デス・オーバチュア
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「痛ぅぁ〜……て、何よ、この馬鹿みたいな魔力は……!?」 黒刀で打っ叩かれた頭をさすりながら、皇牙はむっくりと起き上がった。 「……気がついたのか……流石に丈夫だな……」 視線は『余所』に向けたまま、タナトスが声をかける。 「死神(タナトス)、誰があたしを……げぇぇ……」 皇牙はタナトスの視線の先を見るなり、凄く嫌そうな声を出した。 「やっぱり、さっき消滅させておけば良かったわね……」 「駄目だ、クリアごと消そうとしただろう」 「別にいいじゃない、下にも『地上』があるんだし……」 「そういう問題じゃない!」 「細かいこと気にするわね……じゃあ、どうするのよ? あたしが何もしなくても、アレを放っておけば時間の問題だと思うけど?」 「むっ……」 タナトスは言葉に詰まる。 「まあ、一応できれば島を壊さないように……殺ってあげるわよ!」 皇牙は両手を爪刃へと変えると、好戦的な笑みを浮かべた。 「やめておけ、そなたでは『強過ぎ』る……」 突然、皇牙とタナトスの間に一人の女性が現れる。 「何よ、あんた?」 「……誰だ……?」 「何だ、汝も『余』が誰か解らぬのか?」 「えっ……?」 「ふむ、それならそれも面白かろう……」 青一色の女性(シャリート)は鮮やかに微笑った。 「アアアアアアアアアァァァッ! 目ガァァッ! メガアアアアアアアアァァッ!」 ユーベルガイストは荒れ狂っていた。 いや、正確には彼女の『周囲の空間』が荒れ狂っている。 「……堕天使の鉄槌(ルシファーズハンマー)が切り裂いたのは『目隠し』だけで、貴方には直接当たっていないのだけど……」 「アアアアアアッ……溢れるゥゥゥッ! 駄目ェェェ……抑えきれない……制御ガアアアアア……ッ!」 「……それが逆に拙かったみたいね……」 ファーストは対処に困ったといった表情で溜息した。 ユーベルガイストを中心に発生した膨大な魔力が、無秩序に荒れ狂い、周囲の空間すら歪めていく。 「エナジーの嵐が周囲の空間を無差別に蹂躙していく?……有り得ないわ……こんな容量(キャパシティ)……」 彼女の中にこれほどの『力(エナジー)』が入っていたはずが……入るはずが無いのだ。 「有り得ないということは有り得ない……それだけのことだ……」 「貴方……」 シャリートがゆっくりと近づいてくる。 「貴方、その格好……?」 「ふん、ただの夏使用(クールビズ)だ」 「COOL BIZって……」 「それにしても大した『気勢』だ……魔王の域、いや、さらに一桁上か……?」 「……だからこそ有り得ない……こんなアンバランス有り得ないわ……」 頻りに『有り得ない』という言葉を多用する、ファースト。 彼女の常識では、ユーベルガイストの今の状態(惨状)をどうしても認めることができなかった。 「ふん、力量と戦力とのアンバランスか?」 「……ええ、彼女は『弱過ぎ』る……」 「アァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」 ユーベルガイストの咆吼と共に、エナジーの嵐が激しさを倍加させる。 「無駄話は終わりだ、そなたは下がっておれ。それ以上の力を使って正体を曝したくはなかろう?」 「……そうね。ここはあなたに任せるとしましょう」 ファーストはシャリートの後方へと下がった。 「譲るのはいいけど、例え貴方でも『彼女』は簡単に斬れないと思うわよ」 「解っている、『ベルゼブブ』でも斬れなかったのだろう」 「あら、そんな前から覗いていたの?」 「無論だ、余は黒蠅(アレ)を追いかけてここに来たのだからな」 シャリートは両手を天へと翳す。 「手本はそなたが見せてくれた。斬れぬなら……力ずくで押し切るまでだ! 我が双龍の牙でなっ!」 両手から渦巻く蒼光の闘気が放たれ、『蒼光の双龍』となって天へと昇った。 蒼光の双龍は一定の高さまで翔け上がると転回し、地上へと急降下する。 喰らいつくように大地に激突して、双龍は爆散した。 双龍の消失の後には、二振りの『青龍を象った柄の偃月刀』が大地に突き刺さっている。 「いきなり大物を出すのね……」 「ふん、青龍や蒼龍での小手調べなど不要……今日の余は最初から全開で参るっ!」 ちなみに、青龍と言うのは柳葉刀、蒼龍は偃月刀一本だけの呼び名だ。 「最初から最高潮(クライマックス)ってやつね……最大気力(ハイテンション)で一気に決めるつもり……?」 「然り!」 二振りの偃月刀(蒼龍)が連結し、両先端に逆向きの偃月刃を備えた超長柄武器(双龍)が完成する。 「双頭一牙(そうとういちが)……双龍偃月牙(ソウリュウエンゲツガ)!」 シャリートは両手で双龍偃月牙を頭上で回転させだした。 「受けよ! 我が最大最強の一撃……」 頭上で超高速回転する双龍偃月牙に、シャリートの体から溢れ出した蒼光の闘気が吸い上げられていく。 「清瀧回天撃(せいりゅうかいてんげき)ぃぃぃっ!」 超々巨大な水龍(水流)が、エナジーの嵐の中心地(ユーベルガイスト)に向かって解き放たれた。 「ウウウゥゥ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」 無意識の行動なのか、ユーベルガイストは逆刃の刀を左右の手に持つと、迫る水龍を切り裂こうとする。 「無駄だ、我が一撃は双龍……」 「……アアアァァゥ?」 「双頭一牙の意味を知るがよいっ!」 「グウウウ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」 逆刃の双刀が水龍に触れた瞬間、『二匹目』の水龍がユーベルガイストと一匹目の水龍を巻き込んで大爆発した。 「双頭の牙は伊達ではない……」 「アレは受けちゃ駄目なのよね……難とか一ノ太刀を止められても、そのまま二ノ太刀が『廻って』くるから……」 ファーストはシャリートの『一撃』の強さ、恐ろしさを身を以て知っていた。 彼女とは何度か刃を合わせたことがあるが、双龍の連撃(一撃)を受け切れたことは一度もない。 「ふん、余の双龍を受け切れた者などベルゼブブ以外には存在せぬ。もっとも、そなたには『避け切られた』がな……」 シャリートは好戦的な眼差しをファーストに向けた。 まるで、今再びここで試して(戦って)みるかと誘うかのように。 「遠慮するわ……今の貴方にならコレも折られかねないもの……」 ファーストは左手の黒刀を翳してみせた。 「金剛不壊(こんごうふえ)の黒刀か……確かに今なら断てそうな気分だ」 「本当にやりかねないから貴方は嫌……んっ!?」 「むっ、仕留め損なったか? いや、これは……」 二人の視線が、水龍の爆散でできた水煙の向こう側へと向けられる。 『…………』 水煙の中から姿を見せたのは、ユーベルガイストではなく見知らぬ男だった。 「……竜面(りゅうめん)だと……何者だ、汝?」 男は竜の顔のような仮面を被り、暗い青色(ダークブルー)のコートを着込んでいた。 『……我が名はアドーナイオス……』 「獅子宮(アドーナイオス)? 名前からするとユーベルガイストさんのお仲間かしら? いえ、でも……アドーナイオスというのは確か他にも……」 『破皇アドーナイオスだ!』 竜面の男(アドーナイオス)の右掌が青い閃光を放つ。 「ぬっ!」 「んっ」 直後、巻き起こった大爆発がシャリートとファーストの姿を呑み込んだ。 「たくっ、無駄に派手な爆発起こしてんじゃないわよ!」 皇牙は無造作に右手を突き出すだけで、大爆発の衝撃を遮っていた。 「すまない……また助けられた」 「別にいいわよ、ついでだから……」 タナトスは皇牙の背後に庇われるような形になっている。 「……それに、今、あんたに死なれるとこっちも都合が悪いのよ……」 皇牙が聞き取りにくい小声でぼそっと呟く。 「ん? 何か言ったか?」 「別に……いいから、弱っちいあんたはそこで大人しくしてなさい!」 乱暴に言い捨てると、皇牙はそっぽを向いた。 「弱っちいか……確かにな……」 タナトスは自虐的に微笑う。 「何よ……生意気に傷ついたの?」 「いや、お前が言うとおり私は弱い……だが……」 「だが?」 「大人しく守られているわけにはいかない……」 「ちょ、ちょっと、勘違いしないでよ、別に守ってやってるわけじゃ……ただ都合が……」 「……戦い続けていなければ……私は……」 皇牙のしどろもどろな言い訳(?)はタナトスの耳には届いていなかった。 『死んでしまう?』 「……え?」 『守られる価値がない? 立ち止まれることは許されていない? いいえ、あなたを許さないのはあなた自身……』 『声』に遅れるようにして、ゆっくりと『姿』が現れる。 「……お前は……?」 「あなたの贖罪……自虐は……ただの自己陶酔よ……」 黒い修道女(シスター)はタナトスの前に鏡像のように立ちはだかっていた。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |