デス・オーバチュア
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巨大な漆黒の獅子王が大地に激突し消滅すると、仰向けに倒れているアンブレラと、彼女の腹部に剣を突き刺しているゼノンの姿が現れた。 「我が暗黒の闘気……好きなだけ喰らえっ!」 「あくっ……あああああああああああああああああぁぁぁぁっ!」 ゼノンは、突き刺した剣を媒介にして、自らの暗黒闘気を強制的にアンブレラの体内へと叩き込む 「……くぅぅっ!」 アンブレラは右手を微かに動かし、何かを空に投げた。 「……んっ!?」 ゼノンは突然、剣を引き抜くと、その勢いを利用するようにして後方へと跳び退く。 直後、紫黒の光輝が三条、空から飛来しアンブレラに直撃した。 「……ふう」 光輝の爆発が晴れると、見た目的には何の損傷もないアンブレラが姿を見せる。 彼女は軽く息を吐いた後、上空に視線を向けた。 其処には、日傘が三本、宙に浮いている。 「獅王葬牙刃……笑倣皇虎と獅王葬刃が合わさったような技ね……さしずめ闘気砲(オーラキャノン)と闘気突進(オーラタックル)の重ね撃ち……つまり、こんな感じかしらっ!」 アンブレラは右手に持っていた一枚の紫黒の光羽を瞬時に日傘に変えると、前方に勢いよく突きだし、先端からブラストを放った。 「くっ!」 ゼノンは剣を一閃させ、紫黒の光輝を打ち払う。 「エストック!」 光輝を打ち払ったゼノンに、日傘の先端に紫黒の光輝でエストック(刺突戦法専用の刀剣)の刃のようなものを作って、アンブレラが突進してきた。 「くっ……はあっ!」 ゼノンは、振り切っていた剣を無理矢理切り返して、凶器と化した日傘ごとアンブレラを空へと打ち上げた。 「……フフフッ」 空へと飛ばされたアンブレラは、翼を羽ばたかせて体勢を整えると、凶器の日傘を地上へと投げつける。 「ん?」 凶器の日傘は、目測を僅かに誤ったのか、ゼノンの目前の大地に突き刺さった。 「ディスチャージ!」 アンブレラが声を合図に、大地に突き刺さっていた日傘が大爆発し、紫黒の閃光と爆発の中にゼノンの姿が消える。 「私が無駄に外すわけないでしょう」 「ああ、そうだな」 「えっ……」 ゼノンは、アンブレラの背後に出現するなり、全力で剣を叩き込んだ。 地表にアンブラが隕石のように落下し、巨大なクレーターが生まれる。 「……受けられたか?」 確かに剣を叩き込んだ手応えはあった……だが、『斬れた』手応えはなかった。 「ん?」 大地に置き去りにされていた魔皇剣・四暗刻が独りでに浮かび上がると、クレーターの中へと飛んでいく。 「……魔皇……」 クレーターの中から微かな声が聞こえたかと思うと、死の大地の彼方此方から黒い火柱が噴火のように立ち登った。 「暗黒……」 凄まじい黒炎がクレーターを埋め尽くすように内側から発生する。 「くっ……」 次に何が起こるのか悟ったのか、ゼノンは剣を振り回しながら、体中から暗黒闘気を爆発的に放出させた。 そして、暗黒闘気をさらに練り上げながら、剣へと集束させていく。 「炎獄翔(えんごくしょう)!!!」 「百獣旺吼(ひゃくじゅうおうこ)!」 クレーターを埋め尽くす黒炎の中から、巨大な黒炎の不死鳥が飛び出すのと、ゼノンが暗黒闘気で生み出した百体百種の『獣』を解き放ったのはまったくの同時だった。 百獣とは、多くのケモノ、全てのケダモノ。 笑倣皇虎の時のように虎だけではなく、百種の漆黒の獣が一斉に解き放たれ、向かってくる黒炎の不死鳥に喰らいかかった。 だが、獣達は不死鳥に牙を突き立てることもできず、近づく傍から蒸発するように消滅していく。 九十九体の漆黒の獣が消滅し、最後に百獣の王たる漆黒の獅子王が不死鳥を一呑みにせんと大口をあけた。 不死鳥は自ら獅子王の口の中に飛び込み……内側から獅子王を貫く。 貫かれた獅子王は他の獣達と同じように消滅した。 不死鳥はいささかも黒炎の激しさを失うことなく、ゼノンを目指して飛翔を続ける。 「…………」 ゼノンは、正眼に構えた剣の刃ではなく背を正面に向けて、待ち構えていた。 「……はああああああああっ!」 全身から暗黒闘気を今まででもっとも激しく放出し、瞬時に剣だけに集束させる。 暗黒闘気が超集束された魔極黒絶剣に、黒炎の不死鳥が激突した。 「あああああああああ……はああああああああああっ!」 不死鳥とゼノンが互いに激しく押し合い、均衡を維持している。 一瞬でも気を抜けば、不死鳥に押し負け、黒炎で灼き尽くされるのは間違いなかった。 「……返すぞ……ああああああああああっ!」 ゼノンは剣を振り下ろし、不死鳥を打ち返す。 不死鳥は、クレーターを埋め尽くしている黒炎の中へと飛び込み……己を生み出した黒炎と共に弾け飛んだ。 「……無茶を……させてくれる……」 ゼノンは自分の意志で降下したというより、浮遊している力を失ったかのように地上に落下する。 それでも彼女は、なんとか落下中で体勢を整え、両足から綺麗に着地する。 「……ぐっ……」 ゼノンが不意に片膝をついた。 「……そろそろ限界か……だが、まだだ……」 剣を大地に突き立てて、支えにするようにして再び立ち上がる。 「悪いが、そろそろ決着をつけさせてもらえないか……アンブラ?」 ゼノンは大地から剣を引き抜くと、剣先で虚空を差す。 「……ええ、貴方もそろそろ限界みたいだしね、いろんな意味で……」 虚空に、少し様相を変えたアンブレラが出現した。 背中の紫黒の光翼は噴き出す黒炎の翼に代わり、彼女の全身を闘気のように黒炎が取り巻いている。 「……私の方も暗黒の不死鳥……黒死鳥(こくしちょう)を纏っていられる時間は三分がリミット……それを過ぎたら……私自身も黒死鳥に灼き尽くされる……さしずめ『喰われる』といったところね……」 アンブレラは、跳ね返された不死鳥を纏う……一時的に同化することで、灼かれることから逃れていた。 「まったく、予定が思いっきり狂ってしまったわ。まあいいわ……行くわよ、ゼノン!」 爆風のような音と衝撃が空に走ったかと思うと、アンブレラの姿がゼノンの眼前に瞬時に移動する。 「はあああっ!」 アンブレラは黒炎を纏った右手を、鉤爪……ディーペスト・クローのような形で突きだした。 「くっ……うぅ!?」 ゼノンは、剣を持っていない方の左手で防御するが、黒炎の鉤爪が触れた手甲が凄まじい勢いで灼き溶けていく。 「っ、はあっ!」 左手を引くと同時に、右手で剣をアンブレラに振り下ろした。 だが、剣は空を切り、大地に刃を食い込ませる。 アンブレラはすでに背後へと回り込んでいたのだ。 ゼノンが気配を察し、振り返るよりも速く、アンブレラは彼女の後頭部に黒炎を纏った右足で飛び蹴りを叩き込む。 「ぐああっ!」 大地に突き立っているいくつかの剣を破壊しながら、ゼノンは彼方へと吹き飛んでいく。 「この手応え……とっさに全身を暗黒闘気でコーティングしたようね……」 アンブレラが、先程までゼノンが立っていた場所に、代わりに着地した。 「やっぱり、兜もしていた方が良かったんじゃない? 私と違って、せっかく艶やかで綺麗な黒髪をしているのに……溶けて禿げるわよ?」 そう言って、少し意地悪げに微笑う。 「……いらぬ心配だ……」 ゼノンは後頭部を左手でさすりながらが、ゆっくりと歩いて戻ってきた。 「炎獄翔を跳ね返した時のように全闘気を一点に集中でもすればともかく、薄皮のような闘気のコーティングも最強の鎧たる魔極黒絶鎧も、この黒炎の前では気休めにもならないでしょう」 「…………」 ゼノンは無言で剣を振りかぶった。 「まだ解らない?」 「うっ!?」 アンブレラは一瞬にしてゼノンの懐に飛び込む。 「せ……」 「もう貴方は私の動きについてこれない!」 ゼノンに剣を振り下ろす間を与えず、アンブレラは彼女の真横を駆け抜けた。 次の瞬間、魔極黒絶鎧の胸甲が砕け散り、血が勢いよく噴き出す。 「鎧、その消耗しきった体ではもう重くて辛いでしょう? 脱がしてあげる!」 アンブレラがゼノンの周囲を飛び回る、その度に魔極黒絶鎧の各部が砕け散っていった。 「魔極金製とはいえ、注ぎ込むエナジーが無ければ、こんなものか……黒炎で強化された我がディーペスト・クローの前では硝子に等しいっ!」 「があぁっ!?」 黒炎のディーペスト・クローが、鎧ごとゼノンの背中を剔り取る。 「ふむ、後一分ってところかしら……そろそろ極めさせてもらうわ!」 アンブレラは空高く飛び上がった。 眼下のゼノンは、剣を杖代わりにして、なんとか立ち上がろうとしている。 「もう無理しなくていいわ……安らかに逝かせてあげる……アアアアアアアアッ!」 アンブレラが、己の体を強く抱き締めると、背中の黒炎の翼が爆流の如き勢いで放出されなおした。 「魔皇暗黒双龍餓(まおうあんこくそうりゅうが)!!!」 背中の黒炎の翼が、二匹の黒炎の龍と化し地上のゼノンへと襲いかかる。 「……クロ……ス……ア」 「貪り尽くせっ!」 二匹の黒炎の龍は、標的であるゼノンごと互いを喰らい合うようにして爆散した。 「あっけないものね……」 黒炎の翼を失ったアンブレラが大地に降り立つ。 翼だけでなく、全身を取り巻いていた黒炎も全て消え去っていた。 「アレを出さずに終わってしまうなんて、本当に予定と違……」 「……我が剣は不敗……その一刀は天の四方を蹂躙する……」 遠方からゼノンの声が聞こえてくる。 声のした方に視線を向けると、黒の制服姿のゼノンが魔極黒絶剣を大上段に振りかぶっていた。 「直前でクロスアウト(脱衣)して回避をっ!? ちぃぃっ!」 アンブレラが、肩口まで無惨に焼け爛れている右腕を横にかざすと、魔皇剣・四暗刻が飛んできて、その手に握られる。 「天破剣!」 ゼノンはただ一太刀、全力で剣を振り下ろした 闘気、剣風……最後の一太刀が振りきられた瞬間解き放たれたあらゆる力が『世界』を蹂躙した。 もし地上で振るわれれば、進行上に存在する全ての『モノ』が消し去られ、死の大地と化したことだろう。 だが、ここは元から死の大地……見た目的には、進行上にあった剣の墓標と残骸達が綺麗に消去されただけだった。 剣達が消去され、完全な平地になった死の大地に立っているモノが一人だけ居る。 「か……体……私の体がっ……!?」 体の右半身を完全に消し飛ばされたアンブレラだった。 「アアアアアアアアアアアアァァァァッ!」 アンブレラは残った左腕で己が体を抱き締め絶叫する。 「アアアァァァ…………フッ、なんてね……はあああっ!」 掛け声と共に、アンブレラの失われていた半身が瞬時に完全再生された。 「まあ、でも危ないところだったわ……四暗刻を『盾』……犠牲にしなかったら、跡形もなく消し飛んでいた……流石に私も一瞬で全てを消し飛ばされたら再生は無理だし……」 アンブレラの左手を天にかかげると、刃が殆どなくなっている暗黒の剣……魔皇剣・四暗刻が飛来し、握られる。 「刀身はあくまで力の放出面……核である宝石さえ無事なら四暗刻は何度でも蘇る……この私と同じようにね!」 左手を勢いよく振り下ろすと、四暗刻の欠けた刀身が完全に復元されていた。 「じゃあ、御苦労様……しばらく充電していなさい」 もう一度左手を振ると、四暗刻が手品のように消失する。 「さて……」 アンブレラは歩き出しながら、前方に視線を向けた。 「いくら瞬間的に闘気を爆発させて高めるとはいえ……まさか、まだこれだけの威力が出せるとはね……」 彼女の視線の先には、ゼノンが居る。 ゼノンは、剣を振り下ろした姿で『止まって』いた。 肉体の動きだけでなく、精神、意識も……全てが停止している……。 アンブレラはゼノンの目前で足を止めた。 「エナジー総量の差がフェアじゃなかったけど……悪く思わないでね」 ゼノンは全エナジーを使い切り、真っ白に燃え尽きている。 より正確に言うなら、辛うじて自身の存在を維持する最低限のエナジーが残っているだけの抜け殻……いや、その最低限のエナジーすら危うい状態だった。 「フフフッ……」 何を思ったのか、アンブレラが突然ゼノンに抱きつく。 「今回は……引き分け……ということにしておきましょう。トドメは刺さない、刺せない……貴方が憎いから……それに……」 アンブレラは、ゼノンの耳元に何か囁いた後、離れた。 次の瞬間、『世界』が入れ代わる。 剣の墓標の世界から、森の焼け跡と海辺だけの元通りの世界へと戻っていた。 「完全に力尽きたみたいね……お願いだから、そのまま滅んだりしないでね」 アンブレラの背中から、新たに紫黒の光翼が生える。 「……では、いずれ、また……」 「ちょっと待ちなさいよ!」 翼を羽ばたかせて飛び立とうとしたアンブレラを、引き留める声があった。 「……ああ、すっかり忘れていたわ……貴方達の存在を……フフフッ」 意地悪く微笑いながら、『彼女達』に視線を向ける。 「ひとを馬鹿にするにも程があるわよ……」 「……やっとあなたの正体が解った……いえ、思い出しましたよ、影の魔王……」 アンブレラの視線の先には、ランチェスタとセルが立っていた。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |