は俺だ……俺流でいくっ!」 ガイは初めて『下段』の構えを取る。 「幻灯水月(げんとうすいげつ)……」 静寂の夜が円月を描くようにゆっくりと振り上げられていった。 「剣の残影? 幻覚? 此の期に及んで何をしようと無駄だぁっっ!」 本物の剣(静寂の夜)の後を、白、黒、青、黄、紫、水、灰といった色違いの剣の幻影が追従していく。 「破皇天烈斬(はおうてんれつざん)!!!」 振り下ろされた両手剣から白煌の閃光が解き放たれ、ガイを呑み込んでそのまま世界を撃ち抜いた。 今度は逃していない。 世界を蹂躙する白き閃光の中に間違いなく呑み込んだはずだ。 「んっ?」 前方(視界)を埋め尽くす白い世界の中に、七つの光点(異物)が生まれる。 白、黒、青、黄、紫、水、灰……七個(七色)の光点を青銀色の光が繋ぎ、巨大な『円』を描き出す。 「反(カウンター)……」 「何ぃぃっ!?」 「……七重奏(ゼプテット)!!!!!!!」 青銀色に光り輝く剣によって、円の中に『七つの頂点を持つ星』が斬り(描き)込まれた。 白い世界は物凄い勢いで『青銀色の七芒星魔法陣』に吸い込まれて消失していく。 「……己が光(力)で滅べ、破壊の皇っ!」 「馬鹿なぁぁっ……この私があああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」 全ての白が消え、ガイが姿を見せた次の瞬間、『青銀色の七芒星』から白煌が七倍に増幅されて吐き出された。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |